53 鬼の手引き
このストーリーはフィクションです。登場する人物や団体と関係はありません。又、一部性的な描写がございますのでご注意ください。そして、この作品は日本の歴史や神話を基にした構成があり、一部の方々に怒られそうな内容が記載される場合がございますので、先に謝ります。申し訳ありません。
寒田白ノ助は日本のとある山の奥地にいた。
「こんなところにいましたか、大嶽丸殿」
白ノ助がそう言うと、大嶽丸と呼ばれる女性が起き上がった。額には二本の立派な角が生えている。
「Z様から伝言です。大戦の序曲を奏でるそうです」
「漸くか……。数年も待たせたんだ。楽しみだね」
大嶽丸はそう言うと、大きく背伸びをした。
「……大丈夫やよ。計画は理解しているから。……ただ、一つ気になるんけど」
大嶽丸はそう言うと、準備運動がてら金棒を軽やかに振り回しながら言った。
「数年前に入った國崎慶喜って男。彼は本当に人間なんか?」
白ノ助は首を傾げる。
「いやね、妾の恩寵は人の気を感じることができるんやけど、奴からはそれが全く感じられないんや」
「私には分かりかねます。ただ、彼は元警視総監です。実力は申し分ないかと。それと入江さんからも伝言です。“君は中国の方へ行ってくれ。そして、これを君にあげる。我々に協力してくれたほんの手付金だ”そうです」
白ノ助は懐から小さな注射器を渡した。
大嶽丸はそれを受け取ると、肩に射した。力が湧いてくるのを感じる。大嶽丸は少し考え込んだ後、中国へ向かった。
別時刻。大山杭刑務所の警備システム世界トップクラスである。二百を越える職員が常に警戒している上に、田中たちによって作られたベストロンの改良型であるTシリーズが複数台配備されている。更に刑務所長である捕間守の娘であるみか(コードネーム:ペルセ)とおり(コードネーム:ポネ)が定期的に警備を行っている。東京湾の人工島の上に存在する大山杭刑務所を見る人物が数名。闇蜘蛛、サタン、國崎慶喜。
闇蜘蛛は望遠鏡機能付きのゴーグルで様子を窺っている。
「今日はいつにもまして警備が厳重だな……」
闇蜘蛛がそう言うと、サタンは気だるそうに口を開いた。
「なんで俺たちも参戦しなきゃいけないすかねー。慶喜さんもそう思いますよね?」
「遘√?豺キ豐後?ゆサ翫☆縺蝉ク也阜繧堤オゅo繧峨○縺溘>縲」
慶喜がそう言うと、サタンは納得した様子で背伸びした。同時に背中の翼も微かに揺らいだ。
「闇蜘蛛さん、合図ってなんでしたっけ」
「内部崩壊の後、入江さんの“電波”による通信機の反応が合図」
「蠕?※縺ェ縺??よ掠縺丞。オ谿コ縺?」
慶喜はそう言うと、姿を消した。
「ほらあ、闇蜘蛛さん。慶喜さん行っちゃいましたよ」
サタンがそう言うと、慌てた様子で闇蜘蛛たちも向かった。
大山杭刑務所内部では、一監視員と入江が会話をしていた。両腕と口、目元を拘束する器具により、聴覚でしか周りの様子を把握することができないようだ。
「今日はやけに騒がしいですね」
「……今日は何者かによって脅迫を受けた。今日は通常よりも十倍ほど警戒レベルが高い」
(どういうことだ?Z様がそんなことするはずがない。となれば、内通者か?いや、この計画は一般人が知ったところで防ぎようがない。……となれば、Z様が嫌う対の存在の犯行なのか?)
