決着を付けよう。
限・界。
長めです。
霧也達が召喚されてから1ヶ月。
今日は戦闘訓練の最終日であり、そして、霧也が王城を出る前日であった。
しかしそんなことは、霧也本人ですらまだ知らない。少なくとも訓練時には、[完全模倣]のランクはⅠだったのだ。
そして今日は、毎回やっているウォーミングアップ的な訓練を終えたあと、霧也達は全員ライグルの元に集められていた。
「さて、この訓練も、本日で最終日となった!!」
全員集合したのを確認するや否や、声を張り上げるライグル。
「よって本日は、皆の訓練の成果を見せてもらいたいと思う! することは簡単、自分の教官との模擬戦だ!!」
その言葉に霧也は、思わずアイシャの方を見てしまう。
今回が、アイシャに挑戦する最後のチャンス。その舞台が整えられるという。勝つにしろ負けるにしろ、最後の挑戦としてはこれ以上ない程にいい場面だろう。
そんな霧也の考えを察したのか、ここ最近はよく見せるようになった美貌を緩めるアイシャ。その目は、まっすぐに霧也の目を見つめている。
その間にも、ライグルの話は続く。
「そしてこの模擬戦では特別に、お前達にも騎士達にも、真剣を使ってもらう!」
その言葉に、クラスメイト達がざわめく。
しかしライグルはそんなことは予想していたようで、気にせず話を続ける。
「自分が1番使える獲物で、騎士から勝利をもぎ取ってみせろ! それがお前達の、努力の証となる!!」
霧也の片頬がニヤリ、と釣り上がる。
彼は気付いていた。なんとなく、というレベルでしかないが、アイシャの本来の武器が、普段訓練で使う木剣と同じ片手剣では無いことに。
だからこそ、本来の戦い方のアイシャと戦うのが、この2週間で考えた作戦を実行するのが、それが通用するのか確かめるのが、とても楽しみなのだ。
「それでは、30分後に、順次模擬戦開始とする!」
そう言ってライグルは、自分も準備のため、移動を開始する。
霧也もアイシャも、他のクラスメイトや騎士達も同じだ。
そして霧也は、その場を離れる直前に振り向いて、
「アイシャ」
「……どうしたの?」
不思議そうな顔をするアイシャに、霧也は右の拳を差し出す。
「――全力で。必ず、勝つ」
不敵に笑いながら、そう宣言する。
それにアイシャも同じように笑って、霧也の拳に自分の拳を打ち付ける。
「楽しみにしてる。……でも、絶対に、負けないから」
==========
模擬戦は、広い訓練場のど真ん中を広々と使って、1組ずつ行われていた。
そして、最終戦、紘輝vsライグルの1つ前、霧也とアイシャの番がやってきた。
即席の試合場の真ん中に立つ2人。霧也はいつもの訓練と同じ動きやすい格好に、シンプルな鉄の剣を1本携えている。
対してアイシャは、これまた普段の鎧に、身の丈程もある巨大な両手剣を背負っていた。
「……アイシャ、そんなの使ってたのか」
思わず、呆れたように呟いてしまう霧也。そりゃまぁ、明らかに女性が扱うには大きすぎるのだから、当然だろう。
しかしアイシャは気にした様子もなく大剣を手に取ると、
「これも鎧と同じ。よく切れて、軽い。だから私でも扱える」
「軽いったって、限度があるだろうに……」
大剣を両手で持って構えるアイシャを見て、霧也はますます呆れたような表情になってしまう。
「ほら、キリヤも構えて。始めちゃうよ」
「……あぁ、うん、分かった」
アイシャに促され、剣を片手で構え、半身になる霧也。最初に比べて、随分と様になっている。
と、脇で見ているソニアがこっそり感心した直後、いつかと同じようにアイシャが飛び出す。
それを霧也は、冷静に受け止める。
「――っく!」
大剣の予想外の威力に思わず呻く霧也だが、「受け止める」から「受け流す」にギリギリで変更することにより、なんとかその場に踏み止まる。
それを見て、満足そうな声を出すアイシャ。
「うん。油断もしなくなったし、やっぱり反応もいい。本当に、キリヤの戦闘センスは羨ましいものがある」
その評価に、どこか嬉しそうに笑いながらも、鋭く目を細める霧也。
「そりゃどうも。――それじゃ、次はこっちから行くぜ!」
そう言ってアイシャと同じようにまっすぐ飛び出す霧也。
下から跳ね上がってくる剣をアイシャが受け止めようとするが、しかしその衝撃は、いつになっても大剣には伝わってこない。
「ふっ!」
「っ!」
横合いから繰り出される剣を、籠手でなんとか受け止めるアイシャ。
霧也は、まっすぐ突っ込むように見せかけて、剣を少しだけ振り上げ、直後、斜め前へと飛び出していたのだ。
体全体を使ったフェイント。
アイシャに教わった技術であるそれは、見ている以上に高度な技術であり、殺意まで乗せた本気の一撃をフェイントに使うとなると、そこらの兵士では到底不可能な芸当だ。
しかしそれを、近衛騎士団副団長を以て「戦闘センスが羨ましい」と言わしめた霧也は、見事にモノにしてみせた。
「……本当に、キリヤ、ずるい」
アイシャがそう呟く。彼女でさえ、あそこまでのフェイントをするのに、数年の時間を要したのだ。それを1ヶ月やそこらで身につけた霧也は、確かに「ずるい」のだろう。
「まぁ、使えるもんは使わねぇと――なっ!」
そう言って、再び斬りかかる霧也。
今度はフェイントなど使わない、まっすぐな打ち合い――ではない。
確かに、フェイントは使っていない。しかしその剣筋は、所々でブレるように動き、軌道を変える。
これも、アイシャから教わった技術だった。
