紘輝VSライグル
珍しく内容がすぐ分かるサブタイ。
霧也が王城を出る前日、戦闘訓練、最終日。
模擬戦を行うこととなったこの日、最終戦の直前に、激戦が繰り広げられた。
言わずもがな、霧也とアイシャの闘いである。
しかし、この日繰り広げられた激戦は、それだけではなかった。
勇者・天野紘輝と、近衛騎士団長・ライグル=ナタールの2人もまた、それに引けを取らぬ闘いをしていたのだ。
紘輝の装備は、いかにも勇者、というような、少し大振りの片手剣に、取り回しの効く少し小さめの盾だ。霧也曰く、ド○クエの勇者ロ○である。
対してライグルは、戦闘訓練の初日に持っていた、巨大な片手剣とこれまた巨大な盾である。
大きさこそ違えど、武装はほぼ変わらない。その上、現時点で異世界人最強の男と、近衛騎士団最強の男である。この試合には、大きな注目が集まっていた。
紘輝は、盾を構え、身を引きながら考える。
(村崎君は……凄かった。正直、俺の戦い方は、ステータスに依存している部分がないとは言い切れない。でも、彼は違った。あれは、完全に技術の問題。技術で、近衛騎士団の副団長と引き分けた……いや、ひょっとすると、あのまま続けていたら、彼が勝っていたかもしれない)
自分に戦闘技術があるか、と聞かれたら、紘輝は悩んでから、少しは、と答えただろう。しかしあの闘いを見た後だと、自分の技術など、とてもちっぽけな、それこそ付け焼き刃のものに思えてしまう。
(それでも、そんな大したことない技術でも、上手く使いこなせないと、あの人には絶対に勝てない)
まっすぐ見つめるのは、正面で自分とほとんど同じ構えをするライグル。霧也がアイシャに勝つのを目的としていたように、紘輝もまた、彼に勝つことを目指していた。
実を言うと、現時点では、紘輝とライグルにはあまりステータス差がない。もちろん、始めから高ステータスだった紘輝と違い、ライグルのそれは鍛えに鍛えた結果であるが、今までのステータス依存の戦い方が意味を成さないのは明白である。
と、審判役であるアイシャが手を上げる。
紘輝は、軽く深呼吸をして意識を切り替え、集中する。
「始めッ!」
振り下ろされる手と、開始の号令。
同時に紘輝は、地を蹴った。
そのあまりの初速度から、大きな土煙が上がる。
しかしライグルは、急迫する紘輝を見ても、微動だにしない。
初手は、突進の勢いを利用した、大上段からの斬撃。
ライグルはそれを、左手に持つ盾を掲げて受け止め、そのまま流れるような動作で突きを繰り出す。
「っ!」
咄嗟に盾で防ぎ、そのまま受け流す。
巨大な盾を持つライグルと違い、小さめの紘輝の盾だと、受け流すことを主体とした守り方になるのだ。そしてその守り方は、突きに対して非常に有効である。
自分の突きを止め切れず、ライグルの体勢が崩れる。
「はぁっ!」
一旦剣を引いてから、今度は下から跳ね上がるような斬撃を繰り出す。
しかしライグルは、つい先程までは上を向けていたはずの盾で、的確にガードしてくる。
「なっ!?」
驚きをあらわにする紘輝。あれだけ大きな盾は、普通はこうやすやすと扱えるものではない。紘輝自身、動きが制限されることを嫌って小さめの盾にしたのだ。それを、片手で扱っているのが不思議な程の大盾を自由に動かしてみせるなど、最早人間技とは思えない。
その後も上下左右、様々な方向から斬りかかるも、全て防がれてしまう。
「それならっ!」
紘輝のステータスは、バランスこそよく、総じて非常に高いものの、クラスメイトの中に何名かいる、何かの数値に特化している者には大幅に劣っている。よって彼の戦闘スタイルは、そのバランスのよさを活かせるもの。つまり、前衛から後衛まで全てをこなす、いわばオールラウンダー、魔法剣士のようなものだ。
