31 ハイアンドシーク
このストーリーはフィクションです。登場する人物や団体と関係はありません。又、一部性的な描写がございますのでご注意ください。そして、この作品は日本の歴史や神話を基にした構成があり、一部の方々に怒られそうな内容が記載される場合がございますので、先に謝ります。申し訳ありません。
夢が『徒陰』の本拠地に到着した時刻とほぼ同時刻、夫丈高校では白龍院が仕事を終え、帰宅しようとしていた。
白龍院は徒歩で自宅に向かっていく。人気のない住宅街でのことだった。
「そんな下手なこと、教えたつもりはないぞ」
白龍院は歩みを止め、言い放った。
「……お久しぶりですね。白龍院先生」
そこには、内閣総理大臣補佐の郡谷凍斗と入江與がいた。郡谷は黒いスーツにグラサンと一見すると堅気に見えない。郡谷は白龍院の教え子であった。
「一体何事だ。同窓会ならもっと豪華絢爛な場所で……」
白龍院が冗談を言いかけたときだった。音もなく、弾丸が白龍院の頬を掠った。撃ったのは入江だった。
「貴方ほどの方を殺してしまうのは、非常に残念です」
入江がそう言うと、拳銃を持っていない方の手を向けた。そのとき、白龍院は宙に浮き、体から紫黒い液体が溢れ白龍院の体を覆った。
白龍院が気付くと、そこは廃墟が建ち並ぶ孤島であった。
(ここは……、軍艦島か?)
白龍院は“白虎”で未来を視た。白龍院は地面から飛び出す金属が見えたので、咄嗟に避けた。その瞬間予測通り金属が出現した。
「あー、やはり強いですね、先生」
陰から郡谷が現れる。
「凍斗、成績優秀だったが、人に対しての感情はなく、自己利益のために行動してきた問題児だったな」
白龍院がそう言うと、上着を脱ぎ捨てた。白龍院の体は枝のように細い。
「恩寵のためにその体系ですか。逆に大変そうですね」
郡谷がそう言うと、白龍院は鼻で笑いながら言った。
「もう慣れたわ。それより、入江はどこだ?」
郡谷は上空を指差した。上空には入江が浮いていた。
「ほほう。上手に朱雀を使いこなせるようになったんだな!元気か入江!!」
「馴れ馴れしいですね。……普通ですよ。まあ、今から最悪になると思いますが」
入江はそう言うとそっぽを向いた。白龍院は再び郡谷を見た。
「丁度いい機会だ。久しぶりに再教育といこうかの」
そう言うと、白龍院は構えた。郡谷は四肢に水銀を纏う。
「粘度を更に向上させたな。良いことだ」
郡谷は返事をせずに、水銀の塊を何粒も投げつける。白龍院は“白虎”で避けていく。しかし、あまりの数の多さに、白龍院が態勢を崩した瞬間、郡谷は白龍院の脇腹を抉りかかる。しかし、白龍院に触れた瞬間、郡谷が吹き飛んだ。郡谷は受け身を取りながら言った。
「やはりお強いですね。“反対”ですか」
「違うぞ!“反対”だ!」
白龍院はそう言うと、片腕を巨大化させた。片腕は自身の体よりも数十倍も巨大化している。
「“王撃”!!」
白龍院の放った拳は、郡谷を吹き飛ばした。空高く吹き飛ばされた郡谷は、入江に捕まる。
「大丈夫かい、郡谷」
郡谷は頷いた。入江は地面に静かに降り立った。
「……こっからは二対一でも構いませんか?」
入江がそう言うと、白龍院は微笑んだ。
「良かろう。私もまだ本気出してなしな!」
そう言うと、白龍院は両腕を巨大化させた。入江の片手から強力な風圧が白龍院を襲うが、白龍院は片手でそれを薙ぎ払う。郡谷は周囲に巨大な水銀の塊を発生させ、襲い掛かる。白龍院は片手で防御しながら突進していく。白龍院の拳は、入江を襲ったが、入江は恩寵の中にある“創造”で作り出した巨大な盾で防いだ。
(“空圧”+“大膂力”)
先程よりも強い風圧が白龍院を襲う。白龍院は少しだけ浮いてしまう。その隙を郡谷は見逃さなかった。郡谷の鋭利な水銀が地面から白龍院に襲い掛かる。白龍院は宙で反転し、巨大な手で巨大な水銀を吹き飛ばした。地面に着地した白龍院は、二人を見つめた。
