35 獣、見据えるは闇夜の月
このストーリーはフィクションです。登場する人物や団体と関係はありません。又、一部性的な描写がございますのでご注意ください。そして、この作品は日本の歴史や神話を基にした構成があり、一部の方々に怒られそうな内容が記載される場合がございますので、先に謝ります。申し訳ありません。
「猫ちゃん!」
獣柱がそう言うと、猫が倒れた。猫には水銀の刃が刺さっていた。
「お前は、獣柱。恩寵は“契約”。数多の動物と契約を行える」
獣柱は、左手から大量の雀を出現させた。
「“左手召喚”」
大量の雀は、郡谷の周りを旋回する。雀の嘴が郡谷を襲う。郡谷は、両手を地面に触れた。その瞬間、郡谷の周りに巨大な水銀の塊が出現した。殆どの雀が死亡したが、数羽が生きており、郡谷の体に傷を付けた。
「回りくどい攻撃をしおって」
郡谷はそう言うと、長刀の形をした水銀を作り出した。郡谷は低い姿勢で獣柱に攻撃を行った。雀が突撃するが、全く攻撃が当たることはなかった。それどころか獣柱が召喚した雀は絶滅した。
(……私の動物たちがもう二種類しかいない!)
獣柱は戦闘を破棄し、扉に向かって走り出す。
(ここでの戦闘は、勝利だけが条件ではないはず!取り敢えず大黒さんの計画が完遂すれば……!)
そのとき、獣柱に一本の細長い水銀が突き刺さった。獣柱は思わず転んだ。
「戦闘で相手に背を向けるとは……。貴様やはり戦闘経験は少ないな……。お前の言いぶりだと、四肢に動物を契約、右手が猫、左手が雀といったところだろう。残るは左足、右足の二種類だろう?」
郡谷は獣柱の元へゆっくりと近づいていく。獣柱は痛みで動くことも喋ることも出来なかった。
「私は貴様に構っている場合ではない。貴様を殺し、総理大臣の元へ向かわなくてはならない。そして、彼の敵を一人残らず抹殺する」
「……大黒さんや炎司は、やらせないよ!」
獣柱がそう言うと、踏ん張り、自身の氷柱を抜いた。郡谷は獣柱にとどめを刺そうと歩み寄ったときだった。郡谷は獣柱の強烈な殺気に思わず距離を取った。
「私が、逃げたのは……、自分が弱いからじゃない……。お前を、殺してしまうかも……、知れないから!」
獣柱は自身の両足に触れた。すると、左足の影から二匹の巨大な狼が現れた。
「貴様!その獣は、まさかニホンオオカミか!?絶滅したはずでは?」
郡谷が呆気に取られていると、狼らは涎を垂らし、低い唸り声を上げている。
「殺したらごめんなさい」
獣柱はそう言い残すと、狼らが郡谷に向かって走り出した。郡谷は刀を構えた。刀を振りかざすと、狼らは華麗に避けた。狼は鋭い爪で郡谷の衣服を傷つけた。郡谷は二匹の狼に苦戦していた。
(人の相手は何度も相手してきたが、絶滅した動物なんて初めてだ!)
郡谷は口角を上げた。
「獣柱。礼を言う、私を再び興奮させてくれてな!」
郡谷の両腕が水銀の刃となった。
「“残鉄・雪景色”」
郡谷は蛙のように飛び跳ねながら、回転していた。目にも止まらない速さで郡谷は狼らを攻撃している。狼らの体は傷だらけである。
(不味い!いくら彼らでも殺されるのはまずい!)
獣柱は、狼らに戻るように伝えるが、そのときには狼らの首は斬り落とされていた。その瞬間、獣柱は膝から崩れ落ちた。
「もう終わりか?これでは足止めにもならんぞ?」
郡谷はそう言うと、獣柱の元に歩み寄り、眼前で腕を振り上げた。そのときだった。郡谷は勢いよく吹き飛んだ。壁に直撃した郡谷は、突然の出来事に把握できていなかった。
「私の恩寵は、契約者と信頼関係が高ければ高いほど、契約者の限界を超える力を発揮する。そして、私の“契約”には二種類ある!一つは、身近に行えて契約者が死ぬと契約が終了する“簡易契約”。もう一つは、お互いを信頼し合って行い、契約者が死ぬと、その同等のダメージが私自身に掛かる“永続契約”。“永続契約”は私が死なない限り持続する!手加減はしない。行っておいで。熊太郎!」
獣柱の前には、先程の二匹の狼と、ツキノワグマがいた。
「……再び殺すまでよ」
ツキノワグマの咆哮と共に、狼らが走り出した。
(次に彼らが死んだら、私も同じく死ぬ!)
狼たちは獣柱の意を汲んだのか、徐々にスピードが増していき、狼たちは落雷のように光りだした。郡谷は対応できずに、狼らの攻撃をまともに喰らった。
(疑似的に雷を表現しているわけではなく、自分自身を雷にしているのか!)
