12 ハッキングマスター
このストーリーはフィクションです。登場する人物や団体と関係はありません。又、一部性的な描写がございますのでご注意ください。そして、この作品は日本の歴史や神話を基にした構成があり、一部の方々に怒られそうな内容が記載される場合がございますので、先に謝ります。申し訳ありません。
夏の暑さが本格的になっている八月中旬。東京都の地下には、埼玉県合併に伴って生まれた地下鉄の廃駅がある。そこに行くためには、下水道を通らねば行けないのだが、何者かによってその廃駅に向かうことが困難になっている。既に人々に忘れられている駅だが、そこには警察が血眼で探している『徒陰』の本部がある。その廃駅には、何千ものの路上生活者が住み着いている。そのホームレスを束ねる人物が一人いる。彼の名前は、ホームレス王。彼は元敏腕の会社員であったが、会社が倒産し、会社に莫大な金額が掛けられた。そんなとき、ホームレス王を救ったのは、『徒陰』の大黒柱だった。そして、ホームレス王は類稀なる才能でホームレスを纏め上げた。ホームレス王の恩寵は“迷路”。彼はその場所の見取り図を見ることで、好きなように道を組み替えることができ、自分にしか分からない迷路を作成することができる。
更にホームレス王の直属の幹部として、防衛王、残飯王、情報王と呼ばれる三人の王が存在する。ホームレス王は、『徒陰』の大黒柱に返しきれない恩があるため、無償でここに匿っている。そんな『徒陰』本部の情報源であるコンピューターの動力源は、火柱の消えない炎や鳶鷹の起こした風力であるが、水柱の要望で更に高性能なコンピューターの追加に加え、政府のサーバーに潜入するために、強力な助っ人が欲しいとのことで、水柱の友達である“ハッキングマスター”に協力及び仲間になって欲しいと要請したところ、条件付きの承諾を得たので、火柱、風柱、水柱はハッキングマスターの住んでいる都内郊外の廃ビルへ向かった。
廃ビルは二十階建てであり、一部屋を除いて殆どが配線で張り巡らされている。その一部屋にハッキングマスターが住み着いている。ハッキングマスターはいくつもの大きな画面を見回している。
「久し振りだね、マスター」
水柱がそう言うと、彼は背を向けキーボードを打ちながら
「お久」
とだけ言った。
「俺たちに協力してくれるって聞いたんだが……」
火柱がそう言うと、キーボード音は鳴り止み、回転してこちらを見た。彼の頬には三本ずつひっかいた傷があり、傷はかなり深い。また、未成年であることは明確であった。
「君がハッキングマスター?随分と若いね!」
風柱は軽くそう言った。彼は静かに笑った。
「ハッキングに年齢は関係ないよ。必要なのは技術と執着心だよ。初めまして、炎司さんに鳶鷹さん」
「!!?」
二人は本名で呼ばれ、驚いてしまった。
「……知っているのか?」
火柱がそう言うと、ハッキングマスターは頷いた。そして得意気に答えた。
「小生にかかれば、簡単なことさ!最も……」
「済まないね、僕が教えたんだ。信頼は必要だったからね」
水柱がガスマスクを外しながらそう言うと、ハッキングマスターは少し赤面し、わざとらしく咳払いした。
「君たちにお願いしたいのは、小生の復讐についてだ」
「復讐?」
風柱はペストマスクを外しながら、彼の言葉を反芻した。
「小生の家族は、ある金持ち一家に殺されたんだ。勿論、直接ではないけど。それでも殺したと言っても過言ではない」
ハッキングマスターは、キーボードをいじりながら、一つの画面に数名の顔写真を出した。
「彼らは神宮家、そしてこの女が全ての元凶だ。小生の妹はモデルをやっていて小生が言うのもなんだが、可愛かったんだ。そんな妹を良く思わないのが、この神宮朝子。この女は妹に執拗にいじめを繰り返し、不登校になった後はインターネットに嘘の情報を流し、モデルとしての地位も奪った。それだけで終わらず、小生の両親にも執拗に無言電話を行い、家族を追い込んだんだ。元々、小生の引きこもりもあって家族は精神的に疲れていたんだ。それで、小生が寝てる間に家族で無理心中を図ろうとしていたんだ。だけど、小生だけが生き残って今に至るんだ」
