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-Re:ika-警視庁 恩寵刑事部 特殊捜査課 通称 「零課」  作者: 灯火 由夢葉
第一幕 第一章 夫丈高校一学期
14/74

13 自分らしく

 このストーリーはフィクションです。登場する人物や団体と関係はありません。又、一部性的な描写がございますのでご注意ください。そして、この作品は日本の歴史や神話を基にした構成があり、一部の方々に怒られそうな内容が記載される場合がございますので、先に謝ります。申し訳ありません。

 二学期も始まろうとしている中、寒田冷太は白ノ助の背中を追いかけていた。

 「遅いぞ、無能が……」

 白ノ助がそう言うと、冷太は俯いてしまった。


 寒田白ノ助、言わずと知れた消防士ランキング二位の人物である。彼の恩寵は“(ひょう)(てい)”。その名の如く氷を司る皇帝である。彼の公務員コードは“白鷺(しろさぎ)”であり、その名前を聞くだけで失禁するものも少なくない。


 「お前は家の中では一番の恩寵の完成度を誇るんだから、もう少しちゃんとしてくれよ」

 白ノ助がそう言うと、冷太は小さく返事した。

 「なんだなんだ冷太、また親父に怒られているのか?」

 冷太の横に、兄の雪太(せつた)が現れた。現在雪太は白ノ助の元で働いている。まだランキングにはいないものの、白ノ助の息子ということでかなり注目されている。

 「なァ、お前の冷って、(れい)って意味の冷かよォ」

 雪太はそう言うと、ケラケラと笑った。冷太は今にも圧に押し潰されそうだった。そんなときだった。

 「お、寒田じゃないか!」

 冷太を呼び止めたのは、波場であった。ぴちぴちな公務(こうむ)(がい)(公務員が自衛や防衛のために着用が許可された装備の総称)風な格好をしていた。深い赤色のマントが靡いている。どこかで見たことのある格好な気がしたが、冷太は思い出せずにいた。

 「波場か……。こんなところでなにしている」

 冷太は冷静を保ちながら話しかけた。しかし、波場は神妙な顔で話した。

 「俺はな、人の感情を波として読み取ることができるんだ。寒田、今のお前は負の感情で押し潰されそうだぞ?一体何があった?それに体育祭のときにお前に言ったよな?大丈夫か」

 波場の突然の発言に寒田は思わず後退った。

「お前には関係のないことだろ!」

 そう言うと寒田は白ノ助の背中を追いかけに行ってしまった。波場はもどかしく頭を掻いた。

「そんなところで何してるんだ?」

 波場の頭上で声がした。頭上には甚平を着た鳶鷹がいた。所々に掠り傷などがあるが、本人は気にしていない様子だった。

 「鳶鷹か、いや勝手にパトロールしてるんだよな」

 波場がそう言うと、鳶鷹は訳も分からず話を聞こうと降り立った。

 「なんだよ、勝手にパトロールって」

 鳶鷹がそう言うと、波場は照れくさそうに言った。

 「俺さ、ある自警団(ヴィジランテ)に憧れててさ、この格好もそれのリスペクトなんだ。……カッコイイだろ?」

 波場がそう言うと、鳶鷹は波場の全身を見た。お世辞にも格好良いとは言えなかった。

 「ま、まあな。それより、さっき寒田がいたよな?アイツ、随分扱かれてたな」

 鳶鷹がそう言うと、波場は頷いた。

 「ああ、それ以上にアイツは大分重たいもの抱えてそうなんだよな……」

 「重たいもの?」

 鳶鷹が反芻すると、波場は話を続けた。

 「俺の恩寵の“衝撃波”は、人の感情の波を感じ取ることもできるんだ。感情も喜怒哀楽だけじゃなくて、その人の隠し事も感じ取ってしまうんだ。俺はよく人の隠し事を感じてしまって、人と仲良くできなんだ。寒田には今まで経験したことのないほどの大きな隠し事を感じたんだ」