そのとき、入江の元に、副看守の五味が現れた。
「入江と話がある。少し外してくれないか?」
五味の低い声で、威圧された監視員はそそくさとその場を去った。
「久しいね」
入江の言葉に反応を示さない。
「本当に今日なのだな?」
五味がそう言うと、入江は微笑んだ。
「長かった……。私はこの日をそれほど待ちわびたことか……」
五味はそう言うと、ガスマスクとゴーグルを外した。顔がやけに偽物のようである。それもそのはず五味はフェイスマスクをしている。それを脱ぐと、そこから女性の顔が現れた。口元が火傷でひどく爛れている。首まで覆っていたフェイスマスクを取ると、喉元に人工声帯があり、それを外すと女性の声になった。
五味は入江の部屋の厳重な扉を解除した。その瞬間、緊急アラームが鳴り響く。
「Z様に拾われたのは約十年前、私がまだ二十代前後のことだったな。危篤状態だった私を救ってくださった。そのときから私の命はZ様に捧げている」
「私も同じさ。それより、君にこんな糞みたいな場所に潜入させて申し訳なかったね。君ぐらいしか適任者がいなかったもので……。それより、早くここを出てZ様の元へ向かおう。外で同胞が待っているよ」
入江は自身の拘束具を恩寵で破壊した。そのときだった。二人の前に、田中雫、炎丈鉄郎、看守長である捕間守が現れた。
「看守長……」
五味がそう言うと、田中が口を開いた。
「四年前、日本一厳重な刑務所から脱獄者が現れ、こちらも一度職員全員身元を改めたが、まさか戸籍すらもあんなに綺麗に変えちまうとはな。中々見つけられなかったよ。だがな、五味、入江、ここまでだ」
田中は背中の盾を取り出した。
「日向!」
日向は五味の本当の名前である。本名は田須日向。
五味は地面に触れた。すると、地面がひび割れ、割れ目から大量の屍が現れた。屍たちは五味たちを護るように自ら積まれていった。
「“屍の壁”」
「捕間さん」
田中がそう言うと、捕間が地面に沈んでいく。すると、施設が生き物のように動き始めた。
捕間守 恩寵“堅牢”。建物(最低四つ以上の壁と扉がある建造物)に侵入し、自在に操ることができる。
捕間の鋼鉄の巨大な腕が屍たちを薙ぎ払う。その隙間から田中と炎丈が突撃し、二人は五味を吹き飛ばした。入江は五味を受け止めると、額に触れた。
「何をしている!入江!」
「私からのプレゼントさ。日向、君なら受けきれる」
すると、五味から紫色のガスが溢れ出した。すると、薙ぎ払われ真っ二つになった屍が元通りになっていく。
「やはり“毒”で屍は回復するのだな。良い検証だった。それに加え、君には“超再生”、“昆虫”も加えておいた。人間が耐えられる恩寵数は自身も含めて三個だが、君なら大丈夫だろう」
入江は五味の唇を交わした。舌を入れる濃厚な接吻であった。五味は無理やり引きはがすと入江から離れた。
「じゃあ、私は他の同胞を迎えに行くとしますか」
「逃がさない」
田中の“麒麟”が辺り一面に広がる。凄まじい殺気に入江たちの意識が飛びそうになる。そのときだった。突如として壁から慶喜が現れた。
「逧?ョコ縺励□?」
歪な巨大な腕が辺り一帯を薙ぎ払った。その隙間から闇蜘蛛とサタンが現れた。背後には倒れたみかとおりがいた。二人は既に絶命している。慶喜が奇声をあげると、刑務所内のロックが全解除された。突然の出来事に捕間は施設から抜け出し困惑している。そのとき、慶喜に触れられ、爆散した。と思えば、爆散したものが一塊になり、サッカーのようにその塊を蹴った。塊は無数の魚となり、その辺でぴちぴちとしていた。その様子を不気味に眺める慶喜は、何かを感じ取ったかのように南の方角へ視線を移した。今にも飛び出しそうである。
「待て!」
田中が詰め寄ろうとした瞬間、田中や炎丈は天井に張り付いた。その後、二人はガラスの球体に包まれてしまった。慶喜の眼前には半透明な階段があった。慶喜がそれを降りていくと、階段は途中で途切れており、急落下していった。
大嶽丸は中国とインドの間のネパールの地に着いた、既にそこでは無数のベストロンたちが戦闘を行っていた。
そこでは、インドのレジェンダリのシルヴィアが戦っていた。彼女は片手から大きな水の塊を放出していた。