斬撃を放った直後に、軌道をずらす。相手に斬撃を読ませず、また、間違った予測を立てさせる剣術。アイシャが独自に考案し、磨き上げた技術だが、これもまた霧也は短い時間で身につけた。
しかしアイシャは、その剣を躱し、捌き、時には反撃に出る。
最初は霧也が攻めていたはずなのに、気が付けばアイシャも同等に攻めてきている。
霧也はそのアイシャの技術に舌を巻く。
いくらアイシャの剣術を身につけたといっても、それは結局身につけたばかりのものであり、完璧に使いこなしているとは言えないのだ。
だから霧也はまだ、勝てない。
技術でも、ステータスでも、装備でも劣る霧也に、勝つ術は無い。
――その、はずだった。
しかし霧也にはまだ、
「――[完全模倣]ッ!」
スキルがある。
アイシャと剣を打ち合い、鍔迫り合いに持ち込んで、上から押し込む形にすることでなんとか力が拮抗した、その一瞬。
霧也は、自分が唯一持つスキルを発動した。
選択した効果は、複製。
今霧也が触れている物は、自分の服と、武器である鉄の剣だけ。
その剣を、左手に複製した。
結果として現れる霧也のスタイルは、二刀流。
「らぁぁっ!」
右手の剣を操ってアイシャの大剣をどかし、出来た隙間に左手の剣を打ち込む。
「くっ!」
呻きながら、再び籠手でガードするアイシャ。
顔こそ見えないが、その様子からは、どこか驚きが感じられる。
これこそが、霧也がアイシャの意表を突くために考えた作戦。
戦闘中にいきなりスタイルが変わったら対応出来ないのではないか、と考え、訓練が終わってからひっそりと二刀流の練習をしていたのだ。全ては、この日、この一戦のために。
霧也は、右手の剣を払い、アイシャの大剣を弾き飛ばす。左手の剣をガードするために片手で持っていた大剣が、彼女の手を離れ、地面に落ちる。その隙を狙って、怒涛の連撃を繰り出す霧也。
しかしアイシャも、ただでは転ばない。
なんと、霧也の腕を軽く押すだけで、剣の軌道を逸らし、猛攻を受け流してしまうではないか。
霧也は思わず歯噛みする。これでも、ここまでやっても、まだ届かないのか、と。
しかし、アイシャも必死だった。まさかたった1ヶ月戦闘を教えこんだだけで、自分がここまで圧倒されるとは、全く思ってもみないことだった。
さすがに集中が途切れてきたのか、霧也の連撃が一瞬鈍る。
並の人間には分からない程の短い時間であったが、その隙を見逃すようなアイシャではない。
アイシャは霧也に足払いをして体を浮かせ、直後にその体を蹴り飛ばす。
霧也もなんとか腕を交差してガードするが、それでも数メティア吹き飛ばされてしまう。
なんとか体勢を立て直して着地したときにはもう、アイシャは大剣を拾い、構え直している。
霧也はもう一度歯噛みする。既に、複製の制限時間が迫っていることを悟ったからだ。それはスキルの副次効果であり、そのカウントは正確だ。
しかし霧也はこの時まだ、気が付いていなかった。以前よりも複製していられる時間が少し伸びていることに。以前ならもう、とっくに左手の剣は消失していただろう。先程の複製で、[完全模倣]のランクが上がっていたのだ。
しかしそんなことは知らない(知っていても変わらないが)霧也は、時間切れの前に決着を付けようと、アイシャに向かって踏み込む。それはアイシャも同様だった。
しかし、
「そこまでッ!」
響き渡る声に、2人の動きが止まる。
その直後、霧也の左手の剣は消失した。
しかし霧也はそんなことはどうでもいい、と言うように、目を細めながら声の主を睨みつける。
2人の試合を止めたのは、審判を務めていたライグルだ。
「この試合は引き分けとする! 両者、礼!」
問答無用、と言わんばかりにそう声を上げるライグルに、アイシャが抗議する。
「……どういうことですか、団長」
その剣呑な声音に、しかしライグルは表情を動かさずに答える。
「今回の模擬戦の目的は、彼等の成長を見る事だ。それは理解しているな?」
それにアイシャが頷くと、ライグルはそのまま続ける。
「その目的は既に、十分に果たされた。キリヤ、だったか。お前は、勇者達の中でも最も成長したと言ってもいいだろう。しかし今回の試合は、あのまま続けば、確実にどちらか一方が大怪我をしていただろう。それは、あってはならない事だ。よって、この試合は引き分けで終了とする。文句は無いな?」
再びアイシャに聞くライグル。
その理由は正当なものであり、否定出来る部分が無かったので、渋々、といった様子ではあったが頷くアイシャ。
「よし。それでは最終戦、俺とヒロキの模擬戦を開始する。ヒロキ、準備しろ!」
そう言い残して自分も試合の準備を開始するライグルを尻目に、霧也は少し俯いている様子のアイシャに近付いていく。
「……不完全燃焼、って感じだな」
それにアイシャは、コクリ、と頷く。
霧也は笑いながら、俺もだよ、呟き、
「だから、また今度、決着をつけようぜ」
その言葉にアイシャが顔を上げると、霧也は先程と同じように拳を差し出している。
「……うん、そうだね。次こそ、勝つから」
そう言って、アイシャも拳を上げる。
「それはこっちのセリフだ」
2人は拳を打ち付ける。
――しかし、2人が全力を出し合って戦える日は、ついぞ来なかった。
よくよく考えてみると、具体的な戦闘描写があまりなかったような。気のせいかな?
そうそう。紘輝とライグルさんの戦いは、その内、気が向けば、もしかしたら、書くかもしれません。
まぁ、それはさておき。これにて番外は終了、幕間を挟んで第2章です。




