45 新たな脅威
このストーリーはフィクションです。登場する人物や団体と関係はありません。又、一部性的な描写がございますのでご注意ください。そして、この作品は日本の歴史や神話を基にした構成があり、一部の方々に怒られそうな内容が記載される場合がございますので、先に謝ります。申し訳ありません。
國崎敏正の計画は失敗に終わったが、百目鬼拳武により、東京都を中心に日本全国に甚大な被害が残った。被害は計り知れず、死亡者数は五千万人を超えていた。日本人口の約半分が死亡したのだった。
一連の騒動の黒幕だった國崎敏正は逮捕された。
また、真の黒幕とされた『終わりを告げる者達』の消息は途絶えたのであった。
日本の総人口が六千万人にとなり、日本滅亡の危機に立ち上がったのは、当時官房長官だった心田操太朗であった。総理大臣が逮捕されたとき、一早く指示を出し、今まで鎖国に近い状態であった日本の外交を積極的に行った。これにより、一時的な機能停止だけで済んだのだった。また、日本唯一の外国人家系操園一家の手助けもあり、円滑な外交が可能となった。また、日本は今までの非礼を近隣国に詫び、その対処として、心田は近隣国との不可侵条約を解消に加え、日本の技術力を全面的に近隣国へ提供した。そんな中、日本は世界の現状を知ることとなった。それは、海外の人にも恩寵なる特殊能力が存在しており、日本ほどではないが、各国の人口の約一割弱を恩寵者で占めている。その事実を知った心田は、直ぐに新たな協定を各国と結んだ。海外では、恩寵を“Sixsense”と呼称していた。
そして、技術力も海外の方が上な物が多く、イギリスでは物に恩寵を与えるという技術が存在していた。しかし、人工知能の技術力に関しては、大道寺海人の知能や田中雫の発想力の力もあり、日本の人工知能の技術力はトップクラスであった。
そして、現在の世界各国が共同で行っているプロジェクトが存在する。それが“BesTron計画”であった。ベストロンとは、人災者などの恩寵やシックスセンスから人々を護るために計画されたロボットである。各国の硬度の高い金属を集め、制作されたベストロンは、ほぼ完成段階であったが、肝心の人工知能が未完成であった。そんなときに、海人の技術力や田中の発想力でオリジナルの人工知能が完成した。その人工知能は、従来のコンピュータの10億倍の処理能力を持ち、独自の学習能力や正確性の高い予測能力を持つ。また、機械に搭載不能とされた人間にほぼ近い感情を搭載している。これにより、ベストロンは完成されたと思われた。しかし……。
そして、日本半壊から五年後の二〇二三年一月十日のことだった。
五年経った日本では今もなお復興は進んでいるが、インフラは回復し元通りとなっているが、未だに食料自給率などは低下したままである。勿論東京や関東甲信越の様子は、瓦礫などが撤去されているが、再建はまだまだ先であった。
憾咲夢は神楽夢葉に改名し、本来であれば大学生であったが、警官の数が少ないため、零課であった高校生たちは、臨時警官として、様々な警備などを行っていた。主な仕事は大山杭刑務所から脱走した人災者の再逮捕や、火事場泥棒などの新規人災者の逮捕を行っている。夢葉は常に全身にプロテクターを身に纏い行動している。そんな夢も今日は朱色の振り袖姿であった。
今日は成人式であった。と言っても、人は少なく、学校の体育館で賄えるほどの人数であった。夢葉は前を歩く草木花を見つけると、声を掛け、手を挙げながら近寄った。花は桃色の振り袖を身に纏い、短い髪の上には、綺麗な花々の装飾が飾られていた。花はこちらを向くと、笑顔で夢を迎えた。二人は振り袖が乱れない程度に飛び跳ね、久々の再会に気を抜いていた。
「花!久しぶり!とても綺麗だわ!」
夢葉がそう言うと、花は満面の笑みだった。
「夢こそとても綺麗だわ!元気だった?」
そこから二人は近況を報告し合った。すると、後ろから低い男性の声が聞こえた。声の主は、草木茂であった。緑がかった暗めのスーツを身に纏い、髪型はワックスでガチガチに固まっていた。
「茂!凄いに合ってるわ!」
夢葉がそう言うと、茂は照れくさそうに花を搔きながら言った。
「おいおい、惚気かあ!?」
茂の更に後ろから、大道寺鳶鷹がやって来た。彼は喪服のように黒いスーツに身を包んでいた。
「ち、違うよ!」
夢葉はそう言うが、鳶鷹はニヤニヤしながら、夢葉と茂を見合った。
「まあまあ、近い距離なのに、遠距離恋愛とは、もどかしいねぇ」
鳶鷹は二人を交互に見ながら言っている。
「だって、茂に危険が及んだら危ないし……」
「それを惚気と言うんだ」