郡谷は受け身を取り、状況を把握しようとした。しかし、そんな隙はなく、今度はツキノワグマの爪が郡谷を襲った。
(重い、爪も硬い!!この熊自身も強化されているのか!)
「良いぞ獣柱!愉しくなってきたぞ!」
郡谷は、両手から自分の分身を三体出現させた。
「この分身は、耐久性こそは劣っているが、私とほぼ同等の力を持っている。正直、この戦いは一人で味わいたかったが、しょうがない」
水銀の分身は一斉に襲い掛かってきた。狼らは雷のように避けた。ツキノワグマは自身の体を金属に変えた。そのお陰で、分身からの攻撃を防いだツキノワグマは、カウンターを仕掛けた。ツキノワグマの爪が、分身の一体を砕いた。水銀が地面に崩れ落ちる。
「なるほどな……。狼の雷化。熊の鉄化。それが強化内容か。とても興味深い恩寵だな。與が欲しがりそうだ」
「もうお終い?」
獣柱がそう言うと、郡谷は不気味に微笑んだ。
「まだだ。俺の“水銀”は“玄武”を纏い“青竜”で更に自在に操ることができる。ここまで俺を本気になったのは久々だ」
郡谷は自身を水銀に完全に変化させた。先ほどまでの攻撃で散っていった水銀も郡谷に収束していく。郡谷は巨大化していく。水銀は龍のようになった。
獣柱は恐ろしいほど冷静であった。横にいた狼を撫でている。
“永続契約”のもう一つの特徴。それは動物たちの攻撃を私自身に上乗せして、放つことができる。
「鉄の固さに重さ、液体のしなやかさ。水銀は最強の矛にも盾にもなるのだよ」
郡谷はそう言うと、龍の腕を巨大な斧に変化させた。
「君のような弱者にしては、愉しめたよ。じゃあ黄泉でまたね」
郡谷がそう言ったときだった。巨大な斧は振り下ろされることはなく、水銀は溶けて辺り一面に広がった。
「なんだ……?この感覚?貴様がやったのか?」
獣柱は微笑んだ。両腕が獣のようになっている。
「“永続契約=愛の獣雷砲”」
「貴様!」
郡谷は崩れ落ちるが、死んではいなかった。“玄武”の攻撃でないと止めはさせない。郡谷は体の穴を塞ぐと、再び襲い掛かろうとした。しかし、郡谷に些細な痛みが生じたときだった。体が解けていく。郡谷が倒れると、自身が水銀に変化できないことに気づく。
「ど、どういうことだ……!」
郡谷は何度も試すが、水銀が現れることはなかった。郡谷はあまりの衝撃に気絶してしまった。
「……ギリギリ射程範囲内と。それにしても、水……、じゃなくて海人君。銃の改造にも長けているとはね」
国会議事堂から数キロ離れたビルの屋上で、夢は呟いた。
「……そうか、試作は成功っと。それでどうだった?僕が改造したリボルバーは」
「うん。完璧と言っても良いわ。いや、それ以上だわ。ハンドガンで、ましてやリボルバーですもの。射程距離を数キロにするのも無理難題だし、ここまで安定しているのは、正直言ってあり得ないわ」
夢がそう褒めすると、インカム越しに海人のにやけ顔が伝わってきた。
「それを言うなら、君のこの弾丸のアイデアも、液体の発想も素晴らしいよ」
海人は、弾丸を見つめながら言っていた。
遡ること約三十分前。
夢は先ほどの論文を熟読していた。
「今戻った。済まない。大黒柱の言うことは基本的に否定したくないんだが、まさか茶番劇が始まるとは思わなかった」
海人はガスマスクを外し、夢の元へ近づいた。
「内容は完全に理解できたかい?」
海人がそう言うと、夢は頷いた。
「この説が本当なら、恩寵を消滅させることは可能だけど、この原子が暴食過ぎて、容器もましてや原子を留めておくことが難しいのね」
夢がそう言うと、海人が頷く。
「ああ。でも、一つ仮説がある。これは私の考えじゃないんだけど……」
海人がそう言うと、一人のホームレスを呼んだ。彼はフードを深く被り、丸サングラスをしていたので、顔は見えなかったが、20代のように夢は感じた。
「初めまして。名無氏と申します。本題に入りますが、この原子、実はある特徴がありまして。ある恩寵には有効なのですよ。その恩寵というのが……」
名無氏が夢を指さした。
「君の恩寵だ」
「え?どういうこと?」
夢が問うと、名無氏が丁寧に答えた。
「君の恩寵はまだ本領の一割程度しか使いこなせていない。君も自覚があるんじゃないかな?」
夢は深く考え込んだ。
「確かに、『徒陰』に関わってから更に迷走してたかも知れないわ」
すると名無氏が夢の額に触れた。
「ここは……?」
「まあ、君の精神世界、と言ったようなものかな?」
