47 聖剣エクスカリバー
このストーリーはフィクションです。登場する人物や団体と関係はありません。又、一部性的な描写がございますのでご注意ください。そして、この作品は日本の歴史や神話を基にした構成があり、一部の方々に怒られそうな内容が記載される場合がございますので、先に謝ります。申し訳ありません。
「ここがイギリスですかあ!」
騎士は、初めての海外の風景に目を輝かせていた。
「でも、王君。風間さんが書いている場所は“アヴァロン”っていう地名よ。私、そこまで世界の地名に詳しくないけど、そんな地名、聞いたことないわよ」
紙切れを見ながら夢葉が言うと、騎士は自慢げに言った。
「そりゃあそうですよ。だってそのアヴァロンって地名、空想上の島の名前ですからね」
「えええ!?」
夢葉はあまりの驚きに大声を上げ、周りの人たちに変な目で見られた。夢葉は辺りを見渡し、恥ずかしそうに騎士の元に近寄った。
「なんで先に言わないのよ!」
「え?だって神楽さんなら知っているって思ってたんで。知らないんですか?『アーサー王伝説』」
アーサー王伝説とは、アーサー王と呼ばれる人物と七人の円卓の騎士が登場する物語であり、イギリスがモデルの物語である。
「まさか、本当に『アーサー王伝説』の話を元に私たちは来ていたの!?風間さんは馬鹿なの!?」
「まあまあ、日本人が海外に観光できるのは凄いことなんですから、楽しみましょうよ」
騎士はそう言うと、フィッシュアンドチップスを貪り食っていた。夢葉は呆れた様子で、近くのお店に立ち寄った。店内は古い印象を受けたが、客で賑わっていた。
「エールを一つお願いします」
夢葉が店主にそう言うと、エールを一つ受け取った。夢葉がそれを呑もうと上を見上げたときだった。店主の頭上に一枚の壁画が見えた。そこには、間違いなくアーサー王伝説に出てくるアーサー王とランスロットであった。
「店主さん。この壁画は?」
夢葉がそう言うと、店主は壁画を見上げながら言い放った。
「これは俺のオジサンが書いた壁画でな。どうやら俺のオジサンはアーサー王に会ったらしいんだ!そんな馬鹿な話があるのかってことだけどな!……ここだけの話だが、この店の裏には、関係者しか入れない倉庫があるんだがな。そこは昔湖だったんだ。そこには剣の形をした岩があってな……。そう言えばお嬢さん。日本から……」
店主がそう言おうとしたときだった。店の外から叫び声が聞こえる。夢葉は直ぐに店の外に出た。
そこには、以前の氷鬼とは体格の違う人の二倍以上の大きさの氷鬼が何体も暴れていた。その氷鬼は口から冷気を出しながら、人々を襲っている。氷鬼が人たちに触れると、その人たちは氷漬けになっていった。騎士は日本刀を抜き応戦しようとしている。夢は拳銃を抜いて発砲する。弾丸は氷鬼の肩を貫いた。しかし、氷鬼は微動だにせず、肩の穴を塞ぎ、咆哮をあげた。
「こんにちは、お二人さん」
氷鬼から女性の声が聞こえてきた。ベストロンには通話機能が搭載されており、大きなスマホのようでもあった。声の主は、女性であるはずなのだが、しゃがれた声だった。
「貴方たちが王騎人君に憾咲夢、いや神楽夢葉さんかな?」
「貴方がベストロンを裏で操っている人かしら?」
夢葉がそう言うと、ベストロンは人のような動きをしながら音声を発している。
「そうね。まあ、正確にはお互いの意見が一致したのよね。自己紹介がまだだったね。入江氷菓。入江。神楽夢葉さんならこの苗字に聞き覚えがあるんじゃないの?」
入江。この苗字には聞き覚えがあった。
2年前。百目鬼の再来の首謀者の一人である入江與。彼には妹がいるという情報はあったのだが、まさかこんなところで会うとは思ってもいなかった。
「貴方たちの目的は何なの!?」
夢葉がそう言うと、氷菓はほくそ笑みながら言い放った。
