37 回想 消えかけの焔は夢を見るのか
このストーリーはフィクションです。登場する人物や団体と関係はありません。又、一部性的な描写がございますのでご注意ください。そして、この作品は日本の歴史や神話を基にした構成があり、一部の方々に怒られそうな内容が記載される場合がございますので、先に謝ります。申し訳ありません。
「大輝!一緒に帰ろうぜ!」
神楽大輝が声のした方を見ると、そこには煉獄太陽がいた。
「おう!芯と真は一緒じゃないのか?」
「お互い日直の仕事だとさ!待つか?」
煉獄がそう言うと、大輝は頷いた。暫く二人が談笑していると、堀田が現れた。
「本当に仲が良いのね」
堀田が憎たらしく言い放った。
「お前が望むホモ的展開にはならないぞ?」
煉獄がそう言うと、堀田は
「そんなの私の趣味じゃない!」
と反論していた。軽い口喧嘩をしていると、三上と真田がやって来た。
「待っててくれたのか」
三上が言うと、大輝は嬉しそうに頷いた。
「恵子も一緒に帰るか?」
堀田はブツブツと嫌味を言いながら、一緒に帰ったのだった。
これは、炎司の父親である神楽大輝の人生の一端である。五人は老舗の個人経営のレストランへ入った。ここは彼らが良く勉強や談笑をする際に用いる場所であった。五人はもう直ぐ始まるテストに対して、対策として勉強を行っていた。大輝が悩んでいるのを見て、真田が教えていた。
「真!お前、不良のくせに勉強教えるの上手いな!先生向いてるんじゃないか!?」
大輝がペンを耳にかけながら言った。
「嫌だよ。俺は不良の更生物語が死ぬほど嫌いなんだよ」
そこですかさず煉獄が
「いやいや真。それは不良が嫌いな人が言うセリフだよ」
とツッコミを入れる。レストランに笑い声が響く。
また、ある日の放課後。
「良いか、真。俺は最高の警官になる!太陽は最強の消防士に!芯は自衛隊最強の男に!真は最強の先生になれ!」
「いやいや、教員は恵子がなるだろ」
真田はそう言うと、すかさず堀田が
「私は細々とやりたいからパスよ」
「だとよ、真!約束だからな!」
大輝はそう言うと、教室を後にした。
その後、五人は別々の道へと歩んでいった。
神楽大輝、一九九九年に起きた第二次恩寵戦争やその後に起きた大震災で、甚大なる活躍をする。その功績を称えられ、十九歳という異例の若さで零課に所属。その後、数々の伝説を残し、警察官史上最強の男として、銅像が残った。
そして二十一歳で、幼馴染の景子と結婚し、その翌年には男の子と女の子の双子が誕生していた。四人家族で順風満帆な家庭だったはずだった。あの日が来るまでは。
二〇〇八年。
大輝はいつものように夜間に、相棒の武田器一と共に、人災者の取り締まりをしていた。そんなとき、武田からある噂を聞いたのだった。
「え?軍艦島で人体実験?」
唐突な発言に、思わず大輝は反芻した。
「ああ。俺も詳しく知らないんだが、どうやら、政府も黙認しているらしいんだ。……“神の誤ち”って知ってるか?政府はどうやらそれを実現しようとしているそうなんだ」
「行くぞ」
大輝はその一言だけ言った。
「お前ならそう言うと思ってたさ。“武器人間”武田。どこまでも着いていくさ」
武田はそう言うと、大輝の後を追った。
大輝が家に帰る時刻は、いつも深夜を回っていた。しかし、リビングには明りが付いている。
「先寝てて良いのに」
大輝が上着を脱ぎ、軽くたたんで机の上に置いた。
「いやどうしても聞きたいことがあって。馴れ初めのときに聞いた“あのこと”ってほんとうにするの?私やっぱり恩寵二つ持ちに苦手意識があって、そもそも二つ持ちの人たちは性格が歪んでいるから、心配で……」
「その話は都市伝説だよ。力が強大なら欲も強大になるのは運命だからな。俺だって二つ持ちだけど、性格そんな悪くないだろ?……今度の休み、俺の実家に行こう。そこで詳しく聞こう。俺は家の伝統を引き継ぎたいと思うのと同時に、炎司にとって、足枷になることを危惧してるんだ。出来れば、俺の代でこの謎の恩寵の真意を知り、終えたい」
大輝は静かに扉を開けた。そこには、ぐっすりと寝ている炎司の女の子がいた。
「俺は息子と娘に大変な思いはさせたくない」
「私も同じよ。頑張りましょう」
大輝は静かに扉を閉めたのだった。
後日。神楽家は大輝の実家へ赴いた。実家では、大輝の父親である神楽醍醐が出迎えた。
「よく来たね。景子さんもお久しぶりだね」
醍醐は、居間に案内すると、茶を淹れに向かった。大輝の実家では、醍醐一人しかおらず、少し前に大輝の母親が他界したところだった。
「話ってのはやっぱりあのことかい?」
優しい声で尋ねる。大輝は頷く。
「そうだよなあ。でも、あまり期待しないでくれ。実は儂もあまりよく知らん。ちょっと待っておれ」
