第132話 優しき魔物の暴走
合宿は、何事もなく進んでいた。時たまイーサンがクリスにちょっかいをかけている形跡があったが、それをすべて軽く躱しているので実害はない。なぜ彼だと分かったかといえば、俺の知る魔力の痕跡であったため、すぐにイーサンの仕業だと特定できたのだ。
まあ、まさか連れに神獣がいるとは思わないだろう。実害はないが、嫌がらせが続いていることからも、イーサンはクリスが怖がっているとでも思っているのだろうか。実際は、まったく気にも留めずに楽しく過ごしているのだがな。くくっ。
合宿も三日目の夜。――事件は起こった。
『グオォォォォ――――――ゥ!!』
「レオンくん、大きい魔物!」
「ああ、そうだな。だが、あいつらは、手を出さない限り、襲ってこないはずなのだが……」
「レオン、のんびり考察している場合じゃないよ。助けに行こう」
ルシアンが一瞬で着替えていた。俺たちのテントは、真ん中より少し奥側に布で仕切ってあった。その先には、アリシア嬢とクリスが休むための寝所を作ったのだ。だから、この話は皆に聞こえている。
「ふむ。やはり、臭いからしてグリズリーベアだな。三……いや四体いるか。ルシアン、ラウルと先に向かってくれ。ノアとカイルは、クリスとアリシア嬢たち……いや、このテントを守ってくれるか?」
「ふふっ、了解!」
「ああ、任せとけ」
「えー、レオン、ボクも行きたいー」
「クリス、お願いよ。わたくしを守ってくれない?」
皆よく分かっているな。アリシア嬢が上手く助け舟を出してくれた。
「うー……うん。分かった。ボクはウィルと一緒に、アリー姉様を守ってるね」
クリスは『お願い』に弱いのだ。自分の願いよりも、人の願いを叶えることに喜びを感じるらしい。優しいクリスらしいな。
「ああ、頼むぞ。では、行ってくる」
「いってらっしゃい! 気をつけてね!」
俺はクリスにひらりと手を振って、テントを出る。急ぎルシアンたちを追いながら、賢者のエルフに連絡を入れた。
『エルフよ、森でグリズリーベアが四体も出た。襲われている班があるようだ。どちらにしろ、理由を探らねばなるまい』
『レオン様、今すぐにそちらに参ります』
相変わらずレスポンスが早いな。だからこそ、賢者のエルフを神が重用しているのだろう。俺も助かるぞ。
「レオン様、参りました」
「ああ、助かる。この合宿に来た日に、グリズリーベアの『爪痕』は見つけていたのだ。だが、あいつらは攻撃しなければ、人間が立ち去るまで襲って来ないはずだろう?」
早速、お互いの認識を擦り合わせていく。今日、グリズリーベアを斃すことは容易い。だが、明日も来られては、ゆっくり休めないからな。しっかりと原因を追究せねばならんのだ。
「そうですね。グリズリーベアは体こそ大きいですが、木の実や根菜を好んで食べますから、人や動物を襲うことは珍しいですね」
「その理由を探さなければ、クリスが合宿を楽しめないだろう?」
「その通りですね。急ぎ、現場に向かいましょう」
賢者のエルフも、クリスをとても可愛がっている一人だ。もちろん、未来を担う子どもたちを守ろうと思っているのだろうが、クリスが絡むとさらに行動が早いのだ。
★★★
「ルシアン、怪我人は出たのか?」
「そうだね、寝込みを襲われた生徒が二人、大怪我をしていた。神殿の救護員が少し離れた場所にいたらしくて、そこへ運ばれて行ったよ」
「治療も終えて、もう大丈夫だって」
ラウルが補足してくれる。
「それは良かったです。それで、グリズリーベアは、四体もいたのですか?」
「はい。グリズリーベアは、人を襲わないと思っていたのですが、まさか四体も出てくるなんて……」
「ここらに生息していたのは知っていたのだ。俺も、手を出さなければ襲って来ないからと、気にしていなかったのだが」
皆の共通認識として、グリズリーベアは人を襲わないことが再確認できたな。そうなると、森に入った生徒か教師が、グリズリーベアに攻撃をしたか……グリズリーベアの嫌がることをしたことになる。
「ふむ。二人にはクリスたちを頼みたい。俺とエルフで調べてみよう。担任にだけ、連絡を頼んでいいか?」
「分かった。気をつけて」
「クリスのことは任せておいて」
俺は頷いて、二人と別れる。
「レオン様。朝まで調査して、原因が明らかにならなければ、私が調査を続けます。まずはグリズリーベアの巣を見に行きましょう」
俺は頷きかけて、違和感に気がついた。
「なあ……エルフ。今は秋だよな? なぜ、こんなにも木の実が実っていない?」
「え? 本当ですね。調査してみる必要がありそうです」
「ああ。だがこれは……もぎ取った跡があるぞ」
「なんですって?」
俺とエルフは、朝方まで調査して過ごすことになったのだった。
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