 「なるほどな……。え待って、隠し事分かるの?ひょっとして……」

 「ああ、炎司も鳶鷹も寒田とは違うベクトルでビンビン感じているぞ」

 波場にそう言われた鳶鷹は、顔が引きつってしまった。

 「でも安心して欲しい。君たちの隠し事は信念を感じる……。それに俺は基本人の隠し事をばらさないぞ!」

 波場はそう言った。

 「それより鳶鷹、君も気を付けた方がいい。最近黒夜叉(くろやしゃ)と呼ばれる公務員キラーが巷を騒がしているらしいぞ。最近はここ近辺に現れるって話だ」

 「黒夜叉か……」

 鳶鷹は黒夜叉を何度か見ていた。


 黒夜叉。彼は幼い頃に自衛隊に助けられてから、黒夜叉は自衛隊を目指すことになる。無事自衛隊に入隊できた黒夜叉だったが、二〇〇四年に誕生した公務員ランキングによって民衆の公務員に対する態度が変わり、絶望した黒夜叉は世の中を糺すべく公務員の選別を行うようになった。今までに殺した公務員の数は二十七名にも及ぶ。


 「なあ、激昂。二人で寒田を追いかけないか?何か嫌な予感がする」

 「ああ、鳶鷹。俺も同意見だ」

 そう言うと、二人は寒田の後を追った。


 白ノ助の背中に追いついた冷太は、息を切らしていた。白ノ助は何故か薄暗い路地裏で止まっていた。

 「遅い!そんなんで寒田家を名乗るなよ?」

 白ノ助は冷太の髪を鷲掴み、頭を上げさせた。冷太の目には涙が浮かんでいた。

 「なあ、親父、止めときなよ。誰が見てるか分からないよ?」

 雪太はそう言っていたが、笑いを堪えるのに必死だった。白ノ助は冷太を軽々地面に投げつけた。倒れた冷太を雪太は、しゃがみ込んで見下した。

 「なあ、出来損ない!お前恥ずかしくないのかよ、こんなことされて平気でいられるよなァ?俺だったら惨めで死にたくなるよ!」

 雪太は拳に雪を纏うと、冷太の腹部目掛けて殴りつけた。冷太は思わず吐瀉する。

 「おいおい!こんなに殴られたのに未だに吐くのかよォ!?」

 雪太はそう言うと、怜太を雪で覆った。

 「“(かま)()()”」

 怜太は苦しそうに藻掻いているが、一向に抜け出すことができない。そのときだった。雪が風船のように宙に浮きあがった。雪太は訳も分からず辺りを見渡した。

 「贋物……」

 雪太は瞬く間に斬られていた。白ノ助は見えない敵に注意している。

 「お前らは俺が間引きしてきた中で、一番の屑だ」

 声のした方には、細身でフードを被った男が立っていた。左目には大きな傷があり、体中に武器を携帯している男は、一瞬で黒夜叉であることが分かった。白ノ助は一瞬で地面を凍らせた。しかし、黒夜叉は再び消えた。黒夜叉は既に白ノ助の背後に回り込んでいた。

