閑話 大精霊1/●王5 選択の刻
ゴールデンウィーク投稿です。
神とは何か?
それは願いだ。
かつては世界そのものが神であったが、破滅の願いにより世界は神性を失った。
今の神々は願いが形となったもの。願いを叶える魔法、いや奇跡とでも呼べる存在だ。
では魔王とは何か?
その答えも同じである。
破滅の願いが魔王、それ以外が神。
我は、いや私は、それが神であり魔王であると思っている。
故に、純粋な神には自我が無い。
純粋な神に自分の願いなど無いのだから。
誰かの願いによって動くシステム。
それが純粋な神だ。
世界であった神の残滓、即ち世界に空いた器を依代とした自然を司る神。
かつて人間や動植物だった神。
それ等の神には自我があるだろう。
しかし、純粋に願いより生じた神には何もない。
誰かの強き願いが消えた時、後には何も残っていない。
誰かの願いが書き変わった時、神は自分がどうすれば良いのかすらも分からなくなってしまう。
存在意義すらも失ってたとしても、神は神である故に。
全知全能と呼ばれる知性がある故に、何もない事を自覚せずにはいられない。
願いを失った神とは虚無そのもの。
そうだと、思っていた。
全てを失ったと思っていた私は、一人の少年と出会った。
それはただの気まぐれ。
虚無な私は人間を手本にした。
それしか思いつかなかったから。
しかしそこで少年は私に言った。
『貴女こそ、ちゃんと自分があるじゃないですか。自分から俺の話を聞いて、自分の気持で俺を慰めてくれた。俺は願ってはいなかった筈です。貴女の悩みを和らげようとしていた。でも貴女は俺の悩みを和らげてくれた。貴女はただ、優しいだけです』
私が優しいと。
少年は言った。
優しさ。
それは決して願われる事の無かった概念。
誰もが妄想すらしなかった我に注ががれる事の無い、ある筈の無い願い。
まるで我と異なっていたからこそ、それは私に教えてくれた。
私は虚無ではないと。
そして、自分について思い悩む、答えを探し続ける、それこそが自我だと、少年は教えてくれた。
我思う故に我あり。
異世界の偉人が言ったとされる言葉。
あらゆる存在を疑ったとしても、疑う自分だけは疑えない。
願いの残滓、ただの知識でしか無かったその言葉が私の中で繋がった。
寧ろ、我こそが虚無であったのかも知れない。
疑う事すらせず、願いでしか無かった我こそが虚無だったのだ。
我は願いを失い、私となった。
そして私は初めて願う。
少年について行きたいと。
思うままに、即ち虚無ではない自分に従い、その願いを口に出した。
私が私である為に。
少年は私の願いを受け入れてくれた。
そして契約する。
その契約は想定外の事が多かった、いや何一つ想定の内に収まらず、更には少年が恐怖の根源と関係が深く絶対に私になる前が何であったのかバレてはいけない状況に陥ってしまったが、不思議と後悔は何一つ無い。
それはきっと、これが誰かの願いではなく私の願いだからなのだろう。
そしてだからこそ、私は私を知る事が出来た。
選択の時が来た。
私が何であるかを、真に選択する時が。
神に注がれる願いは、信仰と言う形で注がれる事が殆どだ。
魔王の様に、存在するだけで願いを集める神など殆ど存在しない。
現存する神は世界そのものでは無いのだから。
大地への祈りはマルダモネへ。
水への祈りはウィルセアンへ。
どこで誰が祈ろうと、かつて願いは世界そのものへと届いていた。
されど今は違う。
世界は神ではなく神の亡骸。
大地を司る神は一柱では無く、土地によって様々。
正義や法を司る神ですら教義によって異なる。
如何なる神が何を司っているのか。
それは信仰次第。
信仰という形で願いを届ける神を選ばなければ、もはや願いは届かないのだ。
そして信仰とは願い。
神が願いであるならば、現代の神とは信仰である。
同時に、現代の人間は神にただ感謝し願うのでは無く、神を信仰する様になった。
