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-Re:ika-警視庁 恩寵刑事部 特殊捜査課 通称 「零課」  作者: 灯火 由夢葉
第一幕 第二章 夫丈高校二学期
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17 冷酷な鬼才

 このストーリーはフィクションです。登場する人物や団体と関係はありません。又、一部性的な描写がございますのでご注意ください。そして、この作品は日本の歴史や神話を基にした構成があり、一部の方々に怒られそうな内容が記載される場合がございますので、先に謝ります。申し訳ありません。

 「聖戦」を終えた一年生は、休む間もなく勉学に勤しんでいた。そんなある日のことだった。

 「今年度は校長先生の意向で、本来であれば二年次に行われた仮免取得を、前倒しして行うことになりました。ですので、今回は仮免に向けた演習を行いたいと思います」

 真田はそう言うと、体育館へ向かうように促した。生徒たちはジャージに着替えて体育館と向かった。


 体育館には、真田の他に何人かの教員がいた。その中に2-Bの担任である鳴上(なるかみ)()(わし)は、入念に準備体操をしていた。

「皆さんご存知かと思われますが、この鳴上先生は、“神域”の専門家でもあります。彼がこの学校で一番“神域”の教え方が上手だと思いますよ」

 真田がそう言うと、鳴上は照れた様子で口を開いた。

 「真田先輩にそう言って貰えて光栄ですわ。……真田先生が紹介した鳴上ですわ。今日は仮免取得に必須ともいえる“神域”の習得を皆にしてもらいます。まあ、既に取得している人もいるそうですが……」

 鳴上は炎司たちを見渡した。

 「鳴上先生、“神域”って何ですか?」

 A組の土田恵がそう言うと、鳴上は答えた。

 「簡単に言えば、人間に備わっている第六感以降の力ですわ。君たちも習ったと思いますが、昔の人類、つまり古代人は背中に鳥のような翼を生やし、水中でも自由に行動できたのです。その名残が“神域”であるという研究もされているんですわ。……話が長くなるんでここまでにしときますが……。“神域”には四種類存在します。皆さんには必要最低限度な“玄武”、“百虎”の取得を目指してもらいます。ただ、“神域”にも得意不得意があるので、そこは要相談ですわ」

 鳴上が言い終えると、真田が補足説明を始めた。

 「“玄武”は体を硬化させる能力、“白虎”は相手の行動を予測できる能力です。いずれも戦闘に重宝される力です。既にこの二つの“神域”を取得している生徒は、練度の向上か新しい“神域”の取得に励んでください」

 そうして、“神域”取得のための特訓が開始されたのだった。


 職員室に戻ってきた真田は、頭を抱えている水田寺に声を掛けた。

 「水田寺先生。お疲れ様です。どうされましたか?」

 真田がそう言うと、水田寺はゆっくりと顔を上げた。

 「今年の仮免試験、前年度とは違い新しい項目になったらしいですよ……。第一試験の筆記は特に変化はないんですけど、実技の方がランキング上位の公務員が出向くそうです。そこで避難訓練まがいのものを……」

