表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
-Re:ika-警視庁 恩寵刑事部 特殊捜査課 通称 「零課」  作者: 灯火 由夢葉
第一幕 第一章 夫丈高校一学期
12/74

11 “重力”と“言霊”

 このストーリーはフィクションです。登場する人物や団体と関係はありません。又、一部性的な描写がございますのでご注意ください。そして、この作品は日本の歴史や神話を基にした構成があり、一部の方々に怒られそうな内容が記載される場合がございますので、先に謝ります。申し訳ありません。

 そして、同じような訓練を三日目も行い、最終日の前日の夜、事件が起こる。時計は二十一時を回る頃だった。いち早く気付いたのは、茂やジョンたちだった。

 「火事だ!!!」

 その声に起きた生徒たちは慌てて宿舎を飛び出した。外は火に包まれた木々があり、熱風が生徒たちを襲い、呼吸をするのも辛かった。

 「憾咲さん!」

 茂が外に出てきた夢に声をかけた。

 「状況は!?」

 「この宿舎を中心に百メートルの木々が燃えているんだ!放火にしては意図的すぎる。計画的犯行かも知れない!」

 「計画的って目的は何よ……」

 そのとき、雨水が燃えている木々に向かって走り出す。

 「待って、貯ちゃん!危ないわよ!」

 夢は雨水を止めようと手を伸ばした。しかし、雨水は止まらない。

 「でも、このままじゃこの山は全焼しちゃう。私の恩寵で消火すれば全焼は免れるかも知れない!」

 そのときだった。燃え盛る木々が凍った。雨水が振り返ると、そこには寒田が立っていた。

 「俺も手伝う」

 寒田がそう言うと、次々と凍らせていく。

 「……ありがとう」

 「私も手伝おう!」

 水田寺がそう言うと、雨水が放出した水を操作した。水田寺は真田に話しかけた。

 「真田先生。生徒の安否を任せました。これは生徒を狙った犯行かも知れない」

 「確かに。承知しました」

 そう言うと真田は、生徒を指示して宿舎に戻らせた。そのときだった。

 「助けてください!!」

 燃え盛る木々の隙間から酌斗が現れた。

 「おじいちゃん、僕のおじいちゃんが!!」

 すぐさま真田が駆け寄り、酌斗を抱きかかえた。

 「落ち着いてください。髭切さんがどうしたんですか?」

 酌斗は深呼吸し、真田に言った。

 「おじいちゃんが知らない男に襲われて……!」

 それ聞いた植田が声を上げた。

 「真田先生!僕が行きます!酌斗君、僕をおじいちゃんの所まで案内してくれるかい?」

 植田が優しく微笑みかけると、酌斗は頷き、一緒に森に向かっていった。


 各々が鎮火に尽力する中、声が聞こえた。

 「へいへーい」

 燃え盛る炎の中から、ランドセルを背負った玉蟲がいた。

 「君は迷子かな。でも大丈夫!この家は安全だから……」

 水田寺が玉蟲に向かってそう言うと、玉蟲は両手をメガホンのように模して声を発した。

 「“吹っ飛べ”」

 そう言われると、水田寺が吹き飛ばされる。突然の出来事に周りは騒然とする。

 「どうして、私たちを襲うの!?」

 雨水は玉蟲に向かって叫んだ。

 「えー、そんなの楽しいからに決まってるじゃーん」

 玉蟲は無邪気に笑いながら言った。

 「雨水、奴が元凶かも知れない。“恩寵”も分からないから、下手に動けない。それに今は水田寺先生がいない。まずは相手の出方を窺うしかない」

 そのときだった。再び玉蟲は声を発した。

 「“転べ”」

 すると、寒田が突然転んだ。その様子を見て、玉蟲はケラケラ笑っている。

 (そういうこと?あの子が言ったことが起きている?発動条件は?……寒田君も含めて訓練で疲労困憊、下手に長引けば不利なのは明白ね……)

 雨水が考えていると、寒田が叫んだ。雨水の目の前には、燃えている木が飛んできていた。雨水は、掌から水を放出し、防いだ。

 「くくく……。僕ちん知ってるんだあ。お前のその指先、ふやけたら暫く水は放出できないってなあ!」

 玉蟲がそう言うと、雨水は手を隠した。

 (!?どうしてそれを知っているの?)


