#295 学校祭、始まる #15
「智ちんせんぱぁい、お茶淹れますけど、何がいいですか?」
おしのちゃんが電気ポットの電源を入れた。
「あー……じゃあほうじ茶ある?」
智ちん先輩が、目をしばたたかせながら振り返った。お弁当箱をトートバッグに片付けて、雑誌に集中していたみたい。
ほうじ茶、ほうじ茶……と、おしのちゃんは歌うように節をつけながらお茶のパックを探し始めた。
「あたし、お番茶とほうじ茶とお煎茶の違いがよくわからないのよね」
猫耳をはずして、お弁当と猫の手と一緒に机に置きながらつぶやくと、美晴は目を丸くした。
「え? 全然違うじゃない?」
「あ、えっと、お番茶とお煎茶の違いはわかるけどね」
あたしは慌てて付け足す。
「でも、ほうじ茶とお番茶の違いがよくわからないくて……普段飲まないからなのかも知れないけど。あと、それぞれの作り方っていうの? そういうのはもう全然知らないし」
日本茶と紅茶とウーロン茶の製法の違いなら、一応わかるんだけど。
「同じじゃないの? ほうじ茶と番茶って、どっちも茶色いお茶よね。だから、番茶の正式名称がほうじ茶とか?」と、美晴は首を傾げる。
「じゃあ、緑茶とお煎茶は?」
「……同じじゃない?」
美晴と顔を見合わせて、首を傾げ合う。おしのちゃんの方を振り向いてみると、おしのちゃんも肩をすくめた。
つまりみんな、そんなに詳しくないってことね。
「後で金山さんに訊いてみようかぁ」
「金山さんなら知ってるかな」
「知ってるんじゃない? 金山さんのお茶とかコーヒーに関する知識って、ちょっとすごいよね」
「単なる趣味の範囲を超えてるよねぇ」
そんな話をしている間にお湯が沸いて、おしのちゃんが手早くお茶を淹れる。
「おしのちゃんは、お茶を淹れることにすっかり慣れちゃったわね」
美晴が感心するようにつぶやいた。
「マサキがおしのちゃんをここに呼んでから……あれって一学期の中間テストの頃だったっけ」
おしのちゃんがこの部室に来るようにななったのって、ここの学校の『裏サイト』でのトラブルがきっかけだったんだよね。
その件に関してはその後も色々あったけど、そのお陰でおしのちゃんが入部したし、あたしが遭ったトラブルも解決して、森本くんも入部することになって……
何が幸いするのかはわからないものね。
あの後は、裏サイトでのトラブルも減っているっていう話だし。やっぱりその辺は、高見先輩とその知り合いの人たちが何かやってるのかなぁ。
「マサキくんのお陰かなぁ……王子――あ、高見先輩のお陰でもあるのかな」とおしのちゃん。
「どっちかっていうと、高見先輩の方がウェイト大きいんじゃない?」と、美晴が笑う。
「そうかもぉ」
おしのちゃんも笑いながら、智ちん先輩にお茶を出した。
「ってか、マサキさんが入部するとは思わなかったもんなぁ……」
つられるように、ぼそりと智ちん先輩がつぶやく。あたしも美晴もおしのちゃんも、きょとんとして先輩を見た。
「……んだよ」とマサキが苦笑すると、智ちん先輩は「あ、悪い……今の独り言」と、慌てたような表情で付け足した。
なんとなくそれ以上は訊いちゃいけない気がして、妙な沈黙が流れる。
どうしよう……何か言わなくちゃ。でも、こういう時って何を言えばいいの?
「ってか、まだお湯残ってっか? あったら、俺カップ麺作ろうかと思ってたんだけど」
「あ、うんあるよぉ。多分足りると思う」
沈黙を破るようにマサキが声を上げて、おしのちゃんはほっとしたようにこたえた。
あたしたちも思い出したように椅子をがたがたと移動させ、技術室の後ろの方に固めてある机の近くに寄せた。
学校祭の間は不特定多数の人たちが部室に出入りするため、普段使用しているコップなどは出しておけない。ポットや急須は使ってるけど、飲み物には紙コップを使用することになっていた。
あたしとおしのちゃんでお茶を用意して、お盆に載せた。それからマサキのカップ麺にお湯を入れて、それもお盆へ――
「あっ」
紙コップに手が当たり、お盆の上にミルクティーがこぼれた。
「あぁ、どうしよう……」
あたしは慌ててカップ麺を置き、他のコップも持ち上げてよける。
慣れてないから気をつけよう、と思っていたのに……あたしってこういう時に必ず失敗しちゃうんだよなぁ。
「大丈夫? やけどしてない? お盆の上でよかったね」と言いながら、おしのちゃんが布巾を持って来てくれた。
「うん、でも折角入れてもらったお茶なのに」
「お茶も牛乳もまだあるから大丈夫だよぉ」とおしのちゃんが笑う。
「でも、もったいない……ほんとごめん……」
あたしがしょげていると、マサキがカップ麺を受け取りに来た。
「そういや、英語にこんな諺があったよなぁ」
ミルクティーを作り直しているおしのちゃんを見ながらマサキが笑う。
あたしは思わずマサキの顔を見た。




