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小さな光と、その軌跡 ―隠された幼子と神獣の物語―  作者: 月城 蓮桜音
第二部

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第133話 恵みの有り難さ

 グリズリーベアが出現した日の翌朝。俺とエルフで調査を進めていくと、どうやら学園の生徒が木の実を気に入ったようで、その周辺一帯のものを刈り尽くしてしまったらしい。それに怒ったグリズリーベアが、警告する意味で襲ってきたのだということが分かった。


 担任の教師に説明し、早朝から職員会議が行われたようだ。結果、朝から生徒を全員集めての集会が開かれた。生態系を崩さないように過ごすことなど、俺たちからしたら当たり前のことを長々と説明されたのだが、クリスもウィルも、きちんと座って聞いていて偉いなあと感心して見ていたのだった。


「良かったね、クリス。このまま合宿は続行するみたいだ。グリズリーベアは木の実がなくて困ったんだろうね。怒らせて悪かったね」


「そうだね。きっと熊さんの大好物だったんだろうね。なくなるくらいにいっぱい摘まれたら、ボクも怒っちゃうかもって思ったよ」


 集会が終わり、各々が自由に行動していい時間になった。幼い二人は、合宿が打ち切りにならなかったことに安堵し、グリズリーベアが可哀想だと思っているようで、周りが温かい目で見守っていた。


「クリス、ウィル。グリズリーベアは眠らせてあるだけだから、大丈夫だよ。賢者のエルフ様が、代わりの木の実と一緒に、ねぐらに帰してくれたんだって」


 ルシアンが二人に優しく語りかける。


「良かったね! たしか、熊さんは冬眠するんだよね? 子どもたちもいたみたいだし、食べ物がないと困っちゃうんだろうね」


「そうだね、クリス。家族を守りたい熊たちの気持ちも分かるから、森の恵みは自分が食べる分だけを採るようにしようね」


「うん!」


「クリスは偉いねー!」


 元気なクリスの返事に、ラウルとルシアンが頭をワシャワシャと撫でてあげている。本当に、この程度で済んで良かったな。最終日の、学園に戻ってからのキャンプファイヤーまでを楽しみにしているクリスに、「中止」という言葉は聞かせたくなかったのだ。


 そんなざわざわと落ち着かない状況で、何かを企む者が一人……木陰からこちらを窺っていた。それに気がついたのは俺とノアだった。


「ねえ、イーサン。何をしているのさ」


「うわっ! お、驚かすなよ! なんの用だよ、ノア」


 この二人は知り合いのようだな。たしか、ノアは西の辺境伯と縁があって、アリシア嬢の家族とも面識があると言っていたか。


「君さ、クリス様にちょっかい出してるよね? 迷惑だから、やめてくれないかな」


「お前には関係ないだろう! 放っておいてくれ!」


 イーサンはドタバタと走り去った。「はあ……」とため息を吐くノアに、俺は声をかけた。


「ノアはイーサンと知り合いなのか? ヘンリーも知り合いだったのは知っているが、彼の場合は第一皇子の側近だったからだな」


「あ、はい。僕は、イーサンの伯爵家と、西の辺境伯領の間に位置する領地の出身なんです。幼い頃から、イーサンの性格の悪さ……いえ、その、あまり良くない噂や行動は知っていますので、注意したりはしてきたのです。ですが、本人が……」


「なるほどな。ノアはヘンリーと一緒で、面倒見が良いんだな。ヘンリーもイーサンに苦言を呈していたんだが……。それでもあの男は変わらないんだな」


「ええ、そうなんです。僕としては、隣領の人間として、変わってほしいと思っているのですが……」


「優しすぎるな、ノアも。まあ、だからこそ見えるのだろうが」


「あはは、そうなんでしょうか……。これだけ伝えても理解されないのは、報われないつらさがありますけどね。でも、諦めたくないんですよね」


 たしか、イーサンは伯爵家の嫡男だったな。ここでノアが諦めたら、恐らくイーサンが伯爵家を継ぐことはできないだろう。こんなに大事に思ってくれている人間がいるのに、それが見えていないなんて、イーサンは可哀想な男だと思ってしまう。


「レオンくん! このあとは、山を登って景色を見るんだって!」


「ふふっ、景色というのも間違っていないけれど、地形を確認するために登るのよ、クリス。この森は、不思議な形をしているでしょ?」


「あ、そうだった。地形を確認するんだよね! この森の地図ももらったから、ボクは今、ここら辺にいるって分かったよ!」


 クリスが地図を指差す。たしかに地図のその辺りにいるが……。


「クリス、どうやってそこにいると分かったのだ? 目印になるような対象物なども特にないだろう」


「え? ここから見える、あの目印と、あっちの目印の中間だからだよ?」


 アリシア嬢とウィルが目印の方向を追ってみるも分からないようだ。それはそうだろう。俺でやっと見えるかどうかという距離なのだから。


「……クリスは目が良いのね。わたくしはクリスほど目が良くないから気がつかなかったわ。すごいのね、クリス」


 アリシア嬢が慌てて褒めた。あくまでも「慌てている」と悟られないように気を配りながら。彼女の優しさに、とても救われた気持ちになる。


「ふふっ、そうだね。僕も、あっちは何となく見える気がするけど、こっちは分からなかったよ」


 ウィルも曖昧にだが、アリシア嬢に同意してみせた。


「そうか。俺は両方見えるけどな。クリス、その地図でどこまで登るのだ?」


「あ、うん。えっとね、ここに広場があるんだって。ここまで登るらしいよ」


 クリスの意識を地図に向ける。指を差してニコニコしているクリスを見て、周りの面々が安堵した気配がした。この班の人間は、皆優しいからな。俺は心も温かくなるのを感じた。


「そうか。二時間は歩くな。クリス、靴は大丈夫か? 水分補給用のカップも忘れるなよ」


「うん! 準備してくるね! ウィル、行こう!」


 手を引かれて嬉しそうなウィルと、出発が待ち遠しいクリスの姿が微笑ましい。このまま楽しい合宿のまま終わってくれると良いのだがな。

いつもお読みくださり、ありがとうございます!

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