第18話 【夜間調査】夜に蠢く怨念を浄化していたら何者かに襲撃されました……これ、単なる怪異じゃなくてヤバすぎる陰謀じゃありませんか!?
陽が傾き、薄暗い闇がヴェルガルドを覆い始めると、街からは急速に人の気配が消えていった。
人々は示し合わせたように家に閉じこもり鍵を閉める。窓からはささやかな明かりが漏れているものの、大通りに人影は一つもない。本来なら冒険者や酔っ払いで活気付くはずの酒場や歓楽街でさえ、早々と看板を下ろし静まり返っていた。
静寂と重苦しい冷気が、夜の街を丸ごと呑み込んでいく。
『……ふん、誰もいないね。これで人目を気にせず歩きやすくなったんじゃない?』
ノアが両手を頭の後ろで組みながら、皮肉めいた苦笑いを浮かべた。
「でも……あまりにも不気味すぎるよ。みんな、怪異に怯えて暮らしてるんだな」
俺たちが警戒を強めながら静まり返った大通りを進んでいると、先頭を歩いていたシロが急に足を止め、鼻をくんくんと鳴らした。
『(……ユウキさん。こっち……)』
シロが暗い路地の奥を指差し、ノアもまた鋭い表情で深く頷く。
『うん、間違いない。こっちから……あの城で見たエレノア王女と全く同じ、気味の悪い『死のオーラ』を感じる。』
「よし、行ってみよう。」
俺たちは二人に続いて路地裏へと足を踏み入れた。案内された先は、路地の奥にひっそりと佇む古い石造りの教会の前。
街灯の光も届かない薄暗い広場の中央。そこに――青白い光を纏った、透き通る女性の幽霊がポツンと佇んでいた。
「な……ッ! あ、あれは……!!」
後ろにいたエリオが息を飲み、目を見開いた。
「エレノア王女様……! エレノア王女様ではありませんか!!」
耐えきれなくなったエリオが、一心不乱にその姿へ駆け寄ろうとする。
「エリオさん、待って! 様子がおかしい!!」
俺は咄嗟にエリオの手を掴み、力任せに引き戻した。
「な、なぜ止めるのですかユウキ殿! あそこにいらっしゃるのは――」
「よく見てください! エレノア王女じゃありません!」
俺の強い声に、エリオがハッと息を飲んで視線を凝らした。
そこにいたのは、豪華なドレスを着た王女ではない。質素な麻の服を着た若い女性の幽霊。焦点の合わない空間を見つめ、両手で頭を抱えながら悲痛な声を漏らしていた。
『……くるしい……くるしいよぉ……っ!』
「っ……!」
突如、女性の幽霊が激しい死の波動を撒き散らし、狂乱したようにこちらへ飛びかかってきた!
「死ねぇぇぇっ!!」
ドスッッ!!
凄まじい衝撃が俺の胸元を直撃する。華奢な身体から想像できないほど力強さが伝わってきた。【即死耐性】のおかげで一命を取り留めたものの、抵抗する間さえも与えない圧倒的な力をいなせず、身体の芯に恐怖感が残る。
『次はお前だぁぁっ!』
ターゲットの生死などどうでも良いとばかりに、後ろのエリオへとロックオン。鋭い爪を立てて襲いかかった。
「ひっ……!?」
『(させない……っ!)』
間一髪、シロが前に割り込み、漆黒の死の呪気を展開して壁を作り出し、幽霊の攻撃を完璧に防ぎ切った。
『大人しくしなよ……っ!』
即座にノアが背後に回り込み、怨念の力で女幽霊の腕を固めて地面へ押さえつける。
彼女は暴れながらも、恨みがましい言葉を吐くわけではなく、ただ涙を流しながら叫び続けていた。
『苦しい……苦しいの……頭が割れるみたいに痛い……助けて……!』
「……この人、俺たちを殺したくて攻撃してきたんじゃない。苦しみのあまり、自分の力を制御できなくなってるんだ……」
痛ましさに俺が胸を痛めていると、左腕からラシュガルがぬるりと首を持ち上げた。
『……哀れな魂じゃな。命を不当に弄ばれ、怨念の器とされたか。……ユウキよ、吾輩の再生の力で、この解れかけた魂を癒やしてやろう』