「君がレジェンダリのシルヴィアかい?」
大嶽丸はシルヴィアに向かって話しかけた。シルヴィアは大嶽丸を見ると構えた。
「その角は……、貴様、“終わりを告げる者達”の大嶽丸ね!」
シルヴィアがそう言うと、地面に両手を着けた。すると、地面が枯れ始めた。
「私は、自然のエネルギーを吸収し、放つことができる “枯死”!ベストロンには有効打ではないけど……、人間も例外ではないわ!」
シルヴィアは地面から両手を離し、大嶽丸に手を向けた。すると、シルヴィアの手から無数のエネルギー状の帯が伸び、大嶽丸を拘束した。そして、その帯が爆発した。しかし、大嶽丸には掠り傷一つなかった。
「やはり、只の人間ではないようだね」
「これはただの“玄武”やよ。それより、良い“妖力”やね」
大嶽丸がそう言うと、天に金棒を掲げた。すると、金棒の元に雷が落ちた。大嶽丸は雷の纏った金棒を振り回した。すると、金棒は轟音を上げ、地面を抉った。
「“轟雷怒涛”」
抉れた地面から雷が放出された。シルヴィアはそれを避けながら、その雷を吸収した。
(相性が悪いやね。ならば……)
大嶽丸は、空中に向けて大きく振りかぶった。金棒を振り切ると、斬撃が雲に命中し、その雲は忽ち黒雲となった。その黒雲から火の雨が降り注いだ。シルヴィアはエネルギー状の大きな傘を作り出し、火の雨を吸収させた。巨大な傘は形を変え、先ほどよりも巨大な鞭に変化した。巨大な鞭は雷を轟かせながら、大嶽丸を襲った。しかし、大嶽丸はその攻撃をもろともせず、シルヴィアに向かって突進する。大嶽丸の金棒がシルヴィアを襲った。シルヴィアは吹き飛んだ。大嶽丸はニコリと微笑んだ。そのときだった。大嶽丸には大きな衝撃が走った。突然の出来事とで“玄武”が出来ず、大嶽丸は片腕の骨が砕け散った。
大嶽丸は衝撃の方向を見た。そこには中国のレジェンダリの翁王がいた。
「ほほう。儂の五十連撃目の“連撃”で生きているのは、貴様強いな」
翁王はそう言うと、倒れ込んだ大嶽丸の前に立った。大嶽丸は激痛で立ち上がるのがやっとだった。翁王は大嶽丸の前にしゃがんだ。
「お前らの目的は何なんだ?早く答えないと、儂の“連撃”の効果が切れてしまう」
大嶽丸は答えなかった。翁王は溜め息をつくと、拳を振り上げた。
そのときだった。翁王は吹き飛んだ。その様子を見ていたシルヴィアは、何が起きたのか分からなかった。大嶽丸はゆっくりと立ち上がった。大嶽丸の図体は、先ほどよりも巨大で、先ほどの粉砕骨折も回復していた。
「まさか貴方……、複数持ちなの?」
シルヴィアがそう言うと、大嶽丸は首を傾げた。
「いや、知らない。でも、この重症が治るのは初めてやね」
そのとき、大嶽丸の脳内に入江の声が響いた。
(やあ、私も無事脱獄できて落ち着いたから、“脳内通達”で話しかけているよ。先ほど寒田から受け取った注射器には三つの恩寵が入っている。“超再生”、複製した“再生”を何度も重ね合わせた上級物だ。“剛腕”、君の力を更に底上げしてくれるシンプルかつ強力な恩寵だ。“潜在覚醒”、……使ってからのお楽しみだ。君のために組み上げた恩寵だ。君なら自我を失うことなく扱えるだろう)
入江はそう言い残し、消えた。すると、突然大嶽丸は激しい頭痛に襲われた。同時に恩寵を与えられた副作用だった。それをチャンスと見たシルヴィアと翁王は視線を交した。翁王は近くにいたベストロンたちを次々と殴り倒していく。殴るたびに翁王の攻撃の威力が増していく。
シルヴィアはエネルギーを鞭に変え、呂布の両腕に纏わせた。翁王はエネルギーを纏った拳で、大嶽丸に殴りかかった。そのときだった。強靭な腕が翁王を襲った。翁王は吹き飛んだ。そこには恐竜のような巨大なトカゲのような男が立っていた。口からは涎が出ている。
(一つ言い忘れてたよ。恐らく近くにいると思うけど、“元”寒田白ノ助……、私は“螝”と呼んでいるが。兎に角そいつがいると思うけど、化け物みたいな見た目で殆ど自我がないから、共闘は期待しないでくれ。ただ中国のレジェンダリと相性が良いから、うまく誘導してみてくれ)
再び入江の声は消えた。
螝は大きな咆哮を上げた。




