褒賞
翌日。
霧也は、街の中心にある領主館へと呼び出されていた。
「始めまして、ムラサキさん。私がクルス領の領主、セーダ=クルスです」
そして今目の前にいるこの女性こそ、ここ、ベルメルタを中心としたクルス領の領主である。
「はぁ、どうも」
(微妙にテンプレ外して来やがった……)
気のない返事をしながらそう考える霧也。女性領主とは、聞いたことがない。
「それで、何か?」
たったの2単語だけで問いかける霧也。領主が相手だろうが、彼のふてぶてしさは変わらないようだ。国王に対する態度があれだから仕方ないのだろうが。
「えぇ。昨日の魔物の襲撃の件ですが、貴方はその半数以上を倒したそうですね」
「まぁ、多分」
相変わらず2単語ずつしか話さない霧也。油断すると敬語を使ってしまいそうな、そんな不思議なカリスマのようなものが目の前の女性からは感じられる。……だったら敬語使えよ、というツッコミは受け付けない。
もっとも、霧也に元気がないのはそれが理由ではない。昨夜のこと、と言えば分かるだろう。それで一睡もしていない上に唐突の呼び出しだ。それは元気も失せる。
セーダは、霧也のそんな態度に少し微笑んで続ける。
「あの戦いに参加した方は、口を揃えてあの勝利は貴方のおかげだ、と言うそうで。それならば、褒賞を与えない訳にはいかないでしょう?」
「あー……そういう」
「はい。そういう、です」
単純な感謝の意としても、領主の面子としても、また、場合によっては霧也を囲うためにも、彼女の言う通り、褒賞を与えない訳にはいかないだろう。霧也が囲われることはあり得ないにせよ。
「と、いう訳で」
そう言ってセーダがテーブルの上に置いたのは、1枚のカードだ。
これはいわゆるキャッシュカードのようなものだ。霧也も最近知ったのだが、この世界には、銀行のようなシステムが存在するらしい。このカードはギルドカードと同じく魔法具で、これを使うことで、地球の銀行と同じように、金を預けたり引き出したり出来るらしい。《時空庫》が使える霧也は使ったことがないが。
「その中に、2億リア程入っています」
「……はい?」
セーダの口から飛び出した、耳を疑いたくなる言葉。
「ですから、褒賞として、2億リアです。街を救われたのですから、これでも少ないぐらいだとは思いますが」
「……いや、うん、十分」
霧也の頬が引き攣っている。ただでさえ競売で結構稼いだのに。
「それと」
「へっ?」
どこからともなく現れた兵により霧也の隣にドサッ! と音を立てて置かれたそれらは、見るからに高ランクと分かる、杖と弓。
「貴方は既にかなり良い武器を持っているようですが、魔法使いのメイドさんと弓使いのエルフの女性、まだあまり良い武器は持っていないみたいですから。猫獣人の子は、良い短剣を使っている、と聞きましたけれど」
「あー、えーっと、ヨクシラベテルネ」
プライバシーも何もあったもんじゃない。霧也パーティーの構成がバレバレである。
「どうやって調べたか、聞きたいですか?」
「いい。いらない。怖い」
そう言いながら、2つの武器をしまう霧也。その直前にした[鑑定]によると、どちらもランクⅤのようだ。ちなみに、沙菜の短剣もランクはⅤである。そして、一瞬、2つの[鑑定]の詳細欄に、「世界樹の枝」という文字が見えたのは気のせいだろうか。霧也は、気のせいだと信じることにした。
「……それで、もうねぇだろうな?」
「いえ、あと1つ」
「あんのかよ!?」
ここまで貴重品をほいほいと渡しておいてまだあるのか、と、恐ろしくなってくる。次は一体どんなものが出てくるのかと身構えていると、テーブルに置かれたのは、1枚の紙。
「……ん?」
拍子抜けしたような声を出す霧也。次に出てくるものが恐ろしくも期待する気持ちがあったのが、出てきたのはただの紙切れ(にしか見えない)だ。拍子抜けもする。
が、このタイミングで出てくるのがただの紙切れなはずがない。
「これは特殊通行手形です。これがあれば、エルガド王国内であれば全ての街において通行料が免除されます」
「……」
口をポカーン、と開ける霧也。
この国では、街に入るとき、人数分の通行料がかかってしまう。それでも、数日程度であれば、冒険者や商人などの仕事上タダで入れたりするが、あまり長い期間を空けると再び通行料が必要になる。
あれだけの大金を貰った後だとその程度気にすることでもないように思えるかもしれないが、それでも金は金だ。使わないに越したことはない。
「さて、褒賞は以上になります。ですが、これだけで恩を返しきれたとは思っていません。また何かあれば、お気軽に相談して下さいね」
「……おう」
特殊通行手形をしまいつつ、立ち上がる霧也。
(金引き出して、明日にはこの街出よう。なんかもう、このままいるとこの人に飲み込まれそうな気がするわ)
恐ろしいおばさんもいたものだ、と思う霧也だった。
最後にちらっと出たように、領主さんはおばさんです。いや、おばさんって程の年齢でもないんですけど、まぁ、その表現が1番手っ取り早かった。