 確かに、雨水の恩寵“貯水”には上限があり、放出しすぎてしまうと体内の必要な分の水分までも放出してしまい命の危機に瀕してしまう。そのため雨水自身が判断として、指のふやけを見て放出を調整しているのだ。


 (この情報を知っているのは、先生と植田さんぐらい……。もしかして、あの子、観察だけでそう判断したの?)

 「この情報は僕ちんの情報じゃあないよぉ」

 そのとき、玉蟲は何かを察したのか口を開いた。

 「お前の弱点は僕ちんの兄貴が教えてくれたのさ」

 「兄貴……?」

 雨水は反芻した。

 「そうさ!僕ちんの兄貴は凄いんだぞ!一度見ただけでその人の特徴を捉えちまうんだからな!今もあのおじさんの所で……」

 玉蟲がそう言いかけると、口を押えた。

 「おじさん?もしかして、髭切さんなの?ねえ!教えてよ、髭切さんの所で何をしているの!?」

 玉蟲は何も言わずに首を振っているが、その目は不気味に笑っていた。

 「くくく……、残念だけど、教えないよ。僕ちんの仕事は、一人でも多くの人をここに留まらせることだからね」

 玉蟲は再び口を押えた。

 「ふーん、どうやら当人は相当お喋りだそうだな」

 漸く寒田が起き上がり言った。

 「今までどうしてたの」

 雨水がそう言うと、寒田は怒りながら言った。

 「そんなの俺が聞きたいわ。転ばされてから暫く起き上がれなかった。恐らく奴の恩寵だろうな」

 「どうにかして、あの子を止めないと。何だがとても嫌な予感がするの」

 そう言うと、雨水が掌に水を貯める。

 (訓練後に入念に水を貯めておいて良かった!訓練で成長した私!頑張れ!)

「おい、もう限界じゃないのか?」

 寒田がそう言うと、雨水は微笑みながら言った。

 「限界なのは寒田君もでしょ?私だけが楽をするのは私自身が後悔する」

 それを聞いた寒田は微笑んだ。

 「よろしくね、“冷太”君!」

 雨水がそう言うと、頭上に巨大な水の球体を出現させた。雨水はそれを玉蟲に向かって投げつけた。その球体は三人を包み込んだ。

 (この球体は、音を一切通さない水球……。というか疑似的に水中にする球体……!息は続かないけど、冷太君なら……!私見て来たから!彼の恩寵は……)

 そのときだった。雨水の作り出した球体内部から、突如として玉蟲を氷漬けにした。

 「……よく分かってるな。俺の恩寵が氷の温度も操れることに」

 球体は崩れていく中で寒田がそう言った。

 「うん、だって……」

 雨水は続きを言わなかった。

 「寒田君!雨水さん!」

 そのときだった。水田寺が漸く現れた。体中に葉や枝がくっついていた。

 「遅い。水田寺先生、一体何してたんですか」

 寒田がそう言うと、水田寺は頭を掻きながら言い訳をした。

 「しょうがないじゃないか。数分前まであそこの山の麓まで吹き飛ばされていたんだからな!」

 水田寺はそう言いながら、大江山を指さしていた。水田寺は氷漬けになっている玉蟲を見て、驚きの声を上げた。

 「まさか!君たちがこの子を確保したのかい!?」

 二人は頷いた。その様子を見た水田寺は、二人を抱きしめた。

 「凄いぞ!凄い!!訓練の成果が出ているじゃないか!!私が不甲斐ないばかりに申し訳ないね。二人は真田先生の所に行きなさい。後は私に任せなさい」

 水田寺がそう言うと、水田寺の元から離れた。

 「そこにいるのは誰だ?」

 水田寺は燃え盛る木々に向かって話しかけた。すると、木々の陰から一人の男が現れた。水田寺はその男の格好を見て、愕然とした。全身特に口周りが血塗れであり、片手には植田の腕だと思われるものを持っていた。それは重杉だった。