紘輝が持つ魔法適性は聖属性。ゲームで例えれば、光属性とも呼ばれるであろうその魔法の中には、後に霧也と戦うこととなるユニコーンが放った砲撃もあるが、その本質は補助魔法にある。
聖属性が唯一扱えると言っていいだろう補助魔法、《強化》。ランクにより効果等が変動する魔法で、詠唱が魔法名だけでとても短い、少し特殊な魔法だ。ランクⅠの今だと、特定の部位、特定の能力を申し訳程度に強化するぐらいしか効果がない。
しかしそれでも、ないよりはマシ。更に言えば、均衡を打ち破るだけであれば十分。
紘輝は、また今までのように斬りかかる。
今までのように防御するライグル。
そして、紘輝の剣がライグルの盾に触れる、その直前。
「《強化》!」
紘輝がそう叫ぶと同時、左から右へと振られていた剣が唐突に止まる。
強化したのは、右腕の筋力。全力で振られていた剣を止めるに足る力。
「っ!?」
ライグルが驚愕に目を見開く。
しかし、まだ終わりではない。
「《強化》ッ!」
続いて強化されたのは、右足、中でも足首やつま先。左足はそのままに右足で地面を蹴り、回転する。
「《強化》ォオオッ!」
更に、右足は変わらず、その腿の当たり、腰付近に強化を集中する。
それにより繰り出されるのは、自身のステータスを余すことなく、いや、更に強化された、全力の回し蹴り。
それが、紘輝の動きを追いきれず、未だ自身の右側に盾を構えたままのライグルの左腰に直撃する!
「ガァッ!」
その巨躯を浮かせ、吹き飛ばされるライグル。
ズザザァッ! と大きな音を立てて、地面を滑る。
「まだだっ!」
紘輝は、最初と同じように、剣を大上段に振りかぶる。
すると、その剣が光に包まれる。
紘輝が、勇者が持つスキル、[聖剣術]。そのスキルには、奥義とも呼ぶべき技が存在する。
とはいえ、ランクⅠで使える技は、そう多くない。
しかしそれでも、その全てが普通の人から見れば規格外の力である。
剣に集まった光が、形を変え、刀身を伸ばすように凝縮する。
「《聖光斬》ッ!!」
剣を振り下ろす。
今やその光によって伸びた刀身は、吹き飛ばされたライグルにも届く程。
ライグルは、今やっと立ち上がったところである。
(勝った!)
紘輝が勝利を確信した、その時。
「舐めるなァァァアッ!」
腹の底に響くような叫び声を上げたライグルが、盾を掲げる。
(まさか、これを防ぐ気か!?)
驚きつつも紘輝は、止められるはずがないと、更に勢いを強める。
しかしその直後、ライグルの持つ盾が輝く。
ライグルは、近衛騎士団長という立場に相応しく、[護り手]というスキルを持っている。盾の扱いが上手くなるだとか、より強力な攻撃をも防ぐことが出来るとか、とにかく護りに特化したスキル。
そして、このスキルにも、[聖剣術]と同じように、専用技と呼べるものが存在した。
「《絶護》!」
ライグルの二つ名である、「絶護」。それの元となった技。その名の通り、絶対に護る力。
ライグルの盾に、紘輝の光の刃が直撃する。
巻き起こる爆風。土が巻き上げられて、視界がとても悪い。
しかし、紘輝は見た。
《聖光斬》の光が、ライグルの盾と少しのせめぎ合いを見せ、霧散したのを。
そして悟った。
(あぁ……負けちゃった、か)
その思考を最後に、限界を超えた集中で疲れ切った紘輝の意識は途切れた。
とまぁこんな感じで、勇者編は、紘輝が主人公です。当然っちゃ当然だけど。
あ、新作も読んでね。




