お仕置き
褒賞を受け取り、金を引き出してから帰った霧也。
そのまま自室の扉を開くと、ソニア、リラ、沙菜、イリヤの4人が、無駄に大きいベッドに、一糸纏わぬ姿で幸せそうな表情をして眠っている。
(……俺は一睡もしてねぇってのに)
あくびをしながら内心でそう愚痴る霧也。もうこんな状況にも慣れたものだ。
(寝よ……)
上着を脱いだ霧也は、そんなカオスかつ楽園のようなベッドの僅かなスペースに当然のように飛び込む。周りの4人には全く興味を示さない。何故だ、と聞かれたら、霧也はきっと、「だってついさっきまで散々触ってたし」と答えることだろう。
仰向けになって目を瞑り、いざ寝よう、と思ったそのとき、胸の上に何やら重みと、
「わふっ」
などという鳴き声が。
目を開きそちらを見る霧也。そこでは、体を丸めたフェンリルが、霧也と同じく眠ろうとするように目を閉じている。
それを見た霧也は、ふと思い出す。
(……そういや、領主館行ったとき、こいついたような……)
あまりにも皆がスルーするのですっかり忘れていたが、ごく自然に、頭の上に乗ってはいなかっただろうか。いや、乗っていた。誰もがスルーしていたが、その視線はちょくちょく霧也の頭上に注がれていた。
「……まぁ、いいや」
だが、そこで気にしないのが霧也である。
そして霧也は、フェンリルを撫でながら寝ようかと腕を持ち上げようとして気が付いた。
「ん?」
両腕に重みが。
見てみると、いつぞやのように右腕にはソニア、左にはリラが抱きついているではないか。
(いつの間に……)
霧也がベッドに入ったときは、彼女達とはもう少し距離があったはずなのに、いつの間にかピンポイントで霧也の側にいる。レーダーでも付いているのだろうか。
「むにゃ……ごしゅじんさまぁ……」
「んぅ……キリヤ……」
同じタイミングで飛び出す寝言。それに霧也が少し意識を向けた、その直後。
「「だいすきぃ(ですぅ)……」」
「……!」
その言葉を聞いた霧也は、恥ずかしそうにしながら目をギュッと閉じる。無理矢理にでも寝てやろう、ということだ。
しかし、今の一言で目が覚めてしまった霧也が眠りにつくのには、もう少し時間がかかった。
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「――人様! ご主人様!」
「んんっ……」
「あっ、ほら、ご主人様、起きて下さい! 昼食の用意が出来ましたよ!」
「……あぁ」
ソニアに起こされた霧也は、眠たげに目を細めながら上体を起こす。
「きゃふっ」
「っと」
その拍子に落ちそうになったフェンリルをキャッチし、定位置へ。
そのまま部屋を出ようとして、気が付く。
「……なぁ、ソニアよ」
先程とはまた別の意味で目を細め、ソニアを見る。彼女はビクッ、と体を震わせると、何やら冷や汗らしきものをかきながら返事をする。
「……な、何でしょうか、ご主人様?」
「俺はな。今朝、お前等が寝たあと、着替えて少し出かけてたんだよ」
「へ、へぇ、そうだったんですか。知らなかったです」
「まぁ、言ってねぇからな。その話は後でするとして、俺が帰ってきたとき、お前等はまだ寝てた訳だ」
ジリジリと後退るソニア。その分だけ距離を詰める霧也。
「いやぁ、俺もすっかり慣れたよな。それを気にせず、上着だけ脱いで、ベッドに入った。んで、俺はそのまま寝たんだ。誰かさん達のせいで、寝不足だったからな」
「上着だけ」というのを強調して話し続ける霧也。ソニアが、ついに身を翻して逃げ出そうとするも、霧也は動くこともせず、《影縛》で足を止める。
「へぶっ!」
そんな情けない声を上げて、顔面から床に突っ込むソニア。鼻を強打したようで、両手で抑えながらゴロゴロとのたうち回っている。
しかし霧也はそれを気にもせず近寄り、ソニアのすぐ横にしゃがみこむ。
止まるソニア。霧也に目を合わせようとしない。
笑う霧也。ただ、目が笑っていない。
「まぁ、この首の痛みは別にいいぜ? どうせ血を吸ったんだろ?」
その言葉に頷くソニア。相変わらず目を合わせようとしない。
霧也はそれに満足気に頷くと、口だけ更に笑う。
「でもさ」
ビクッ! ソニアが震える。
「何で、」
ビクビクッ!