 「お前……!あの重杉(おもすぎ)力也(りきや)か!?」

 水田寺がそう言うと、重杉は何も言わず口を開いた。

 「あ~あぁ、良い獲物が獲れそうだったのにな」

 重杉の目は水田寺を見ておらず、ただ雨水を見ているようだった。

 (コイツ!……人肉嗜食(カニバリズム)持ちか……!厄介だな)

 水田寺は雨水が残した水を操り、大型の斧を精製した。

 「“(みず)精製(せいせい) 消防(しょうぼう)(ぎゅう)()”!!」

 水田は巨大な斧を持つと、重杉に向かって振り上げた。

 「わざわざ技名言うて、面倒やろがい……!」

 重杉は深く腰を落とすと、拳を水田寺に向けた。その瞬間、水田寺が大きく吹き飛んだ。

 (なんだ!?触れてないのに攻撃を受けた!?こいつの恩寵か?)

 水田寺は再び吹き飛んだ。

 「だが、同じ轍は踏まんぞ!」

 水田寺は前もって水の縄を精製し、腰に巻き付けていた。更に縄の性質を忠実に再現したことにより、元に戻る力が働き、水田寺は勢いを増しながら戻ってきた。

 「“水増(みずまし) 牛突(ぎゅうとつ)猛進(もうしん)”!!!」

 水流によって回転を加え、ドリルのように回転した。重杉はだるそうに指を空に向けると、重杉の目前の地面を唸りながら捲れるように重杉の前に聳え立った。聳え立った地面は水田寺の攻撃を防ぎ、水田寺を飲み込もうとした。水田寺は回転でそれを脱し、再び距離を取った。

 「君、強いね。どんな恩寵なんだい?」

 水田寺は何とか聞き出そうと話しかけたが、重杉はただ不気味に微笑んでいただけだった。

 (まあ、そうだよな。そう易々と教えてくれないよな……)

 「俺の恩寵は、“重力”や。俺が貴様に教えた理由(ワケ)、分かるよな?」

 重杉がそう言うと、水田寺は首を傾げた。

 「俺は今闘いに飢えてるんや!昨日から目ェ付けてた(ちち)のデカい若ェ女の体は、柔らかくて美味いのによォ!邪魔、すんなや!!」

 重杉は咆哮を上げると、辺り一面が大きく揺らいだ。水田寺は身の危険を感じ構えた。重杉は両手で球体を作るように体を作った。掌の間から時空の歪みが見えた。重杉がそれを放つと、その球体はあらゆるものを巻き上げ巨大になっていく。水田寺は水の含んだ泥を巻き上げた。

 巨大な爆発音が辺りに響いた。


 水田寺や雨水、寒田が玉蟲を見つけたときとほぼ同時刻、植田と酌斗は酌斗の務めている店に着いた。店には火が燃え移り、音を立て燃えている。

 「おじいちゃーん!!」

 酌斗が四方八方に叫ぶが、髭切は返事をしない。

 「あれは!?」

 植田は炎でよく見えないが、倒れている髭切を見つけ指さした。酌斗は髭切の元へ走る。しかし、髭切を見た酌斗は、声にもならない声を上げ、腰を抜かして倒れた。植田が駆け寄るとそこには、首が喰い千切られており、四肢もバラバラになった髭切がいた。