 水田寺がそう言うと、真田は深く考え込んだ。

 「それは困りましたね……。今年は只でさえ“帝国のあの一年生”と被るのに」

 「帝国(ていこく)大都(だいと)学院(がくいん)ですか……」

 水田寺がそう言うと、真田は頷いた。

 「ただでさえ(とどろき)(らい)()(かえで)(こが)(らし)の相手が面倒だというのに、それに加えてあの一年生がいるとなると、今回の合格率は低くなりそうですね」

 「そうですねえ。なんたってその場に居合わせた凶悪人災者を何十人も戦闘不能にしたという大事件を持つ学生ですもんね」

 水田寺は当時の記憶を思い出しながら答えた。

 「佃煮(つくだに)漆喰(しっくい)……。関西の化け物高校生として、巷ではもう恐れられていますよ」

 二人は顔を見合わせてほぼ同時に溜め息をしたのだった。


 “神域”習得期間のある日。

 炎司は“神域”と同時に特訓している遠距離攻撃の命中率が上がらないことに悩んでいた。

 「どうしたんです?」

 鳴上が炎司の元へやって来た。

 「実は、遠距離攻撃が欲しいんですけど、なんか上手くいかなくて」

 炎司がそう言うと、鳴上は炎司を見回し答えた。

 「だったら公務鎧を着けてみてはいかかです?」

 「え?仮免なくても公務鎧ってつけていいんですか?」

 炎司がそう言うと、鳴上は答えた。

 「正確には駄目なんだけど、仮免試験では着用が許可されているんだ。でも、本番当日に突然着けても慣れないだろ?だから殆どの学校で事前に着用するのがうちの学校の方針だね」

 炎司はそれを聞いて、考え込んだ。

 「ここでいくら考えても時間の無駄さ。俺から言っておくから放課後、工業科の工房に行ってきな。誰かしらいると思いから。……あ、でも一人だけ。数手(あまて)って子だけは気を付けて」

 鳴上はそう言うと、他の生徒の元へ行ってしまった。


 炎司は放課後、別の棟にある工業科へ向かった。

 「何というか……、無法地帯だな」

 炎司がそう言うのも無理はない。廊下には何かの部品が転がっており、窓硝子がはまっている窓は片手で数える程しかない。更に時々何かの爆発音が聞こえるのだ。炎司は少々気を張りながら工房へ向かった。

 工房は分厚く大きな扉で塞がれていた。炎司は鳴上に言われた通りに扉の横にある玄関子機(インターホン)を押した。数秒後、大きな扉が開くと中から華奢な男の子が出てきた。

