第一話「告白しようとした翌日、あいつは死んだ」
告白しようとした日の翌日、あいつは死んだ。
限定版?のフィギュアを買った帰りに、トラックに轢かれたらしい。
しかも、女の子を庇って、とかなんとか。
よく知らないけど、バカだと思った。
普段は引きこもりのクセに、たまの外出で死ぬなんて。
バカな奴だ。
本当に、どうしようもないくらいバカだった。
それなのに、私はそいつが好きだった。
そいつに、シュウに、言いたいことがあったのに。
「……。」
シュウの葬式は、雨だった。
人は、少なかった。
家族と、親戚と、私くらい。
泣いていたのは、両親だけだった。
私は、泣かなかった。
泣いたら、本当にシュウが死んだことを認めるみたいで。
それが、嫌だった。
—
シュウが死んで、三ヶ月が経った。
私の周りの世界は、普通に動いている。
私だけが、止まっている気がした。
いつも通りに高校へ行って、いつも通りに帰って、いつも通りにベッドに入る。
けれど、なかなか眠れない。
目を閉じると、結局シュウのことを思い出す。
いつもの、夜だった。
—
「……あ、どうも~?」
「……。」
気がつけば、女がいた。
——女神だった。
いや、本当に女神かは知らない。
でも白いドレス。妙に神々しい顔。
もうこれ女神でいいよね、面倒くさいし。
よくわからないまま、身を起こした。
あたりを見ると、白い空間が広がっている。
「……夢?」
「まぁ、はい。夢です。」
「そう。じゃあ、おやすみ。」
眠りが浅いのは問題だ。
授業中に船を漕ぐわけにもいかないしね。
私は、そのまま横になろうとした。
「あ、あわわわわ!ストップ!ストップミー!」
「それだと、止まるのあなただけど……。」
「起きて!起きてくださ~い!」
「うっせぇわ!」
妙に耳馴染みのある発言をしてしまった。迂闊。
仕方なく、起き上がる。
白い空間。白い床。白い天井。
何もない。
本当に、何もなかった。
「えっと、改めまして。私、女神のアリアと申します。」
「はぁ。春日部 英子です。」
「えへへ!よろしくお願いします!」
「……じゃあ、おやすみ。」
「ちょちょちょ。早くないですかぁ!?」
女神を名乗る女——アリアは、目に涙を浮かべていた。
涙腺が弱いのか、それともポンコツなのか。
多分、両方だろう。
「……何だよ?明日学校あんだよ。寝かせろよ。」
「いいじゃないですか!ちょっとくらい!」
「女神って、いいの?そういうこと言って。」
「そんな硬いこと言わないで!あ、でも、上司には黙っててください!」
「……。」
「いいから、話!話を!聞いてください!」
……堕天した方がいいんじゃないだろうか。
なんか、すげぇ必死じゃん。
「わかったから!で、何?」
「あ、はい。えーっと、英子さんに大切なお知らせがございまして——」
「手短に。」
「はいぃ。えっと、あの、高島 秀さんについてなんですが。」
——心臓が、跳ねた。
「……シュウ?」
「はい。シュウさん。あなたの幼馴染の——」
「知ってる。で?」
「あ、はい。まず前提としてですね、異世界というものがありまして——」
アリアが両手を広げた。
何かの説明をしようとしているらしい。
「我々の管轄する世界は複数ございまして、それぞれに神々が配置されているのです。その中でも、魂の転送に関しましては厳格な審査基準が設けられており——」
「うっせぇ~。」
「うっさい!?」
「クソどうでもいい。」
「——シュウさんの話しようとしてるんですけどぉ!?」
アリアが半泣きになった。
知らんがな。
「シュウがどうしたのか。それだけ言って。」
「……はい。」
アリアが、姿勢を正した。
ポンコツのくせに、こういう時だけ妙に神妙な顔をする。
「シュウさんは——異世界で、生きています。」
「……。」
「彼はこちらの世界で亡くなった際、転生という形で、別の世界に——」
「ちょい待ち。」
「はい。」
「……生きてんの?」
「はい。生きています。」
沈黙。
頭の中が、白くなった。
白い空間に加えて、頭の中まで真っ白になった。
「——嘘でしょ。」
声が、震えた。
自分でも分かるくらい、情けない声だった。
「嘘ではございません。彼は現在、異世界で大変ご活躍されておりまして——」
「何、その活躍って?」
「はい!なんと、世界を救いました!」
アリアが、なぜか誇らしげに胸を張った。
「……世界を。」
「はい!魔王を倒し、人々から英雄として讃えられ——」
「あのシュウが?」
「はい!」
「引きこもりの?」
「はい!」
「アニオタでゲーム好きな、あの?」
「はいっ!しかも今では、大変な美丈夫に成長されまして!」
「美丈夫って何?」
「イケメンって事です!」
「……はぁ。」
「こちらの世界でのお姿とは見違えるほどの——」
アリアが、空中に何かを映し出した。
光の板みたいなものに、映像が浮かんでいる。
——シュウだった。
いや、シュウ……なのか?
顔の輪郭はたしかにシュウだ。
でも、身長が伸びてるし、肩幅も広いし、目つきも全然違う。
……誰これ。
「現在は、多くの方々に慕われておりまして。特に女性からの人気が——」
映像が切り替わった。
シュウの周りに、女がいた。
一人や二人じゃない。
明らかに好意を持った目で、シュウを見ている女が、何人もいた。
シュウは、その中心で笑っていた。
……何、笑ってんだよ。
ぶっ飛ばすぞ。
「——彼を慕う女性は後を絶たず、まさにハーレムと申しますか——」
「ストップミー。」
「はいぃ?それだと、あなたが止まるって意味ですが?」
……こいつ、しばこうかな。
「……ハーレムって?」
「は、はい。異世界ではよくあることでして——」
「シュウが、女に囲まれてウハウハしてんの?」
「う、ウハウハかどうかは分かりませんが、大変充実した——」
「——。」
「……え、えいこさん?」
空気が、変わった。
自分でも分かった。
ぐちゃぐちゃだった。
安堵と、怒りと、悔しさと、よく分からない感情が全部混ざる。
腹の底から煮えたぎるような何かが込み上げてきた。
——生きてんじゃん。
——よかった。
そう思った。
思ってしまった。
その次に、腹が立った。
生きてんなら、なんで。
なんで、こっちに何も言わないわけ?
私は三ヶ月、あんたが死んだと思って。
泣くのも我慢して。
言いたいことも、全部飲み込んで。
あんたは向こうで、女に囲まれて笑ってんの?
「英子さん?あの、大丈夫ですか——」
「あ?あんた、何?何なの?」
ゆっくりと、立ち上がった。
アリアが、一歩後ずさった。
「ア、アリアです。女神のアリアと申します!お気持ちは察しますが、落ち着い——」
「ざっけんなボケェ!!!」
声が、出た。
思ったよりも低く、思ったよりもはっきりと。
「ぜってぇ呼び戻す。」
アリアが、固まった。
白い空間に、私の声だけが残っていた。
第一話、お読みいただきありがとうございます!
全五話の短編です。
本日はこのあと、10分おきに最終話まで一気に公開予定です。
告白する前に死んだ幼馴染が、異世界で英雄になって女の子に囲まれている。
英子、キレていいと思います。
よければ最後までお付き合いください!
ブクマやコメントをいただけると、英子が全力で走ります。
よろしくお願いします!




