26 インターン 五十嵐衂漉編
このストーリーはフィクションです。登場する人物や団体と関係はありません。又、一部性的な描写がございますのでご注意ください。そして、この作品は日本の歴史や神話を基にした構成があり、一部の方々に怒られそうな内容が記載される場合がございますので、先に謝ります。申し訳ありません。
このような悲惨な事件は、警察ナンバーワンの五十嵐の元でも行われようとしていた。
五十嵐の元にインターンとして訪れたのは、夢、悟空、茂の三名。その内、事情を知っているのは、茂と夢であった。夢は事前に茂から聞いており、疑うことなく茂のことを信じたのだった。また、同業者である悟空にも夢が伝えており、茂は把握していないが、この場にいる全員がこれから起きるであろうことを把握していた。
「初めましての人は、初めまして。私の名前は知っていると思うが、警視総監の五十嵐衂漉だ。これから5日間。私の元で警察についての何たるかを教えるので、今後に活かせるようにしっかりと記憶するように」
しかし、三人に覇気がない。
「ん?どうしたんだ?」
五十嵐は、三人を見渡しながら問い掛けた。その中で、悟空が口を開いた。
「警視総監。貴方の命が狙われてます。昨晩、夢から聞きました。どうやら、草木もこのことを知っているようで、この際、私たちの正体もはっきりさせましょう。この場にいる人物で、私たちの正体を知らないのは、彼だけですから」
「ど、どういうことだ?國咲」
悟空は、一呼吸ついてから会話を続けた。
「私の正体は、夢と同じ零課だ。今まで黙っていて悪い」
茂は、数秒間沈黙した。茂は自分自身が納得するように口を開いた。
「うん。それなら納得する点が幾つもあるんだ。君の戦闘のセンスが良すぎるのも。出身中学が夢と違うのに、妙に仲が良さそうなのも。そういうことだったんだな。でも、どうして?」
「昨日の夜。夢に聞かされたんだ。今回起きるであろう事件の内容と、草木茂に嘘をつくのは止めようって」
茂は突然現れた自分の名前に軽く混乱した。
「俺に嘘を?」
「ああ。どうやら君に嘘をついても見抜かれるらしい」
悟空はそう言うと、今までに見せたことのない柔らかい笑顔を見せた。
「君に淡い恋慕を抱いているんだろうな!ぐふふ」
悟空の変わりように、少し引きながらも茂は本筋の話をしようとした。
「警視総監。今から大量の恩寵を所持したホワイトキラーとかいう奴が、襲いに来ます。俺たちだけじゃ貴方を守り切れない」
「ああ、知ってるさ」
五十嵐は、事情を説明するために、警視庁の中へと移動した。
「やっぱり、上層部からの忠告があったわけですね」
夢がそう言うと、五十嵐は頷いた。
「全く何が、捕縛し尋問せよ。だ。そんな強敵、生け捕りなんかできるわけないってのに。だが、複数恩寵を所持か……。以前にもそんな人災者がいたもんだ」
五十嵐は思い出したかのように、話し始めた。
「あれは、二年前だから2016年か。東京都の秩父で起きた秩父大人災事件。恩寵を複数持った巨大な人災者が暴れた事件だ。私はそのときの功績で今の地位が築けたが、失ったものを多かった」
「そのときの、人災者はどうしたんですか?」
茂が問い掛けると、五十嵐は首を横に振った。
「残念だが、逃げられた。あのとき、神楽がいればな」
五十嵐のぼそっと言った発言に、夢は異常に反応した。
「神楽って、神楽大輝のことですか!?」
「ああ」
茂はその様子を見て、質問をした。
「神楽大輝って誰ですか……?」
「ああ。彼はな……」
五十嵐がそう言いかけたとき、夢は遮るように話を始めた。
「彼は、警察界の伝説よ!!とある人災者の女性誘拐集団の事件があって、その人災者の集団は強すぎた上に、人質が百人といたの。警察は何人かかっても何年も逮捕できなかったの。それをたった一人で、僅か五分弱でその場に居合わせた人質百人を無事に救出したとされるの!その功績を称えて、エントランスの真ん中に大きな銅像があるの!!茂もさっき見たでしょ!?」
押され気味の茂は、圧に負けて何度も頷いた。
「夢は、神楽大輝の大ファンだもんな!!」
悟空がそう言うと、夢は見るからに照れていた。
「兎に角、彼の強さは異常だったんだ。それに人格、判断力、冷静さ。“神域”においても彼は完璧だった。本来であれば彼が警視総監になるべきだったんだが」
「確かに。それ程まで完璧だった人が何故警視総監にならなかったんですか?」
茂は五十嵐に問い掛けた。