更にやって来た海人がすかさずツッコんだ。海人も鳶鷹同様喪服のようだった。
「何、二人ともこれから葬式にでも行くの?」
花がそう言うと、鳶鷹も海人も黙りこくってしまった。花は先ほどの楽しさから現実に戻される様にハッとした。
「そっか……。もう五年なのかあ……。みんな元気かなあ」
花の言うみんなとは、死んでしまった人たちである。しかし、彼らの記憶の中には炎司はいない。
炎司は刻飛びの反動で、現代の人々の記憶には残っていない。
五人は他愛のない会話をしながら、成人式の会場に向かった。会場には、他の夫丈高校のメンバーがいた。皆綺麗な服装で、開始の時間まで待っていた。成人式が始まると、夢葉は周りを見渡した。成人式は十八歳から二十歳の間で行われたのだが、見るからに人数は少なかった。夢葉はお偉いさんの話を聞きながら、あの日の出来事を思い出していた。
夢葉が思い出していると、成人式は終わっていた。夢葉の目には、涙が零れていた。花に心配されると、夢葉は涙を拭いながら平静を装った。
その後、別の会場へ移動し、飲み会が始まった。
茂が乾杯の音頭を取ると、一斉にグラスが掲げられた。周りでは、他校の卒業生が騒いでいた。成人式が行えたのは、現総理大臣の心田操太朗や現夫丈高校校長の真田真のお陰である。真田は崩壊寸前の夫丈高校を立て直し、僅か数か月で再建したのだった。
その後、白龍院のように、教師兼校長となった真田は、今はこうして、卒業生と盃を交わしている。以前のように固かった表情は、今では柔らかくなっている。ただ、最近の疲労が髪の毛に出ているのか、白髪が混じっていた。しかし、そんなことを気にしている様子はなかった。夢葉がそんな光景を微笑ましく眺めていると、同じクラスだった裏表が肩を組んできた。口臭から大分酒臭かった。
「なぁにぃ、夢!全然呑んでないじゃん!」
裏表は、グラスを夢葉の頬に押し付けながら、言い放った。
「ごめん、ちょっと考えごとしてて」
夢葉はそう言うと、裏表のグラスを優しく押し返した。
「もしかして、“もう一人のクラスメイト”の話?でもあれは、夢の記憶違いだって……」
「……そうだね」
夢葉はそう言うと、再び考え込んだ。
夢葉の記憶の中には、炎司の記憶が微かに残っていた。しかし、容姿は曖昧で、名前は憶えていない。ただ、赤い髪であることだけを覚えていた。それに、夢葉以外誰一人として
その人物のことを知らなかったのだ。夢葉も始めは、核爆発の影響で記憶が混乱しているのかと思っていたのだが、今では私自身の妄想だと思い始めている。
その後、夢葉はその考えを打ち消すかのように、酒を呑んだ。お開きの際には、自力で歩けるのか分からない程酔っていた。夢葉は周りの手助けを断り、一人で帰っていった。
夢葉が街灯の少ない住宅街の道を歩いていると、突然、気温が下がっていることに気づいた。一月の気温なはずだが、それにしても寒い。それに徐々にではなく、急激に下がったため、夢葉は近くに人災者がいるのではないかと、身構えた。勿論、振り袖であるからプロテクターは着けてはいないが、最低限の装備をしている。夢葉は腰の拳銃に触れた。そのときだった。突如、夢葉の目の前に巨大な氷を纏った何かが現れた。人ではないことは明らかなのであるが、人型の何かはこちらを見ているようだった。
夢葉は咄嗟に、街灯を拳銃で撃ち抜いた。
(視覚があることが把握済み。一度視界を奪って様子を見ましょう。それに、あの大きさ……、恐らくベストロンの類か何か?でも、見たことのない型。それに、日本にはまだ出回っていないはず)
夢葉は謎の物体から、一旦距離を置き、死角に隠れた。辺りは暗く、一寸先すらも見えない状況であった。夢葉は拳銃を構えた。不気味なほどの沈黙が数秒間続いた。そのときだった。辺り一面がほんのり明るくなった。
「“風間流 陽炎”」
陽炎のように揺らいだ炎は辺りを照らし、謎の物体を斬った。次の瞬間、謎の物体は燃え上がり、蒸発した。
夢葉が死角から顔を出すと、そこには中肉中背の男が立っていた。腰には日本刀のようなものを携えていた。
「そこにいるのは、誰かね?」
夢葉はその男の声にびっくりし、ゆっくりと体を見せた。拳銃は懐に戻した。
「ああ、すまない。脅すつもりはないんだ。……怪我はないかね?」
未だ辺りは暗く、その男の顔は見えないが、三十代ぐらいであるのは把握できた。
「さっきの機械は何なんですか……?」
夢葉がそう言うと、男は鼻下の立派な髭を搔きながら言った。
「奴の名前は、氷鬼。我々はそう呼んでいる」
「奴らの目的は、一体何なんですか?」
夢葉がそう言うと、男は数秒考え込み、口を開いた。