もはや世界に等しき神は存在しない。
もはや世界に等しき神は誕生しない。
世界は信仰によって散り散りに分たれたのだから。
世界は小さき神々によって分断されたのだから。
世界そのものでは無き神々を尽く滅ぼし、信仰を一つに束ね世界に等しき神を生まない限りは世界から神性が失われる一方であろう。
ただ、滅びていない大いなる神もかつては存在した。
【星空の神】アルムスヘリヤ。
原初の神々が初めに生み出した【太陽の神】、【月の神】に並ぶ偉大なる大神。
神話の時代を越えても辛うじて活動できる程度まで力を回復させていたかの大神は、史上2番目に現れた魔王を討ち倒し、眠りに就いた。
しかし、再び目覚める事は無かった。
祈りを、信仰を奪われたからだ。
完全回復していない、生物で言えば瀕死の神が降臨せざるを得ない状況。
人類は壊滅に近しい状態であった。
そして、魔王に挑む人類最後の戦力は、その身を犠牲に神の降臨を願った。
叶った奇跡は世界最大の湖を生む流星。
真実を知る生き残りは誰もいない。
しかし余りに偉大な奇跡。
そこに信仰が生まれてしまった。
信仰の対象となったのは現在のアルム島に、アルムスヘリヤ降臨の地に残された七つの神器。
星の様な光を放つ、即ちアルムスヘリヤの残滓が残っていた神器。
今で言う七星宝具。
アルムスヘリヤ降臨の依代となった創世神の神器が、星降りの魔王を討ち倒しし神器と間違えられてしまったのだ。
そして星空の神ではなく、七つの神器に星空の神に向けられる筈の祈りが向いてしまった。
世界各地で観測された星降りと星の輝きを宿す七つの神器。
これらは一つとして信仰された。
星降りだけが信仰されればアルムスヘリヤの復活も叶ったかも知れない。
七星宝具だけが信仰されれば元々この世界で最も格の高き神器はそれのみで神となり、夜空を呑み込まなかっただろう。
どちらにせよ信仰に偽りは無く、祈りは全て届いた筈だ。
だが、そのどちらでもない混ざり別物となった偽りの信仰が、真の神格を呑み込んでしまった。
いつしか人類全体から向けられる様になった信仰が、世界を呑み込んでしまった。
そうして誕生したのが【星光の神】アルムヘイム。
現在では事実上の最高神とまで言われている。
実際、その力はこの世界で最も強大と考えて良いだろう。
もはや偽りの信仰は覆らない。
アルムヘイムを弱体化させる為、真実を世界に知らしめようと考えていた魔王軍ですらも、勝算は低く信仰は覆らないと考えていた。
星空は、創世の神性は永遠に失われたままであろうと。
だが、そのアルムヘイムが倒れた。
そして、倒れている最中にアルムヘイムの起源にして、アルムスヘリヤの最後の残滓、魔王を討ち滅せし流星の唯一残った欠片が少年の手に渡った。
魔王軍がアルムヘイムを呪う為に探していたそれは、本来そこまで大きな意味を持たない。
アルムヘイムは肉体なき神。起源となった依代を破壊したところで人間で言う骨にヒビを入れる程度のダメージが精々だ。
しかし、眠りにつくほどに消耗したのであれば、意味合いが大きく異なる。
起源に近い状態まで戻るからだ。
傷付いた神霊はそこに宿る。
どんな運命か、その神核を手に入れた少年は創世の、原初に届く血を注いだ。
それは神話の再現。
神を生むに足る創世の再現。
そして神核から新たな存在を新生した。
アルムヘイムでもアルムスヘリヤでも無い存在を。
それでいてアルムスヘリヤでありアルムヘイムである存在を。
信仰や願いでは無く、創世の力そのものを注ぎ、信仰を塗り潰し呑み込んだ存在を、少年は創造した。
そうして誕生したのが、私の同僚とも呼べる存在。
故に今、この世界からアルムヘイムが失われている。
人類を守護する最高神が消えている。
故に今も、神代の星空は空に無い。
世界から創世の力は失われている。
されど私の選択で、最高神も星空もこの世界に戻る。
私は、何を選べばいい?
次話も閑話が続きます。