 「何!?」

 黒夜叉は背中にある刀を抜いた。そのときだった。複数の羽と大きな衝撃波が黒夜叉を襲った。黒夜叉は直ぐに新しい武器を構えた

 「お前ら……」

 冷太がそう言うと、そこには波場と鳶鷹が立っていた。

 「やっぱり、俺の嫌な予感は当たるんだよなあ」

 鳶鷹がそう言うと、波場は怜太の元へ駆け寄っていた。

 「やはりもっと厳しく忠告しておくべきだった」

 波場がそう言うと、冷太に付いた雪を払った。

 「なぜだ……?」

 冷太がそう言うと、波場は直ぐに答えた。

 「そんなの友だちだからに決まっているじゃないか!」

 波場はそう言うと、冷太を抱きかかえ、安全な場所へ移した。

 「鳶鷹、俺はあいつを捕まえるぞ」

 波場がそう言うと、鳶鷹は頷いた。

 「よし、だったら俺の動きに合わせろ」

 突然、白ノ助が話を割って入ってきた。

 「おっさんは黙ってろ」

 鳶鷹がそう言うと、白ノ助は鳶鷹を睨みつけた。

 「おっさんに手柄は全部やるよ。俺たちはそんな軽いものに興味ないから」

 鳶鷹がそう言って、白ノ助を睨みつけた。重く鋭い鳶鷹の眼差しに白ノ助は何も言えなかった。

 「……お主、名前は?」

 突然、黒夜叉が鳶鷹に話しかけてきた。

 「え?大道寺鳶鷹です」

 「ふふふ……。良い原石を見つけたよ。お前には手加減してやる」

 黒夜叉はそう言うと、不気味に微笑んだ。

 「なんだアイツ、訳分からん」

 鳶鷹がそう言うと、大きく羽を広げた。

 「激昂!俺が合わせる!自由に動いてええで!」

 鳶鷹がそう言うと、波場は頷いた。

 「“点苦(テング)”!」

 点での衝撃波が、黒夜叉を襲った。黒夜叉はショーテルと呼ばれる湾刀で防いだ。刀身は一時的に黒い。

 「激昂!奴は“神域”使いだ!気をつけろ!!」

 鳶鷹がそう言うが、波場には“神域”が理解できずに思わず鳶鷹の方を見た。そのときだった。波場に鎖が巻き付いた。波場は身動きが取れずその場で跪いた。

 「んだこれ、さっきまで軽かったのに、急に重たいぞ?」

 「恐らく奴の恩寵だ!激昂!なんとかできるか!?」

 鳶鷹がそう言うと、波場は全身に衝撃波を纏い、押し広げることで拘束を解いた。黒夜叉は間髪入れずに鎖を操った。鎖は生き物のように動き回る。鳶鷹は鎖を避けたはずだが、腕から血が溢れる。よく見ると、鎖の先に短刀が巻き付いている。

 「激昂!気を付けろ!」

 鳶鷹の声に反応した波場は、衝撃波で鎖を捌いた。

 「良い連携だ……。しかし、まだ甘いな」

 黒夜叉はそう言うと、太刀を空中に投げた。その様子に視線を移してしまった波場は、視線を戻したときには、間合いに入られていた。

 (速っ!あんな重たい武器装備してるくせに俊敏野郎が!)

 波場は衝撃波の盾で防御をとった。しかし、黒夜叉のショーテルは波場の背後を襲った。

 「この武器はな……この湾曲した刀身は盾を避けて攻撃が当たるんだ……。お前、戦闘センスは良いのに、恩寵に頼りすぎだな……。勿体ないねェ……」

 黒夜叉はショーテルに付いた血を舐めながら言い放った。鳶鷹は羽を使い飛び上がる。

 「……何のつもりだ」

 黒夜叉の発言には反応せず、鳶鷹の羽は二つの塊を作り出した。二つの羽の塊は、同時に黒夜叉を襲った。黒夜叉は回転切りで同時に羽を斬りつけた。しかし、どちらにも手応えはなかった。

 (どちらも囮……!奴はどこだ)

 黒夜叉は背後に気配を感じた。鳶鷹の“孔雀”が黒夜叉を襲った。黒夜叉は何とか武器で防御をとるが、威力は凄まじく黒夜叉は吹き飛んだ。しかし、風船のように浮かんだ黒夜叉は、壁に張り付いた鉄パイプに掴まった。

 「お前、変化形の恩寵だな?……そうだな、“物の質量を変化させる”とかか?」

 鳶鷹がそう言うと、黒夜叉は地面に降り立ち答えた。

 「はァ……、正解だよ」


 黒夜叉恩寵“質量変化”触れている物体の質量を変化させることができる。また、自身の質量も変化させることができる。


 「種が分かれば単純な恩寵だな……」

 波場は肩の出血を手で押さえながら言った。

 「……しかし、お前たちの状況は変わらないぞ?私の恩寵が分かったところで、戦況は何一つ変わらない……」

黒夜叉がそう言ったときだった。黒夜叉の左側から大雪が襲った。反応の遅れた黒夜叉は右足が雪に覆われた。

「“(くま)吹雪(ふぶき)”」

 そこに現れたのは(かん)()雪子(せつこ)だった。雪子は白ノ助の妻であり、怜太の母親である。消防士ランキング八位である。

 「寒田……、雪子かァ……」

 黒夜叉は鎖で一瞬にして雪を砕き、距離を取った。

 「偽りの八位ィ……!お前の実力ではランキング圏外だァ!」

 黒夜叉がそう言うと、雪子は鼻で笑った。

 「そんな訳ないでしょう!」

 雪子は息を吹きかけると、辺り一面が雪に覆われた。

 「“()()景色(げしき)”」

雪の中から兎や烏が無数に現れた。

 「これほどまでに美しい技のある消防士はいないでしょう!?」

 「違う!技とは他人(ひと)の為にあるものだ。自分の為ではない!」

 黒夜叉の振り回した鎖が、卯烏景色を破壊していく。

 「お前に本当の技を教えてやる……!」

 黒夜叉はそう言うと、手元にある短刀を全て投げた。それを全て鎖に巻き付けると、一気に落とした。

 「“亜殺戮徒(アサルト)”」

 今まで何もしてこなかった白ノ助は、雪子を守ろうと、手から氷を放出した。しかし、その氷よりも早く雪子を護ったものがあった。それは今まで気絶していた冷太の氷であった。

