59 アヴァロン
このストーリーはフィクションです。登場する人物や団体と関係はありません。又、一部性的な描写がございますのでご注意ください。そして、この作品は日本の歴史や神話を基にした構成があり、一部の方々に怒られそうな内容が記載される場合がございますので、先に謝ります。申し訳ありません。
田中が去った後、会議室に沈黙が訪れる。その沈黙を破ったのは、インドのレジェンダリのシルヴィアだった。
「その“歴史に残らない名刀”?それを見つけるには、私たちの協力が必要不可欠でしょ?恐らくだけど、ベストロンの妨害を受ける可能性もあるはず……。少なくともイギリスと太平洋には関わることがあるでしょう」
「イギリスは私に任せろ」
エンシェント=ジェントルがそう言うと、中国のレジェンダリの呂布が口を開いた。
「太平洋は中国の俺が……と、言いたいところであるが、生憎我が国の内戦の鎮圧で忙しいのでな」
「右に同じ」
ロシアのレジェンダリのフラーブルが言った。
「ならばこの中で一番海上を自由に戦えるのは、スターライトよね。でも生憎の欠席……。アメリカの首脳さん。出来れば彼女に伝えておいて」
シルヴィアがそう言うと、アメリカの首脳は親指を綺麗に挙げた。
その後、ベストロンの少々の報告を交わし、会議は無事?終わった。
「お疲れ様、神楽ちゃん。大丈夫だった?」
風間は汗を拭いながら、夢葉に言った。夢葉も溢れ出る汗を拭いながら頷いた。
「田中先輩のあの圧は何なんですか。もしかして、“神域”ですか?」
夢葉がそう言うと、風間は頷いた。
「“麒麟”を知っているのか。なら説明は不要だね。彼の“麒麟”はほぼ常時発動中だよ。全く胃腸炎になってしまうよ……。それより、先ほどは詳しく説明できなかったけど、ベストロンについて、詳しく教えようか」
夢葉は頷いた。
「少し長くなるから、施設内に食堂があるから、軽食を摂りながら話そうか。騎士……」
風間が王に話しかけたが、王はなんと立ったまま気絶していた。二人は、炎丈に王を任せて、食堂へ向かった。
食堂はお昼時で、社員で賑わっていたが、席は余裕があった。二人は人気の少ない席に向かい、座った。
「少しは落ち着いたかな?」
風間がそう言うと、夢葉は頷いた。
「ベストロンって何が目的なんですか?」
夢葉がそう言うと、風間は口を開いた。
「ベストロン計画が始まったのは、2000年。田中雫君のお父さんが先立って始めたんだ。彼の名前は、田中幸作。幸作さんは、2000年代に普及したインターネットを使って、海外の研究者とコンタクトを取ったんだ。インターネットが普及した当時は、海外の規制が難しく規制されるまでに時間が掛かったんだ。それに加え、幸作さんの知識を用いれば、インターネットの独自化なんかは簡単だったんだ。
コンタクトが取れた幸作さんは、素材、容姿は海外のグループに任せ、人工知能の制作に力を入れた。そして、人工知能が完成したのは、2017年。完成させたのは雫君だったんだ。しかし、その研究が政府にバレてしまってね。殺されるかと思ったら、公安が管轄することとなった。その後、雫君は大怪我を負い、最終的にはああなってしまったんだ。そして、彼がああなってしまった決定打は、百目鬼の再来の際に、彼の大切な人が植物状態になってしまってね……。彼は今それを治す方法を模索しているんだ。炎丈君から聞いた話によれば、彼は一日数分ぐらいしか寝てない。不眠症だろうね。
話を戻そうか。ベストロンについてだが、制作理由は海外の恩寵者のミュータントから一般人を護ることが目的とされている。しかし、試作品1号が完成したときに、ベストロンにバグが生まれてしまってね。ベストロンが暴走するようになってしまった。奴は自分自身で制作所を破壊し、身を隠した。そうして、奴は別のどこかで自分を複製している。現に中国やロシアなどでは大量のベストロンによって襲われている」
「奴らの目的は何なんですか?」
夢葉がそう言うと、風間は答えた。
「簡単に言えば、人類の滅亡だね。奴らは一般人を護ることをプログラミングした際に、ミュータントの撲滅と一般人の命を天秤にかけた際に、両方を滅亡させる方が合理的だと判断した。……だが、実際には裏で誰かが糸を引いているというのが、田中君の見解だ」
「……なるほど」
「それと、さきほどの話なんだが、私は“妖刀 ティーチ”を一人で行くから、騎士と神楽ちゃんはイギリスへ行って“エクスカリバー”を取りに行って欲しい」
「別にいいんですけど……、手掛かりはあるんですか?」
夢葉が言うと、風間は
「ない」
とだけ言っただけだった。
「ここがイギリスですかあ!」
騎士は、初めての海外の風景に目を輝かせていた。
「でも、王君。風間さんが書いている場所は“アヴァロン”っていう地名よ。私、そこまで世界の地名に詳しくないけど、そんな地名、聞いたことないわよ」
紙切れを見ながら夢葉が言うと、騎士は自慢げに言った。
「そりゃあそうですよ。だってそのアヴァロンって地名、空想上の島の名前ですからね」
「えええ!?」
