第122話 湧きいづる光 ★レックス side
「血、血がっ! イ、イヤだぁっ! うわぁ――――――――っ!」
クリスの声が、遠くに聞こえる。感覚すらない体が、闇に呑まれていくようだった。真っ暗な――――音も、光も、存在しない世界。
俺は、自分の腹を見た瞬間、もう無理だと悟ってはいたんだ。だから、ここが『天国』なのだろうと感じていた。
瞼を閉じているのに、明るい光を感じる。体も痛くない。死後の世界は、どんな感じなのだろうと、恐る恐る目を開いた。
――――そこは、時間の止まった『現在』だった。
皆が何も言えず、動けず、固まっている。強い光を放つ方向に顔を向けると、その中心には、神々しく輝くクリスの姿が在った。
この光はクリスだったのか。髪を束ねていた紐は解け、背中まで伸びた髪が、静かに宙を漂っていた。一本一本が、まるで光そのもののように淡く輝いている。
眩しいはずなのに、目を逸らしたくならない。胸の奥がじんわりと温かさで満たされていくような、そんな光だった。
――――この小さな存在が、俺を救ったのか。
俺は無意識に、両手を胸の前で組み、彼女に向かって祈りを捧げていた。
「――――美しいな」
かすれた声が漏れた。
「女神様みたいだ……なんて、何を言って――――」
その瞬間、「ドン!」と、衝撃が胸にぶつかった。それは、号泣しているアリシアだった。声も出せずに泣きながら、俺を抱きしめている。それで気づいたのだが、腹を裂いていたはずの傷が、どこにも見当たらなかった。
「……助かった、のか」
少し落ち着いた俺は、ゆっくりと降りてくるクリスから目を離せなかった。その下では、ジョエル師匠が受け止めようと手を広げていた。
「レオン殿、クリスをお願いします。後はお任せください」
『そうだな。ほぼ終わっているようだ。クリスが覚醒した光で魔物が弱体化したからだろう、今なら噛みつかれても平気だろうな』
「え?」
周りを見ると、領民たちが棒切れで叩いただけで、魔物が「キャンキャン」と逃げている。これなら俺も手伝えることがあるかもしれないと、腕に力を入れて立ち上がろうとした瞬間、視界が揺れた。
「あ……」
ガクンと膝が折れそうになったところで、誰かの腕が伸びてきて支えてくれた。ふっと顔を上げると、心配そうな表情を浮かべたルシアンがいた。
ルシアンはその表情をすぐに隠し、「ふふふ」と不気味な笑みを浮かべている。何だか嫌な予感が……。俺の近くで膝をついたルシアンは、俺を横抱き……お姫様抱っこしやがったのだ。いや、何となく分かっていたけれど。
「ルシアン! 動けるようになったら、見てろよ!」
「今は自力で歩けないでしょう? 我慢してくださいね。ふふっ」
あえて笑顔で楽しそうに俺を姫抱きするルシアンは、アリシアの気持ちを慮っているのだろう。目を赤くしているアリシアは、ルシアンの行動に「クスッ」と笑った。そんな優しきアリシアのナイトに、俺は身を委ねるのだった。