 「珍しいね……。こんな所に来客とは」

 彼がそう言うと、炎司を見つけ、駆け寄った。

 「君!公務科だろ!?私分かるんだ!ささ!」

 男はそう言うと、炎司を工房へと引き込んだ。工房の中には数名の工業科の生徒が作業をしていた。奥には()(らく)()の山があった。

 炎司がその様子を見ていると、炎司の体を男が採寸し始めた。炎司が突然の出来事に驚くと、男が口を開いた。

 「君も公務鎧についてここへ来たんだろ?今年は異例の一年も仮免取得で、工業科も忙しいんだよね!」

 ものの数十秒で採寸を終えた男は、我楽多の山へ向かっていった。

 「君、公務科の一年?」

 炎司の横から声がした。そこには2-C組の担任である(にく)丸古太(まるふるた)が作業していた。炎司が頷くと、肉丸は話し始めた。

 「ここは工業科の工房さ。この工房は特に癖の強い連中の集まりさ。数手が言っていたけど、ここの工房の利用者は殆どいないさ。誰に言われてここに来たのさ?」

 肉丸が聞くと、炎司が答えた。

 「鳴上先生ですね。……え、数手?」

 炎司がそう言うと、背後で何かがはめ込まれる音がした。炎司は自分の体を見ると、あらゆるものが付けられていた。

 「ぴったり!まさに運命ですよ!貴方名前は!……いや、先に名乗るのが礼儀でした!私の名前は数手(あまて)襷来(たすく)!宜しく!」

 炎司は顔を引きつらせながら、自己紹介をして握手を交わした。

 「おい数手さ!人間関係は第一印象が大切なんだぞ!初対面の人を実験台にするのは良くないぞ!」

 肉丸がそう言うが、数手は聞く耳を持たなかった。

 「私はな、体育祭で君の動きを見て衝撃を受けたんだ!だからこれは君のために作ったのさ!」

 「いや、頼んでないすけど……」

 炎司がそう言うが、数手は何も聞いていなかった。炎司は自分の体を炎に変えて抜け出すと、数手に事情を話した。

 「だから、このパワードスーツで……!」

 「いやいや、今の俺に必要なのは遠距離攻撃補助と二本の刀剣なんだ!」

 炎司がそう言うと、数手は少し考え込んだ後、再び我楽多の山へ戻っていった。数分後、数手が二種類の武具を持ってきた。

 「君の要望に応えられるのはこれだね」

 数手はそう言うと、二つの内の一つを炎司に見せた。

 「これは籠手なんだけど、甲の部分から放出系の恩寵を放つことができるんだ!放出されるものは線状に放出されるから、遠距離攻撃の補助になるよ!そしてもう一つが……」

 数手は短い刀を取り出した。

 「この刀は形状記憶合金でできていてね、大道寺君、ちょっと火を貸してくれないかい?」

 炎司は手を燃え上がらせた。数手が刀を火にあてると、刀が二倍ほど長く伸びた。

 「凄いだろ!常に火にあてていないと直ぐ収まってしまうけど、君なら常に燃やすことができるだろうし、不便はないと思うよ」

 炎司が二種類の武具を手に取ると、感触を確かめた。

 「……気に入った」

 炎司がそう言うと、数手は少し微笑んだ。

 「だけど、君に向けて作ってないから少し調整が必要なんだ。……待って、私の道具を教室に置いてきてしまった。取りに行って貰っても構わないかい?」

 数手がそう言うと、炎司は渋々了承した。


 炎司が工業科の教室に向かうと、数名の生徒が屯していた。一人の生徒が数手のことについて話し始めた。

 「でもさ、数手って本当に変わってるよな」

 「分かる。アイツさ天才ってだけで周り見下してるよな」

 「あー確かに。なんか自分以外は脇役だぞって感じがなあ……」

 「そんなことないと思いますよ」

 炎司が横やりを入れると、数名の生徒が炎司の方を見た。

 「え、誰?」

 「公務科の大道寺です」

 「ヘえ……、君、数手ちゃんのことどう思ってるん?」

 一人の生徒が炎司にそう聞くと、炎司は答えた。

「彼は本当に尊敬できる人ですよ……。俺のオヤジが言ってたんですよ。“失敗は成功の元、恐れぬ失敗に成功が宿る”って。彼の我楽多……、いや、彼の公務鎧を見れば明らかです。彼は努力をするタイプの天才です。もう少し周りを見てから物事を判別してみてはいかがでしょうか」

 炎司はそう言うと、頼まれたものをそそくさと手に取り、教室を後にした。

 「おおー、数手。急にトイレから帰ってきたんか。……っておい数手!お前!興奮して服脱げとるぞ!」

 数手は肉丸にそう言われ、自身の体を見ると、サラシと下着以外がぬげていることに気づいた。数手の恩寵は“衣類透過”。感情が昂ると衣類が体を透過してしまうというかなり不便な恩寵である。しかし、数手自身、物事にあまり興奮することが中学生以来なく、恩寵に困ったことはなかったのだが、保険をかけて下着とサラシの素材は自身の毛の成分で作られており、数手の恩寵が効かない設計である。数手は作業をする上で、大きな胸が邪魔なため、サラシを巻いている。

 数手の眼から涙が溢れていた。数手はトイレのついでに、炎司の跡を付けていたのだ。炎司の言葉を聞いた数手は何故か泣いていた。数手は性格上、人と関わることが得意ではなかった。そのせいで数手は裏で陰口を言われたり、言葉が強かったりと小さな虐めに遭っていた。数手を肯定する者は少なった。

 数手は腕で涙を拭うと、普段通りの顔に戻った。急いで服を着ると、丁度炎司が戻って来ていた。

 「なあ、これお前の服だろ?どうやって歩いたら、脱げるんだ?」

 炎司がそう言うと、数手の顔を覗き込んだ。数手は炎司を直視できず、額にあるゴーグルで目を覆った。

 「わわ、私は、君のことがもっと知りたい……!こここ今度の休みに付き合ってもらえないか……?」

 数手がそう言うと、炎司は戸惑いながらも了承したのだった。


 週末、炎司と数手は近くにある工務店へ向かった。

 炎司は私服の数手を見て驚いた。

 「おい待て……。お前、女だったのか?」

 炎司がそう言うと、数手は小さく頷いた。数手は工房にいたときのようなタンクトップにつなぎの上を腰に巻いている格好ではなく、布面積の少ない露出の高い服装であった。髪もポニーテールではなく下ろしている。一般男性ならそれだけで落ちるはずなのだが、炎司は数手が女性であるという事実の方に驚き過ぎてしまい、服装に対する思考が追いついていなかった。