夢葉はあまりの驚きに大声を上げ、周りの人たちに変な目で見られた。夢葉は辺りを見渡し、恥ずかしそうに騎士の元に近寄った。
「なんで先に言わないのよ!」
「え?だって神楽さんなら知っているって思ってたんで。知らないんですか?『アーサー王伝説』」
アーサー王伝説とは、アーサー王と呼ばれる人物と7人の円卓の騎士が登場する物語であり、イギリスがモデルの物語である。
「まさか、本当に『アーサー王伝説』の話を元に私たちは来ていたの!?風間さんは馬鹿なの!?」
「まあまあ、日本人が海外に観光できるのは凄いことなんですから、楽しみましょうよ」
騎士はそう言うと、フィッシュアンドチップスを貪り食っていた。夢葉は呆れた様子で、近くのお店に立ち寄った。店内は古い印象を受けたが、客で賑わっていた。
「エールを一つお願いします」
夢葉が店主にそう言うと、エールを一つ受け取った。夢葉がそれを呑もうと上を見上げたときだった。店主の頭上に一枚の壁画が見えた。そこには、間違いなくアーサー王伝説に出てくるアーサー王とランスロットであった。
「店主さん。この壁画は?」
夢葉がそう言うと、店主は壁画を見上げながら言い放った。
「これは俺のオジサンが書いた壁画でな。どうやら俺のオジサンはアーサー王に会ったらしいんだ!そんな馬鹿な話があるのかってことだけどな!……ここだけの話だが、この店の裏には、関係者しか入れない倉庫があるんだがな。そこは昔湖だったんだ。そこには剣の形をした岩があってな……。そう言えばお嬢さん。日本から……」
店主がそう言おうとしたときだった。店の外から叫び声が聞こえる。夢葉は直ぐに店の外に出た。
そこには、以前の氷鬼とは体格の違う人の二倍以上の大きさの氷鬼が何体も暴れていた。その氷鬼は口から冷気を出しながら、人々を襲っている。氷鬼が人たちに触れると、その人たちは氷漬けになっていった。騎士は日本刀を抜き応戦しようとしている。夢は拳銃を抜いて発砲する。弾丸は氷鬼の肩を貫いた。しかし、氷鬼は微動だにせず、肩の穴を塞ぎ、咆哮をあげた。
「こんにちは、お二人さん」
氷鬼から女性の声が聞こえてきた。ベストロンには通話機能が搭載されており、大きなスマホのようでもあった。声の主は、女性であるはずなのだが、しゃがれた声だった。
「貴方たちが王騎人君に憾咲夢、いや神楽夢葉さんかな?」
「貴方がベストロンを裏で操っている人かしら?」
夢葉がそう言うと、ベストロンは人のような動きをしながら音声を発している。
「そうね。まあ、正確にはお互いの意見が一致したのよね。自己紹介がまだだったね。入江氷菓。入江。神楽夢葉さんならこの苗字に聞き覚えがあるんじゃないの?」
入江。この苗字には聞き覚えがあった。
2年前。百目鬼の再来の首謀者の一人である入江與。彼には妹がいるという情報はあったのだが、まさかこんなところで会うとは思ってもいなかった。
「貴方たちの目的は何なの!?」
夢葉がそう言うと、氷菓はほくそ笑みながら言い放った。
「“彼”が言うには、この辺に“歴史に残らない名刀”があるって聞いてね。貴方たちも探しているんでしょ?」
「刀を集めて何をする気なの!!」
「あら、目的も分からないのに、刀を集めているなんて、惨めなものね」
氷菓がそう言うと、ベストロンは背中から巨大なアンテナが飛び出した。
「どうせあなたたちは死ぬから、教えてあげる。ベストロンはねあそこで作られているの」
氷菓がそう言うと、ベストロンは上空を指さした。
「まさか……。衛星で?」
「そうよ。ベストロンは衛星で作っているの。あそこなら邪魔は入らないし、色々捗るのよ」
氷菓はそう言うと、話を続けた。
「そして、今ベストロンが出しているアンテナは、衛星にアクセスできる。……貴方たち、ベストロンが今何体できていると思う?その数は100億を超える。簡単に言えば、一人に2台のベストロンが行き届くことになるわ」
それを聞いた夢葉は、身震いする。国連が想定してた数よりも遥かに多いからである。全面戦争をすれば、死闘の末に人類が勝つ想定であったが、その数では圧倒的に人類が滅亡してしまう。
「少し話し過ぎてしまったわね。さあ、始めましょうか」
氷菓はそう言うと、それ以降氷菓の声は聞こえなかった。
「王君!!半径100、200メートルの住民の避難誘導をお願い!地元の警官の人とかに協力を仰いで!早く!!」
「で、でも僕、イギリス語なんて話せないですよ!?」
「大事なのは気持ちよ!!早く!!」
王は急ぎ足で走り出した。夢葉は懐から二丁の拳銃を取り出した。夢葉が以前に所持していたイーグルとタイガーは、田中謹製(田中雫が個人的に管轄する企業)に預け、改良を行った。そのお陰で、連射性能や精度、威力が段違いに上がった。
夢葉はベストロンの関節を狙った。夢葉はイギリスに向かう前に、ベストロンの試作型の設計図を暗記しており、ベストロンの弱点を理解している。夢葉が放った弾丸は、既製品のリボルバーの数倍の速度で、ベストロンの肩の関節を撃ち抜いた。
(これが新しいリボルバー……!これなら完封できる!!)
