#294 学校祭、始まる #14
お喋りしながら廊下を歩く時も、壁の張り紙に視線が向く。
特に気になるのは、カラフルなイラストが目立つ漫研のポスターと、クイズ同好会の問題の張り紙。
クイズの方はまだ十九問目を見つけてないのもあって、つい探してしまう。
「さやかちゃん、ひょっとしてクイズが気になるの?」と、おしのちゃんが工業棟に向かうドアの近くの問題を指差しながら訊いて来た。
「うん、気になるっていうか――」
「まさか、ひとりで抜け駆けするつもりじゃねえよな?」
急に後ろで声がして、あたしは飛び上がりそうになった。
「……いつの間に追い付いたの?」
振り返ると、購買の袋を下げたマサキがニヤニヤしていた。
「お前らが喋ってて気付かなかったんだろ?」
「絶対、わざとだと思う」
あたしが胸に手を当てながら口を尖らせたら、「さぁなあ」と、マサキは笑って流す。
相変わらずブラバンの部室周辺には女子が群がっていた。今日は工業棟の方では何もイベントがなかったと思うんだけどなぁ。
でも、何もないにしては結構な人数がうろうろしている。
「あの人たち、何やってるんだろう?」
首を傾げていると、おしのちゃんがうなずいた。
「なんかね、練習中とか大会の時の写真を貼り出してあるらしいよ」
「へえ……」
それを見に来てるの? そこまでのファンって人もいるんだ。
「一枚百二十円だったかな?」と美晴が口を挟む。
「売ってるの?」と、思わず声をあげてしまった。
「毎回結構な売り上げになるらしいけど。活動の費用にするんだって。ほら、移動にもお金が掛かるでしょ」
「あぁ……そういえば」
地方大会往復だけでも車が何台か必要で保護者の協力が必要とか、安全面を考えて、生徒たちは列車で行かなきゃいけないとか、かんちゃん先輩から聞いたことがあったっけ。
実力があるからといってもブラバンにばかり予算が割けないから、大会を勝ち進むごとにカンパを募ったりもしてるって……
実力があるってのも大変そう。
「グッズを作って売ろうか、なんて話も時々出るらしよね」と、おしのちゃんが苦笑する。
「ええ? それじゃ本当にアイドルみたいじゃない」
あたしが目を丸くすると、美晴は肩をすくめた。
「そのアイドルたちが嫌がってるから、実現までには至らないらしいけどね」
実力も人気もあると、更に大変なのね。
天文や写真は、年間の予算内で収まる程度の活動しかないからなぁ。
「智ちんせんぱーい、ひとりで留守番なんですかぁ?」と、ドアを開けながらおしのちゃんが問う。
「あー……午後は二年生が交代で来るってよ」
智ちんは部屋の奥に並べた机で雑誌をめくりながら、お弁当を頬張っていた。
「司はちょっと来れなさそうだけど……その代わり、高橋が漫研抜けて来るとか」
「へえ。高橋先輩がこっち優先するなんて、珍しいですね」と美晴。
「まぁ、司の代わりにしょうがなく、とか言ってたけど……あいつ、向こうに居づらいだけだよな、きっと」
後半は独り言のようにつぶやく。
高橋先輩、漫研の原稿はどうなったんだろう……まだだから居づらいのかしら?
「お留守番は二年生なんですねえ」
「初日はね」と、雑誌から顔を上げて先輩がこたえる。
「明日と明後日は一年も留守番当たるから。黒板とこ、当番表貼ってあるから確認しといて」
「え、知らなかった。いつの間に?」
美晴が黒板から剥して持って来た当番表をみんなで覗き込む。
二、三人ずつの当番になっていて、見学者が来た時の対応なども表の下に記入されていた。
「こないだそれの話もしてたけど、まだ当番表ができていなかったからさ……ってか、みんなあんまし聞いてなかったみたいだし」
智ちん先輩は、お弁当箱の蓋を締めながら苦笑する。
「他の当番で抜けられない時は、どうするんですかぁ?」と、おしのちゃんが振り返る。
「んまぁ、この表も絶対じゃないし、プラネタの時以外は閉めちゃうとか、やってたなあ。元々人数少なかったから。ちなみに、今年は部員数が多い方だよ? 特に女子が来るのは金山さん以来じゃないかなぁ」
「そういえば、金山さんもそんなこと言ってましたね」
ずっと男子ばっかりで、ようやく女子が入ってくれた、って。
「え、いつ?」
「結構前。マサキが入部した直後くらい?」
あたしがこたえると、おしのちゃんは「なぁんだ、じゃああたし、まだいない時だぁ」と笑う。
「随分前だなそれ。さぁやはまだ入部できてなかった頃だっけ?」とマサキ。
「あたしの方が先に入部したんじゃなかったっけ? そういえば、挨拶がどうこう言ってたのもその頃だったよね」
四月の終わり頃だからまだ半年も経ってないのに、随分懐かしい気がする。
「『おはようございます』だったっけ。結局定着しなかったわねぇ……あたしはどうしても納得できなかったからいいけど」
美晴も思い返すようにうなずいた。