名無氏がそう言うと、夢の恩寵が具現化した。正確には分離したような感覚だった。
「君の恩寵は“ハイスペック”か……」
「貴方は何者?」
夢がそう言うと、名無氏は濁しながら口を開いた。
「今は時間がない。君の力の覚醒が重要だ。元来、恩寵は拡張性のあるもの。最大限の可能性のある力を人間が持つリミッターで制御されている。それを解放できれば、百二十パーセントの力が発揮できる」
「百二十パーセント……」
夢は俯いた。
「勿論簡単なことではない。でも君にはポテンシャルがある。君が一番護りたいものを想像するんだ」
夢は目を閉じた。そのとき、炎司の顔が思い浮かび、思わず目を開けた。
「なんで……」
「それが君の答えだ。君は自分でも気づいてるんじゃないかな?君が何者なのか」
名無氏にそう言われ、夢は思いつめた様子だった。そのとき。炎司が倒れている姿が視えた。
「炎司!」
そのとき、夢の“ハイスペック”が光り出す。
「まさか、疑似的な想像で覚醒するとは……。愛だな」
名無氏がそう言うと、夢は倒れるように眠ってしまった。
目が覚めると、夢は立ったままだった。あれからどれくらい時間が経ったのだろう。時計を見ると、十五分経過していた。
「水柱!」
研究室に、情報王が慌てた様子で現れた。
「どうしたんですか?」
「国会議事堂組が悪戦苦闘しており、特に、獣柱の百さんが!」
海人は少し考え、夢に手を向けた。
「少しそのリボルバーを……」
夢は海人にリボルバーを渡した。海人はリボルバーを見回しながら、
「時間がありません。憾咲さんは、ここの近くに国会議事堂を一望できるほどの高さがあるビルがあるので、そこの屋上に向かって下さい。できるだけ急ぎで」
海人にそう言われ、夢は頷き、向かっていった。
そして、現在に至る。
「憾咲さん。外には入江がいます。お気を付けて」
「分かった」
夢はそれだけ言って、通話を切った。暫くすると夢は、国会議事堂の前にいる入江を見つけた。夢は有無も言わずに銃口を向けた。
(このカスタムにはサプレッサーが付いてる。先ず、ばれることはない。この戦いにおいて、一番厄介なのは恐らく入江與。ここで恩寵を殺してしまえば、戦局が一変する!)
夢は引き金を引いた。闇夜に音もなく、特殊な弾丸が一直線に進んだ。しかし、弾丸は入江の指の間で止まった。
(こんな悪あがきは無駄だよ)
夢は脳内に響いた入江の声に身震いし、思わず後退った。そのとき、夢の目の前に謎の液体が溢れてきた。やがて、そこから入江が現れた。
「むむ、やはりこの恩寵は面倒だな。やはり、あのとき場飛から奪っておくように指示しておけば良かったな」
突如として目の前に現れた入江に、夢はリボルバーのカスタムパーツを取り外し、銃口を向けた。
「殺すつもりはないよ。聞きたいことがあるからね」
入江はそう言うと、夢に向かって指を弾いた。すると、リボルバーは夢の手から離れ、飛んでいった。空中にいる入江に成す術がない。すると、入江は夢の前に降り立った。
「『徒陰』の目的は何かな?今の襲撃を見てみて、目的が別な気がするよ」
入江が掌を下に振り落とすと、夢は跪いた。夢はそのままうつ伏せになる。入江は夢の左腕を軽く踏みつけながら、尋問を開始した。
「さっき凍斗の恩寵が使えなくなったのを確認した。どういうこと?」
そう言うと、入江は思い切り夢の左腕を踏んだ。骨が砕ける音と夢の金切り声が響く。夢は口をゆっくりと開いた。
「入江……。貴様は今、吹き飛ぶ」
「何を言って……」
その瞬間、入江が吹き飛ばされる。入江は宙に浮きながら、夢を睨んだ。
「この力、君も“恩寵を二つ”持っているのか……?いやまさかな」
夢はゆっくりと起き上がると、入江を睨んだ。
「私の恩寵は覚醒した。ただそれだけ」
夢は“朱雀”で浮いた。
「君も“神域”を使えるようになったのか。凄い成長速度だ」
夢は拳を構えた。
「君の恩寵は大変興味深い。いたぶってから存分に堪能しよう」
入江の片腕がチェーンソーになると、轟音を立てた。
「待て。君、こんな強い香水付けてたっけ?」
入江が夢の匂いを嗅いだときだった。夢の背後から突如現れた大量の花吹雪が入江を襲った。花吹雪の中から拳が入江を吹き飛ばした。
「何者だ?」
入江がそう言ったときだった。花吹雪の中から一人の女性が現れた。
「私の大切な親友を傷つけないで!」
そこには、草木花がいたのだった。




