もふもふ要員
もふもふは癒やしです。
「ただいまー……なにやってんの」
家へと戻ってきた霧也は、何故か玄関先ですやすやと眠るソニア、リラ、沙菜の3人を目にする。
ちなみに、アルクは事後処理のため残っている。
「あっ、おかえりなさいませ、ご主人さま」
「……おう、ただいま」
奥からウサミミをヒョコッ、と覗かせたイリヤの出迎えの言葉に、少し遅れて返事をする霧也。
そんな霧也の、なんでこいつら放置してんだ、という無言の訴えを察知したイリヤが、軽く苦笑して答える。
「帰ってくるなり、お疲れだったのかその場で眠ってしまいまして。丁度、みなさまを運ぼうと思って、寝室を整えていたところだったのですが……」
「あぁ、なるほどな」
納得したように頷きながら答える霧也。ふとイリヤに目を向けると、彼女の白髪によく映える、アルビノのような赤目が、霧也の頭上に釘付けになっている。
今そこには、フェンリルが乗っかっているのだ。街に入ったあたりで目を覚ましたフェンリルは、おもむろに霧也の腕から抜けると、体をよじ登り、霧也の頭へと向かった。短くない時間をかけて(その間霧也は足を止めて見守っていた)霧也の頭へと到達したフェンリルは、そこで居心地のいい場所を見つけると、そのままぐでーっと居座ってしまった。周りの人達も微笑ましそうに見ていた。
再び歩き始めた霧也は、すぐでかくなるっつってたもんなー、そしたら次はどこに行くつもりなんだろうなー、などと呑気に考えていた。
閑話休題。
フェンリルをじぃーっ、と見つめていたイリヤが口を開く。
「ご主人さま、その狼は?」
「ん? あぁ、フェンリルだと。なんか貰った」
「フェンッ……!?」
霧也の口からあっさりと出てきた聖獣の名前に驚いたように仰け反るイリヤだったが、すぐにいつもの状態に戻る。その顔は、「まぁ、ご主人さまですもんね」という謎の理論が発生したことを明確に物語っている。
ジト目になる霧也。
イリヤはそれを柳に風と受け流し、再び口を開く。
「詳しいことは聞かないでおきますけど……まさか、もふもふ要員ですか……?」
霧也はその質問に、何言ってんだこいつは、とか、もふもふ要員なんていたっけ、とか思いつつも答える。
「まぁ、多分そうなんじゃね? イリヤも触るか?」
そう言って頭からフェンリルを引っぺがしてイリヤに差し出す霧也。
「なっ……」
しかしイリヤはそれを無視して、何故かショックを受けている。
霧也が首を傾げる。
「もっ、もふもふならわたしがいるじゃないですかっ! ご主人さま、わたしの耳も尻尾も気持ちいいって言ってくれたのに!!」
「!?」
思わぬ勢いに驚く霧也。
(こいつ、フェンリルに嫉妬してる!?)
その後も、うがぁーっ! と文句を言うイリヤ。
どうしようか、と考えた霧也の、微妙な気障スキルが発動する。
霧也は、フェンリルを足元に置くとイリヤに近付き、おもむろに抱きしめる。
「ふゃっ!?」
おかしな声を上げるイリヤを無視して、耳を撫で始める。
「う、そんなのじゃ、誤魔化され、ませんよ」
と言いつつも、結構必死な様子のイリヤ。緩みそうになる頬を必死に抑えている。表情筋を鍛えられそうだ。
(中々耐えるな……)
そう考えた霧也の手が次に伸びるのは、尻尾。獣人の体の中で、トップクラスに神経が集中している場所。
「ふへゃうっ!!」
どうやって発音したのかが分からないような声を上げてその場に座り込むイリヤ。しかし、座り込む途中、目にも止まらぬ速さで後ろに回り込んだ霧也により、最終的にイリヤが収まったのは、彼の膝の中。
「へっ?」
不思議そうな声を上げるイリヤをよそに、霧也は彼女の体を今度は後ろから抱きしめる。
「!?」
必然、霧也の顔がすぐ横から出てくる形になり、イリヤの顔が真っ赤になる。
そのまま霧也がイリヤの耳に口を近付け、何かを囁こうとした、その時。
「えっと、ご主人さまと、イリヤちゃんは、何で玄関先でイチャイチャしてるの……?」
ケモミミメイド達の中でも恐らくイリヤの次に霧也への好感度が高いであろうイヌミミっ娘の、不思議そうな声が聞こえた。
なんとなくいたたまれなくなる霧也とイリヤ。
霧也は、最後に少し強くイリヤをギュッ、と抱きしめると立ち上がり、
「ちょっと《転移門》設置してくるわ!」
という名目で逃げ出した。確かにソニア達を運ぶために便利ではあろうが、中々にダサい引き方だ。
しかしそんなことは全く意識になかったイリヤは、ぽーっ、と虚空を見つめたまま、いつぞやの、霧也と2人きりだった夜のことを思い出していた。
==========
それからしばらく。
何だかんだで霧也、ソニア、リラ、沙菜、たまにイリヤの共同寝室になっている1番大きな部屋で、ソニア達3人が身悶えていた。
「お姫様抱っこだった……」
「お姫様抱っこでしたね……」
「お姫様抱っこだったわね……」
顔を見合わせて、
「「「えへへ……」」」
「長年の恋が実った女子高生かお前等はっ!」
霧也のツッコミが入る。具体的で、分かりやすいようで分かりづらい例えだ。もっとも、ソニアとリラには「女子高生」という概念自体伝わらないのだが。
霧也は、3人をこの部屋に運ぶとき、《転移門》で手を抜きつつも、その扱いは、彼女達の言った通りお姫様抱っこで、貴重品でも扱うかのように丁寧なものだったのだ。そのあたりで丁度意識が戻った3人は、自分達が想像以上に大切にされているらしいことに嬉しくなり、霧也への想いを募らせていた。
その結果が、3人で顔を見合わせてニヤニヤするという、微妙に気持ち悪い光景だったのだ。
霧也は思わずため息を吐いて、考える。
(これ、今夜眠れるかな……)
イリヤも押しかけてきそうだし、と、遠い目をする霧也だった。
――気が付いたら朝だったんだ。とは、この翌朝の霧也の談だ。
イリヤのヒロイン力が上がる回だったと思います。何故唐突にって? 俺も分からん。
どうでもいいけど、「霧也」と「イリヤ」って似てるよね。