醍醐がそう言うと、部屋の奥へ向かって云った。
「ねえ、大輝。やっぱり無駄足かもよ。何も知らないって」
「まあまあ、景子って零課についてどこまで知ってたっけ?」
「ん?まあ、基礎的な情報は……」
大輝はそれを聞くと、優しく微笑んだ。
「じゃあ、大丈夫そうだ」
醍醐がやって来ると、古い写真入れのようなものを出してきた。
「これが情報になるか分からないが儂の両親や先祖の写真じゃ」
景子は渡された写真入れを開くと、そこには、色褪せた写真が大量に見えた。そこには、大輝の赤子のときの写真もあった。
「か、可愛い」
景子が思わず口から出すと、醍醐が
「そうだねえ!!景子さんも可愛いと思うよな!儂の赤毛を継いで綺麗な赤髪の子が生まれて、当時は本当に嬉しかったなあ……」
「今はそれじゃなくて……」
大輝は次のページを見るように促した。次のページでは、醍醐の若かりし頃の写真があった。
「へえ、醍醐さん。警官だったんですね。知らなかった」
「そうだね。この子はあまり親の職業を話すような子じゃないからねえ」
醍醐は思い出すように話している。
「次のページがね、多分、儂のお父の写真かな?儂のお父は、零課の初代構成員なんよね」
「え?そうなんですか!?」
景子は初耳な発言に耳を疑った。
「あれ?大輝から聞いてなった?儂らは代々零課だったんやよ。特に儂のおじいさんの大和丸って人は、相当強かったって噂だよお。やっぱり、恩寵が二つ持っていると強いのかね?」
「あの醍醐さん。そのことについてなんですが……」
景子はここに来た経緯を話していく。途中で大輝は何かに気づいたのか写真を食い入るように見ていた。
「そっかあ。でも、さっき言ったように、儂も突然恩寵が二つあるって言われたからねえ。何でなのかは分からないなあ。……でも待っててくれ。ちょっと見て貰いたいもんがあるんね」
そう言うと、醍醐は再び部屋の奥へ向かった。
「大輝。やっぱり無駄足かもね」
大輝は深く考え込んだ様子で、返答をしなかった。
「景子さん。これだあ。これ見てくれ」
醍醐は景子に一冊の古びた日記を見せた。日記と言っても、何枚もの紙を束ねた物であった。
「『焔放浪記』……?」
「この書物ね、なんと鎌倉時代に書かれたもんなのよ!儂にはあまり理解できんが、景子さんならわかるかも知れん!」
景子はそう言われ、書物を広げた。そこには、掠れた文字で大量に書かれていた。
(この字……。当時の文体じゃ無い?しかも、筆に慣れてない人が書いたような文字?)
景子はその『焔放浪記』を読み始めた。
「この書物は、後世に語り継ぐべき書物である。だが、これを読めるのは、一部の人間に絞りたい。俺は神楽さんという信頼できる人を見つけたので、その人にこの書物を保管してもらう。俺には、終わらさなければならない使命がある。この書物よりも遥かに大事である。使命は、厄介な概念が生んだ歪んだ戦い。止めるには、陰と陽。始まりと終わりの力を合わせなければならない。これを書いた遥か先に起きるであろう戦いの為に、この力は止めてはならない。始まりの力であるこの炎に……。ここでの焔は偽名であるので、本名を述べておく。記 神楽……」
景子は読める箇所の最後の部分を読んだ。
「最後の名前は掠れていて読めないけど、恐らくこれは、大輝や醍醐さんの炎の恩寵について書かれてます」
「やっぱりなあ。この書物は、儂のお父から貰って、大事にしろと念押しされたからなあ」
しかし、この場にいる全員が内容を理解できずに、終わった。
帰りの新幹線にて。
「大輝。貴方さっきから全然喋らないけど、何かあったの?」
「……ごめん。でも、気になることがあって。親父が見せてくれた写真の何枚かに同一人物と思われる人が映っていたんだ」
「まあ、同じ役職だからあり得るんじゃない?」
景子は軽く流したが、大輝は変わらず深刻であった。
「いや、移っていたのは、俺の祖父の若いときと親父の若いときだった。その間は少なくとも二十年開いているはずなのに、容姿が変わっていなかったんだ」
「どういうこと?」
景子も大輝と同じように深刻な表情に変化していく。
「俺は一度見た人の顔は基本、忘れない。あの顔は、間違いなく入江さんだった」
「入江って、イケメン国会議員って有名になったあの入江與ってこと?」
「お前のイケメンに対する執着も凄いな」
大輝が少しおちゃらけると、会話を続けた。
「あの人なら何か知ってるかもしれない。丁度会う予定もあるし」
「会うの?」
景子がそう言うと、大輝は頷いた。
「ああ。軍艦島を視察したいって言ったら、私を通して要請しておくって言われてね」
そして、二〇〇八年十二月。
都心では、雪が降り積もり、人々が溜め息をつく中、大輝ろと武田、入江で軍艦島へ向かった。
軍艦島では、雪は降っておらず、僅かな小雨が降っていた。