「“彼”が言うには、この辺に“歴史に残らない名刀”があるって聞いてね。貴方たちも探しているんでしょ?」
「刀を集めて何をする気なの!!」
「あら、目的も分からないのに、刀を集めているなんて、惨めなものね」
氷菓がそう言うと、ベストロンは背中から巨大なアンテナが飛び出した。
「どうせあなたたちは死ぬから、教えてあげる。ベストロンはねあそこで作られているの」
氷菓がそう言うと、ベストロンは上空を指さした。
「まさか……。衛星で?」
「そうよ。ベストロンは衛星で作っているの。あそこなら邪魔は入らないし、色々捗るのよ」
氷菓はそう言うと、話を続けた。
「そして、今ベストロンが出しているアンテナは、衛星にアクセスできる。……貴方たち、ベストロンが今何体できていると思う?その数は百億を超える。簡単に言えば、一人に二台のベストロンが行き届くことになるわ」
それを聞いた夢葉は、身震いする。国連が想定してた数よりも遥かに多いからである。全面戦争をすれば、死闘の末に人類が勝つ想定であったが、その数では圧倒的に人類が滅亡してしまう。
「少し話し過ぎてしまったわね。さあ、始めましょうか」
氷菓はそう言うと、それ以降氷菓の声は聞こえなかった。
「王君!半径百、二百メートルの住民の避難誘導をお願い!地元の警官の人とかに協力を仰いで!早く!」
「で、でも僕、イギリス語なんて話せないですよ!?」
「大事なのは気持ちよ!早く!」
王は急ぎ足で走り出した。夢葉は懐から二丁の拳銃を取り出した。夢葉が以前に所持していたイーグルとタイガーは、田中謹製(田中雫が個人的に管轄する企業)に預け、改良を行った。そのお陰で、連射性能や精度、威力が段違いに上がった。新しくなった拳銃の名前は白鷲(ホワイト=イーグル)と黒虎(ブラック=タイガー)である。
夢葉はベストロンの関節を狙った。夢葉はイギリスに向かう前に、ベストロンの試作型の設計図を暗記しており、ベストロンの弱点を理解している。夢葉が放った弾丸は、既製品のリボルバーの数倍の速度で、ベストロンの肩の関節を撃ち抜いた。
(これが新しいリボルバー……!これなら完封できる!!)
夢葉はベストロンの関節を撃ち抜いていく。しかし、ベストロンはゴキブリのように湧いてくる。夢葉は遮蔽物に隠れ、弾丸をリロードする。その間にベストロンは百体ほど現れた。夢葉は次々に撃ち抜いていく。しかし、思うようにベストロンは倒れていかない。
(やっぱり……。試作型の設計図とは全然違う。弱点である関節がカバーされてたり、それを庇うような動き方してたりしてる……!)
夢葉はリボルバーに先ほどとは違う弾丸を込めていく。それは、夢葉が新しいリボルバーを受け取るときに貰っていた。
「これは……?」
夢葉が問うと、持ってきた炎丈が答えた。
「それは、本来対戦艦用に使われていた弾丸を、雫が拳銃に独自改造したオリジナル弾丸だ。これなら恐らく最新のベストロンをも貫通するだろう」
「……ありがとうございます」
夢葉は炎丈にお礼を言った。
「雫はああ言っているが、あれでも君には期待しているんだ。これを見てくれ」
炎丈は夢葉に写真を見せた。
「これ、雫の大切な人の写真だよ。どうだ?君に似てないか?」
炎丈はそう言って微笑んだ。夢葉は炎丈の後ろを指さした。その後ろでは、田中が仁王立ちで立っていた。
夢葉は、その様子を思い出し、戦いの中でも笑みが零れてしまった。
「何笑ってるんですか、神楽さん」
王はそう言って、夢葉の顔をまじまじと見ていた。夢葉は驚いて、王の顔を叩きそうになった。王はそれを必死に止めていった。
「もう避難誘導終わったぜ!何かザキヤマのネタやったら、仲良くなってな!」
王はそう言うと、警官を指さした。警官は顎を突き出し、腕を上下に振っていた。
「……流石ね」