 「なんだこれ……。熊にでも襲われたのか?」

 植田はあまりの凄惨さに後退った。酌斗は隅で吐いている。そのときだった。

 「ああ!やっぱり老人は肉がなくて喰った気がしないわ!」

 そこには重杉が口に付いた血を腕で拭って立っていた。体には返り血が大量についていた。

 「“喰った”だと?」

 植田が訳も分からず反芻した。

 「ああ、喰った」

 男はげっぷ交じりに答えた。

 「カニバリストか……」

 植田がそう言うと、重杉は不気味に微笑んだ。

 「世間だとそう言うらしいな。……今まで喰った中で一番美味かったのは、ガキの尻と女の上半身だ!今興味があるのは、ガキの体ァ!!」

 そう言って重杉は、酌斗に向かって飛び出した。植田は叫んだ。

 「逃げて!」

 植田が叫ぶと、酌斗は出入り口に向かって走り出した。植田は窓の外から木を伸ばしてきた。男に巻き付こうとするが、巻き付けることができない。

 「どういうことだ?」

 「俺に拘束は効かないぜ!」

 重杉は植田に向かって、大きく口を開いた。重杉の口の縫い目は裂け始め、涎が溢れていた。

 「ガキの体の次は、マッチョの筋肉も喰いたいんよな!!」

 植田は恐怖を抱きながら、右手で五本の鋭い根を飛ばした。その巨大な根は、重杉の顔の右半分を襲った。重杉の左目や血を吹き飛ばしながら、植田の右腕を噛み千切った。植田はあまりの痛みに顔をしかめた。

 「ぼんじりみたいで美味いなァ!」

 重杉はバキバキと骨を砕きながら咀嚼している。口からは赤黒い血が溢れている。植田は大きく太い根で止血する。

 「まだ喰えるところはあるなァ……」

 重杉は植田のもう片方の腕を見つめた。植田は左腕を根で纏い、身構えた。重杉は再び襲い掛かった。


 酌斗は、走りながら過去の記憶が蘇っていた。

 (ああ、僕はいつもこうだ!誰かに助けられてばかりで、迷惑ばかりかけている!)

 酌斗は小さい頃に親から虐待を受けていた。彼の父親はギャンブル依存症で、昼間からパチンコや競馬などに明け暮れ、金がなくなれば、母親から巻き上げていた。彼の母親は、ほぼ一人で酌斗を育て上げ、夜遅くまでパートでは働き、育て上げてきた。

 そんなある日。パチンコで大敗し酔って帰ってきた父親が、いつもの如くお金を要求した挙句、酌斗に飲酒を強制した。しかし、母親の金は底を尽きていた。それに逆上した父親は母親を空き瓶で撲殺したことで、酌斗の恩寵が発現した。酌斗は齢六歳で父親を殺した。その後、とある老人に助けられ、その老人の友人である髭切の元で働いている。

 (僕の恩寵は、人を殺すことしかできない!)

 そのとき、店の方から植田の呻き声が聞こえた。酌斗は走る足を止めた。何故、足が止まったのか自分でも分からなかった。酌斗は数秒動かず、ただ地面を見つめていた。意を決心したかのように振り返り、店に戻った。店に戻るとそこには、両腕のない植田が倒れていた。重杉は見当たらなかった。

 「植田さん!」

 酌斗は植田の元へ駆け寄る。

 「……やっぱり、戻って、きましたか。君……なら、そうすると、思って、ました」

 話すことさえも辛そうな植田を酌斗は抱きかかえる。

 「ごめんなさい!僕のせいで!僕のせいで!」

 酌斗は何度も言った。

 「僕こそ、……申し訳ない。奴を、止めることは……できなかった。これでも、教師……だった頃は、何度も、生徒を、……護って来たんですが、どうやら……、ここまでのようですね……」

 植田は、酌斗の顔を見て優しく微笑んだ。

 「君は……優しく、強い子だ。だから、自分に、自信をもって……!」

 それだけを言い残し、植田は静かに目を閉じた。酌斗の瞳から涙が零れ落ちていく。酌斗は周りを見回す。酒は殆ど割れているが、少しだけ酒が残っていた。酌斗は酒に向かって歩みだす。そして、酒を手に取り吞み始めた。零しながら飲んでいった。すると、酌斗の体がみるみる内に大きくなっていく。着ていたタキシードは破れ、額には二本の角が生えていく。