「入江さん。これは?」
そこには、ただただ平らな平地が続いていた。
「済まないね。ここで暴れるには少々価値が高いものがあったんでね。“転送”しておいたのさ」
「……全部お見通しってことですね。どこから話せばいいですか?」
大輝がそう言うと、入江は不気味に微笑んだ。
「いや、もう少し私の話に付き合ってくれ。……私はね、この恩寵のお陰で現在の地位が築けていると思うんだ。その逆も然り、この地位のお陰で、より強い恩寵を手に入れることができるんだ。私はこの世にあるありとあらゆる恩寵を知り尽くした。雷や風。地震なんかもね。でもね、一つだけ見つからなかった。それが、火だ。火を操る恩寵はあっても、火になったり火を発したりする恩寵は、日本どこを探しても見つからないんだ!私はより強い恩寵を手に入れたい!だから、君から直接奪うしかないんだよ!」
入江がそう叫ぶと、横から郡谷凍斗が転送された。
「大輝!お前は逃げろ!」
武田が叫んだ。
「相棒を囮に逃げれるかよ!」
「俺がこんな2人に負けるような男だと思ってんのか!?生憎俺には嫁も子どももいない!」
「奴らが狙っているのは、俺だけだ!!」
「どのみちこれを知った俺も消される!だったら、お前のために俺は死ぬぞ!」
大輝は反論できずに俯いた。
「死ぬなよ……」
大輝はそう言って、本島に向かって飛んでいった。
「素晴らしい友情だね」
入江がそう言うと、今まで以上に微笑んだ。
大輝が本島に着くと、先ずは恩師である大道寺政宗に連絡を入れた。そして、自宅に帰った。
「大輝?どうしたの?」
景子に構わず、大輝は炎司を抱きかかえた。大輝は炎司の胸元に手を当て、ありったけの炎を放出させた。炎司は燃え上がるが、衣服は燃えていなかった。
「待って!」
景子が思わず止める。
「景子。ごめん。もうこれしか方法はないんだ。後数時間後には俺を殺しに来る」
「待って!」
景子は大輝の顔を見つめた。大輝が景子を振りほどくと、家のインターホンが鳴った。玄関には大道寺政宗と心田操太朗がいた。
中に入ると、心田が大輝を止めた。
「大道寺さん」
景子がそう言うと、大道寺は景子を落ち着かせた。
「神楽から大体は聞いておる。先ずは落ち着いて……」
「随分余裕そうですね」
大道寺が振り向くと玄関に、そこには血塗れの入江がいた。
「止まれ!」
心田がそう言うと、入江が停止した。
「心田……!いきなり大技を」
「この技は、3分しかもちません。大輝さんに景子さん。覚悟を決めてください」
景子は踏ん切りがついたのか、大輝に歩み寄った。
「もう私たちにはどうにもできない。親失格だけど、炎司に全てを託しましょう」
景子に言われ、大輝も覚悟を決める。再び炎司に炎を送る。
「大道寺先生」
大輝が尋ねた。
「この子たちの未来は明るいでしょうか?」
「……ああ。儂が保証する」
大道寺にそう言われ、大輝は優しく微笑んだ。
「心田さん。お願いがあります」
大輝はゆっくりと口を開く。
「奴に、入江に炎司を危険に晒したくない。……彼の記憶から炎司の記憶を消すことは可能でしょうか?」
心田は少し考え、口を開いた。
「可能だけど、完全には無理だね。その人単体の記憶を消すのに、関わる人間の記憶も消去しなくてはならないからね。それは流石に僕自身も辛い。だから、奴には一時的に炎司君の記憶に靄を掛ける。これで二十年弱は大丈夫だと思うよ」
それを聞いた大輝は安堵した様子で炎司を見つめる。その後、炎司を景子に預けた。炎司は起きていた。
「パパ?」
炎司は可愛げな表情で大輝を見つめた。
「ごめんな。炎司。父親らしいこと全然できなくて。本当に身勝手でごめんな。もう一生会えないかもしれないけど、妹を守ってやってくれ」
大輝はそう言うと、炎司の頭を優しく撫でた。炎司は訳も分からない様子だったが、父親の手の温もりに笑顔になった。
「大輝君。もうそろそろ彼が動き出す。どうするんだい?」
心田がそう尋ねると、大輝は涙を堪えながら言った。
「俺にはまだ残り火があります。これで奴と最期の戦いをします。大道寺先生。心田さん。景子と子どもたちをお願いします。元気でな、景子。炎司。夢葉」
大輝はそう言うと、入江を抱え、軍艦島へ飛んでいった。
その後、入江や郡谷によって斃され、軍艦島で実験中の不慮の事故として処理された。そして、入江の手は景子にまで降りかかった。それに気づいた大道寺と心田だったが、抵抗虚しく、郡谷によって景子も殺されてしまう。だが、それを予測していた景子は炎司を大道寺に、夢葉を妹である憾咲静香にお願いしたのだった。その際に、神楽夢葉は憾咲夢に改名されて、現在は零課所属の高校生となった。
奇しくも離れ離れとなった兄妹は、再び邂逅することとなったのであった。




