第5話 誰もいない空間に向かって話しかけるユウキ。ギルド中が『あの即死魔法使い、精神まで常人離れしている……』と戦慄していました。
豪快で太い声の方を見ると筋骨隆々の男が立っていた。髭は立派なのに頭の方は少し寂しい。
「おい!お前がやったのか!?」
俺の方に近づくなり両肩を掴んで揺さぶってきた。その力強さに成す術なく、首もグラグラと揺れる。
「い、いえ…俺ではなく…こちらの…二人…」
「二人…!?お前、何言ってんだ!?誰もいないぞ?」
ここでハッとする。そうか…視えないのか…!シロとノアを見ると「チクったな」と言わんばかりの表情でノアが俺を睨んでいる。
「と、とにかく…!俺ではありません…!」
「本当か…?」
本当です。シロとノアのスキルなので。
「もちろんです…!今日は…そう!この依頼!この依頼を受けに来ました!」
俺の視界の隅に『任務依頼の掲示板』の目が入る。そこにあった大きめ貼り紙の内容を見もせずに乱暴に取り、そそくさと窓口を離れて外に出た。
「はぁ…疲れた…。」
「おいユウキ、なんで帰るんだよ?ちゃんと依頼を受けてきたのか~?」
「…(シロが首をかしげる)。」
「依頼どころじゃないよ。人前であんなことしちゃダメ!本当に死んじゃうでしょ!」
「おいおい何言ってんだよ。僕たちが怨念にまみれてるってことを忘れたのか?死後の世界に引きずり込むための呪いだぞ。」
「…(シロが悲しそうな目でノアを見る)。」
「それは…そうだけど…」
二人が持っている呪いはホラー映画に出てくるような問答無用の力なのだ。だけど二人の過去を知った俺は明らかに同情し、説得は綺麗ごとに思えて仕方なかった。
……しかし。
「(……ヒソヒソ……)」
「(おい見ろよ……あいつ、さっきガデンを一瞬で血吐かせて倒した《即死魔法使い》だろ……?)」
「(ガデンはまだ生きてるから即死魔法使いではないだろ。)」
「じゃあ《呪い魔法使い》にしておくか?無詠唱の上に実体化したものがなかったらしいぜ。炎とか氷とか。」
「(言ってる場合か?俺たちだってああなるかもしれないんだぞ?)」
「(とりあえずアイツは敵に回さない方が良い。)」
「(……なぁなぁそんなことより、あいつ……さっきから誰と喋ってんだ……?)」
ギルドの外にいた冒険者たちが、遠巻きに俺を見ながらガタガタと震えていた。そう――彼らの目には、衝撃的な光景が映っていたのだ。
俺の隣には誰もいない。生き物の姿など影も形もない。
にもかかわらず、俺は空間に向かって険しい表情で「それは…そうだけど…」などと語りかけているのだ。
「(まさか…自分が過去に即死させた連中じゃないよな……!?)」
冒険者たちは勝手に創造したストーリーでイメージを膨らますと、顔がみるみる蒼白になっていった。
彼らには視えないのだ。俺にとっては「ごく普通の姉弟」に見えているシロとテオが、一般人には完全に不可視の怪異なのだ。
「(((狂ってる……! あの即死魔法使い、精神まで完全にイカれてやがる……!!)))」
『触れてはいけない最凶の狂人』として認定した瞬間だ。きっとこのギルドにもすぐに広がるだろう。
「まぁ、ユウキに免じて『今は』手加減してやるよ。」
「……(シロがノアを撫でる)。」
「…ありがとう。」
「ユウキ、いつか…僕たちに呪って欲しいって思う時が来るかもしれないぜ。」
「きっと…来ないよ…。」
俺は自信なく、曖昧な強さでやっと答えた。
「そんなことより、ユウキ。手に持ってる紙には何て書いてあるんだよ。」
「……(シロがコクコク、と小さくうなずく)。」
ノアからそう言われて気付いた。そうだ、貼り紙を持っていたことを忘れていた。
「う~んと…えっ…これって…」
———依頼内容
灰燼街に出没する『幽霊』と呼ばれる存在の調査・討伐
第5話をご覧いただきありがとうございます!
ユウキに近づいたら突然血を吹き出し、周囲からは「犠牲者の霊と会話するヤバい狂人」に見えているという絵面……実際にいればあまり近づきたくはないですよね。
次回はユウキたちは初めての任務に赴くようです。
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明日も21:00に更新します!