 「久しいの、酌斗。何年ぶりだ?我を呼び申したのは」

 明らかに酌斗の声とは違う低い声が、酌斗の口から発せられていた。

 「一大事なんだ。説明は省くけど、助けてくれ。あのときみたいに」

 「……うむ」

 一人で、二つの声を発しながら会話している。

 「何処へ向かえば良いのだ?」

 「あそこに見える家みたいな所だと思う。とんでもない強いやつがいる」

 「強者(つわもの)か。悪くないのォ……」

 酌斗はそう言うと、天に手を掲げた。すると、物凄い勢いで金棒が降ってきた。それを強く握ると、金棒に向かって話しかけた。

 「おお……、“煉瓦(れんが)”!久しいの!」 

 酌斗は煉瓦を軽く振ると、足を屈伸した。すると、宿舎に向かって飛んで行った。


 重杉は辺りを見渡し、よだれを垂らした。その様子はまるで獣だった。その姿に後退っていく。そのとき、重杉に大きな氷が覆われた。

 「冷太君!流石にやり過ぎではないでしょうか!」

 雨水がそう言うと、寒田は遮るように言い放った。

 「雨水さん!さっきのを見ただろ!?コイツはあの水田寺先生を負かしたんだぞ!?」

 寒田は倒れている水田寺を指さした。

 「今の状況は、人災者の捕獲ではなく正当防衛としてアイツを殺すしかないんだ!」

 寒田はそう言うと、手で大きな氷塊を作り上げた。その氷塊は大きな槍へと変貌した。

 「“(ひょう)(おう)神器(じんぎ) 三叉(さんさ)(そう)”」

 「お前もわざわざ技名を言う人間かァ……。おもろないのォ……」

 重杉は覆われていた氷を砕いた。重杉は首を鳴らしながら歩み寄って来ながら巨大な氷の槍をも砕いた。そして、重杉は言い放った。

 「良い練度やったでェ。だが、俺には敵わへんで。理由、教えたろか?」

 重杉はそう言うと、手元に合った少し大きめな岩を頭上に投げ上げた。そのまま落下した岩は重杉の頭上に落ちると、重杉に直接当たるわけではなく、重杉に沿うように地面に落ちた。

 「分かったか?俺の体の周りには極薄の重力の層を纏わせてるんや。つ・ま・り、よほどの衝撃や内部からの衝撃でない限り、俺への攻撃は通じへん」

 (嘘だろ?そんな恩寵の使い方、できるのかよ……。だがしかし、消費量の多そうな恩寵の使い方だな……。長期戦ならこちらにも分があるはずだな)

