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小さな光と、その軌跡 ―隠された幼子と神獣の物語―  作者: 月城 蓮桜音
第二部

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第125話 隣国コーダリア王国と、賢者のエルフ ★ウィリアム side

 僕は、新月の翌日に、魔物の大量発生を知った。僕の立場では現場に行けないことぐらい分かっていたが、皆が無事だと聞いて、とても安心した。現場からジョセフたちが帰って来たと聞いたので、陛下の執務室へ向かったのだった。


「ジョセフにジョエル、ご苦労だった。新月の魔物は凶暴化すると言っていたが、大丈夫だったのか?」


「はい、陛下。公爵家の次男、レックスが腹部を負傷しましたが、それを見たクリスの神聖力が暴走し、結果、危機一髪で助かりました」


「なんだって!? レックスは大丈夫なのか!?」


「ええ。さすがは神の御遣いなのでしょう、クリスの放った光は魔物を弱体化させ、さらには怪我をした者たちすべてを治してしまいました。例に漏れずレックスも()()完治しております。ただ、失った血は戻らないらしく、現在は貧血状態です」


「そ、そうか。貧血で済んだのは良かったが……。クリスが放った光は、誤魔化しようがないよな?」


 クロウが言った通り、かなりの光だったようだ。報告によると、侯爵領と隣接する他領でも光を確認できたらしい。


「先ほどクロウに報告を受けたので、そこら辺は手を打ってあります。辺境伯と侯爵にはすでに口止めしました。市井には、辺境伯領で魔法の実験をしていた際に、爆発が起こったが、被害はなかったようだと、『影』たちを中心に噂を流させています」


「さすがだな、ウィリアム。仕事が早い。で、急ぎ決めなければならないこととは?」


 陛下がジョセフに顔を向ける。


「『魔溜まり』が、国境を越え、隣国の森にあるようなのです」


「なるほど、隣国コーダリアの王に連絡を取らなければだな」


「日が沈めば、また凶暴化した魔物が大量に湧き、戦うことになります。暗くなる前に、浄化しなければなりません」


「な、なんだと? 今はまだ昼前とはいえ、隣国と話し合うとなれば、時間が足りないではないか!」


「私たちも手伝いますので、ギリギリ間に合うと思いますよ。誰が話し合いに行くか、決めていただけますか?」


 ふわっと温かい風が吹いて現れたのは、賢者のエルフだった。これ以上、クリスたちに負担をかけたくないから、この申し出は有り難い。


「賢者のエルフ様! あ、ありがとうございます! こちらからは、ジョセフと――」


「父上、僕に行かせてください」


「ウィリアム、何か考えがあるのかい?」


「いいえ。考えというより、こちらでそれだけの被害が出たのですから、隣国でも大変なことになっているのではないかと思いました。まだ、魔物に苦労しているようでしたら、僕とジョセフであれば、一掃できるでしょう」


「なるほどな。現時点の魔物は弱体化しているんだったか?」


「ええ。現在、クリスの光を浴びた個体しかいないはずです。日が沈んでから湧いた魔物は、普段より凶暴になりますが」


「なるほど、だから急いでいるわけだな。良いだろう。ウィリアム、帝国の代表として、しっかり務めて来なさい」


「はい! 必ず間に合わせてみせます!」


★皇帝 side


 賢者のエルフが笑顔で頷き、二人と共に消えた。隣国へ転移なさったのだろう。


「あの二人に任せておけば大丈夫じゃろう。ワシは、辺境伯領に戻って、事後処理をしてくるぞ」


「ああ。任せたよ、ジョセフ。子どもたちのこともよろしく頼むよ」


「分かっておる。おっと、そうじゃった。レックスに恩賞を多めに出してやってくれるか? レックスが身を挺してくれたおかげで、皆が無事だったのでな」


「ああ、そのようだな。分かった。手配しておこう」


 お互いに頷き、各々やるべきことに集中するのであった。


★★★


★ウィリアム side


 いきなりコーダリア王国の国王陛下の執務室に転移した僕とジョセフは驚き、賢者のエルフを見やる。相変わらず優しげな笑顔を浮かべている彼は、国王に対して堂々と呼び捨てで挨拶をしていた。


「国王シド。お邪魔してますよ」


「え、エルフ様! ど、ど、どうしてこちらに……。そちらの方々は、どなたでしょうか?」


「はじめてお目にかかります。私は帝国の皇太子、ウィリアム=アストリアと申します。どうぞお見知りおきを」


 王国の礼に則り、胸に手を当てて膝を軽く折る挨拶をして見せる。国王陛下は慌てて側近の者に視線を向ける。側近はこくこくと何度も頷き、僕が帝国の皇太子であることを認めた。