夢葉はベストロンの関節を撃ち抜いていく。しかし、ベストロンはゴキブリのように湧いてくる。夢葉は遮蔽物に隠れ、弾丸をリロードする。その間にベストロンは100体ほど現れた。夢葉は次々に撃ち抜いていく。しかし、思うようにベストロンは倒れていかない。
(やっぱり……。試作型の設計図とは全然違う。弱点である関節がカバーされてたり、それを庇うような動き方してる……!)
夢葉はリボルバーに先ほどとは違う弾丸を込めていく。それは、夢葉が新しいリボルバーを受け取るときに貰っていた。
「これは……?」
夢葉が問うと、持ってきた炎丈が答えた。
「それは、本来対戦艦用に使われていた弾丸を、雫が拳銃に独自改造したオリジナル弾丸だ。これなら恐らく最新のベストロンをも貫通するだろう」
「……ありがとうございます」
夢葉は炎丈にお礼を言った。
「雫はああ言っているが、あれでも君には期待しているんだ。これを見てくれ」
炎丈は夢葉に写真を見せた。
「これ、雫の大切な人の写真だよ。どうだ?君に似てないか?」
炎丈はそう言って、微笑んだ。夢葉は炎丈の後ろを指さした。その後ろでは、田中が仁王立ちで立っていた。
夢葉は、その様子を思い出し、戦いの中でも笑みが零れてしまった。
「何笑ってるんですか、神楽さん」
王はそう言って、夢葉の顔をまじまじと見ていた。夢葉は驚いて、王の顔を叩きそうになった。王はそれを必死に止めていった。
「もう避難誘導終わったぜ!何かザキヤマのネタやったら、仲良くなってな!」
王はそう言うと、警官を指さした。警官は顎を突き出し、腕を上下に振っていた。
「……流石ね」
「それどっちを褒めてる?」
王はそう言って、微笑んでいた。
「……それより状況は最悪よ。あの数を見て」
夢葉は王から視線をベストロンたちに移した。二人が話している間もベストロンは衛星からやって来ている。
「出来れば、エンシェント=ジェントルかキャプテン・スターライトとかに救援を仰ぎたいけど、連絡のしようが……。風間さんも今も音信不通だし」
「少なくとも、エクスカリバーがあれば……」
王がそう言うと、夢葉は決心したように拳銃を力強く握った。
「王君はエクスカリバーの捜索を続けて、私は一人でベストロンを止める……!」
「待て待て!まだ手掛かりもないのに、無茶だよ」
「無茶だと思うのは、過去からの経験よ。私は未来に向かって進んでいるの」
夢葉はそう言って、飛び出して行ってしまった。
「待て!」
王の怒号に夢葉は止まることはなかった。しかし、そんなときだった。王が夢葉を制止させようとしたときには、夢葉の左肩に氷の刃が貫かれていた。そこには、巨大な氷を纏ったベストロンが立ち尽くしていた。
「とてもいい切れ味でしょ?」
巨大なベストロンから、再び氷菓の声が聞こえる。
「この氷鬼はね、私の息のかかった特別な氷鬼。名前はランスロット。他のベストロンとは違い、大きさも強さも格段に強いわよ!」
ランスロットと呼ばれる巨大なベストロンは、夢葉に斬りかかる。夢葉は避けるが、左肩の出血が激しく跪いてしまった。その隙を見逃さなかったランスロットは、夢葉の首元を狙い、氷の剣を振りかざした。