「年を取ると直ぐに息が切れてしまう。……それにこのままでは埒が明かない。君たちを一撃で沈めよう」
そう言うと、白龍院の全身が巨大化していく。入江らは白龍院を見上げる。
「“反対・極”」
六メートル程になった白龍院を見つめ、入江たちは攻撃を仕掛けた。入江は手から空気を押し出した。郡谷は水銀で大剣を作り出し攻撃した。しかし、白龍院にそのような攻撃が効いている様子はなかった。白龍院は掌を天に上げ、勢いよく振り下ろした。
「“王剣”!!」
地面が割れる程の衝撃が入江たちを襲う。入江たちは避けるために左右に避けた。その瞬間を白龍院は見逃さない。白龍院はそのまま右手の人差し指を二人に突き刺した。
「“神槍”」
入江は何とか耐えたが、郡谷は吹き飛んだ。郡谷の体に大きな風穴が空いている。
待て。嫌な予感がする。
白龍院がそう察すると、数メートル先まで吹き飛んだ入江が俯きながら、歩み寄っていた。
「初見でどうなるか想像できませんでしたが……、まさかこれ程までの威力とは。私が今まで攻撃を無暗にしなかった理由、分かりますか?」
入江は掌から眩い光の玉を出す。
「“熱吸収・放出”で許容範囲ギリギリの量を吸収しましたが、まさか想定以上の威力でした。瞬時に“適応”が発動できて幸いだった。難を逃れた私でしたが、難題はまだまだある。そもそもこの力は全てに反するエネルギーを有する。このように留めることができません。そこで私は瞬時に“空圧”と“圧縮”で閉じ込めましたが……、それでも私の両腕を吹き飛ばすほどのエネルギーを有していた。幸い腕は“強固”と“再生”を併用して何とかなりましたが。……良かった。サタン君が仲間になってくれて。“柔化”した“光”で包むことで先ほどの数倍の威力を保持することができる」
入江の光の球体は更に巨大化する。
「あ、白龍院さん。私の改造した“探知”で貴方の弱点が分かります。……もう先ほどの力は暫く出せませんね?」
入江が言う通り、極には弱点が存在する。解除をしてしまうと、十秒だけ恩寵が使用できなくなってしまうのだ。
「安心してください。貴方の恩寵は私が有意義に使うので」
気づいたときには白龍院の右半身はなくなっていた。更に白龍院の背後の建物が数十メートル先まで吹き飛んでいた。白龍院は朧気の意識の中、入江に触れられた感触を感じた。しかし、そのときだった。入江はもがき苦しんだ。
「……何をした……!白龍院!」
白龍院は朧気な意識の中、微かに微笑んだ。
入江の体内、いや、精神世界では白龍院が暴れていた。
「なぜ、この中で動ける!?」
入江がそう言うと、白龍院は暴れながら言い放った。
「恩寵は因子の一つのようだな!私の友人が確信してたぞ!当時は、今まで取り込まれた例はない言っていたが。まあ、恩寵の中でもある程度自我は刻まれるのだろ?だったら、お前に則られる前に暴れてやるぞ!」
白龍院は極で入江に貯蔵されている恩寵を貪っていく。
「お主、何が恩寵貯蔵は十個が限度じゃ。数百あるじゃないか」
「貴様を早急に乗っ取る!」
しかし、白龍院に触れることはできず、弾かれてしまう。
「極は簡単に触れんぞ」
(クソッ!こうなったら、郡谷に一時的に譲渡して……)
「甘いぞ」
白龍院は優雅に微笑んだ。
「これほど、お主の体に拒絶したんだ。使うどころか、もう直ぐで消滅してしまうぞ」
入江は地面を這いずりながら、郡谷に近づき触れた。しかし、“反対”を与えることはできなかった。
「大丈夫か、入江」
郡谷は心配した様子で、入江の手を取る。
「クソが!あのクソジジイめ!!“反対”はおろか、数十の恩寵を失った!これではZ様に……」
「Z様?」
