36 新論理
このストーリーはフィクションです。登場する人物や団体と関係はありません。又、一部性的な描写がございますのでご注意ください。そして、この作品は日本の歴史や神話を基にした構成があり、一部の方々に怒られそうな内容が記載される場合がございますので、先に謝ります。申し訳ありません。
海人は夢から別れた後、夢と協同作業して発明した薬を持って走っていた。数日前のことだった。
「それにしても、その注射器。一体何なんだ?」
夢がそう言うと、海人が紙切れを見せた。
「……これって、あの子のための!?」
「炎司と鳶鷹のお願いなんだ。あいつらのお願いは叶えてやりたい」
海人は視線を戻し、微笑んでいた。
「僕の恩寵は“本棚”。記憶したものを記録することができるだけの恩寵。でも彼らはそんな僕を拾ってくれた」
「……私にとってのボスみたいね」
「君にとっては辛い戦いになるよ」
「大丈夫。もう覚悟は決めてる」
(この薬は植物状態からの完全な回復。それに、副作用で“恩寵と膂力”が十倍。大きく出たね。でも、流石だよ、憾咲さん)
海人は病院に着くと、急ぎ足で中に入っていった。草木花の病室には、彼女の両親と彼女の兄である茂がベッドに身を任せ、寝ていた。茂は起きていた。
「……どちら様ですか?」
「怪しいものではないです!」
海人がそう言うと、茂は重い足取りで立ち上がった。
「海人だよな?久しぶりだな。でもどうしてここに?」
茂は妙に落ち着いていた。手にはなにやら書類を握っていた。
「花さんを助けに来ました」
海人がそう言うと、茂は驚いた様子で海人に歩み寄った。
「本当なのか!?」
海人は頷いた。すると、おもむろに懐から一つの注射器を取り出した。
「この薬が貴方の娘さんを助ける希望です」
草木の母は、海人から注射器を受け取り、一縷の望みを持って花の腕に注射器を刺した。その瞬間、花の体が激しく揺れる。音は激しくなり、その音を聞きつけた看護師がやって来た。
「何してるんですか!」
看護師が叫ぶと、草木の母を押さえようとした。草木の母は堪えていた涙を流す。そのときだった。
「……なんだこの香りは?」
海人がそう言うと、茂は何かに気づいたように花を見た。
「この香り、花が好きな香りだ……」
「……お兄ちゃん?」
微かに声が聞こえた。茂は再び花を見た。そこには、目を開けた花がいたのだった。
「花!」
草木の両親が花を強く抱きしめる。
「く、苦しいよ……」
花は苦しそうだったが、嬉しそうであった。看護師は驚き過ぎて、尻餅をついていた。
「貴方たちですよね?私を助けてくれたのは」
花の発言に、海人は頷く。
「夢ちゃんを助けなくちゃ」
花はそう言うと、勢いよく立ち上がった。蒲団から出た花の体は筋骨隆々だった。茂は絶句している。
「待て、花。お前、折れた足、いや、その体がどうした!」
花はハッとしたように、自身を見た。
「私、その薬を投与されて感じたんだけど、中から力が溢れてくるの。だからお願い!私を夢ちゃんの所に行かせて!お願い!」
「でも……」
両親は未だに渋っている。そのとき、茂は両親を説得した。茂の説得を聞いた両親は目を見合わせ、静かに頷いた。
「花。これだけは約束して。もう私たちの傍からいなくならないで。良い?」
花はそう言われると、嬉しそうに頷いた。
「花!?どうしてここに?」
夢は驚きと同時に泣きそうであった。
「説明は後で!それよりも奴を止めましょう!」
花の背後から大量の花びらが舞う。花びらは入江を導いた。
「何だ?そのちんけな攻撃は!?まるで私を誘っているのかのようだな」
入江は花びらの中を通り抜ける。
「だってそうだもーん」
花はそう言うと、入江に綺麗なアッパーを喰らわした。入江は吹き飛ばされる。
(何だこいつ!?女子の、いや、成人男性よりも遥かに力強い!)
