大精霊2 真の願いを求めて
ゴールデンウィーク投稿です。
最高神アムルヘイムの不在。
それは最高位にあるだけで無く英雄神としての神格を持つ、世界を守護する最高戦力の不在と言い換える事が出来る。
数千年に渡り人類の最高戦力を生み出して来た七星宝具も、アムルヘイムがいなければやがて力を失い人類自体の戦力も大きく減じる事になるだろう。それも永続的にだ。
元より世界を、人類を滅ぼす為にアムルヘイム神との戦いは避けられない。
アルムヘイムが人類の滅びの前に立ち塞がる最後の壁だ。
アルムヘイムが失われたのは魔王軍にとってこれ以上無い好機。
歴代の絶望が誰一人として作り出せなかった、魔王軍の最終目標の一つ。
アルムヘイムが隠れたのみで絶望が世界を覆うだろう。
…………何故か、実際は絶望が殆ど得られていないが…………。
世界を覆っているこの感情に名前をつけるのは難しい。
そのまま一言で言えば混迷が近いかも知れない。
この状況を生み出したのは、いやどの状況を生み出したのも実質的には私と共にいる少年だろう。
理解不能な存在。
されど、何故か知りたくなる不思議な少年。
破滅の願いを尽く打ち砕き、何故か希望も打ち砕く。
世界を救っておきながら、破滅の願いの真の願いを成就させる。
世界を救っておきながら、世界から冤罪をかけられる。
もはや、少年が世界を救うと願うのであれば世界は救われ、世界の破滅を願うのであれば世界は破滅するだろう。
しかし、少年の願いは分からない。
今の段階で分かるのは、世界の味方でもなければ敵でも無いという事だけ。
驚いたのは、少年と共にいた恐怖の根源。
かの女神も、人類の救済を、魔王軍の打倒を強く望んではいなかったという事だ。
異世界より勇者を送り続けて来たかの女神が、真に人類を救いたいと願うのであれば、少年に望むだけで良い。
少年はかの女神の願いを断らないだろう。
いや、そもそも女神自身が動けば、魔王軍も滅ぼせる筈だ。
ここにいる女神は実体に限りなく近い虚像であるが、少年から莫大な力を供給されて軽くアルムヘイムを超える力を有している。
それでいて虚像であるから、こちらからの攻撃は本体に届かない。
少年からの力の供給が続く限り、この世界の最高神を上回る力を振るい続ける事が出来る。
かの女神が本気を出した時、魔王軍には滅びしか待っていないだろう。
しかし動かないという事は、それが真の願いでは無い、という事だ。
まあ、単純に魔王軍が既にほぼ壊滅状態だから動かないだけかも知れないが……。
世界の命運など、少年と女神にとってはまるで取るに足らない事である、そんな妄想すらも浮かんで来る。
二人は何を考え望んでいるのか。
私にはまだ分からない。
そして、自分の願いすらも今の私には分からない。
今、私に世界の命運が委ねられている。
アルムヘイムを復活させる、人類を救う事が私には出来る。
それだけではない。
アルムスヘリヤを復活させる事も今の状況なら出来る。
神性が失われた世界に、神の亡骸となってしまった世界に、神性を取り戻す事が出来る。
世界に神性が戻れば、世界は再生し拡大する。
祈りによって神々が力を得るように、世界が神であれば世界が力を得るからだ。
かつて神性を持つ太陽が世界を照らし、世界に力を与えていた様に、世界を覆う星空が戻れば世界に再生力が与えられるだろう。
それは、枯れた龍脈の再生も含まれる。
永い年月は必要になるだろうが、大龍脈が枯渇しやがて生命の住めなくなる人類圏も、いつかは再生する。
星空の復活は、世界そのものを救う行為に他ならない。
如何なる勇者も、神ですら成し遂げられなかった救世が、私の選択に委ねられている。
言い換えれば、世界の緩やかな終焉も、私の手に握られている。
嗚呼、決断の刻だ。
破滅の願いを叶えるか、希望の願いを叶えるか。
私は破滅か、私は希望か。
誰かの願いではない、私の願いとは?
私は何を望む?