「ちょっと待ってくれ。神宮ってあの“西の丸防”に並ぶ“東の神宮グループ”か?最近黒い噂が絶えないアイツらなのか?」
水柱がそう言うと、ハッキングマスターは頷いた。
「ああ。最近、妙な連中とつるむようになって、ほら、コイツら見て見ろ。肌が白いボディーガードがうろついているんだ。見覚えがあるだろ?」
ハッキングマスターがそう言うと、火柱は頷いた。狐をお面は外れている。
「確かに。以前戦ったことのある奴らに似てるな」
火柱は以前戦ったホワイトキラーを思い出しながら、そう言った。
「海人君から話は聞いてるよ。複数恩寵の持つ機械のようだと聞いたよ」
「そうなんだよー。なんか生きる屍みたいで不気味だったんだよねえ」
風柱はそう言うと、ハッキングマスターは不思議そうに問い掛けた。
「今度は勝てるのかい?」
ハッキングマスターがそう言うと、炎司は頷いた。
「大丈夫。あのときの俺たちじゃないから。な、風柱」
火柱がそう言うと、風柱は嬉しそうに頷いた。
「僕は戦闘が苦手だから、強そうな君たちの力が必要なんだ」
ハッキングマスターはぎこちなく頭を下げた。
「頭を上げてくれや」
風柱はそう言うと、笑顔になりハッキングマスターの肩を組んだ。
「アンタの気持ちはよく分かった!任せな!な?火柱!」
火柱は静かに頷いた。
ハッキングマスターは目から涙を零した。
「ありがとう……」
そう何度も言っていた。
廃ビルから、二十分ほど歩いたところにある豪邸に四人は着いた。高い木々と白い塀に囲まれた白い家は、少し高台に聳え立っていた。その全貌が見える場所で、四人は隠れながら見ていた。
「ここか?」
水柱は、ガスマスクに搭載されている望遠鏡で、家を見ながら言った。
「そう。最近はこの家にホワイトキラーがよく出入りしているんだ」
「それで、作戦は?」
火柱がそう言うと、ハッキングマスターは口を開いた。
「今回の目的は、奴らの顧客情報と、妹の自殺を隠蔽したという証拠を手に入れることです。この家のサーバーは特殊で、不審な電波は妨害するし、ネットからでは侵入できない。でも、海人君と調べたら、敷地内にさえ入ってしまえばハッキングはできるっぽいから……。ハッキングは小生と海人君に任せて。小生たちなら十五分、それだけあれば奪える」
ハッキングマスターがそう言うと、水柱も口を開いた。
「奴らのボディーガードについて、少々調べたんだが、表だと情報が一つもないんだ。だから、情報王さんに協力して貰って、一日中監視させてもらった。奴らの行動パターンは把握できたんだが、肝心の恩寵が不確定でね。監視役の人が鉄の匂いと洗剤に似た香りを感じたと言っていた。ホワイトキラーの常備恩寵の一つが“強固”だとして、以前に戦った奴と同種なら三つの恩寵を所持していることになる。ごめんね。僕が分かる情報はこれだけだ。後は大丈夫?お二人さん」
水柱がそう言うと、二人は頷いた。
「同じ轍は踏まんよ」
風柱がそう言うと、火柱は静かに頷いた。
「じゃあ、行ってくる」
そう言うと、二人は家へと向かった。
火柱が門を蹴破ると、直ぐに玄関からホワイトキラーたちがやって来た。その後ろから老人の声が聞こえた。
「よく来たねえ!君たち」
声の主は、杖のついた白髪の男性だった。その男の顔は世間をあまり知らない火柱でも知っている顔だった。
「アイツ誰ー?」
風柱は馬鹿みたいに言い放った。
「……アイツが神宮だよ」
火柱がそう言うと、風柱は納得したように手を叩いた。神宮朝雄の横には、化粧の濃い女性とその女性神宮朋子と神宮を足して二で割った容姿の女の子神宮朝子が立っていた。その顔はいずれもハッキングマスターがモニターで見せた顔と一致していた。
「流石に把握されていたか……」
ハッキングマスターがそう言うと、神宮朋子は高らかに笑っていて。
「貴方たち庶民には、到底理解できないでしょうね!私たち神宮グループを甘く見てもらっては宜しくなくてよ!」
「何語だよ……」