入江の口が血だらけになる。
「私の“強固”をもってしてもこれ程のダメージ。素晴らしい力だ」
入江は口を完全に治し、不気味に微笑んだ。
「やっぱり“再生”は持っているんだね」
花がそう言うと、夢は花の発言に疑問を抱いた。
「花。貴方のその情報収集は一体どこから?」
夢がそう言うと、花は耳元を指差した。そこには小型のインカムが見えた。
「ここから水柱さんが逐一情報を言ってくれるの」
「そのインカム、特殊な電波なようだね。私の“電波”対策もしているとは、かなり用意周到だね」
「夢ちゃん。奴は、恩寵は十個までってなってるけど、おそらく上限はない」
「でしょうね。でも大丈夫。今の私なら大丈夫!」
夢はそう言うと、落ちていた拳銃を拾った。
「半径十メートルの恩寵は発動しない」
夢はそう呟いた。入江は不思議な感覚に襲われる。
「なにをほざいている?今すぐ殺してやる」
入江は手を翳すが、恩寵が発動しない。次の瞬間、花の拳が入江を襲う。入江は盛大に吹き飛んだ。
(どういうことだ!?奴の宣言通り恩寵が発動しないぞ?)
「どういうことだっていう表情ね。良いわ、教えてあげる。私の恩寵は覚醒した。その名も“新論理(ニュー=ロジック)”。制限はあるけど、大抵の理を変えることができる」
「な、なんだと……」
夢は再び口を開いた。
「入江與がは動くと心肺が停止する」
入江の動きが止まる。
「そんなことまでできるのか!」
「さあね。確かめたいなら動けば良いじゃないの」
夢は入江を煽る。入江は動くことができない。夢によって戦況が一変した。しかし、そのときだった。夢の肩をレーザー光線が貫いた。夢は苦痛でうずくまった。すかさず花が抱きかかえる。二人は空を見た。そこには白い翼と黒い翼をもつ元神谷堕基サタンがそこにいた。
「神谷先輩……?」
夢がそう呟くと、サタンは不気味に微笑んだ。
「やあ、久しいね」
入江は満面の笑みだった。
「ナイスタイミングだ。……君がいるということは作戦が決行したのだな」
入江がそう言うと、サタンは降り立ち夢たちに手を翳した。
「入江さんを解放して。今の君たちを殺したくないから」
サタンがそう言うと、夢が口を開いた。
「“新論理”は私が気絶しない限り、解除されない」
サタンは溜め息をつくと、闇で夢の首を掴んだ。
「それだけじゃないだろ?そんな強い恩寵、それだけの制限じゃないはずだ」
夢は苦しみながら口を開いた。
「……“新論理”は上限三つ……。それ以降を発動すれば、先に言ったものが解除される」
「もしかして、今三つ目?だったりする?」
「最初の“新論理”は解除しちゃ駄目!解除してしまったら……」
「はあ、残念」
サタンはそう言うと、闇で夢の顔を覆った。花が止めるが、闇がそれを拒んだ。夢は藻掻くがやがて気絶してしまった。その瞬間、入江は体が楽になる感覚に襲われた。
「ありがとう。おかげで助かったよ。元々二つの恩寵が欲しかったが、追加されたな」
入江がそう言うと、花が反芻した。
「欲しい恩寵が三つ?何のこと?」
「まあ、教えてやる。大道寺政宗の“千里眼”に心田操太朗の“テレパシー”。人の脳内にアクセスし、自由に操る」
「最後の一つは……?」
花がそう言うと、入江は言った。
「最後の恩寵は、“聖火”。大道寺炎司の“恩寵”だ。いや、神楽炎司と言うべきかな?」
入江がそう言うと、不気味に微笑んだ。
夢が気絶したのは二十一時ぴったりのことだった。
鳶鷹、百と別れた炎司と大道寺は、国会議事堂の更に奥へと突き進んだ。扉を開けると、そこには、何体ものWKがいた。
「大黒柱、ホワイトキラーだ。見た感じ、最高位ではなさそうだよ」
WKたちは二人を見ると、一斉に襲い掛かって来た。
「炎司、右斜め六十度の体を傾けて、そのまま左足を少し伸ばして」
炎司は言われたままに動いた。すると、突っ込んできたWKの攻撃は当たらず、炎司の左足に別のWKが躓いた。
「ありがとうございます。大黒柱」
「油断は禁物。……いや待て。今回はもう大丈夫そうじゃぞ」
大道寺がそう言うと、更に奥の扉から一人の男性が現れた。
