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目にはさやかに見えねども  作者: 楪羽 聡
第十五章 しっぽの気持ち
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#297 学校祭、始まる #17

 マサキは携帯を置き、あたしの隣の椅子に移動して顔を覗き込む。

「ばぁっか。お前、いつもすげー顔に出てんだよ……ってか」

 言葉を切ると、咳払いをした。

「こないだの……変な顔と同じだったぜ――あの時も、そんなこと考えてたのかよ?」

 ぼそっとつぶやいたマサキは視線を逸らせる。


「いや……別に」

 あたしもマサキから自分の足元へ視線をずらす。手持ち無沙汰な両手を、ついもぞもぞと動かしてしまいそうになる。

 あの時って言われても、実は心当たりが多過ぎて下手なことが言えない。


 でもあたし、無表情って言われることが多いんだけどな……さっきだって、なるべく顔に出さないようにしてたつもりだったし。

 なのにどうしていつも、マサキにはわかっちゃうんだろう。

「何が『別に』だよ、っての……」

 マサキの声は少し不機嫌そうだ。

 この声を聞くと、また怒らせてしまったのかも、と心配になる。どうしよう。


「――ってか、耳、赤いってえの」


 予想に反して、マサキはそう言いながらふぅっと息を吹き掛けて来た。

 驚いてびくっとしてしまい、あたしは慌てて耳を押さえ振り返る。

「やっ、もう、な、なにすんのよっ」

「すげー慌てんのな。元気出たか?」とマサキはケラケラ笑う。


 なんだ。怒ってない……っていうか、じゃあさっきのは引っ掛けだったの?

「元気なくないし。っていうか、変な顔って何よ」と、勢いで言い返す。

「気にするとこそこかよ……かわいくねえ顔ってことだよ」

「か……って、もう」

 やだやだ……今絶対、顔が赤い。ストールの中が暑いよ。


「んだよ。もう俺散々言ってるから慣れたかと思ったのになあ? さぁやはかわいいねえ? ってか、みったくねえ顔してんじゃねーよ。ほら笑え」

「そんな簡単に慣れるわけ――」

 言い返そうとするとマサキにほっぺたをぐにぐにとつままれる。いたいいたい。

「っへいぅは、やぇへよー」と、抵抗して手をようやく払った。



「ところでよ。うち、猫がいるんだけどよ」

 あたしが眉間に皺を寄せながらほっぺたをむにむに直していると、マサキはまた唐突に話題を変える。

「うん? 猫? 飼ってるんだ?」

「猫、飼ってる。黒いやつ――今こんくらいの大きさ。で、そいつってさ、まぁ割とツンとしてるわけ、猫だから」

「うん」


 うちにはウサギがいるけど、一時期増え過ぎちゃって小屋を作らなきゃいけなくなって……今ではただ『飼っている』ってだけになっちゃったな。

 ウサギは抱っこしようとしても逃げちゃうし。

 猫の方が一緒に遊べそうでいいな。でも、ツンとしてるってことは、遊んでくれないのかなぁ?


「でもよ、そいつ……くろにゃんっていうんだけど、くろにゃんが何考えてるか、俺はだいたいわかるわけよ」

「ふぅん……飼い主だから?」

 うちのウサギたちが何を考えてるかは……全然わかんない。時々怒って脚を鳴らす時もあるけど、あれもなんで怒ってるのかわかんないし。

「まあ、それもあるけど、猫って顔に出さなくても感情がモロバレなんだよな」

「へえ……なんで?」

「知りたいか?」

「うん」


「そっかぁ……」

 続けてマサキはくくくっと笑う。

 うーん? なんでそんなにもったいぶるの?

「でも教えねえ」

「はあ?」

 じゃあ今までの話はなんだったの?


 マサキって時々、こんな話し方するよね。女子なら唐突に話が飛ぶのもわかるけどさ、マサキのはいつもどこか思わせぶりなんだもの。

 だから教えてくれないと、余計に気になってしまう。


「知りたかったら、実際猫触ってみりゃいんじゃね? 今度うちの猫と遊ばしてやるよ」

「え、でも……」

 猫って、知らない人と会うと警戒するって話を聞くんだけど。あたしが突然会っても、遊んでくれるのかなぁ?


「うん? ひょっとしてさぁや、猫苦手だったか? なんか好きそうだと思ったんだけどよ?」

「うん、好き。でもうちの近所はノラ猫を撫でるくらいしかできなくて……えっと、じゃあそのうち」

「そのうちねえ……まあいいけど」



 その前に、買い物以外の用事であたしひとりだけで出掛ける、なんてことができるんだろうか。

 どこに行くのかとか何時に帰るのかとか、しつこく訊かれそう。嘘をついてもバレそうだし……

 買い物でさえ、ひとりでこの街を出てよその街に行くなんてしたことない。


 去年のG.W.(ゴールデンウィーク)は列車で親戚の家にお泊りしたけど、駅まで母さんに送られて、向こうの駅に七つ上の従兄(いとこ)が迎えに来てくれて――


「バスに乗んなきゃ来れねえよ?」

「えっ? あ、うん」

 また顔を覗き込まれて慌ててこたえる。いけないいけない……またひとりで考え込んでた。

「そっか。バスに乗らなきゃいけないんだ……」

「へえ」


 今度は何故かあたしの顔を見ながらニヤニヤする。

 うーん……? あたしまたなんか変なこと言ったかなぁ?


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