第17話 【異常事態】隣国に潜入したら街全体から怨霊の匂いが漂っていました……王宮発注の「謎の怪異調査」依頼に乗じて王国の闇に迫ります!
アムリタ王国の国境を越えて俺たちは隣国『ヴェルガルド王国』のへと足を踏み入れた。
一見すると、アムリタ王国に引けを取らない立派な街並みだ。高くそびえ立つ石造りの建築美、広く舗装された大通り。だが決定的に異なっている部分がある。
行き交う人々の顔には活気がなく、皆どこか怯えたように俯いて歩いている。重苦しい沈黙が街を支配していた。
「……何だ?この街は…」
俺が眉をひそめると、背後でノアが鋭い視線を周囲に向けた。
『……ユウキも感じるだろ? この街全体から……レグナードの時と似た、気味の悪い『死者の匂い』が漂ってる。』
シロは無言でノアの肩を抱き寄せ、首を縦に振る。
彼らが死者だからこそ敏感に感じ取れる、漂う死の気配。それは目に見えない薄汚い霧のように、街全体を覆い尽くしていた。
「ええ……私のような者でも、肌が泡立つような異様な寒気を感じます……。一体、この街で何が起きているというのですか……。」
エリオもまた、不気味な気配を肌で感じ取り、生唾を飲み込んだ。
「なぁラシュガル、迷いの森でノアを探し当てた時のように、エレノア王女を舌で感知することはできないか?」
「残念だがそれはできない。エレノア王女の匂いが分からんからな。王女の幽体からは匂いは感じられなかったのだ。」
エレノア王女の安否、そして自国の王の命がかかっている焦燥感から、エリオの呼吸は次第に荒くなっていく。
「……ユウキ殿!うじうじと考え込んでいても始まりません! 私が直接、王国の城門へ赴き、アムリタ王国の使者として面会を求めます! エレノア様をお救いしなければ……!」
気が逸り、今にも城へ向かって走り出そうとするエリオの肩を、俺は慌てて掴んで引き留めた。
「ちょ、ちょっと待ってください、エリオさん! 落ち着いてください!」
『焦るな、小僧。』
俺の左腕で静観していた腕輪蛇のラシュガルが、冷ややかな言葉をエリオに放つ。
『この異様な『死の気配』……向こうも相応な準備をして儀式を執り行っておるようだ。そんな状態で正面から乗り込めば、門前払いにされるか、あるいは口封じに消されるのが関の山だろう。お主は王宮に戻って報告せねばならん。』
「くっ……しかし……!」
悔しそうに拳を握りしめるエリオに、俺の隣でじっと街を見渡していたシロが、ぽつりと声を上げた。
『(……ユウキさん。焦って城に行くより……まずは街の『冒険者ギルド』に行ってみるのはどう……? ギルドなら……街の異変に関する情報が集まっているかもしれない…)』
「シロの言う通りだ。まずは情報を集めよう。敵の懐に飛び込むにしても、手ぶらじゃ危なすぎる。」
俺の言葉に、エリオも深呼吸を一つ挟み、ようやく「……申し訳ありません。冷静さを欠いていました」と首を垂れた。
◇
俺たちは街の中心部に佇む巨大な建物――ヴェルガルド王国の冒険者ギルドへと足を運んだ。
かつて滞在したベルグランのギルドを遥かに凌ぐ広大な施設内。しかし、そこに広がる光景は、活気溢れる酒場の賑わいとは程遠いものだった。
集まっている冒険者たちは皆、険しい顔で武器を磨き、互いを牽制するように殺伐とした空気を撒き散らしている。重苦しい静寂が空間を押し潰していた。
「……なんだか、居心地が悪いな。」
俺たちが掲示板へ近づくと、ノアが壁に貼られた大量の依頼書を眺めていた。
『……へえ、大きな街の依頼ともなると、『巨大なモンスターの討伐』とか難しそうな依頼ばかりと思っていたけど、結構単純の依頼も多いんだなぁ。『薬草採取』とか『街の掃除』なんてのもあるけど……ん? ユウキ、これ見てよ。』