「いやあ、入江に脅されて暫く監禁されていましたが、大輝君から学んだ脱出術が活きましたね!」
男は手首の縄を解きながら、二人に近づいていく。それに気づいたWKたちは、男を取り囲み、一斉に襲い掛かって来た。
「止まれ」
男が中指をこめかみに当てそう言うと、WKは抵抗することなく彼の言葉に従った。
「気絶しろ」
男がそう言うと今度は、ホワイトキラーたちは電源が切れたかのように気絶した。
「大道寺先生、お久しぶりです。卒業以来ですかね、顔を合わすのは」
男がそう言うと、大道寺に深々とお辞儀した。
「大黒柱。誰ですか?この人は」
炎司がそう言うと、大道寺が答えた。
「彼は官房長官の心田君だ」
「初めまして炎司君。僕の名前は、心田操太朗です。大道寺先生は高校時代の担任で……。それより今は総理を止めましょう」
心田がそう言うと、二人を案内した。
「心田さんは、味方ってことで良いんですか?」
炎司がそう尋ねると、心田は頷いた。
「うん。信じてくれって言葉で言うのは簡単だけど、信頼はまだ無理だと思う」
「彼は政府の情報をある程度、漏洩してくれた人じゃ。信用に足ると思うぞ」
大道寺がそう言ったのは、炎司は信頼することにした。
「國崎がいるのは、国会議事堂の中央にある三角屋根の部屋です。昨年突如部屋として改築されて……。そこに総理はいる」
三人は屋上へと続く階段を上っていく。
「先生。炎司君に“あの記憶”のことは全て話しましたか?」
心田の言葉に大道寺は首を横に振った。
「いずれ話すことになりますよ。あれは早い方が良いと思います」
「……分かっておる」
それ以降、二人での会話はなかった。
部屋に着くと、そこには小型発射機を見つめる國崎がいた。
「待ちわびたぞ。政宗」
暫く小型発射機を見つめた後、國崎はゆっくりとこちらを見た。鉄のヘルメットを付けており、顔は疲弊していた。目の下の隈が凄かった。
「お前、何をした……?」
大道寺がそう言うと、國崎は失笑していた。
「新しい恩寵は相性が悪くてな。馴染むまでに少々無理をしてしまった」
「新しい……、恩寵?」
炎司がそう言うと、國崎は手を伸ばした。
「外はまるで戦場だな。あのときを思い出すよ。……少々話をしないか?」
「大黒柱、どうする?」
炎司がそう言うと、大道寺は少し考えた様子の後に、國崎の元へ近寄った。どうやら会話をするようだった。國崎を含めた四人は、屋上にある場違いな机と椅子に座った。
「何か飲むか?ここの緑茶は上手いんだ」
國崎は緑茶を勧めるが、誰一人として反応しなかった。四人が座ると、國崎は口を開いた。
「今思えば、私の計画はあのときからだった。ここまで来るのに、随分と時間を要した。政宗、今更私はお前と戦いたくない。できることならお前を殺したくない。それに私の計画はもう止められない」
國崎がそう言うと、懐から小さなスイッチを取り出した。
「これを押したら、十分後に日本含め近隣の国が焼け野原になる。私の玄孫の笑里が全てを終わらせる。いや、始まると言った方が正しいかな?」
心田は思わず、國崎の胸倉を掴んだ。
「お前はそうやって自分のことばかり考えて!こんなこと誰が望んでいると思うんだ!」
「否!!私の年代は全員思っていると思うぞ?なあ、政宗」
大道寺は何も言えず俯いていた。
「報復は誰も望まない結果をもたらす。それに終わりなどない。それが因果でそれが輪廻だ」
炎司の当然の発言に三人は呆気に取られていた。
「……?一体誰の名言だ?」
國崎がそう言うと、炎司は
「……分からない」
と呟くだけだった。
「兎に角、私を止めたいなら、力ずくで止めてくれ」
國崎はそう言うと、椅子から立ち上がった。
「さあ!恩寵二つ持ちの私を倒してみろ!……そう言えば、貴様も恩寵二つ持ちだよなァ?大道寺炎司」
炎司は何のことだか分からず、首を傾げていた。
「まさか、政宗。まだ言っていなかったのか?」
大道寺は黙っていた。
「沈黙か。ならば私が言ってやろう。大道寺炎司。いや、神楽炎司。お前の幼少期の記憶についてな!」
そう言い、國崎は言葉を続けた。