「私も詳しく知らないんだが、何か他にやるべきことがあるとかなんとか。まあ、いなくなった人の考えは、今となってはもう誰にも分からない。今日はもうお開きにしよう」
五十嵐に言われ、三人は警視庁の近くのホテルに泊まった。
二日後。
三人は、五十嵐の勧めで警視庁の地下にある訓練場で、射撃訓練を行っていた。茂以外の夢や悟空は、射撃センスがとても高かった。
同時刻。夢たちの元に、一人の警官が現れた。その警官は五十嵐に敬礼をすると、何も言わずに立ち尽くしていた。すると、警官は不気味に微笑み、顔が大きく腫れていく。
「逃げろ!!」
五十嵐が叫んだ。次の瞬間、警官は爆発した。それにいち早く気付いた茂は、その警官を蔓で何重にも囲んだ。蔓の中で鉄と生臭い臭いが充満した。
「な、何なんだ……。今のは一体」
「警視総監。ここは危険です!直ぐに安全な場所に!」
悟空がそう言うと、五十嵐を安全な場所に移動させようとした。しかし、そのときだった。音も立てずに縫い針のような針が、五十嵐の右目を襲った。五十嵐の右目から血が噴き出した。
「警視総監!!なんだ今の攻撃は!?」
悟空はどこからともなくやって来た針に全神経を集中させた。それは、訓練場の出入り口から来たようだった。そして、その入り口に、肌の白い細身の男が立っていた。目元にはサングラスをしていて、表情は詳しくは分からなかった。
「な、何者だ!貴様!!」
悟空がそう言うと、その男は五十嵐を指さして言った。
「俺様ハ、ソノ男を殺シニ来タ。ホワイト=スラッシュト呼バレテイル。ソノ男ヲサシダセバ、ソノ子ドモノ命ハ容赦シテヤル」
そう言うと、ホワイト=スラッシュは、五十嵐を舐め回すように見ていた。
「そんなこと絶対しないわ!警視総監は殺させない!!」
夢はそう言うと、近くにあった拳銃を構えた。ホワイト=スラッシュは、両腕を巨大な鎌に変え、不気味に笑った。
「警視総監。奴をどうします?これでは、生け捕りは難しいと思いますが……?」
五十嵐は止血しながら、言った。
「すまないが、ホワイトキラー相手だと、相手を拘束することは出来ない。どうやら奴らには血が流れていない」
「やっぱり。じゃあ、茂。悟空。ここでは私たちで奴を完封させる!」
「了解」
悟空はそう言うと、拳を構えた。
「茂は警視総監をお守りしながら、お願い!」
「分かった」
茂はそう言うと、五十嵐の周囲に数本の蔓を用意した。ホワイト=スラッシュは腕を蛇のように動かしながら、襲い掛かった。夢は奴の攻撃を計算し避けた。悟空は鎌を避け、伸びた腕を掴んだ。そのまま放り投げようとしたが、悟空の掴んだ所から棘が伸びた。思わず悟空はその手を放してしまい、鎌は悟空の腕を掠った。悟空は受け身を取りながら、態勢を立て直した。そのとき、複数人の警官が応援にやって来た。それに気づいたホワイト=スラッシュは、その警官に向かって、手を伸ばした。すると警官は、構えていた拳銃を降ろした。そして、五十嵐に向かって、目を見開き、口が裂ける程大きく笑顔になった。その警官は、五十嵐に向かって襲い掛かって来た。飛び掛かった瞬間、先程の警官のように顔がブクブクと膨らんできた。茂は蔓で、その警官を突き放した。突き放したのと同時にその警官は爆発した。
「やはり、お前の仕業だったのか……!!」
五十嵐はそう言うと、自身の血から形成した槍型の武器で攻撃した。ホワイト=スラッシュは、鎌で五十嵐の攻撃を防いだ。
「人ノ血飛沫ガ舞ウ光景。見テルダケデ我ガ身ガ心躍ル」
ホワイト=スラッシュは、全身から無数の棘を放出する。夢は棘を一本ずつ狙撃していくが、数が多く対処しきれなかった。夢は白虎で避けていくが、何せ音がないので、白虎では感じ取ることができなかった。何本かの棘が夢に突き刺さる。
(駄目だ!今の私では奴に勝てない!)
「夢!君にはまだ伸びしろがある!良いか、“神域”には、覚醒というステージが存在する!!君ならできる!!」
五十嵐はそう叫ぶと、自身の両手を見た。
「私にも鬼切があれば、奴に対抗できるのに……」
(私だって、相棒のイーグルとタイガーがあれば、こんな苦戦はしないわよ!)
夢がそう思ったときだった。
「警視総監がそう言うと思って、持ってきておきましたよ!……夢!お前の武器も持ってきた!!存分に使え!!」
悟空はそう言うと、自身の背後にあったアタッシュケースを開けた。そこには、重厚な輝きを放っている回転拳銃が、二丁あった。悟空はその拳銃を夢に向かって投げつけた。夢はそれを空中でキャッチした。
(弾は補充されている。手入れも完璧!よし!これなら大丈夫!!)