「それどっちを褒めてる?」
王はそう言って、微笑んでいた。
「……それより状況は最悪よ。あの数を見て」
夢葉は王から視線をベストロンたちに移した。二人が話している間もベストロンは衛星からやって来ている。
「出来れば、エンシェント=ジェントルかキャプテン・スターライトとかに救援を仰ぎたいけど、連絡のしようが……。風間さんも今も音信不通だし」
「少なくとも、エクスカリバーがあれば……」
王がそう言うと、夢葉は決心したように拳銃を力強く握った。
「王君はエクスカリバーの捜索を続けて、私は一人でベストロンを止める……!」
「待て待て!まだ手掛かりもないのに、無茶だよ」
「無茶だと思うのは、過去からの経験よ。私は未来に向かって進んでいるの」
夢葉はそう言って、飛び出して行ってしまった。
「待て!」
王の怒号に夢葉は止まることはなかった。しかし、そんなときだった。王が夢葉を制止させようとしたときには、夢葉の左肩に氷の刃が貫かれていた。そこには、巨大な氷を纏ったベストロンが立ち尽くしていた。
「とてもいい切れ味でしょ?」
巨大なベストロンから、再び氷菓の声が聞こえる。
「この氷鬼はね、私の息のかかった特別なベストロン。名前はランスロット。他のベストロンとは違い、大きさも強さも格段に強いわよ!」
ランスロットと呼ばれる巨大な氷鬼は、夢葉に斬りかかる。夢葉は避けるが、左肩の出血が激しく跪いてしまった。その隙を見逃さなかったランスロットは、夢葉の首元を狙い、氷の剣を振りかざした。
(ああ、また僕の目の前で人が死ぬ)
王は夢葉の姿を見て、幼少期の自分を思い出していた。
王は幼少期に事故で両親を亡くしていた。正しくは事故ではなく、人災であるが。そんな王は齢6歳でホームレスとなる。彼を救おうとする者は一人もいなかった。彼がこの世界に絶望し、死を予感したとき、ある一人の女性に出会う。彼女は王を手厚く看病し、独り立ちの援助を行った。王は立派に育ち、独り立ちをし、風間の元で暮らしていた。
王は幼い頃に抱いた死に直面するという経験から、死に対しての関心も興味を失ってしまった。しかし、今、彼の目の前で夢葉が死にそうであった。王は思わず走り出す。しかし、普通に走っても間に合うわけもない。王は神経を研ぎ澄ました。すると、刀が星のように輝き始めた。
王の剣術は、“光ノ型”と呼ばれており、風間の使う“火ノ型”とは同系の型であるのだが、光ノ型の方が、剣速が早く簡単に言えば火ノ型が攻撃力特化で光ノ型がスピード特化である。
王が刀を抜くと、一瞬にして夢葉の元に来ていた。一方、夢は死を覚悟し、目を瞑った。そのとき、夢は人肌の温もりを感じた。目を開けると、そこには王が夢葉を抱きかかえ、ランスロットの剣を受けていた。
「王君……!?」
「大丈夫!神楽さん!!」
王はランスロットの剣を跳ね返すと、光を纏った刀でランスロットを斬りつけた。傷は浅いが、ランスロットの胸には大きな傷ができていた。
「僕の剣技も磨き上げてきたから、二人で奴らを倒しましょう!」
王がそう言うと、夢は頷いた。ランスロットは自身の傷を見ると、巨大な咆哮をした。すると、周りにいたベストロンたちが変形していき、ランスロットに合体していく。たちまちランスロットはさきほどよりも十倍ほど大きくなり、背中から二本の剣を持った腕が現れた。
「憾咲さん。奴、今の僕たちじゃ敵いませんよ?」
「……貴方、恩寵が複数持った敵と戦ったことある?」
「そんな人間いるんですか!?」
夢葉は不敵に微笑んだ。
「そんな敵に比べれば、アイツなんて雑魚よ。とっとと終わらせてエクスカリバー探して帰りましょう」
夢葉はランスロットに向かって、拳銃を構えた。そのとき、夢に頭痛が走った。
「君は神楽……。……の妹にあたる」
「そろそろ始めようか」
夢葉はうずくまる様に地面に倒れこんだ。