ラシュガルが瞳を輝かせ、温かな再生の光を女幽霊へと注ぎ込む。すると、苦しみに歪んでいた女性の顔からすーっと毒気が抜け、穏やかな表情へと変わっていった。
『……あ……ありがとう……』
女性の幽霊はすすり泣きながら辛うじてお礼の言葉を口にし、光の粒子となって夜空へと消えていった。
「よかった……成仏してくれたか。」
俺が安堵の息を吐いたのも束の間。シロとノアが険しい表情を崩さぬまま、周囲を警戒していた。
『(……ユウキさん、まだ……終わってない……)』
『うん…あの幽霊は消えたのに……エレノア王女と同じ死のオーラが、まだこの近くに漂ってる。』
「まさか……まだいるのか……!?」
俺は二人に視線で促し、再び教会の裏手にある墓地へと向かった。墓標が立ち並ぶ暗闇の中、予感は的中した。
そこには――先ほどの女性とは別の、しかし同じように年格好がエレノア王女に近い、二人の若い女性の幽霊が肩を寄せ合って震えていた。
『もう……やめて……』
『痛いのは……嫌……お母さん……助けて……』
二人の幽霊は悲痛な呟きを繰り返し、死のオーラを垂れ流している。
「やっぱり……! 一人や二人じゃないんだ……!」
『見捨ててはおけん。まとめて再生の力で解放してやるわ――』
ラシュガルが再び光を放とうとした、その瞬間だった。
ヒュンッ――!!
夜の静寂を切り裂く不穏な破空音!
『(ユウキさん、危ないっ!!)』
バシッ!!
俺の頭上を目がけて飛来したナイフを、シロが素早く死の気配を纏わせた腕で打ち落とした。金属音が墓地に虚しく響き渡る。
「なっ……襲撃!?」
『ユウキ、あっちの方だ!』
ナイフが飛んできた方向には、黒いフードを深く被った人影が木立に潜んでいた。人影は俺たちと目が合うと、チッと舌打ちを残し、脱兎のような速さで壁を飛び越えて逃走し始めた。
『(逃がさない……っ!)』
シロが迷わず影を追い、夜の闇へと飛び出していく!
「シロ! 一人で行くな! ラシュガル、二人の幽霊を頼む!」
『うむ!』
ラシュガルが二人の女幽霊に再生の光を注ぎ込む。成仏させるのを見届けた俺は、投擲されたナイフを拾い上げ、ノアとエリオを引き連れてシロの後を追った。
「ハァ……ハァ……! ユウキ殿! 今の者は一体……!明らかに怪異の類ではない!」
石畳の路地を走りながら、エリオが息を荒らして問いかけてくる。俺は立ち止まり、暗雲が垂れこめる夜空を見上げ、険しい表情で口を開いた。
「エリオさん……これは、俺たちが思っている以上に……『とんでもなく巨大な陰謀』が動いているかもしれません。」
「巨大な陰謀……!?」
「ええ。さっきの幽霊たち……みんなエレノア王女様と同年代の若い女性ばかりでした。そして、この怪異を『解決させまい』として俺たちを狙ってきた謎の刺客……。街中に蔓延するこの死のオーラは、偶然起きた災難なんかじゃない。」
俺は確信を込めると、同じく死のオーラの原因を悟ったラシュガルが口を開く。
「何者かが意図的に魂を切り刻み、死の念を伝線させる媒介としておるな。大勢の若い女性を生贄にして『強力な呪術』を作り出す。この街はその実験台だ。そして、その『完成形』として狙われたのが……エレノア王女様というわけじゃな……!」
俺とラシュガルの推察に、エリオは言葉を失い、顔を蒼白に染め上げた。
第18話を読んでいただきありがとうございます!
ヴェルガルド王国に蔓延している怪異の正体、それは呪術の犠牲になった罪のない町民でした。確実にユウキを消そうとした刺客の行動が、陰謀を裏付ける証拠となりました。街に包む死の念を追って行くとどこへたどり着くのでしょうか。
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明日も21:00に更新します!




