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ぼっちが転移で自由人。  作者: 浅野陽翔
番外Ⅰ 一ヶ月間のお話
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琴音と密会。

 なんかあれだよね。本編でカットした1ヶ月間を描くっていうより、あまりスポットライトが当たらなかったヒロイン(主に候補)との一対一のイベントって感じ。元々はそんなつもりなかったんだけどなぁ……なんでだろうなぁ……。

 3回目の休日、アイシャとお茶をした次の週。

 霧也は今度は、ちゃんとした目的を持って王城内を歩いていた。

 霧也が向かうのは、クラスメイトである橘琴音の自室だ。既に約束も取り付けてある。

 もちろん、やましいことなど何もしない。もっと言うと、霧也の目当ては琴音本人というよりも琴音の回復魔法だ。他の男子に知られたら大バッシングを受けそうではあるが……

 その光景を思い浮かべて思わず霧也が頬を引き攣らせそうになるが、よくよく考えてみれば今更な気もする。何せ、エステリアと談笑する姿や、鎧を脱いだ状態のアイシャと歩く姿も目撃されているのだ。男子達の嫉妬は留まる所を知らない。

 琴音の部屋の前に着いた霧也が、その扉をノックする。

「はーい。霧也君かな?」

 と、中からそんな声が聞こえてくる。

 確かに、頼みがあるから、と言って今日会う約束をしたのは霧也だし、部屋まで行くと言ったのも霧也だ。そりゃあ、誰が来たのかの予想ぐらい付くだろう。

 しかし、それをこうやって確かめるのはやめてほしい。もし違かったらどうするのだ。霧也がよりめんどくさくなること請け合いだろう。

「……そうだ」

 そう思った霧也が少し不機嫌そうな声を出すが、いつもほわほわの琴音さんにはなんのそのらしい。

「はいはーい、今開けるよー」

 その言葉通り、すぐに開かれる扉。

 そこからひょいっ、と出てきた琴音は――

「……何やってんの、お前」

 ――思いっきりパジャマ姿だった。

「ん? あ、これ? えへへ、着替えるのがめんどくさくって。地球でも休日はこんな感じだったよ?」

「いや、それにしたって、今日俺が来るのは分かってんだろうに……」

「いいじゃんいいじゃん。ほら、入って」

 そう言って、霧也の腕をグイグイ引っ張って部屋に入れる琴音。その姿といい、行動といい、無防備にも程がある。これが霧也でなければ間違いを起こしてもおかしくない。霧也でなければ・・・・・・・、だが。

「はい、ここ座ってね」

 琴音に促され、ベッドへと腰掛ける霧也。何故か琴音もすぐ隣に座ってくる。霧也がさりげなく距離を取ると、琴音もその分霧也に近付いてくる。

 ……誤解のないように言っておくが、琴音は決して霧也に対して恋愛感情がある訳ではない。この行動は単純に、やっと普通に接してくれるようになった霧也に対する、逃さないぞ、という意思表示である。

「それで霧也君。頼みって何?」

「ん? あぁ、言ってなかったな。ちょっと治療して欲しくてさ」

 霧也のその言葉に、彼の体を隈なく見回す琴音だが、怪我をしているらしき場所は見当たらない。

「……怪我なんてしてないよね?」

「いや、これからするから・・・・・・・・

「へ?」

 霧也の発言に呆けた顔になる琴音。

 霧也はそれを尻目に、おもむろにナイフを取り出すと、自分の腕を・・・・・浅く切り付ける。

「っ……」

 思わず顔を顰める霧也。声は出さなかったが、琴音はそうはいかないようだ。

「な、何やってるの!? 《治癒ヒール》!!」

 慌てて回復魔法ランクⅠ《治癒ヒール》をかける。[無詠唱]により、ノータイムの発動だ。本来はちょっとした擦り傷程度しか完全には治せないが、琴音のステータスにより、浅めではあるが、日常生活で負うにはあきらかに深いであろう切り傷も、一瞬にして消え去る。