火柱がそう言うと、神宮朋子は少し苛ついた様子で、手に持つ扇を仰いだ。
「君たちにとって最悪の知らせを教えてあげよう。君たちの求める情報は、既に完全削除済みだ。……より確実に神宮一家に傷を隠蔽しようではないか」
神宮朝雄がそう言うと、指を鳴らした。すると、直ぐにホワイトキラーが二人やって来た。彼らはスキンヘッドで黒い礼服を身に包み、仁王立ちである。
「彼らはね……、詳しくは言えないけど、協力組織から借りている品物でね。高性能で命令は何でも聞くという点でかなり重宝しているんだ。0-09(ナインス)、0-10(テンス)、丁重に扱ってやりなさい」
神宮朝雄がそう言うと、ホワイトキラーたちは構えた。
「風柱、合宿と“秘密の特訓”を思い出せ」
「応!」
風柱は返事をすると、大きく羽を広げた。炎司も同じように拳を構えた。
夏休み某日、以前、『徒陰』が殲滅作戦の場所である廃坑に着いた炎司は、遅れてやって来た五十嵐に軽くお辞儀した。
「十分遅刻ですよ」
炎司がそう言うと、五十嵐は憎たらしく言った。
「五月蠅いぞ。俺とて暇ではないのだ」
五十嵐はそう言って、上着を脱ぎ、袖を捲りながら説明を始めた。
「前に言ったこと憶えているか?」
「……全然」
炎司がそう言うと、五十嵐は溜め息交じりに話を続けた。
「だと思ったよ。成り立ちから説明するが、日本人は終戦後に、恩寵という特別な力を持つようになった。しかし、それと同時にある能力が一定数の人物に現れた。それは“神域”と呼ばれるようになる。“神域”には五、いや、四種類存在するんだ。一つ目は“青竜”、これは俺が以前にやった液体を掴む力だな。四つの中では比較的簡単な部類だな。次に“朱雀”、空中を歩くことができる能力だ。そして、“玄武”は体を鋼鉄のように固くできる能力だ。最後に“白虎”、気配を感じ取ることができる能力だ。俺はこれからお前に朱雀、玄武を教える」
「残り二つは?」
炎司がそう言うと、五十嵐は首を横に振った。
「この短い期間では、全ての習得は無理だ。何なら一つの習得も厳しいかも知れない。贅沢するな」
五十嵐がそう言うと、炎司は少し残念そうだった。
「……了解」
炎司がそう言うと、五十嵐は炎司の全身を見回した。
「話は変わるが、お前、武器は使わないのか?」
五十嵐がそう言うと、炎司は頷いた。
「そうですね、大黒柱は素手ですから、武器に関しては素人ですね。でもいつか、二刀流剣士になるかもですね」
「俺の特訓では、刀などの武具を使う。木刀でも良いから使え」
五十嵐がそう言うと、二人きりの特訓が始まった。別日には、鳶鷹にも同様に特訓が行われ、“青竜”、“玄武”を教わった。
二人とも才能は凄まじいもので、僅か数週間で“神域”を会得したのだった。
火柱の構えた拳の炎は紫色に燃えている。
「殺れ!」
神宮朝雄の一言で、一体のホワイトキラーが炎司に襲い掛かる。自身の体を宝石に変えると、殴りかかるホワイトキラーを火柱は空中に逃げた。更に宙に浮いたままである。
「何!?飛んだぞ!」
神宮朝雄は驚く。火柱は炎の力で空中を素早く移動した。すぐさまホワイトキラーの間合いに入ると、炎を纏った拳がホワイトキラーを襲った。しかし、片方のホワイトキラーが口からシャボン玉を吐き出した。それがホワイトキラーたちを覆うと、一瞬にして固くなった。その硝子は火柱の攻撃を通さなかった。
「……攻守のバランスがいいな、あいつら」
もう片方のホワイトキラーが攻撃を仕掛けた。西瓜ほどの大きさの宝石を腕から何個も飛ばしていく。直撃した火柱は微動だにしなかった。炎司は黒光りしている。明らかに“玄武”を用いている。火柱はそのまま殴りかかるが、鉄壁のシャボン玉がそれを防いだ。
「火柱!俺に任せろい!」
そう言うと風柱は、翼を広げ飛び上がると、翼を“玄武”で硬化した。翼が黒く光る。風柱は羽で全身を覆い、空中で回転すると、弾丸のように鋭くなった。
(炎司の攻撃を弾くのは、相当な硬度!つまり、強化ガラス!海人が教えてくれた。強化ガラスの弱点は点での衝撃!)
