第8話 【悲報】理不尽に殺された怨霊たちに話し合いが通じるはずもなく、命からがら逃げ帰ることになりました。
「頼むから……聞いてくれ……ッ!」
俺の叫びは、猛吹雪のような怨念の嵐にかき消された。
『黙レ……! 生キテイル人間ニ……我々ノ何ガ分カルッ!!』
『絶望ヲ知レ……! 我々ノ苦シミヲ……味ワエェェェッ!!』
話が通じる相手ではない。彼らは対話や説得を求めているのではないのだ。理不尽に奪われた命、途絶えさせられた未来、その行き場のない憎悪を叩きつけるための「生者」をただ欲しているに過ぎないのだ。
俺が何を言おうと、どれほど言葉を重ねようと、彼らの深く酷い傷痕を撫でることなどできないのだ。
(ダメだ……。俺の言葉じゃ、何も届かない……!)
『ユウキ、危ないっ……!』
ノアが叫び、漆黒の縛鎖を展開して押し寄せる影の群れを強引に縛り付ける。血を吐くような思いで歯を食いしばるが、実体を持たない怨霊たちは束縛をすり抜け、俺たちへ牙を剥いて飛びかかってくる。
『……ッ!(絶対的な即死呪気を放ち続けるシロ)』
シロの瞳から、痛々しいほどの焦燥が覗いていた。
生者を簡単に死に至らしめるシロの呪気であっても、「死」そのものである怨霊たちの根深い怨念の芯までは滅ぼしきれない。
削っても、削っても、灰燼街の土地に染みついた無数の死者の念が霧のように集まり、無限に再生を繰り返す。
「ノア! シロ!これ以上は危ない、引こう!」
俺は必死で二人の手を掴んだ。
「これ以上戦っても決着がつかない! 二人が傷つくだけだ!」
「チッ…仕方ない…。シロ姉ちゃん、行こう! 」
『逃ガサン……ッ! 生キテココカラ出スモノカァァァッ!!』
背後から凄まじい呪気と影の爪が迫る。
シロが咄嗟に振り向き、全霊の『死の障壁』を張り巡らせる。怨霊との凄惨な呪気の衝撃が爆発し、俺たちは吹き飛ばされるようにして灰燼街の外縁へと転がり出た。
「ハッ……ガハッ……! ぐっ……!」
地面に激しく打ちつけられ、激痛が走る。
必死で顔を上げると、灰燼街を包む不気味な黒い霧は街の境界線でピタリと止まっていた。
怨霊たちは街に縛り付けられて外へは出られないらしい。だが、霧の向こうから渦巻く無数の赤く光る瞳が、狂おしい憎悪を込めてこちらを睨みつけていた。
『生者……永遠ニ呪ッテヤル……ッ』
『許サナイ……絶対ニ……ッ』
怨念の影たちが蠢き、ゆっくりと廃墟の奥へと消えていく。
街は依然として、冷たく、暗く、救いのない死者たちの領域のままそこに佇んでいた。
何も変えられなかった。彼らの怨念を晴らすことも、救うことも、あるいは討伐して安らかに眠らせることすらも。
「……くそっ……」
俺は地面に拳を叩きつけた。己の善意の浅はかさと、圧倒的な力不足、そして現実の残酷さが胸を押し潰す。
「ユウキ……ごめん……。僕が……もっと強ければ……」
「……(悲しい表情で俺を見るシロ)。」
ノアが申し訳なさそうに下を向き、小さな肩を震わせている。シロもまた、言葉もなく俺の傷ついた手をそっと包み込み、悲しそうに目を伏せていた。
「二人がいなければ、俺はとっくに死んでいた。守ってくれて、本当にありがとう……」
俺は絞り出すような声で二人を抱きしめた。だけど、二人を握る俺の手も、二人が俺を握る手も、凍りついたように冷たかった。
「理不尽に命を奪われた者たちの消えない憎悪」という現実が、俺の心に暗く重い影を落としていたのだった。
第8話を読んでいただきありがとうございます!
ユウキたちの初任務でしたが「言葉も力も通じず、討伐も救済もできずに逃げ帰る」結果となってしまいました。
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明日も21:00に更新します!




