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第二話「駄女神、捕獲」

「あの。無理です。」

「は?」

「ですから、呼び戻すのは無理です。」

「……なんとかしろよ。」

「無理です。」

「……。」


無理かぁ~。


てか、そもそもこいつが来た意味って何?

嫌味?


いや、聞いた方が早いか。


「あんたさ。」

「名前、アリアです。」

「……あんた、何しに——」

「アリアです!」

「……。」

「できればアリア様だと、嬉しいな~。」


……うざい。

でも、話が進まない。


「アリアは、さ。」

「はいぃ~~~!」


うっれしそう~~~。

なんか癪だわ。


「……何しに来たの?」

「むん。」

「いや、『むん』じゃなく。」

「……気まずいので、言いたくありません!」


——ペシン!


思わず、アリアの頭を平手で叩いた。

我慢の限界だった。

色々と。


「いひゃい!」

「話進まないから、さくっと言え!」

「……分かりましたよぉ~。」


アリアは、咳払いをして続けた。


「平たく言うと、事故対応です。」

「事故?まぁ、シュウは事故死だけど……。」

「そうじゃございません!この召喚のです!」

「はぁ?」


全然、意味がわかんなかった。

召喚が事故ってことは?

なんだ?


「本来ですね。異世界転生とは、現世で冴えない人生を送った人の救済処置なのです。」

「あんた、さらっと酷いこと言ってるの気付いている?」

「事実ですから。」

「はぁ。」

「で、もちろんシュウさんもその査定の一人でした。」


私は、シュウの人生をそれとなく思い出す。

まぁ、冴えない人生っちゃ人生なのか?

私くらいしか知り合いいなかったしな。


「じゃあ、問題ないじゃん?」

「いえ、問題大アリクイです。」

「そういうのいいから。話進めて。」

「シュウさんは、査定ミスだったんです。」


……査定ミス?

ってことは手違いがあったってことか。

まだ、話は全然見えないけど。


アリアは、そのまま言葉を続けた。


「英子さん。あなたの存在が査定から漏れていました。」

「私?」

「そう!まさか、あんな男を好きな女がいるなんて、夢にも思わないでしょ?」

「あんたは今、少なくとも二人敵を作ったわよ。」

「……ぶたないで!」

「ぶたねーよ。」


でも、シュウは死んでしまった。

救済処置だとして、その事実は変わらない。


「まだ、全然話が見えないんだけど。」

「そーですよね~。ここから先、超話したくないです。」

「話さなかったら、殴るから。」

「ひぃ!」

「あ~、もう!早く!」


頭をガシガシと掻く。

イライラしてきた。


「転生には、この世界で死ぬ必要があります。」

「それは分かったって。」

「逆に言えば、死にさえすれば異世界へ行けるのです。」

「……。」

「ただし、自ら命を絶った場合は対象外です。魂が歪むので、転生処理そのものが成立しません。」

「……急に怖いこと言うじゃん。」

「大事なことなので。」

「……。」

「異世界へシュウさんを召喚するにあたって、本来なら死の瞬間にだけ介入するはずでした。」

「……はぁ?」

「ですが、召喚条件を満たすために、因果が事故の形へ寄ってしまったのです。」

「……つまり?」

「私たちが直接殺したわけではありませんが……。」

「……。」

「止められたかもしれない死を——止めませんでした。」


——ガッ


思わず、女神の胸ぐらを掴んだ。


「じゃあ、何?あんたらがシュウを殺したも同然ってこと?」

「ア、アリアです!そう言われると反論はできません!」

「あんた、今から泣くまで殴るの止めないから。」

「ア、アリアです!……じゃなくて!そのための救済処置なのです!!」


拳が、止まった。


救済処置。

その言葉だけが、やけに引っかかった。


つまり、こいつらにとっても、これは予定通りじゃないってことか。

てか、名前に対する固執が強いな。こいつ。


「救済処置ってことは、何かあんのよね?」

「ふぅ。とりあえず、この手を離してもらえますか?私、女神ぞ?」


……急に強気じゃん。

少し癪だけど、胸ぐらを離した。

アリアは、「最近の若いもんは……」とかブツブツ言っている。


「で、何かしてくれんの?」

「えぇ、まぁ。今終わりましたけど。」

「……はぁ?」

「ですから英子さんに、シュウさんは生きていますと伝えました。」

「……で?」

「以上です。」


再び、胸ぐらを掴もうとした。


——スカッ


アリアは、宙へと浮いていた。


「同じ手を食うかぁ!!間抜けめ!」


マジ、堕天しろこいつ。


「では!伝えることは伝えましたので!」

「はぁ!?」

「私も暇じゃないのです!!」

「……。」


アリアが宙へと登っていく。


させるか。

陸上部なめんなよ。


私はアリアへ駆け出す。

そのまま、走り幅跳びの要領で飛んだ。


——ガシッ


「……え!?ちょっと!!!」

「捕まえたああぁぁぁぁぁ!!!」

「あ、あああ、あああぁぁぁぁ!」


——ベシン!!