風柱の回転は、強化ガラスを砕いた。
(俺が先の戦闘で気づいた違和感、恩寵の併用は完全に同時に行えないのでは?ということだ。前の電撃紐野郎、紐に電撃を纏えて攻撃すれば良いのに、紐が伸びきってから電撃を喰らわせてきた。そこに僅かなラグがある!でも、ラグは一秒にも満たなかった。でも俺ならそこを突ける!)
ホワイトキラーは、口からシャボン玉を出した。風柱は一瞬の隙も見逃さなかった。風柱はシャボン玉が硬化する前に、“青竜”でシャボン玉を掴んだ。風柱はシャボン玉を引き裂くと、そのまま上半身を下げ、足を上げる。
「“孔雀”!」
風柱は躰道の卍蹴りをした。足の甲がホワイトキラーの顎に当たると、顎が砕けた。
「やべ、相手がゾンビみたいだから、手加減し忘れて“玄武”纏ってたわ!」
風柱はそう言ったが、悪びれた様子はなかった。ホワイトキラーは頭を激しく揺らし、地面に倒れ込んだ。風柱は立ち上がると、火柱に向かってグッドサインをした。それを見た火柱は微笑み頷いた。
「次は俺の番だな……」
火柱がそう言うと、全身を燃え上がらせた。そして、体に沿うように炎を流動させた。
「水柱、マスター!一つ確かめたいことがある!コイツの残りの恩寵が知りたい!できるか?」
火柱がそう言うと、ハッキングマスターは狼狽える。しかし、水柱は
「できることはする!期待はしないで!」
とだけ言った。水柱は人差し指をおでこに当て、考え込んだ。
(僕が見る感じ、奴は炎を強く嫌っている感じだった……。“強固”、“宝石”系の恩寵が確定しているなら、残りは一つ。炎を嫌うのは、“氷”系か“金属”系……。相手を即完封できる、もしくは相手を推し量れるのは“氷”系……。それをしなかったということは、“金属”系!それにさっき若干の金属光沢が見られた……。以上の結論から、奴は“金属”系で間違いない!)
「なあ、マスター、調べたいことがあるんだけど、協力できる?」
水柱がそう言うと、ハッキングマスターは頷いた。
「もう僕の恩寵でいける範囲まで来たから、後は一人で大丈夫!僕も協力できることはできるよ!」
「じゃあ、奴らの顧客リストから、政府組織関連の情報がないか調べてほしいんだ」
水柱がそう言うと、ハッキングマスターは頷いた。
ハッキングマスターの恩寵である“ハッキング”は、自身の精神をサーバー上に乗せることができる。より繊細なハッキングが可能となり、その精度はスーパーコンピューターを遥かに超える。
ハッキングマスターは、自身のパソコンを使い、神宮家の監視カメラにハッキングを掛けた。ハッキングマスターの目に、神宮家の全監視カメラの情報が入り込んだ。更にハッキングマスターは、その監視カメラを経由して、神宮家のサーバーに潜入した。
(独特だけど、思ったより簡単なプログラミングだな……。セキュリティもそこら辺のやつと大差ないな)
ハッキングマスターは、目の前の画面に触れると、パズルのピースがはまるように画面が形成されていく。
(……あった。こんな簡単に顧客リストが見つかるなんて、三流企業でもあんまないぞ……)
ハッキングマスターは更に調べた。すると、顧客リストの中に、顧客名が無い箇所が見つかった。
(……!WK!ホワイトキラーのことか!……かなり複雑に隠蔽されてるな。でもこの僕にかかれば……!来た!)
