第19話 【驚愕】謎の刺客に襲われたので追いかけたら呪気攻撃を弾かれました……相手は王宮へ向かったので、本気で命を狙われた恐怖を乗り越えて突入します!
夜の静寂を切り裂く微かな足音。
月明かりすら届かないヴェルガルド王国の裏路地を、漆黒の呪気を纏った少女――シロが影のように疾走していた。
その視線の先には、フードで顔を隠し闇に紛れるように逃走する刺客。ひらひらと揺れるローブの裾が夜風になびいている。
「(……逃がさない……っ!)」
シロは地を蹴ると、一瞬で距離を詰め、右手に収束させた濃密な死の呪気を刃の形に変形させて鋭く振り下ろした。暗闇を切り裂く一閃。
しかし刺客はまるで背中に目でもついているかのように、最小限の動きで体をひねり、シロの攻撃を紙一重でかわす。
(……速い……っ!)
刺客は足を緩めることなく、路地裏の壁を蹴り上げて一跳びで民家の屋根へと躍り出た。シロもまた、人外の跳躍力で並走するように屋根の上へと飛び移る。
月光の下、瓦屋根の上を二つの影が駆け抜けていく。
(アイツ…ただの人間じゃない……私のことが“視えてる”んだ。それにあの挙動の鋭さ…冒険者たちのものとは全く違う……!)
シロは漆黒の瞳を限界まで見開き、刺客の挙動を冷静に観察した。重心の移動、踏み込みの癖、そしてマントの翻り方。一見するとランダムに見える逃走経路だが、そこには一切の無駄がない。
屋根の勾配を駆け下り、隣の建物へ飛び移る一瞬――刺客のステップに、ごくわずかな滞空時間の隙が生じた。
(……ここ……っ!)
シロは確信をもって踏み込み、より巨大で強烈な死の波動を刺客の背中へ叩きつけた。直撃を確信する絶妙のタイミング。
「(次こそ……当たる……!)」
だが、その瞬間。
逃げていたはずの刺客が、空中で滑らかな体さばきを見せ、クルリと180度旋回したのだ。そして――刺客は自身の腕に特殊な力を纏わせると、シロが放った死の波を、まるでハエでも払うかのように跳ね返した。
シュンッ!!
鋭い衝撃音が夜空に切り裂き、死の呪気がシロへ返ってくる。
「!?!?」
シロは虚をつかれ目を丸くする。それと同時に予想していない事態に身体が硬直した。視界が自分の呪気で覆われたが、すんでのところで上半身だけをひねらせてかわすと、呪気が空中で霧散するのを見送った。
「(……なん…で……? 呪気を……弾いた……!?)
呪気を弾き返されたことはなかった。過去にユウキは正面から受け止め、レグナードの怨霊は英気を養うがごとく自分に取り込んだ。手で掴むことができないはずの呪気を、まるで“そこに物体としてある”かのように真っ向から打ち払ったのだ。
シロが刺客の方へ視線を戻すが、ほんの数秒の隙に、刺客は冷ややかな気配を残したまま闇の奥へと消え去ってしまった。
「(あ……。)」
取り逃がしたことに気づいた時には、周囲にはただ夜風が吹き抜ける音しか残されていなかった。
◇
それから数分後。息を切らせて追いついてきたユウキ、ノア、エリオの三人はシロと路地裏での合流を果たした。
「ハァ……ハァ……シロ! 無事か!?」
俺は肩を揺らしながら駆け寄ると、シロは悔しそうに拳を握りしめ、伏し目がちに首を振った。
「(……ごめんなさい。逃げられちゃった……)」
「シロ姉ちゃん!怪我はない……!?大丈夫……?」
ノアが心配そうにシロに駆け寄る。シロは自分の無力を噛み締めるように、ぽつりと状況を説明した。
「(……うん、怪我はないよ。……暗くて顔も服装もはっきり確認できなかったけど、これだけは言える……。アイツはただの人間じゃない……)」
「ただの人間じゃない理由があったのか?」
不思議そうに尋ねたのはラシュガルだ。
「(私のことが視える。それに、呪気を弾き返してきたの……)」
「ほう…それは穏やかではないな。」
「(原理はわからないけど、気味の悪い力を使ってた。)」
シロの悔しげな声に、俺は首を横に振る。
「シロが無事でいてくれただけで十分だよ。無茶しなくてよかった……」
そう言って胸を撫で下ろしたものの、俺は身体の芯から悪寒が走り、全身の震えが止まらなくなっていた。
「ユウキ殿……?」
エリオが違和感に気づき、心配そうに覗き込む。
「大丈夫ですか、ユウキ殿……顔色がとても悪いように見えますが……。」
俺は震える自分の手を見つめながら、自嘲気味に苦笑いを浮かべた。
「……あはは、すみません。なんだか……今になって急に、恐くなってきちゃって……」
俺の言葉に全員が息を飲んだ。
「先ほどの狙撃は……殺意に満ちていまいた。ナイフの狙い……完璧だったんです。俺の首筋を……正確に貫こうとしていた。シロが防いでくれなかったら、今頃俺は……。あの刺客は……本気で俺を殺そうとしてきたんです……」
俺はいつからか「絶対に死なない」と根拠のない結論を自分に宿していた。シロとノアが大丈夫なように、二人の攻撃をものともしない俺も大丈夫だと。怨念の中を歩くことはできても、刃物に対しては何の対抗策がない生身の人間なんだ。
ノアは表情を曇らせ、俺の肩にそっと手を置いた。
『……ユウキ。無理しなくていいよ。一旦宿に戻って、作戦を練り直す? それとも……この調査から退く?』
ノアの提案は優しさからくるものと知っていた。俺は未だ震える手で深く自分の顔を覆って一息ついた後、ゆっくりと首を横に振る。
「……ううん、ううん。行こう。」
「ユウキ殿……!?」
エリオが驚きの声を上げる。俺は顔を上げ、しっかりと二人を見つめ返した。
「恐怖がないわけじゃない。でも……俺たちを本気で殺しに来たってことは、それだけ相手も……『これ以上探られたくない』って、追い込まれてる証拠だと思う。」
ラシュガルが腕の上で「ふむ……」と深く頷いた。
「俺たちが引き下がったら……あの哀しい幽霊たちも、エレノア王女様も、アムルガード国王様も……誰も救えなくなる。ここで止まるわけにはいかないよ。」
俺の決意に、シロが心を打たれたように瞳を輝かせ、前方を指差した。
「(……ユウキさん。さっきの刺客……消える直前、あっちの方向……『王宮』の方に逃げて行ったの。)」
「王宮…!?急いで追おう…!王宮の人たちが危ない!」
「ユウキ殿……感謝いたします。恐怖を押し殺し、我々のために立ち上がってくださるそのお心……一生忘れません!参りましょう、闇の蠢くあの城へ……ッ!」
エリオが拳を強く握りしめ、俺に向かって深く頭を下げた。
刺客が向かったヴェルガルド王宮。俺たちは恐怖を意志の力に変え、暗雲が垂れこめる王宮へと急ぐのだった。
第19話を読んでいただきありがとうございます!
ユウキの首を狙った刺客は人並み外れた動きを見せ、シロの呪気を弾いてみせました。
向かった先はヴェルガルド王宮。急いで追うユウキたちに何が待ち受けているのでしょうか。
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誠に勝手ながら明日は1日お休み、8/30 21:00に更新します!