「立ち話じゃ疲れるだろうし、もう夜も深いから、私の家に来ないかい?……大丈夫。私はこういうものだから」
男はそう言うと、夢葉に手帳を見せた。そこには、“公安”と書かれていた。
「公安……。警察の人でしたか」
「これで少しは信用できたかな?神楽夢葉さん」
夢葉は警戒をしたまま、男の家へと向かった。
数分後。
都内某所にあるかなり立派な豪邸へ着いていた。大きな門を潜り、夢葉と男は家の中へ入っていった。内装も豪華で、夢葉は何となく端を歩いていた。
暫く歩くと、夢葉は大きな居間に案内された。夢葉はぎこちなくふかふかなソファに座った。振り袖を脱げるところまで脱いだ夢葉は、男に渡されたコーヒーを受け取った。とても美味しい匂いが部屋を充満していた。
「先ほどは半ば強引で済まなかったね」
男は対面に座りながら、夢葉に言った。夢葉は首を横に振った。
「そう言えば、自己紹介がまだだったね。私の名前は風間雄太。この名前に聞き覚えはあるんじゃないかな?」
「風間雄太!?風間雄太ってあの五十嵐元警視総監の相棒ですよね?」
「おお!流石、君はやはり知っていたのか。そうだね、私は衂漉の親友で相棒なのさ」
夢葉は、風間の顔をまじまじと見た。五十嵐の親友であるのなら、年齢は五十代ぐらいであるはずなのだが、見た目は明らかに三十代かそれ以下にも見える。その視線に気づいた風間は口を再び開いた。
「ああ、私の見た目の問題か。それはね、今からいう話に繋がるのだが……」
私が五十嵐衂漉に出逢ったのは、私がまだ十九歳で新人警官だった頃だった。風間と五十嵐は同い年で同期であり、同じ交番に勤務していた。風間たち二人は警官内では問題児として、かなり有名であった。
当時も夫丈高校や大都帝国学院には、公安科が存在しており、高校卒業後に直ぐに警官になることができる。風間は大都帝国学院出身で、五十嵐は夫丈高校の出身だった。
初めは、お互い喧嘩ばかりであったが、境遇が似ているということで仲良くなった。しかし、そんな中、一九八九年に日本最大の人災事件が起きた。“出雲百目鬼災害”自衛隊や全国の殆どの警官が総動員したが、被害は甚大であった。そんな中、この事件において活躍した人物が三人いた。それが風間と五十嵐、当時零課だった神楽大輝であった。この三人が百目鬼拳武に対しての決定打を放ったのだった。三人は一躍英雄と囃されて、瞬く間に有名になった。そして、五十嵐と風間は次々と活躍していった。
そして、二〇〇〇年のある日のことだった。風間と五十嵐は公安として、秘密裏に海外とコンタクトをとっていた。そんな中、南極調査の任務が日本の公安に舞い込んできた。できるだけ少人数でとのことだったので、風間と五十嵐が名乗り出た。
そして、南極へ向かうと、そこにはベストロンがいた。ベストロンの力は強大で、風間は氷漬けになり、五十嵐は止む無く日本へ帰還したのだった。その後、風間は海に流され、南国の国へ流され、そこで数年過ごした後、風間は日本に戻った。氷漬けにされた際に、歳は取っていなかった。
「一つ質問良いですか?」
風間が一通り言い終えた後、夢葉は小さく手を挙げた。
「二〇〇〇年だとベストロンはまだ製造されていないのではないでしょうか?」
「そうだね。まあ、正確にはまだベストロンではないね。まだ試作の段階だね。実はベストロン計画は、かなり前から始動していたんだ。君なら田中幸作を知っているじゃないかな?」
夢葉は頷いた。
田中幸作。『夫丈の賢者たち』と呼ばれた田中雫の父親にして、政府直属の研究組織『アンチラック』の代表者。当時は天才として、かなり有名になっていた。恩寵を細胞に抽出して液体に閉じ込める技術を用いて制作した“恩寵模倣弾”や、ベストロンのAIの前身である概要を作り上げるなど、数々の功績をあげる。
「彼の父親がベストロン計画の当時のリーダーとなって行っていたんだ。時代で言えば、一九九八年ぐらいかな?兎に角、これで私が若々しいか分かったかな?」
「まだ聞きたいことがあります。その日本刀。確か風間さんの恩寵は、“変速”。炎とは無縁の恩寵なはずです」
「ああ、これか」
風間がそう言うと、日本刀を抜いた。刀身は全体的に赤く、普通の日本刀に比べ、刃が薄かった。
「この刀は、夜桜。刀身自身に炎が宿っているいわゆる妖刀だね」
風間は刀を戻し、話を続けた。
「私があの場にいたのは、偶々だけども、氷鬼を探しているのには目的があってね……。氷鬼のベースはベストロンだ。詳しくは後日、とある議会があるんだが、君も出席しないか?夜も遅いことだし」
夢葉は頷くと、風間の家に泊まらせてもらうことになった。