 「冷太!」

 白ノ助がそう叫ぶと、冷太は重い足取りで起き上がった。

 「いくら俺を虐めてきた人たちでも……!目の前で死なれちゃあ……。俺は本物の消防士になれない!」

 冷太はそう言うと、巨大な氷の槍を作り出す。

 「“(ひょう)(おう)神器(じんぎ) 三叉(さんさ)(そう)”!」

 冷太は黒夜叉に向かって投げつけるが、難無く真っ二つに切り裂いた。

 「まだまだ粗いが……、上出来だ。お前は良い。あのときの女とは違うなァ……」

 黒夜叉はそう言うと、太刀を収めた。白ノ助は雪子を抱えてどこかに消えていた。

 「女?」

 冷太は反芻した。

 「あ?……そうだそうだ思い出した。お前ここで会うのが初めてじゃあないなァ……」

 黒夜叉はそう言った。しかし、冷太は何も思い出せなかった。

 「覚えてないのか……。まァ、分かるぜ。人間、誰だって嫌な記憶は蓋して忘れようとするもんなァ……。だけど、お前、俺の右目を見て思い出すと思うぜ」

 黒夜叉はそう言うと、フードを取った。皺だらけの顔の右半分を大きな傷で埋め尽くされている。そのときだった。冷太に電撃が走る。

 「その様子は、どうやら思い出したようだな……」


 それは冷太が、まだ八歳のときだった。彼は齢五歳で既に白ノ助の元でインターンとして活動していた。そんな彼を支えていたのは、冷太の姉である寒田転天(かんだてんてん)であった。彼女の恩寵は“氷帝”。白ノ助の恩寵と同じ名を持つ。


 そもそも恩寵の名前は、出生届の際に親の恩寵から予測される恩寵を記入し、恩寵の発現する三歳から六歳に、再び恩寵届を出す。その際に恩寵名を記入するのだが、そこでの名前は親でも子どもでもどちらでも良いとされている。その後、二度三度名称の変更は可能である。転天は産まれながらにして恩寵に目醒めており、その威力は白ノ助を超えていた。転天は十五歳にして白ノ助の元でインターンとして活躍していた。

 冷太は転天を必死で追いかけるが、追い付かない。それを見た転天は冷太をおぶって行動していた。転天は氷を使って軽やかに行動している。

 「ねえ冷くんは、自由に生きなね?」

 転天がそう言うと、怜太は首を傾げた。転天は話を続けた。

 「冷くんはもしかして、女の子なんでしょ?」

 転天がそう言うと、怜太は驚いたように声を上げた。

 「うふふ、大丈夫よ。まだ誰にも言ってないから……」

 転天がそう言うと、怜太は口を開いた。

 「ぼくね、カッコいいものより可愛いものが好きなんだ……!でも前にパパと(せつ)(にぃ)に言ったら、怒られたし馬鹿にされたんだ。……姉ちゃんもぼくのことヒテイする?」

 怜太がそう言うと、転天は首を横に振った。

 「ううん!私ね、妹が欲しかったのよ!嬉しい!」

 転天はそう言って、優しく微笑んだ。

 冷太の記憶はここまでしか残っていない。微かに残っている記憶は、血塗れで倒れている転天と、右目を怪我した黒夜叉の顔だけだった。


 「お前が……!お前が姉貴を殺した奴か!!!」

 冷太は拳を震わせている。黒夜叉はフードを被り直して口を開いた。

 「まァ、そういうことになるな。しかし、まァ、堕ちたもんだな、お前の才能は認めていたんだが、指導者が駄目だと腐っちまう」

 黒夜叉はそう言うと、白ノ助を睨んだ。

 「お前に一つ良いこと教えてやるよ……。俺のこの傷、やったのはお前だ。あの攻撃は今でも思い出すぜ。もう一度浴びてェなァ……!」

 黒夜叉はそう言うと、背中の二本のショーテルを手に持つと、冷太に向かって走り出した。黒夜叉の顔は狂気に満ちていた。冷太は恐怖で動けなかった。そのときだった。

 「寒田冷太!大丈夫だ!」

 鳶鷹が黒夜叉に向かって足蹴りをしていた。黒夜叉はショーテルで受け止めるが、重い一撃なため軽く吹き飛んだ。

 「俺の大切な人が言ってたんだ!“心を制することが己を制する”って!俺最近までそれは心を落ち着かせることだって思ってたんだ!でもさ、夫丈高校で学んだんだ!心を解き放つことも同意義なんじゃないかって!」