「上着だけ脱いだはずの俺が、今は、」
キュウッ! 限界を超えて縮こまる。
「何も着てねぇんだろうなぁ?」
ダッ! ベチィンッ! ひでぶっ!
再び逃げ出そうとしたソニアが、再び《影縛》に捕まり、再び情けない声を上げる。
「なぁ? 俺が寝る直前、俺の腕にしがみついてたお前なら分かるよな? 吸血淫鬼さん?」
あえて種族名でソニアを呼ぶ霧也。それが、ソニアを全力で疑っていることを、何よりも物語っている。
と、そこで、部屋の扉が開く。
「ちょっとソニア、キリヤを起こすのにいつまでかけるつもりなの? さっきからドッタンバッタンうるさいし……って、」
入ってきたのはリラだ。
「キリヤ、まだ服を着ていないの!?」
そして今、完全に地雷を踏んだ。
「……へぇ。まだ、ねぇ?」
ゆらり、と立ち上がる霧也。
「リラさん、逃げてぇ! 超逃げてぇ!」
「へっ? あっ!」
ソニアと霧也の表情から何かを察したらしいリラが逃げ出そうとする。が、
「何故そのネタを知っているのかについては、あえて聞かないでおこう。それより今はお前だ、このエロフ」
「ひきゃっ!」
そんなことを呟いた霧也の《影縛》の餌食に。そのままソニアの隣へとズルズル引きずられていく。
「ねぇ、皆、さっきからうるさ――あっ、霧兄、まだすにゃっ!?」
部屋を覗き込んで勝手に頬を染めている沙菜も、問答無用で巻き込まれる。
「さて。お仕置きタイムと行きますか」
この日、この無駄に広い屋敷には、真っ昼間から数名の女性の絶叫が響きわたった。
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「それでは、今朝の出来事を、簡潔に、それはもうとても簡潔に報告したいと思います」
だだっ広いリビングの馬鹿でかいテーブルの上座で、昼食を終えた霧也がそう切り出す。
今この場にいるのは、何だかんだでこの屋敷の一室を借りているアルクと、疲れきったようにテーブルに突っ伏すソニア、同じくリラ、これまた同じく沙菜。ケモミミメイド部隊は食事の片付けである。
女性陣が役に立たないと判断したアルクが、視線で先を促す。
「領主館で、褒賞を貰いました。なんと驚きの2億リアに加え、ランクⅤの武器が2つと、特殊通行手形です」
おおー、と声を上げるのは、アルク1人。
「これがその武器です。杖と弓なので、これらはソニアさんとリラさんにプレゼントしましょう」
テーブルの上にその2本を置く。それを見たアルクが、先程とは違った真面目な声音で、おお、と漏らす。
プルプルと手を伸ばして受け取るソニアとリラ。
「いやぁ、これで皆ランクⅤ武器入手ですね」
ちなみに、この「皆」というのには、実はアルクも含まれている。彼の武器はシンプルな片手剣だが、王国騎士団副団長の物なだけあり、相当な業物なのだ。
パチパチ、と拍手するのは、霧也とアルク2人。
「と、いう訳で」
拍手を止める。
「当初の予定からは大分遅れてしまいましたが、明日、この街を出ようと思います。何か質問は?」
そこで手を上げるのは、アルク。
「はい、どうぞ、アルクさん」
「……えぇと、なんで敬語なのかな?」
「なんとなくですね」
「気が狂うからやめてほしいんだけど……」
「あぁ、分かった」
さらっと変える霧也。アルクがずっこけるような動きをする。
「……あともう1つ、いい?」
「何だ?」
アルクが向かいで突っ伏している3人を指差す。
「彼女達は、なんでこんなに元気がないの? さっき何かしてたらしいのは聞こえたけど……」
「いや、今夜は一緒に寝ねぇぞっつったらこうなった」
「あー……」
なるほど、ダメージが大きい訳だ、と納得するアルク。
「ちゃんとケアはしてあげなよ?」
「……わぁってんよ」
翌日、この街を出るとき、何故か4人の距離がとても縮まっていた。それを見たアルクは、一体何をしたんだと、恐ろしくなったという。
これにて第2章完結になります。戦闘終わってからが無駄に延びてしまった。絶対いらないシーンいっぱいあった。
さて、今回を最後に、しばらくの間は週に1回、日曜日の更新となります。詳しくは活動報告へ。……今日中に更新しますので。…………なんで活動報告は予約投稿出来ないんだろう。
まぁ、前に活動報告に書いた「もう片方」だよ、とだけ言っておきます。