「水柱君!掴めた!奴らの情報だ!」
ハッキングマスターはそう叫ぶと、水柱のこめかみに触れた。すると、ハッキングマスターの脳内情報が一気に水柱の脳内に入り込んだ。
「……ありがとう。これでノルマは達成だ。あとはマスター、君のやりたいようにやれ」
水柱がそう言うと、ハッキングマスターは頷いた。
「火柱!僕の仮説は正しかった!そいつの恩寵は“強固”、“宝石”、“鉄”だ!今の火柱ならいける!」
水柱がそう叫ぶと、火柱は水柱の方を見ずに親指を挙げた。火柱は更に全身を燃え上がらせる。拳を中心に全身が燃え上がった火柱は、片脚を上げ構えた。
「“火ノ舞女神”」
火柱は片脚を着けると、一瞬にしてホワイトキラーの間合いに入った。火柱は股関節の螺旋を使い、ホワイトキラーの脇腹に足蹴りをした。しかし、有効打ではなかった。火柱はバク転で距離を取る。更に足で遠心力を用いて回転する。
「へへ!“火ノ舞女神”はな!舞えば舞うほど火力が上がるんだぜ!」
「解説しなくていい」
風柱の解説にツッコミを入れた火柱は、更に舞っていた。火柱は回転の力で威力の増した突きをした。火柱の突きは、ホワイトキラーの頬を掠めたが、頬から血が噴き出した。
「更に火柱の使う“大道寺影武術”は、体の円運動を使った戦闘術だぜ!絶え間のない攻撃だぜ」
「風柱、もういい」
火柱は再び風柱にツッコミを入れた。ホワイトキラーは臨戦態勢となり、金属を纏った宝石で全身を纏った。しかし、火柱は容易く宝石を砕いた。ホワイトキラーは再度宝石を形成しようとするが、火柱はその隙すら見せず、ホワイトキラーの腹部に重い拳を喰らわせた。
今の火柱は、音速に近い速度であった。音速+大道寺影武術+玄武で、現代に生きる最強である酒柱、太陽柱、全盛期“古龍”(白龍院嬰児の公務員コード)の攻撃に並ぶ威力を得ていた。
ホワイトキラーは吹き飛び、壁に直撃し、瓦礫に埋もれた。火柱はそのまま地面に跪いた。火柱の息が荒い。呼吸が十分にできていない様子だった。風柱が駆け寄った。
「大丈夫か!」
「ああ……、あの最高速は……、心肺機能が爆速になるから、……呼吸が追い付かないんだ。だから……、無呼吸になるし……、動けるのは数秒なんだよな……」
火柱は息を切らしながら話した。風柱は必死に火柱の背中をさすっていた。
「お、お前たち!さっさと動け!早く奴らを殺せ!……クソ!!」
ホワイトキラーを見限った神宮朝雄は、懐から慌てた様子で拳銃を取り出した。
そのとき、別の方向から発砲音が鳴り響く。音のする方向には、ハッキングマスターが拳銃を握りしめていた。
「何故お前がそんな物持っている!?」
神宮朝雄がそう言った。
「今の時代、作れるんだわ」
ハッキングマスターは神宮朝雄に拳銃を向ける。
「儚名未来!その名前に聞き覚えがあるだろ!僕は未来の兄の蓮人だ!!」
ハッキングマスターは更に発砲する。ハッキングマスターの撃った弾丸は、神宮朝雄の右側に当たる。神宮朝雄は顔を引きつらせた。
「儚名……!その名前を私の前で言うな!」
神宮朝雄はそう言うと、何発も拳銃を撃った。ハッキングマスター自身の腹を見た。腹から赤黒い血が溢れている。ハッキングマスターは倒れ込んだ。
「マスター!」
水柱がハッキングマスターの元へ駆け寄った。水柱が抱きかかえると、ハッキングマスターは吐血しながら監視カメラを指さした。