下では、止血の終えた五十嵐が二つの剣を手に取り、ホワイト=スラッシュに剣先を向けていた。
「第二試合ト行コウカ」
ホワイト=スラッシュがそう言うと、再び棘を放出した。
「良いか?“神域”の覚醒は、“神域”を鍛えぬいた人間にのみ扱うことができるんだ。私が手本を見せてやる!」
五十嵐がそう言うと、ホワイト=スラッシュに向かって、走っていった。五十嵐は棘を華麗に避けていく。
「“鬼々・纏々《てんてん》”」
五十嵐の体から放出された血が五十嵐の全身を纏い、鬼のような形に変容し、まるで戦国武将の鎧のようになった。
「これは、青龍の覚醒だ。掴んだ液体の形質を変化させることができるんだ」
すると、五十嵐の鎧が黒光りし、重厚な印象となった。
「覚醒した青龍の性質変化は、この世界でトップクラスの硬さとなる」
そう言うと、五十嵐は回転切りでホワイト=スラッシュの片腕を切り落とした。ホワイト=スラッシュは痛みに金切り声を発した。その声に反応したかのように、続々と警官が現れた。
「これ以上部下を傷つけるな!!」
五十嵐がそう言うと、剣を収め、拳を構えた。すると、現れた警官たちは口から血を吐き出した。その血は警官たちを拘束した。
「俺様ガ警官タチヲココニ呼ンダノハ、オ前ヲ殺スタメデハナイ」
ホワイト=スラッシュがそう言うと、不気味に微笑んだ。すると、警官たちが次々と爆発していく。
「止めろおおぉぉぉ!!!」
五十嵐は叫び、崩れ落ちた。ホワイト=スラッシュは高々と笑う。夢はあまりの怒りに、拳を握りしめ、拳銃のヒビが入った。
「貴方は許さない」
夢の目は充血し、こめかみには血管が浮かび上がる。そのとき、ホワイト=スラッシュは小刻みに震えていた。
「ナ、何ダ……?」
夢が目を見開いたときに、夢の周囲に何かが発せられたことを感じた。
「……やはり夢は持っていたのだな。“麒麟”を」
五十嵐は、誰にも聞こえない声量で言い放った。夢は拳銃をホワイト=スラッシュに向けた。夢が放った弾丸は、綺麗な弾道を描いた。弾丸は回転しながら、黒く変色した。黒色の弾丸は、ホワイト=スラッシュの眉間を貫いたのだった。ホワイト=スラッシュは吹き飛ばされながら倒れた。夢は拳銃を降ろし、五十嵐の方を見たときだった。夢の背中から大量の血しぶきが舞った。夢はそのまま倒れた。そこには別のホワイトキラーが立っていた。ホワイトキラーが鎌を振り上げた。五十嵐は覚醒した朱雀で一気に間合いを詰めたが、間に合わないと感じた。
(クソ!ここでも私は、大切な人を失うというのか!!)
そのときだった。ホワイトキラーが振り下ろした鎌は、何もない地面に振り下ろされていた。そして、五十嵐はすぐに気付いた。五十嵐と、ホワイトキラーの位置が入れ替わっていることに。
「んもう!!なんでこういうときに限って、巡回してないんですか!!巡回経路探したのにいなかったから、遅くなったじゃないですか!!!」
そこには、ピエロのような格好をした操園がいた。
「操園君!!」
五十嵐が叫ぶと、操園が夢の元へ向かっていった。同じように悟空と茂も駆け寄った。
「この血の量は不味いな。すぐに堀田先生の元に向かってください!!」
「でも奴らは、強力ですよ。一人ではどうにも……」
茂がそう言うと、操園は落ち着いた様子で言った。
「大丈夫。僕、強いですから。僕なら完封できますから。ですからすぐに!」
五十嵐は数秒間沈黙し、静かに頷いた。
「私も残ります」
悟空がそう言うと、操園は了解したのだった。
「茂、夢を頼んだ」
悟空はそう言うと、五十嵐たちに背を向けた。五十嵐と茂は、夢を抱えて訓練場を後にした。
「さあ、始めようか」
操園はそう言うと、シルクハットを被り直した。
その後、三人の助太刀によって僅か数分程度で完封したのだった。通報を受けた警官により、最高位のホワイトキラーたちは捕まった。各界隈のナンバーワンたちは大きな怪我をしたが、命に別状はなかった。煉獄は全身に大火傷に加えて、左腕の粉砕骨折を負い、煉獄の左目や口元の傷が残った。煉獄大炎天隊も同様な被害に遭い、重傷者が多数いた。 三上は左腕と左足(腿の半分から先)を失った。五十嵐は、右目に傷を負った。
彼らが助かったのは、夫丈高校の堀田恵子の存在が大きかった。彼女の存在もあったが、それ以前に“夫丈の賢者たち”の存在も大きかった。
この事件によって、態勢が大きく崩れ、各部門のナンバーワンは交代せざるを得なかった。消防士ランキングでは二位だった寒田白ノ助が一位となり、自衛隊ランキングでは同様に二位だったトムクス・ジェスターが一位となった。警察ランキングでは五十嵐が引退したため、五十嵐の推薦で、復活したばかりの猫田将犬が警視総監となった。