 「変かな……?」

 数手がそう言うと、炎司は首を横に振った。

 「変じゃないはずなんだけどな……。俺はお前が女だってことに驚いている……」

 「あれ、言ってなかったっけ?」

 数手がそう言うと、可愛らしく微笑んだ。

 二人は工務店で、炎司の公務鎧の部品の調達を行った。小一時間ほど過ごした二人は近くの店で小食を買い、公園のベンチで座りながら休憩を取ることにした。炎司がベンチに腰掛けると、数手は炎司の真横に密着するように座った。このベンチは三人が余裕で座れるほどの長さなのだが、数手の横に大きな余白を残したアンバランスなベンチは、地面に固定されていなければ傾いて倒れてしまいそうである。

 「近くないか?」

 炎司が飲み物を飲みながら言った。

 「そ、そんなことはないと思うぞ」

 数手がそう言うと、炎司は少し不満そうに視線を外へ向けた。

 「え、炎司」

 数手がそう言うと、炎司が数手の方を見た。

 「ん?」

 「炎司……!名前で呼んでいいのか?」

 「いや、もう呼んでるぞ?」

 炎司がそう言うと、数手は俯いてしまった。顔はさくらんぼのように赤かった。そのとき、数手の額に炎司の手が触れた。思わず数手はベンチの端へ飛び立った。

「わ、悪い。急に触れるのが苦手な人がいるもんな。でも、今日のお前、なんかおかしいぞ」

 炎司がそう言うと、数手は再び炎司の横に座り、話し始めた。

 「炎司は恋人とかいるのか?」

 数手がそう言うと、炎司は首を横に振った。

 「そっか……。じゃあ好きな人はいるのか?」

 「んー……。いない。というか分からない」

 炎司の発言に数手は首を傾げた。

 「どういうこと?」

 「どういうことだろうな……。そうだな。よく言うじゃないか、自分に余裕がないと相手を幸せにできないって。そういうことなのかな。今さ、滅茶苦茶大変な時期なんだよな。だから今は誰とも付き合えない。……逃げてるって言われても否定できないな」

 炎司はそう言って、下手に微笑んだ。数手は首を横に振る。

 「そんなことはない!……はず。だって、人は支え合って生きるものよ。それに……」

 数手は炎司の頬に接吻した。

 「付き合ってから相手を知るのだって遅くはないはず……。今の私がしていいのはここまで。もし炎司、君が私と付き合ってくれるなら、私の全てを知って欲しい」

 数手は柄にもなく炎司に跨った。炎司は思わず目を背けた。数手はそのまま炎司の頭の後ろで手を組んだ。

 「人の眼が気になるなら、ホテルでもどこへでも行けるぞ……!何なら今日は私の家には誰もいないぞ!」

 数手は自分の顔を炎司に近づける。

 「待ってくれ!さっきも言った通り、誰とも付き合う気はない!……それにお前、興奮しすぎて服脱げてるぞ!」

 炎司がそう言うと、数手は自身の体を見た。下着は恩寵由来の素材なため、透過されていないが、それ以外の服装はベンチの下に落ちていた。幸い周りに人はいなかった。炎司は着ている薄手のパーカーを脱ぐと、数手に羽織らせた。

 「取り敢えず、深呼吸して落ち着け。服は俺が拾うからどいてくれ」

 炎司がそう言うと、数手はゆっくりと立ち上がった。炎司が数手の服を拾い上げると、近くのトイレに向かい、数手に服を着せるように促した。数手が服を着て出てくると、炎司は口を開いた。

 「済まねえ。俺の我儘に付き合ってもらってるのは分かってる。でも、せめて一年、一年だけ待っててくれないか?もし一年で気が変わらないなら、もう一度伝えてくれないか?」

 炎司がそう言うと、数手は納得したように頷いた。落ち着いた二人はお互いの帰路を辿るのであった。

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