「あのカメラ、音は拾わないけど、今の映像ならどちらが悪か明白だよね。これは中継だから、もう手の施しようはないよ」
ハッキングマスターはそう言いながら、不器用に微笑んだ。それを聞いた神宮朝雄は慌てた様子だった。
「貴様ァァァ!!!」
神宮朝雄は再び拳銃を構えた。そのときだった、神宮朝雄の拳銃が宙を舞った。風柱の羽が拳銃を運んでいた。
「貴様らァ……!」
「もう諦めろよ」
風柱はそう言うと、神宮朝雄は膝から崩れ落ちた。朋子も朝子も端で、大声で泣いていた。風柱はハッキングマスターの元へ駆け寄った。
「マスター!」
ハッキングマスターの出血は止まらなかった。火柱は重い足取りでハッキングマスターの元へ歩み寄った。
「マスター……」
火柱の手がハッキングマスターに触れると、燃え上がった。一同が突然の出来事に驚いているが、一番驚いているのは火柱だった。
「え?えぇ!?す、すまん!え、待って!待て待て待て!ごめんごめんごめん!」
火柱は慌てて火を消そうとするが、全然消える気配がなかった。
「待って、火柱、傷口を見てみな」
水柱が指さすと、ハッキングマスターの傷口が塞がっていく様子が見えた。
「……どういうことだ?」
火柱は経験したことのない出来事に驚きながらも、考えている様子だった。
「俺の恩寵の炎は、敵対する人に対して消えない炎になるけど、無害だと判断できれば燃えることはない。逆に言えば、信頼している人には回復効果があるということなのか?」
火柱は一人で納得したように頷いた。ハッキングマスターはゆっくりと目を開けた。
「皆さん……、神宮にやられちゃったんですか?」
「いやいや、ここは現世だよ」
風柱がそう言うと、温かい微笑みに包まれた。
数分後、情報王の協力もあって、救急隊員や警官が到着していた。神宮朝雄をはじめとする神宮一家は逮捕された。ハッキングマスターは、一命は取り留めたものの再び意識不明となった。
映像に映っていた『徒陰』の火柱、風柱、水柱は一部では英雄視され、『徒陰』の印象が変わった出来事の一つでもあった。
「調子はどうだ?海人」
炎司がそう言うと、海人はパソコンをいじりながら、感嘆の声を上げたてい。
「奴らはとても面白い研究をしてたようだね。これを見てくれ」
海人がパソコンにある一つのフォルダを開いた。そこには“プロジェクト零”と書かれたフォルダがあった。
「何だこれ……。まさか、あの零課についてか?」
炎司に促され、海人はフォルダを開いた。そこには、沢山の機械の設計図が記載されている。
「見てくれよ。人工知能搭載の自立型防衛機……。しかも、この滅茶苦茶な設計図、なのに一つ一つが精巧に嚙み合っている。これ作ったやつ、相当天才だね」
フォルダには、副題として“ベストロン”と書かれていた。
「ベストロン……?どういう意味だ?」
炎司が海人に問い掛けた。
「一番という意味のベストと、海外では行われたトロン計画のトロンだと思うな。多分、最高の護衛ロボットを作ろうとしているんだな」
「いや、制作者は外国人じゃないぞ。ほら炎司、これを見ろ」
そう言って海人は画面の端を指さした。そこには、田中雫と記載されていた。
「田中、雫……?どこかで聞いたことのある名前だな……」
炎司は記憶を遡るが、どうしても出てこなかった。
ベストロンがやがて日本、いや、世界に大きな影響を与えるのは、また別のお話である。