郡谷が反芻すると、入江ははっとする。
「い、いや、何でもない。取り敢えず総理の元へ戻るぞ」
彼らはそう言うと、“ワープ”でその場を去った。
白龍院の死亡は、誰にも見られてないと思っていたが、目撃者はいた。
「まさか、彼らが校長を殺すなんて……」
「儂はかねてより嬰児に忠告しておったんじゃがの……。寧ろそれを証拠にしろと、カメラの設置まで提案してきたんじゃ」
「大黒柱殿の恩寵は“千里眼”ですよね?白龍院校長の死も回避できたのでは……」
「そこまで便利だったら良いんじゃがな」
「と言いますと……?」
「“千里眼”が未来を視える能力であるのは間違いない。ただ“白虎”と違い、それを回避する術はない。それに儂に関わる人物しか視ることはできん。嬰児は特別仲の良かった男だから何とか視れたものの、本来他人を視ることは難しいのじゃ。それに……、人の死を視るのは……辛い……」
大道寺がそう言うと、眼に浮かんだ涙を拭った。そのとき、奥から長い青髪の男が現れた。ガスマスクをしていないが、明らかに水柱だった。水柱は夢に一瞥する。
「どうした、海人」
大道寺がそう言うと、夢にも見せるように一束の論文を見せてきた。
「ないこれ……?」
夢はそう言いながら、パラパラと書類に目を通す。
「これは僕の友人だった蓮人が残してくれたハッキングソフトで、政府にハッキングしたときのデータだ。ここに書かれてある通り、新しい元素が発見されている。あまりにも発見されずに噂だけが独り歩きした元素……。それが元素番号105となる通称“ヴィウラン”。性質はウランに近いが、核分裂による熱は、ウランよりも数十倍大きい。更に、核融合の際に酸素と化合し、それで半径数万キロのウランに反応し、そのウランを核分裂させる」
「待って!こんな元素いかれてる。こんな凶悪な元素今まで見つかっていないのはおかしいわ」
「 “恩寵混合深化”……。オヤジの論文を読んだことはあるかい?」
海人がそう言うと、夢は首を振った。
「でも、 “恩寵混合深化”は知ってる。恩寵を持つ人同士が結婚して生まれた子ども親世代よりも複雑な恩寵を所有するって」
「そう。それの第一人者はオヤジなんだよね。それで、突然変異もあるけど、僕たちよりも若い世代で新しい元素を含む恩寵を持つ子ども増えているんだ」
「まさか……。この元素、恩寵なの?」
海人は頷く。
「その仮説は正しいと思う。この論文の作者は國咲敏正だ。つまり、彼の身内の誰かこの恩寵を所有している可能性がある。心当たりは?」
海人がそう言うと、夢は口を開いた。
「もしかして、笑里ちゃん……?総理の玄孫よ。まだ幼いから恩寵が発現してなかったと思うけど……」
「不味いな。それだと國崎の計画が成功してしまうということになる」
「……ちょっと待って。総理の計画って何?」
そこで、大黒柱は口を開いた。
「彼の計画については、儂との出会いから話さなければならん。良いかな?」
海人は頷き、自席についた。
「ささ、少し長くなるが、気長に聞いてくれ……。
恩寵の始まりは、第二次世界大戦の核爆弾が原因とされているのは、歴史の授業で学んだのではないかな。儂と國崎敏正は幼馴染でな。子どもの頃はよく遊んだものだ。敏正には妹がおってな。幼子だった儂たちは戦争には行かず、貧しい暮らしの中、何とか生き抜いていたんじゃ。そんなある日。、日本に核爆弾が落ちたんじゃ。儂たちは爆心地から離れていたから、命には別状はなかったが、その女の子は持病で弱っていて、それが原因で死んでしまったんじゃ。そこから奴は変わってしまった。奴は今でも報復を望んでいる。敏正とは中学までは一緒だったが、高校は別々、しかし、大学は偶然にも同じだった。奴は科学者を目指していたのだった」
大黒柱は、彼との再会を思い出していた。




