43 地球終焉の日
このストーリーはフィクションです。登場する人物や団体と関係はありません。又、一部性的な描写がございますのでご注意ください。そして、この作品は日本の歴史や神話を基にした構成があり、一部の方々に怒られそうな内容が記載される場合がございますので、先に謝ります。申し訳ありません。
百目鬼と炎司の戦いは皇居外苑を中心に半径三キロにも及ぶ範囲を更地としていた。東京タワーは跡形もなく消えていた。炎司は防戦一方の中、必死に戦っている。
「“甕速日”」
炎に包まれた炎司は、狐となり亜音速で突撃する。しかし、百目鬼はもろともせず炎司の足を掴むと、上空に投げた。
「“甚揺”」
振ってきた炎司に拳を当てると、凄まじい振動と共に炎司は吹き飛んだ。
(地震のエネルギーを変換してるのか……!)
炎司は口に含んだ血を吐き捨てると、“朱雀”で空中に浮遊した。そのまま反対に炎を噴射させる。
「反発の力を利用して威力を上げようってか。分かり易いな」
百目鬼拳は手を天に掲げた。
「“霹靂”」
百目鬼の目の前に雷の壁が生まれた。炎司は更に回転をかけて突っ込んだ。雷の壁を容易く突破したが、その向こうでは百目鬼が拳を構えていた。
「“颱風”」
炎司の腹部に激しい衝撃が走る。百目鬼はそのまま炎司を地面に叩きつけた。地面が深く抉れる。
(一発一発の威力が災害級だ……。しかし、あんな威力簡単に出せるものじゃないぞ。例え“玄武”で威力を上げていてもあり得ない)
炎司は百目鬼を観察する。向こうが疲れている様子は全くない。
「なんだ?お前から仕掛けてこないなら、こっちからいくぞ」
百目鬼はそう言うと、両手から小さな黒い玉を発生させた。
「俺の恩寵“自然災害”は簡単に言えば、莫大な運動エネルギーを発生させることだ。この玉はその運動エネルギーを圧縮させたもの」
黒い玉は今にも爆発しそうである。百目鬼が放つと、周りの瓦礫を巻き込みながら巨大化していく。
「“焔玉”!」
炎司は口から巨大な炎の玉を吐き出した。始めは拮抗したが、すぐさま黒い玉に吸収され、炎司に直撃した。炎司は今にも爆散しそうである。
「“きりん”をまとう?」
炎司は首を傾げると、大輝が簡単な言葉を紡いで説明する。
「人間は頑張るとな“麒麟”っていう凄いことができるんだ。そんな中でも更に一部の人はな、それを纏うこともできるんだ」
「なんかすごいね」
炎司の幼児的感想に大輝は言葉を続ける。
「お父さんも一回しかできたことはないんだけどな。あれはそうだな。死地を経験したときだな」
「しち?」
炎司は再び首を傾げる。
「まあ、炎司にはまだ早いかもな。ゆっくり……、いや、そんなことしなくてもいい世の中にしないとな!」
大輝は微笑んだ。
「君を死なす訳にはいかないよ」
女性の声と共に炎司が目を覚ますと、そこには百目鬼が立っている。
(走馬灯か……)
何とか立ってはいるが、今にも気を失いそうである。
「ほほう。この技を耐えた奴はお前で二人目だ」
百目鬼は感動している様子だ。炎司は無意識に“麒麟”を放つ。猛々しくない静かな“麒麟”。
「“甚揺”」
再び百目鬼が攻撃する。炎司はそれを難なく弾く。百目鬼は一瞬戸惑う。炎司も同様に戸惑うが、何となく理解した様子で頷いた。
「お前も纏ってたんだろう。“麒麟”を」
百目鬼は一瞬驚いた後、最高に微笑んだ。
「俺が三十年費やして会得した真髄を、こうも青い若造が理解するとはな」
百目鬼は両手を大きく広げた。
「正解だ!俺は攻撃に“麒麟”を纏っている。……お前となら俺の夢が叶うかもな。ここからはお互い全力だ。百五十パーセントで殺り合おう!」
百目鬼は雄叫びを上げる。
「“地震雷火事山嵐”!」
百目鬼を中心にあらゆる災害が起きる。
「俺とお前さえ生きてればそれでいい!さァ!」
百目鬼は炎司に向かって走り出す。
(お父さんとの走馬灯の他に、見た記憶……)
炎司は小さな頃、大道寺と何気ない会話をしている。それはまだ炎司が大道寺影武術を皆伝していない頃だった。
「 “塵殺ノ型”?」
炎司は顔を傾げる。
「これこそ大道寺影武術の根幹じゃ」
元来、大道寺影武術は鎌倉時代に確立した武術であり、一撃一撃が人体の急所に当たるように動く型のない攻撃作動である。しかし、時代と共に円やかになっていく武術だったのだが、本質を守るため、皆伝口承のみ受け継がれていき、現在に至る。
「じゃあ、その“塵殺ノ型”が本来の武術ってこと?」
