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目にはさやかに見えねども  作者: 楪羽 聡
第十五章 しっぽの気持ち
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#298 学校祭、始まる #18

「さぁやは、やっぱ素直だねえ。そーいうところもかわいいなぁ」

 唐突にマサキはあたしの頭をくしゃくしゃと撫でた。

「え、ちょ……耳」

 咄嗟に頭に手を伸ばし掛けて思い出す。

「あ……そうかさっきはずしてたっけ」


「やっぱさぁや、面白いわ」と、今度はくつくつ笑い出す。

「さっきからなんなの? あたし、なんか変なこと言ってる?」

 口を尖らせながら髪を直していると、マサキは笑いながらこたえた。

「変ってか、まぁ変っちゃ変だけど――自覚ねえなぁ相変わらず。大丈夫なのかよ……俺もう遠慮しねえぞ?」


「……なんの話?」

 マサキが『遠慮』って言葉を出すのって、その……つい警戒する。

 でも、マサキはあたしの『お兄ちゃん』ってことになったんだよね?

 じゃあ別の何かなのかしら。


「まぁいいやそのままで。しばらく教えてやんねえ。そっちの方が面白ぇし、都合いいしよ」

 くくくと喉の奥で笑う声。

「えー、教えてくれないなんてずるい……」

 よくわかんないけど、さっきからマサキばっかり面白がっている。

 あたしがなんか変なことしてるんだったら、他の人に笑われる前に教えて欲しいんだけどなぁ。


 マサキはこたえず、机を背もたれ代わりにして背を伸ばした。

「それよか、最近ずっとドタバタしてたじゃねえかよぉ。いい加減疲れて来たんだけど……さぁやは?」

「あ、うん、そうだね。でも楽しいから――」

「だからちょっとだけ……癒しが欲しいなぁ、って」

 伸びた姿勢のまま、マサキはあたしにもたれ掛かる。左腕はそのまま背中側に回り、あたしの肩に手を乗せた。


「あの、マサキ……癒しって。でも」

「誰もいないから暗室と変わんねえだろ?」

 すぐ耳元でぼそっとつぶやく声は眠たそうな感じにも聞こえる。

 でもここって、いつ誰が来るかわかんないし、広いし明るいし……マサキの顔が見えるからいつもより全然恥ずかしいよ。


「変わんなくないよ……」

 かろうじて言い返した声は緊張して喉に詰まる。

「今更何言ってんだよ。つーか俺ちょっと寝るわ……おやすみ」

 マサキはクスクス笑い、右腕をあたしの前側から回して机の上に倒れ込んだ。

「え、この体勢で寝るの?」

 あたしはマサキの右腕を抱えるような格好になった。これじゃ動けない。

 でもマサキは眠そうな唸り声で返事をしただけ。


 どうやらそのまま左腕を枕代わりにして寝てるっぽい。あたしの背中の右側にマサキの頭が当たってる感じがする。

 動けないのも困るけど、マサキも不自然な格好でつらくないのかな、って思うんだけど。

 じわじわと熱が伝わって来る。体温というよりは、吐息の温度なのかな。

 くすぐったいような、かわいいような気持ちも湧いて来る。


 ……マサキにかわいいって思うのは、やっぱりちょっと変な気もするけど。



 ふいに、マサキの右腕の重さが増した。

 あたしの左肩のとこで組んでいた手がほどけたみたい。机に左手が当たったらしい、軽い音が聞こえた。

 このまま腕を抱えてると、そのうちあたしの方が疲れて来そうなので、そのままそっと下ろす。


 お腹の辺りにほんのりとマサキの腕の熱が伝わるのは、なんだかちょっと恥ずかしいけど。寝てるから平気よね?

 あたしが動くとマサキが落っこちちゃいそうで、下手に身じろぎできない。

 猫とか赤ちゃんを抱っこしている間に寝られると動けなくなる、っていう話を聞くけど、こんな感じなのかしら。


 廊下からは相変わらず女子の歓声や足音が聞こえて来る。歩いてる音。パタパタ走っている音。

 先輩の名前を呼ぶ声――あ、今通った子、かんちゃん先輩のファンなんだ……


 他に動かせるものは視線くらいなもので、窓から見える北側の空に流れる雲なんかを眺めたりして、結局いつまでこうしていればいいのか……と少し悩んだ。



 * * *



 ブーン……と、どこかで携帯のバイブが振動している。

「あれ、あたしの携帯ってどこに置いてたっけ……」

 起こさないように、そっと伸び上がりながら見回す。でも先にマサキが起き上がった。


「あぁ、俺のやつだわ……メール、やっと来たか」

 ふわぁ……とあくびをしながら携帯を開いているマサキ。

 あたしの背中にくっついていた熱がなくなり、急激に冷えて行く。

「あー、高橋から直接メール来たわ。やっと抜けられそう、だってよ――今何時だっけ?」


 ぶつぶつ言いながら携帯の画面を見る横顔は、まだ少し眠そう。

 そういえば普段のマサキって、時間があればいつも寝ているんだっけ。

 今日は寝られるようなタイミングも場所も全然なかったし、お昼食べたあとだったから余計に眠たかったのかもね。


「つーかさぁや、邪魔だったらよけてもよかったんだぜ?」

 マサキはくすくす笑いながら言った。

「あたしがよけたら落っこちちゃうじゃない……できないよ」

「ふぅん……俺じゃなくて、他のやつでもか?」


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