第124話 引き受けたバトン ★ジョセフ side
子どもたちを侯爵家の屋敷へ帰らせ、私とジョエルは魔物の森を捜索する。日が暮れるまでに『魔溜まり』を見つけなければならなかった。今晩も同じ状態になってしまえば、恐らく怪我人が増えるだろう。
今はまだ、日が昇り始めたばかりではあるが、この森の広さは私の治める辺境伯領の倍以上あるのだ。その代わり、魔物は小さくて弱いが数は多い。便宜上、魔物の森と呼んではいるが、各地域で生息している魔物の種類などは全く違ったりするものである。
「ジョセフ、このまま森の奥へ向かえば、間もなく隣国の国境があるぞ。あちらの方角から、強く禍々しい気配があるから、恐らく国境近くか……最悪は隣国との国境を越えた先にあるだろうな」
私だって分かってはいたが、聞きたくもない答えを、さも正解だと言われたときのような、うんざりした気持ちのまま返事をする。
「はあ――。それでも、だ。今回の騒ぎが、隣国側に問題があったのか、我が国が悪いのかを確認する必要はあるからな……」
「少し休め。顔色が悪いぞ」
「だが、子どもたち……いや、孫ほども年の離れた、まだ幼いといえる者たちが、あそこまで頑張ってくれたんだ。我々が休んでいる場合ではないことは、ジョエルも分かっているだろう?」
「まあな。夕刻までに解決しなければ、いくらさっきよりも弱体化した魔物とはいえ、あの量の魔物と対峙するのは危険だろう」
「その通りだ。子どもたちは特に、ずっと緊張した状態だろうからな。そろそろミスが出てくる時期でもある。私から言わせれば、よく二日間も頑張ってくれたものだ」
「クリスがいなければ、全滅の可能性もあったからな。あのタイミングでレックスが腹を食われなければ、恐らくは……」
「ああ、そうだな。我々が前線で合流しても、魔物の数は減らせなかった。そのせいでレックスは怪我を負ったわけだが……。レックスには感謝だな。一人の犠牲で領民が誰一人亡くならずに済んだのだから」
「ははっ、さすがに声に出しては言えないがな。陛下に言って、それなりの恩賞を出していただこう」
「そうだな。それぐらいしかしてやれないだろう」
我々は、隣国との境界線に到着した。ここから『魔溜まり』は見えないが、隣国へ二キロほど向かった辺りにありそうだった。
「ジョエル、隣国と話し合いが必要なようだな」
「まあ、許可なく境界線を越えるわけにはいかないからな。それにしても、多少は強行突破しなければ厳しいな。昼までに話し合いを終わらせ、遅くとも夕刻までに戻って来なければ間に合わんぞ」
「とにかく、陛下に報告しなければ。転移装置まで急ぐぞ」
転移装置へと向かいながら、私は森の奥を一度だけ振り返った。
ここで時間を稼いでくれたのは、間違いなく子どもたちだ。
本来であれば、彼らが前線に立つ必要などなかった。
それでも、彼らは立ち、踏みとどまり、夜を越えた。
――だからこそ、今度は我々大人の番だ。
判断を誤れば、今夜は再び魔物が溢れるだろう。
それだけは、何としても避けねばならない――――。
焦る私とジョエルには、周りを窺う余裕などなかったのだった。
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