大道寺は頷く。
「“塵殺ノ型”は十二の動作を一セットとして、それを流転させることで完成する。あまりにも激しい動作のため、使用中、使用後は呼吸が出来なくなる」
「その動作には名前があるの?」
「ない」
「え」
「一説には月の名前を使っている人もいれば、適当な名前を付けている人もいる。大事なのは名前ではなく、動作だぞ」
大道寺はそう言って炎司に動きを教えたのだった。
炎司は荒げた呼吸を整えている。何度も深呼吸を繰り返す。深呼吸の度に今までの記憶が蘇る。炎司の呼吸が落ち着く。炎司は決心したように百目鬼を見つめた。炎司は拳を構えた。刹那、百目鬼が軽く吹き飛ぶ。百目鬼は“玄武”をするが耐えられない。
オヤジがあの日、教えてくれたときから考えてた。俺は不器用だから技名を言わないと体が反応しない。熕垈・糘閠・膤汢・岾彁・軅鍄・駲粐・壥靹・椦墸・鵈妛・祢恷・粭橸・栩粫。名前の意味はない。ただ何となくだった。この一連は人体の急所が集中する正中線を基に構成されている。しかし、百目鬼の巨人な肉体に炎司は阻まれる。炎司は酸欠で意識が遠のいていく。
「“霹靂”」
百目鬼は落雷を掴むと、振り回す。炎司は一度距離を置くが、即座に再開する。“塵殺ノ型”の最大の特徴は、やればやるほど威力・速度が上がることである。炎司の攻撃は“聖火”の火力+“麒麟”の纏繞+“甕速日”+“塵殺ノ型”の継続により、光速に達しようとしている。いくら炎自体である炎司とは言え、光速に耐えられない。呼吸が出来ず、血管が切れる音がする。吐血、鼻血が止まらない。百目鬼の死亡が先か炎司の絶命が先か。決着は直ぐであった。
数分、炎司の攻撃の後、炎司は跪いてしまう。同時に百目鬼も跪く。体が傷だらけである。何箇所も骨折している。百目鬼にとって初めての経験だった。
「……久々に死ぬかと思ったぜ。もう死んでるがな」
百目鬼はゆっくりと立ち上がると、炎司の元に歩み寄る。
「礼を言おう。お前は強者だ。もう一度名乗れ」
炎司は呼吸困難ながらも答える。
「神楽炎司だ……!覚えておけ……!」
百目鬼は少し微笑むと、拳を振り上げた。そのときだった。百目鬼が消滅したのだった。炎司は訳が分からず辺りを見回した。
入江與の誤算、それは禰宜の“霊媒”の効果時間、それは当人の意識の問題である。禰宜が大嶽丸を“永劫霊媒”したことで、禰宜の死が疑似的に確定し、“霊媒”の恩寵が消失した。それにより、百目鬼の霊媒が終了したのだった。炎司を含め『徒陰』の抵抗がここまで長引くと踏んでいなかった入江は、傍観者から瞬時に炎司を殺害することに切り替えた。炎司に突撃する入江は何者かに吹き飛ばされる。鳶鷹だった。
「炎司!俺たちは負けた!取り敢えずこの場を去るぞ!」
そのときだった。後方から巨大化したベルフェゴールが進撃してくる。背中には田中がしがみついている。最悪な出来事は続いている。上空には小型発射機が発射されていた。
「鳶鷹……!あれ……!」
「ああ。取り敢えずこの場を去るぞ!」
鳶鷹は炎司を抱きかかえ、飛び立った。
「もうこの世はお終いだ。最期の飛行といこうぜ」
「……駄目だ。俺が止める」
「お前じゃもう無理だろ!」
鳶鷹は飛行を続ける。そのとき、背後から入江が追いかけてくる。
「恩寵全解放」
入江から数多の恩寵が溢れる。
「お前らを生かしておく訳にはいかないんだよ」
入江の手が鳶鷹を捉えようとする。炎司は鳶鷹を思い切り蹴る。鳶鷹は急降下する。その反動で炎司は小型発射機に向かっていく。
「炎司!」
「今は全力で逃げろ!」
炎司は炎で何とか小型発射機に着く。ガラスの向こうには幼い少女が気絶している。おそらく笑里である。炎司はガラスを破壊すると、笑里の頬を触れる。そのときだった。小型発射機が作動する。
「誰……?」
「君を助ける。この炎は善の心を持つ者は燃焼しない」
炎司はそう言うと、少女を炎で包んだ。丁度下には池がある。炎と水で落下の衝撃を緩和できると感じた炎司は、炎の球体を地上に落とした。そのときにはもう小型発射機は炎を放出させていた。炎司は左手でその熱を吸収させる。熱は強大で炎司の左腕を溶かしていく。炎司は絶えず吸収する。炎司の左腕は完全に消滅し、更に体を侵食していく。顔の左側が火傷で包まれていく。炎司の左目が溶けたとき、熱放射は終了した。炎司はあまりの激痛に気絶する。炎司は地上に落下していくのだった。