アリアを地面へと叩きつけた。

そのまま、マウントポジションを取る。


「さて、本題ね。」

「め、めちゃくちゃ。めちゃくちゃです!!」

「アリア、なんとかして。」

「……。」

「お願い。」


自然と、声が震えていた。

ここで、逃すわけにはいかない。

マジで、あいつに、せめて一度だけでも会いたい。


「……なんで、そこまでするんですか?」

「会いたいからだよ。」

「……違いますよね?」

「はぁ?」


アリアが、私の目を見ていた。

さっきまでのポンコツが嘘みたいに、静かな目だった。


「英子さんは、シュウさんに借りがありますよね。」

「……何の、話。」

「シュウさんは、英子さんを庇っていじめの標的になった。」


——息が、止まった。


「英子さんは、その時のシュウさんを庇えなかった。」

「……やめろ。」

「ずっと、引きずっていますよね。」


声が、出なかった。

出そうとしたのに、喉が詰まった。


マウントポジションのまま、力が抜けた。

アリアの上に座ったまま、拳だけが震えていた。


——知ってるよ、そんなこと。


あいつが、私のせいで標的になったこと。

私が、何もできなかったこと。

あいつがどんどん学校に来なくなって、引きこもりになって。


私は、ずっと見てただけだった。


「……うるせぇな。」


絞り出すように、それだけ言った。

アリアは何も返さなかった。


白い空間に、沈黙が落ちた。







「……分かりました。」


先に口を開いたのは、アリアだった。


「え?」

「ここからは、時間外労働です。」

「あんた、漫画好きなの?」

「アリアですって!!とりあえず、どいてください!」

「……逃げない?」

「逃げません。」

「……。」


とりあえず、二人でその場に座った。

右手はしっかりとアリアの手首を確保して。


「……全然信用してませんね。」

「信用してない。で、何か方法あるの?」

「あります。」


アリアの声が、変わった。

冗談が消えていた。


「異世界との接続には、条件があります。」

「……。」

「シュウさんが、この世界で最も大切にしていた遺品。それが鍵になります。」

「遺品……。」

「シュウさんの魂が、この世界に残した唯一の未練。それに触れることで、異世界との回線が繋がるのです。」


最も、大切にしていた遺品。

シュウが、一番大事にしていたもの。


「……ゲームとか?フィギュアとか?」

「ん~。多分違いますね。マジで。」

「じゃあ何よ。」

「それは、私にも分かりません。」

「はぁ?」

「分かるなら苦労しません。シュウさんの魂に聞かないと——」

「あいつに聞けないから困ってんだろうが。」

「ですよね~。」


……使えない女神だな。


でも、手がかりはある。

シュウが、この世界で一番大切にしていたもの。


シュウの部屋か。

シュウの持ち物か。

何か、思い当たるものを探すしかない。


「一つだけ言えることがあります。」

「何。」

「それは、シュウさんの本心が宿ったものです。表面上の趣味や好みではなく、本当の意味で大切だったもの。」


本当の意味で、大切だったもの。


私は、シュウの顔を思い出す。

笑ってる顔。困ってる顔。バカなことを言ってる顔。


——あいつが、本当に大切にしてたものなんて、私は知ってるのか?


「……分かった。探す。」


立ち上がった。

膝の白い粉を払った。

粉なんかないけど、なんかそうしたかった。


「やってやるよ。」


アリアが、少しだけ笑った。


「頑張ってください。応援してます。」

「応援じゃなくて手伝え。」

「えぇ~……。」


——目が覚めた。


天井が見える。自分の部屋の、いつもの天井。

時計を見ると、朝の五時だった。


夢だったのか。


——いや。


右手を開くと、掌に小さな光の粒が残っていた。

すぐに消えたけど、確かにあった。


「……マジかよ。」


私は、ベッドから飛び起きた。





第二話、お読みいただきありがとうございます!


駄女神、捕獲です。

アリアからすると災難ですが、英子からすると当然ですね。


シュウの死の事情。

英子の後悔。

そして、シュウがこの世界で一番大切にしていた遺品。


次回は、その手がかりを探しに行きます。


このあとも10分おきに更新予定です。

よければ最後までお付き合いください!


ブクマやコメントをいただけると、アリアが泣きながら働きます。

よろしくお願いします!


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