 鳶鷹は攻撃しながら、言葉を紡いでいく。波場も加勢した。

 「大丈夫だ!今の君なら信じられる友がいる!」

 波場がそう言うと、冷太の瞳から一筋の涙が零れた。

 「茶番だァ……!」

 黒夜叉は更に猛進する。黒夜叉は鳶鷹と波場を跳ね除け、冷太に向かって歩みだす。

 「二人とも……、ありがとう」

 黒夜叉は吹き飛んだ。黒夜叉の体には氷で覆われていた。あまりの速さに目視できたのは一部の人間だけだった。冷太の吐息は白かった。黒夜叉は氷の質量を変え、切り砕いた。黒夜叉は不気味に微笑んだ。

 「それだ!その攻撃だ!もっとくれよ!」

 鳶鷹と波場は、冷太の元へ歩み寄った。

 「大丈夫なのか?」

 鳶鷹がそう言うと、冷太は頷いた。

 「もう二人に恋してしまいそうだよ」

 冷太の声は可愛かった。

 「おいおい止めてくれよ。男に興味はないぞ?」

 鳶鷹がそう冗談っぽく言った。

 「心は女性だけどね」

 「ははははは……は?」

 鳶鷹がそう言うと、波場は何故か頷いていた。

 「君の心にあったものが透いている。君の隠し事はこれだったのか」

 波場がそう言うと、冷太は可愛らしく微笑んだ。

 「詳しい話は、アイツを倒してからにしましょ」

 冷太がそう言うと、手から氷を精製させた。

 「姉貴の技……、俺が受け継ぐよ。“(ひょう)(てい)神器(じんぎ) (かい)(おう)(りゅう)(ひょう)(そう)”!」

 龍の装飾がされたより繊細な氷の槍は、辺り一面を冷気で包んだ。氷の槍は黒夜叉を襲った。先程とは比べものにならない程の威力に、黒夜叉は先程の倍以上に吹き飛んだ。黒夜叉はその攻撃によって気絶してしまった。

 その後、雪太が隙を見て通報していた警官が登場し、終息を迎えた。

 その場に居合わせた冷太、波場、鳶鷹、雪太は大きな怪我はなく、重症だったのは雪子だけであった。本来であれば、功績は三人になるのだが、恩寵の使用は監督者の権限で用いられる。あのときは白ノ助が傍におらず、未成年、無免許での恩寵使用で、本来は犯罪にあたる。ただ、指名手配されていた黒夜叉の確保、目撃者がほぼいないという点で、この事件は寒田一家の手柄として報道された。黒夜叉は「大山杭刑務所」に収容された。


 そして、夏休みが明け、九月になった。

 冷太は夏用の制服に身を包んだ。しかし、今までの制服ではなく、スカートを身に着けている。冷太は校門の前で立ち止まっている。すれ違う生徒は冷太を二度見する。冷太は視線を落とす。

 (そうだよな……。急に女装なんて可笑しいよな)

 冷太はそう思ったまま立ちすくんでいると、片腕に抱き着かれた。冷太が顔を上げると、そこにはA組の学級委員である土田(つちだ)(めぐみ)がいた。他にもA組の女子クラスメイトが立っていた。

 「どうしたの?冷ちゃん!」

 土田がそう言うと、他の人たちも頷いている。

 「煙ちゃんが綺麗におめかししてくれたんだから大丈夫よ!」

 土田がそう言うと、冷太は頷いた。冷太は前を見据えて歩み始めた。


 水田寺は冷太の書類を見ている。真田はその様子を見て話しかけた。

 「おや、寒田くんの訂正願、正式に提出されたんですね。……恩寵“(はく)(さん)女帝(じょてい)”。彼、いや、彼女らしいですね」

 真田がそう言うと、水田寺は微笑んだ。

 寒田冷太の第二の人生の始まりである。

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