「何……!これ!」
夢葉の中に存在しない記憶が溢れてきた。そのとき、ランスロットが再び襲い掛かって来た。王は夢葉を庇った。ランスロットの剣が王の心臓を貫いた。王は口から吐血をして倒れる。そのとき、近場から地響きが起きる。夢葉は苦しみながら王に寄り添う。頭痛のせいで恩寵が上手く使えない。夢葉は重々しくブラウスを脱ぐと、王の胸に当て付けた。白いブラウスが一瞬にして赤黒く染まった。
「……死なないで!王君!」
夢葉の問いかけに、王は既に反応していない。夢葉の瞳から涙が溢れ出る。ランスロットはそんな光景に何も抱くわけがなく、ゆっくりと歩み寄ってくる。
聖剣エクスカリバー。星の石から作られたとされるその剣の刃は硬いが、しなやかで丈夫である。折れても復活するという特殊な力を持ち、持ち主に合わして特長を変える。伝承では、剣に歴代の王が宿るとされている。
王は目を覚ますと、何もない空間にいることに気づいた。王は辺りを見渡すが、これといった特徴はない。王は歩もうと思ったが、不安と恐怖で足が動かなかった。そのとき、王に眩い光が襲う。王は目を覆った。やがて光が弱まり、ゆっくりと目を開けると、目の前に石に刺さった錆びた剣があった。
王はその剣に触れる。その瞬間、莫大な記憶が王に入り込んだ。それは間違いなく王様の記憶であった。王はゆっくりと剣を抜く。何となく抜ける気がした。剣は抵抗なく岩から抜けていく。抜けるのと同時に錆は落ちていく。王がその件を抜き切ると、剣は星のように輝いていた。
「おめでとう。君が七代目だ」
王が正面を向くと、そこには金髪の隻腕の男が立っていた。王はそれがアーサー王だと一瞬で気づいた。
「あなたは……、アーサー王ですか?」
「私なんか王の器じゃないさ。友一人救えない私になんか王と言われる筋合いはないさ」
男はそう言うと、ない左腕を確かめながら言い放った。
「それに、私はエクスカリバーの本当の力を引き出しきれなかった。それに君にエクスカリバーは似合うぞ」
男はそう言って、王の肩に手を置いた。
「その剣から見てるぞ、七代目」
男はそう言うと、王のおでこにデコピンをした。
王はそのとき、目を覚ました。目の前には、溶けかけているランスロットがいた。王は自分自身を見た。黄色がかった光が王を包んでおり、頭には光でできた王冠のようなものを纏っていた。王は後ろを見た。そこには、困惑している様子の夢葉が立ち尽くしていた。
「良かった……!私、てっきり死んだものかと……」
夢葉がそう言うと、王は慰めるように頭を撫でた。
「止めて。まだそういう関係値じゃないでしょ」
王はそう言われ、手を引っ込めた。
「神楽さんは、ここで見てて。僕は一人で大丈夫」
王はそう言うと、エクスカリバーを構えた。ランスロットは光の熱で溶けた体を再生させ、巨大な咆哮をした。ランスロットは巨大な掌を王に振り下ろした。
「“光ノ型 流れ星”」
王はそう囁くと、一瞬にしてランスロットを斬りつけた。夢ですら何が起きたのか分からなかった。
「何その技……?本当に光ノ型なの?」
「神楽さんに前に一度話したかな。僕は少し前に記憶を少し失ったって言ったでしょ?でも走馬灯の中で思い出したんだ。……というかエクスカリバーが教えてくれたんだ。風間流と同型の僕の剣技。……光ノ型。これが僕の全力さ」
ランスロットは混乱しながらも両腕を振り回す。凄まじい冷風が二人を襲う。ランスロットは片腕を巨大な剣に変換した。
(凄い。エクスカリバーの記憶が僕とリンクしていく……!さっきまであんな苦戦していたのが馬鹿みたいだ)
王はエクスカリバーを後方に構えた。
「“光の型 三日月”」
三日月をなぞるように描かれた斬撃は、ランスロットを真っ二つにした。
辺りには、心地の良い冷気が漂ったのだった。