「おぉ、すげぇな、これ」

 感心したように呟く霧也だが、琴音は必死な表情だ。

「霧也君、急に何やってるの!? ほら、そのナイフ貸して!!」

 いつものふわふわした雰囲気が霧消している。それだけ霧也の行動は突拍子もないことだったのだ。

 しかし霧也は、琴音がナイフに伸ばしてくる手を払いのけながら、理由を説明する。

「痛みに慣れておきたかったんだよ」

 その言葉に、琴音は首を傾げる。

「……痛みに、慣れる?」

「あぁ、そうだ。もし魔物やなんかと戦うことになったら、怪我だってするだろう。そしてその時、必ずしも今みたいにすぐに回復できる訳じゃねぇ。だから、痛みに慣れて、多少の傷があっても動けるようにしときてぇんだ」

 真面目な表情でそう語る霧也に、琴音は一瞬キョトンとした表情をしてから、いつもの感じに戻って微笑む。

「……なんか、初恋の人を思い出したよ」

「はっ!?」

 霧也の行動並に突拍子もない発言に、霧也が思わず間の抜けた声を出す。

 しかし琴音は、それには取り合わずに続ける。

「もうずっと前の、小学校に入る前のころなんだけどね。そんな風に、他の誰も気付かないような、だけどよくよく考えてみると当たり前のことによく気が付く男の子がいたんだ。もう顔も思い出せないけど……それでも、なんでだろう、私、あの子のこと好きだったんだよね」

 急にそんな話されても困るんだが、と思った霧也だが、さすがにデリカシーがないと判断したのか、口には出さない。ただ、どこかつまらなそうな、めんどくさそうな表情をしているが。

 琴音はそれには気が付かなかったようで、そのまま話し続ける。

「それが周りと合わなかったのかな。あの子、よく1人っきりで公園のベンチに寝っ転がってた。私が声をかけても気のない返事をするばっかで……あれ? 本当に、なんで私あの子のこと好きになったんだろ……ま、いいや」

「なんだそれ……」

 霧也が思わずツッコむが、琴音はいきなり霧也の方を見たかと思うと、ニコッと笑って続ける。

「顔も名前も覚えてないけど、実はあの子、霧也君だったりしてね。そうだったら運命感じちゃうなー」

 そう言って、楽しそうにゆらゆらと揺れる琴音。

「いや、知らねぇよ……」

 霧也がそう呟くと、琴音はいきなり真面目な表情になって口を開く。

「でも、そういうことなら私に出来る事なら協力させてもらうよ。私の回復魔法の練習にもなるしね」

「……そうか。悪いな、サンキュ」

「ふふっ、いいよ、全然」

(……あれだな。俺、こいつちょっと苦手だ。ペースが掴めねぇ)

 そんなことを考えながら再びナイフを構える霧也。琴音は既に魔法の準備をしている。

 ――結局この日で霧也は、ちょっとした傷程度になら耐えられるようになった。

 また、霧也が自傷行為を働いたと知ったソニアが、もう2度とそんなことをするな、と半狂乱になりながら霧也に泣きついたのは、言うまでもないだろう。

 ……なんだろう、変な話をぶっこんでしまった。これ絶対琴音の初恋の人が霧也君パターンじゃないですかやだぁ。あ、でも、このテンプレを打ち砕いていく小説ならそうじゃないパターンもあり得るかも……?(よく考えてない)

 まぁ、それはさておき。異世界転移モノとかの小説読んでるとよく思うんですよ。なんでずっと平和な国にいたはずの主人公は、普通じゃありえないはずの怪我をしても割と平然としてるんだろうな、って。

 という訳で、霧也に痛みを克服させてみました。まぁ、完全じゃないけど、霧也はチートだからいいよね(暴論)。

 あ、番外は次回で終了の予定です。ちゃんと1週間保ったね。

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