ノアが指差した一枚の依頼書に、俺とエリオは目を留めた。そこには、他の依頼とは明らかに異質な文言が躍っていた。
『街で頻繁に発生する謎の怪異、および原因不明の現象に関する詳細調査』
「……『街中で頻繁に起こる謎の怪異』……?」
俺が呟くと、ノアが頭の後ろで手を組みながら考察を巡らせる。
『街全体に漂うこの不気味な死の匂い……間違いなく、この『謎の怪異』と関係してるよ。』
『(もしかしたら…呪術の余波か何かで、街の中に変異が起きてるのかも…。)』
真相を確かめるべく、俺たちは受付カウンターへと向かった。対応してくれた受付嬢は、目の下に濃いクマを作り、疲れ果てた様子で対応してきた。
「すみません、この『街中の怪異調査』の依頼について詳しく教えていただけますか?」
「……ああ、それですか……」
受付嬢は深いため息をつき、周囲を警戒するように声を潜めた。
「ここ一ヶ月ほど前からなんです……街中で突然、原因不明の奇病や、夜な夜な人影のない場所から悲鳴が聞こえるといった『怪異現象』が多発しているんです。街の人々もすっかり気味を悪がって、外出を控えるようになってしまって……」
「奇病に……怪異……」
「ええ。あまりにも被害が広がるものだから……珍しいことに、依頼主は『ヴェルガルド王宮』なんです。街の治安維持のために腕利きの冒険者を募っているのですが……原因が分からず、冒険者自身も怪現象の影響を受けてしまい、受注者がおらず困っていまして……」
俺は受付嬢に背中を向け、エリオさんに小声で意思を伝える。
「エリオさん、この依頼を受けましょう。王宮が直接発注している依頼であれば、調査結果の報告という名目で……城内への立ち入りや、内部の情報を探る口実が得られるかもしれません。」
「しかしユウキ殿、我々には悠長に依頼をこなしている時間など…」
「エリオさん、おっしゃってることはわかりますが、焦りは禁物です。この街で起きている現象……おそらく、エレノア王女様を巻き込んでいる『呪術』の副作用や歪みです。実際にエレノア王女の幽体とこの街の雰囲気は大きく異なります。これを野放しにしたまま城へ侵入しても、真相には辿り着けないでしょう。まずは今夜、この怪異の正体を突き止めます。そうすれば……黒幕が隠している『呪術のアジト』や、王女様が囚われている場所のヒントが見つかるかもしれません。」
「わかりました。貴方のおっしゃる通りです。今夜の調査……私も同行させていただきます。」
浮足立つ気持ちを抑え、エリオは渋々納得した表情を浮かべた。
「この依頼、俺たちに受けさせてください。」
「あの…かなり危険だと噂されている依頼ですが……。」
「大丈夫です。怪異の調査の経験がありますから。」
俺が言い切ると、受付嬢は少し迷った末に、「……分かりました。では手続きをしますね。くれぐれも夜間の調査には気をつけてください」と依頼の受理印を押してくれた。
シロとノアも今夜に向けて静かに気を引き締めていた。街を覆う不気味な死の匂いの正体とは何なのか。
俺たちは暗雲が垂れこめるヴェルガルド王国に夜が訪れるのを、じっと待つのだった。
第17話を読んでいただきありがとうございます!
焦るエリオに対して、ラシュガルの説得、シロやノアの観察力とユウキの冷静な判断によって、黒幕の陰謀へ一歩進みました。ですが、エレノア王女の身を案じるエリオの気持ちにも納得できます。
「エレノアは無事だろうか…」と思ってくださった方は、ぜひブックマーク登録と下部の**評価(★★★★★)**をよろしくお願いいたします!
明日も21:00に更新します!