誰かの願い。
それも今の私には無い。
四つの破滅は私から離れた。
それに、その破滅の願いすらも、貫かれた訳ではない。
死の王は、最期に勇者を望んでいた。
かの王の真の願いは、絶望を証明する事ではなく希望を見届ける事であった。
魔法の王は、最期に調和を望んでいた。
かの王の真の願いは、1が完璧へと至る事ではなく全が調和を成す事であった。
創世の巨神は、世界の新生を望んでいる。
かの神の真の願いは、全てを無に帰す事ではなく未来へ繋ぐ事であった。
最強の聖者は、待ち望んでいる。
かの聖者の願いは、神々を滅ぼす事ではなく願いを叶える事であった。
少年の隣が、その答えだ。
最も強き破滅を望んでいた四つの破滅の真の願いは、破滅ではなかった。
きっと彼らは望んでいたのではなく、諦めていたのだろう。
真の願いを。真の願いの実現を。
破滅とは願いの果て、願いそのものではなく朽ちてしまった願いなのかも知れない。
そうでなかったとしても、強き願いも移り変わるものなのだろう。
数千年の願いすらも、最期には変わった。
そして、どんなに強き願いすらも真の願いとは限らない。
そして、本人すらも自分の真の願いに気が付いているかは分からない。
破滅を願われた。
果たしてその破滅は、真の願いなのだろうか?
少なくとも、私の知る四つの願いは、真の願いではなかった。
私が破滅の願いを叶えていたら、彼らの真の願いが叶う事は無かっただろう。
だが同時に、破滅も紛れもなく願っていた筈だ。
これまでの願いにも、偽りは無い。
だが、その願いも、今は無い。
私は、何なのだろうか?
願いなき私は、何を願う?
……私は、私でありたい。
そして、少年の行く末を見届けたい。
死王と抂血王の、巨神と聖者の願いを思い出させ、絶望を希望へと変えたあの少年の、失われた願いだった我を私に変えてくれた少年の、歩んでゆく道を共に見てみたい。
少年が一体何を成すのかを、見てみたい。
そして、私もいつか、私自身の真の願いを手に入れたい。
そうだ、願いなど、初めから決まっていた。
それでも選択肢が消せないのは、選択できないのは、その答えが今までの我を全て否定する答えだから。
破滅の願い無き我は、我でない。
そう思っていたから。
しかしそれは矛盾だ。
そうであるなら既に私は我ではない。
既にかつての全てを否定されている。
破滅の願いは、私の元から失われたのだから。
矛盾している。
だから、今の私は、私だ。
ただ、自分の願いに従う存在。
破滅の願いに手を伸ばしそうになるのも、きっと自分の願いが分からなかったから。
自分の寄る辺が欲しかったから。
きっとまだ、それしか無いと思ってしまったから。
実際に私にはまだ、私が無いかも知れない。
しかし、それでも自分の真の願いを手にしたい。
迷うからこそ、この思いだけは本物だ。
これが真の願いかは分からない。
しかし、この願いは紛れもなく本物だ。
ならば、ここで選択しよう。
願いに向かって。
私が私を定義する為に。
破滅の願いは逃げだ。
それは、私の願いではない。
故に逃げだ。
そして、何も得ることは出来ない。
少年も女神も、容易く覆すだろう。
それは、私の選択ではない。
これは二人の選択。
故に逃げだ。
だから踏み出そう。
自分で手を伸ばさねば、願いなど手に入らないのだから。
「……アルムヘイムの力だと知らしめる偽装が必要だ。信仰が完全にアルムヘイムに集まらなければ意味がない。…………人類の、為にも」
私は未だ抵抗のある言葉を紡ぎ、希望の願いを選択した。
「……感謝を」
そして、私の願いを読み取った同僚が、神核近くまで願いがまっさらとなったアルムヘイムでもアルムスヘリヤでも無い存在であるアルムスが、自らを再定義し祈りを集める。
願いと信仰は重なり、星光と星空が重なった。
信仰は一つに正され、世界に星空と最高神が戻る。
世界は希望を手にした。
《契約者の従属神が【最高神】へと至りました。
これに伴い契約者に称号【最高神】が移譲されます》
……これは流石に想定していなかった。
ま、まあ、少年なら何とかしてくれるだろう。
《契約者の最高神化に伴いステータスを更新します》
あっ、私のステータスも更新されるのか……。
少年について行きたいと願いはしたが、少々覚悟が足りなかったかも知れない……。
しかしそれでも、私は少年について行きたい。