 「わざわざ弱点開示、ありがとうな!」

 寒田がそう口にすると、地面に触れた。すると、辺り一面が氷に覆われる。

 「“(ひょう)(おう)神器(じんぎ) (かい)(おう)羽衣(はごろも)”」

 寒田や重杉の吐息は白く、重杉は吐血した。

 「無理するな、この技は対象者の内部から凍らせる技だ。無理に動くと悪化するぞ」

 寒田はそう言うと、得意気に微笑んだ。しかし、重杉は余裕のある表情だった。

 「惜しいなァ……。技名以外は良い線行っとると思うやけども。捻りが足りんわ」

 そう言うと、重杉は何もなかったかのように動き出した。

 「何!?どういうことだ?」

 「重力を操るっちゅうことは、空気すらも干渉してしまうんや。つ・ま・り、俺は空気の重さすらも間接的に操ることができるんや。今は冷気を上空に移動させているところや」

 寒田は成す術なく腕を降ろした。次の瞬間、寒田の間合いに入った重杉は、寒田を吹き飛ばした。

 「冷太君!!」

 「ええなァ。人が絶望する顔は何度見ても心地ええのォ!」

 そのときだった。

 「今までよく頑張ったな、寒田」

 吹き飛ばされた寒田を空中で抱きかかえたのは、ジョンだった。ジョンはゆっくりと地面に降り立つと、寒田を静かに降ろした。ジョンの横には炎司、波場もいた。

 「どうしてここに?」

 寒田がそう言うと、ジョンは言った。

 「クラスメイトの避難が完了した。皆、確実に安全な場所にいる。後は君たちだけだ」

 ジョンがそう言うと、波場は話を続けた。

 「真田先生に滅茶苦茶止められたんだけどさ!友だちのピンチに駆けつけないほど大人じゃないからさ!」

 波場はそう言うと、親指を綺麗に挙げた。その様子に寒田は微笑んだ。

 「水田寺先生にもこのことは伝えた。この道を真っ直ぐ行けば着く。俺たちはお前らを護る。だから行け」

 炎司がそう言うと、寒田は頷いた。雨水もやって来た。寒田は雨水の肩を借りて、二人は避難所へ向かった。

 「……あの寒田がここまでやられたんだ。相当強いぞ、アイツ」

 ジョンがそう言うと、炎司は頷いた。すると、波場が重杉に向かって歩み出した。

 「お、おい!波場!」

 ジョンが制止したが、波場は手を振りながら笑っていた。

 「大丈夫、大丈夫!相手は中学生だろ?なあ!仲良くしようぜ」

 重杉は拳を握りしめ、波場に向かって殴りつけた。その衝撃が波場を襲った。

 「“(テン)()”!」

 波場は咄嗟に防いだ。

 「おっと、やっぱり物騒だな!」

 「波場!さっき言った通り、炎司の作戦を実行しろ!」

 ジョンがそう言うと、波場は頷いた。炎司は両手に炎を纏わせた。炎司が炎を放つと、重杉の周りに火柱が立った。その中に波場とジョンが突撃した。

 「何やこの火は!色も可笑しいし、消せんぞ!?」

 重杉は体の炎を手で払っているが、一向に消えることはなかった。そのときだった。空中からジョンのジェットで加速した回転蹴りが重杉に炸裂した。

 「“月面宙返踵蹴り(ムーンサルト・ストンプ)”」

 重杉は凄まじい衝撃に片膝をついた。

 (よし!まずは完璧だ!この合宿で編み出した俺の新しい技!)

 重杉は俯きながら不気味に微笑んだ。波場は間髪入れずに重杉の間合いに入った。拳には二層の衝撃波を纏っている。

 「“二重波々(にじゅうばば)”!!」

 攻撃を喰らった重杉は、宙に浮いた。更に空中で同じ衝撃を喰らい、更に吹き飛んだ。

 「この攻撃は、内部からも衝撃を受けるんだぜ!」

 波場が得意気にそう言った。しかし、重杉は未だに微笑んでいる。そのあまりの不気味さに二人は悪寒を感じる。

 「どいつもこいつも技名を……、つまらんの!」

 重杉がそう言うと、咆哮をあげる。異変に気付いたのは炎司だった。

 「体が……、重い!ジョン!波場!大丈夫か?」

 しかし、二人の返事はない。波場は地面に這いつくばっている。ジョンは空中で回転し続けている。

 「……どういうことだ?」

 炎司がそう言うと、重杉は楽しそうな表情で答えた。

 「ここ一面の重力を操らせたで!歩くと重力で押し潰されるし、飛ぶと無重力で浮いてしまうで!」

 重杉はそう言うと、声を高らかに笑っていた。

 「更に、俺に今掛かっている重力は、普段の十分の一や!つ・ま・り……」

 次の瞬間、重杉は炎司の腹部に拳をのめり込ませていた。炎司はあまりの重い拳に、跪いて吐瀉(としゃ)した。そのまま、重杉はジョンを拳で撃ち落とし、波場を蹴り上げた。三人は成す術なく山積みになった。重杉はその頂点にゆっくりと降り立つと、両腕を上げて大声で笑っていた。そのときだった。

 「“人泣(ひとなき)”!!」

 重杉は突然吹き飛んだ。重杉は訳が分からないまま木々を倒していく。そこにいるのは、酌斗であった。しかし、以前の様な貧弱な姿ではなかった。酌斗は炎司を見ると、嬉しそうに言った。

