第7話 不気味な廃墟街で出遭ったのは、憎悪に狂う怨霊たちと、それに応戦する二人の『死』でした。
立ち込める冷気と、焼け焦げた瓦礫の匂い。足元を踏みしめるたび、焦げた瓦礫がジャリ……ジャリ……と不気味な音を立てる。
『灰燼街』の奥へ進むほど、足元から突き上げてくるような激しい悪寒が強くなっていった。
「……すごく、冷えるね。」
俺が身を縮めると、シロとノアが左右から俺の手をしっかりと握りしめてくれた。だけど二人の手はいつにも増して凍りつくように冷たく、その表情は硬く引き締まっていた。
(……来る…!)
ノアが鋭い視線を闇の奥へと向ける。
直後――霧の奥から、無数の歪んだ「影」が溢れ出てきた。
『アアアアアッ……生者ダ……!!』
『殺セ……! 人間ヲ許スナ……ッ! 我々ノ苦シミヲ……味ワワセテヤル……ッ!!』
きっとこの街を包んだ炎の中で理不尽に命を奪われた、大勢の怨霊たちだろう。だがシロとノアのような生前の姿ではない。上半身だけが辛うじて人型を保っていて、失われた下半身を舵変わりに空中を泳いでいる。
彼らの瞳には漆黒の憎悪が渦引き、凄まじい狂気とともに、俺を殺そうと一斉に牙を剥いて飛びかかってくる!
「ッ!? 幽霊……!?」
『ユウキ、下がれッ!!』
ノアが前へ飛び出して叫んだ。
ノアの全身から溢れ出した漆黒の怨念が波となって広がり、向かってくる怨霊たちの足をガチリと縛り付ける。
『……ッ!(冷徹な瞳で手をかざし、絶対的な即死呪気を放つシロ)』
シロの手から放たれた『死の波動』が怨霊たちを飲み込み、その存在を激しく削り取っていく。
だが――。
『グオオオオッ……!! 殺ス……殺スゾォォッ!!』
怨霊たちは叫びながらも、滅びない。
彼らもまた、シロやノアと同じ「実体を持たない死者」なのだ。どれほど強力な呪いを叩きつけようとも、怨念の芯が残っている限り、霧散しては何度でも舞い戻ってくる。
『くっ……実体がないから、完全に消し去れない……ッ!』
ノアが歯を食いしばる。
怨霊たちの狂気は増すばかりで、激しい呪気が嵐のように巻き起こり、シロとノアを押し返そうとする。
「ノア! シロ! やめてくれ!」
俺は二人の前に立ち塞がり、立ち込める怨霊たちに向かって叫んだ。
「頼むから、争うのはやめてくれ! 君たちが戦争で酷い目に遭って、人間を憎んでいるのは分かってる……でも、これ以上誰かを傷つけたって、君たちの辛さが消えるわけじゃないんだ!」
必死の説得。だが――怨霊たちに、俺の声は届かない。
『黙レ……!! 生キテイル人間ニ……我々ノ何ガ分カルッ!!』
『理不尽ニ殺サレタ無念ガ……奪ワレタ未来ガ……!!ソノ言葉一ツデ消エルモノカァァァッ!!』
怨霊たちの激越な叫びが、脳裏に直接響き渡る。
彼らの憎悪の前では、俺の説得など綺麗事でしかなかったのだ。
「く…っ!」
言葉の無力さに、俺は胸を突かれ、言葉を失う。生者である俺には、死者の無念を本当に理解してあげることなんてできない。その厳しい現実が、冷たく肩に重くのしかかる。
『……ユウキ、下がってて。』
ノアが悲しそうな、だが力強い目で俺を見上げた。
『僕もこの街の幽霊と一緒。気持ちは痛いほど分かるよ。人間を恨んで、皆殺しにしたいって気持ち……今もそう。……でも…。』
ノアは俺の服の裾をぎゅっと掴み、怨霊たちを強い眼差しで睨みつけた。
『ユウキを傷つける奴は……たとえ同じ悲しみを持つ幽霊でも、許すことはできない!!』
『……。(小さく深く頷き、ユウキを背中にして庇うように立つシロ)』
決着のつかない怨霊と怪異の衝突。激しい呪気と怨念がぶつかり合い、灰燼街の空間が歪んでいく。
互いの強い念が干渉し合い、凄まじい冷気が渦巻くその真っ只中で――俺は二人の小さな背中を見つめながら、拳を強く握りしめたのだった。
第7話を読んでいただきありがとうございます!
「戦争で死んだ怨霊たちの消えない憎悪」と「言葉が届かない現実」が激突しました。
同じ境遇だからこそ怨霊たちの気持ちが痛いほどわかるノアとシロですが、「それでもユウキを守る」という固い意思で立ち向かいます。そして綺麗事が通じないことを知りつつも二人を見守ることしかできないユウキ。
「怨霊たちの気持ちもわかる…」と思ってくださった方は、ぜひブックマーク登録と下部の**評価(★★★★★)**をいただけますと大変励みになります!
明日も21:00に更新します!