「こ、これはこれは、よくいらしてくださいましたな、皇太子殿下。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 賢者のエルフと知り合いであれば、何かしら起こっていると理解しているだろう。遠回しではなく、ストレートに用件を話して大丈夫かな。


「帝国の西にある魔物の森……帝国とコーダリア王国の国境に位置する魔物の森で、魔物の凶暴化と暴走が起こったのです」


「な、なんですと!? 宰相、把握しておるのか!?」


「す、すぐに確認して参ります! 近衛兵!」


「「はっ!」」


 どうやら、把握していなかったようだね。王国側では被害が出ていないのだろうか? クリスたちが苦戦するほど強い魔物だったのに。


「ふふっ。ウィリアム殿下、王国側に被害が出ていない理由を考えていましたね?」


 まるでクイズを出すように、楽しそうに質問してくる賢者のエルフに焦りはない。彼がいる限り、日が沈むまでに終わるのだろう。であれば、僕は落ち着いてやるべきことに集中しよう。


「楽しそうにお話になっている賢者のエルフ様が関係しているのであろうことは理解しましたが、レオンたちが苦戦した魔物で被害が出ないなんて信じられなくて」


「そうでしょうね。コーダリア王国と私は、先代の国王とですが、盟約を結んだのです。当時、魔物を斃せる人間が少なかった王国を手伝うことにした私は、代替わりまでに戦える人間や武器、魔術師の育成などに力を入れるように伝えました。すっかり忘れていましたので、せき止めていた結界の柵を、そろそろ撤去しなくてはなりませんね、シド」


「お、お待ちください! 代替わりしてから十年、特に被害が起こらなかったので、魔物を斃せる人間は少ないのです! もう少しお待ちください!」


 慌てて状況を説明する国王は、大汗をかいて手が震えていた。


「ただ今戻りました!」


「おお、宰相! どうなっていた!?」


「そ、その、柵の向こう側は真っ黒で……」


「真っ黒? 真っ暗ではなく?」


「もしかすると、魔物で前が見えなくて、真っ黒に見えたのでは?」


 僕が冷静に分析すると、宰相と呼ばれていた彼は何度も何度も頷いて見せた。


「真っ黒の中に、たくさんの目だけが光っているのです! 柵に向かってガンガンとぶつかっていました。攻撃魔法を使える者が必死に対処していますが、一向に減る気配はありません……」


 僕はジョセフに視線を向けた。ジョセフは笑顔のまま頷くと、僕の隣に立って頭を下げた。


「お久しぶりでございます、国王陛下。私を覚えていらっしゃいますでしょうか?」


「ん? あー、帝国から当時の皇太子殿下と留学して来ていた、確か……ジョセフ、だったか?」


「ええ、私はジョセフ=オバール。『武』の辺境伯と呼ばれております」


「ああ! 思い出したぞ! 我が国の誰もそなたには敵わなかったのだ! そなたが皇帝の代理でいらしたのだろうか?」


「なにをおっしゃいますか。皇帝陛下の代理は皇太子殿下でいらっしゃいます。私は殿下の補佐として参りました」


「補佐? 武人が何の補佐を――あっ!」


「お分かりいただけましたか? 今回、帝国はコーダリア王国に“貸し”を作りに来たのですよ。柵の向こうが見える程度には、魔物を退治して差し上げましょう」


「そ、それは有難いことなのだが、そなた一人でか?」


「ふう、ですから、私は殿下の補佐だと何度言えば分かるのです? 殿下の魔力量は、我が国で右に出る者は……一人しかおりません」


「ああ、一人はいるのだな。それがそなたか?」


「いいえ、私の自慢の孫です」


 胸を張って、クリスを自慢するジョセフ。時間がないことを理解しているのだろうか?


「ジョセフ、そこではないよ。国王陛下。我々が魔物を殲滅した暁には、王国側の魔物の森に帝国の者が立ち入る許可をください」


「それはもちろん構わぬが、それが目的か?」


「はい。帝国側の魔物の森では、凶暴化した魔物が、普段では考えられない数で出現したのです。その理由が、王国側の魔物の森にある大きな『魔溜まり』にあります。昨晩の新月で大量に生まれ、凶暴化したのです。その『魔溜まり』を浄化させなければ、新月から五日間は凶暴化した魔物が湧き続けるそうなのです」


「な、なんと! そんなことになっていたのですか?! 我が国では、魔の森に入る人間はいないと思っておりましたので、特に何も手を出していなかったといいますか……」


「シド、国王が何もしなかったから問題になっているのです。貴方も一緒に来なさい。自分で見て、なぜ武力が必要なのかを、しっかりと後世にも伝えるのです」


 そう言うと、賢者のエルフは、執務室にいた人間をすべて、魔物の森の柵の前へと転移させたのでした。

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