 「久しいの!炎司殿」

 癖のある話し方に、炎司は声を掛けた。

 「その口調は……、童子か?」

 「そうじゃ、そうじゃ!」

 酌斗はそう言うと、手を叩いて喜んでいた。

 「“寝てるのか?”」

 炎司がそう言うと、酌斗は頷いた。

 「久し振りの交代に疲れたと言ってな……。それより、先程の攻撃は興であったぞ。一体、誰がやったのじゃ?」

 炎司は静かに重杉を指さした。男は金棒を重杉に向けた。

 「其方(そなた)か!実に面白い攻撃であったぞ!だが、足りんのお!やはり儂を満足させるのは、“太陽”か“月”だけじゃの!ワッハッハ!」

 酌斗が豪快に笑うと、倒れた木々から重杉は抜け出してきた。

 「なんやワレ……、偉そうにィ!」

 重杉は男に襲い掛かる。重杉の拳は軽く止められ、赤子を扱うかのように軽々と投げた。一体何が起きたか分からない重杉は、思わず首を傾げた。

 「其方、見覚えがあると思ったが、儂の器を育てたご老人を殺めた男か!……人を殺した罰は高くつくぞ?」

 酌斗の眼光に重杉は、今で感じたことないほどの恐怖を感じ、後退った。

 「儂は、『徒陰』酒柱じゃ!死ぬまで、いや、死んでも覚えておけ!」


 「ねえ、憾咲さん!さっきの見た!?あれはまるで昔に出てくる鬼だったよ!」

 A組の学級委員である土田(つちだ)(めぐみ)は、走りながら夢に話しかけた。

 「ええ、そうね……。それよりもあの三人組が心配だわ。水田寺先生たちが帰って来たから私たちが学級委員として向かうことが許されたけども、先生のあの傷、相当な手練れがいるに違いないわ」

 (もしものときは、私が……逮捕する!)

 夢がそう考えていると、土田は足を止めた。

 「待って憾咲さん。私たち、もう必要ないかも」

 土田はそう言うと、視線の先に指を向けた。夢はその先を見ると、そこには重杉と酌斗が対峙していた。

 「あれは……!重杉力也!」

 夢がそう言うと、土田は夢の発した名前を反芻した。

 「奴は中学生にして、何十人も殺してきた殺人鬼よ。奴はカニバリストに加え、残虐非道な行いから全国指名手配されている……。しかも今までで負けたことがないはず……。だったはずなのに」

 夢は会話を続けてたはずだったが、そこには、重杉を跪かせている酌斗の姿が見えた。

 「……クソが!」

 重杉は体を思い切り起こすと、酌斗に向かって殴りかかった。

 「“鬼避(きひ)”!」

 酌斗は煉瓦を重杉に投げつけると、地面が抉れ、重杉も吹き飛んだ。

 「この技は、儂の同族である鬼ですら避ける投擲と称して……」

 「ダセェ!わざわざ技名言うとかダセェわ!」

 重杉がそう叫んだ。

 「青いのォ。其方、まだまだじゃな。良いか?技名を言うのは、とても大切なことなのじゃぞ?技名を唱えることで、身体がそれに反応する。それは本来の力を出すかそれ以上に力を出せることでもある。このようにな!」

 酌斗がそう言うと、煉瓦を斜めに振り上げた。

 「“神畏(じんい)”!!!」

 酌斗が煉瓦を振り下ろすと、重杉の体を断つかのように斬りつけた。傷口から血が噴き出した。

 「ク、クソがァ……!!」

 重杉がそう呟くと、倒れ込んだ。息はまだある。死んではいないようだ。酌斗はそれを見届けると、倒れ込んだ。どうやら酔いが回ったのか、その場で眠ってしまったようだ。


 その後、真田が通報したことで、玉蟲、重杉が逮捕された。二人は一度警察病院に送られるそうだ。

太陽は既に顔を覗かせており、夜中の火事から七時間も経過していた。怪我人は夫丈高校生には少なく、数名の重軽傷者と一名の死亡者を出した。


 数日後、酒井髭切の葬式が執り行われた。規模は小さかったものの、人望は厚かったらしく、最後まで彼の名前を呼ぶ声が聞こえていた。酌斗は店を引継ぎ、大江山に残った。一方夢は、『徒陰』の酒柱が現れたが、戦力差や周りの目を気にしたことで捕らえることはなく、本部にも報告はしなかった。

 不運な事件が起きた合宿であったが、無事に終えた生徒たちは、夏休みを迎えることとなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