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第16話 国王陛下を蝕む死のオーラの正体は隣国へ嫁いだ王女様でした……って、助けを訴えかけてくるって向こうで一体何が起きてるんですか!?

 天蓋付きのベッドを覆う、黒く濁った死のオーラ。


 その中心で揺らめいていたのは、苦しむ国王にすがりつくようにして佇む、一人の若き女性の幽霊だった。


 その姿は酷く淡く、今にも消えてしまいそうなほど儚い。だが、その瞳には溢れんばかりの切なさと、絶望的な必死さが宿っていた。


「……ぼんやりとだけど、女性に見える。」


 俺がぽつりと呟くと、部屋の空気が一瞬で緊張に包まれた。


 病床の傍らに寄り添い、王の冷たくなった手を必死に握りしめていた気品ある女性が弾かれたように顔を上げ、俺の身体にすがってきた。


「…今、何と言いましたか!?」


「エルル王妃様。どうか…どうかお心をお静めください!」


 その『女性』に心当たりがあるのか、涙に濡れたその瞳が、驚愕と縋るような光を帯びて俺に向けられた。


「女性……だと……? 貴様、見えぬはずのものを口にするな。国王陛下と王妃様の御前で冗談を申すなど、ただでは済まされぬぞ。」


「控えろ、ハインツ。ユウキ殿は我々に力を貸してくださっているのだ。」


「ふん。ならば、どのような特徴なのだ……?」


 黒ぶち眼鏡の側近・ハインツは瞳を細め、じっと俺の口元を観察するように凝視している。


 俺は部屋の中で揺らめくその女性の姿を慎重に観察した。


「えっと……長い栗色の髪で、額には繊細な意匠の銀のティアラを付けています。着ているのは……とても豪華な刺繍が施された、綺麗なドレスです。それから、左手の薬指に大きな宝石がついた指輪をはめていて……」


 俺が詳細を語るにつれ、エルル王妃の顔から急速に血の気が引いていった。王妃は両手で口元を覆い、崩れ落ちるようにしてベッドの脇に膝をついた。


「な……なんということ……ッ! ……間違いないわ……!エレノア……! エレノアだわ……ッ!!


「エレノア王女様……!?」


 王妃様が悲痛な叫びを上げ、エリオが息を飲んだ。ハインツもまた、何も言わず驚愕の表情を浮かべている。


「ユウキ殿、エレノア様は我が国の第一王女でいらっしゃいます。アムルガード国王陛下もエルル王妃様も溢れんばかりの愛を注いでいらっしゃいましたが、一年前、隣国『ヴェルガルド王国』へ嫁がれたのです。」


 アムルガード国王陛下が命の危機に瀕している原因。それは悪霊の類などではなく、遠く離れた隣国へ嫁いだ実の娘――エレノア王妃の霊体だったのだ。


 俺の背後で、シロとノアがじっとエレノアを見つめている。死者である二人には、俺以上にその状況の異常さが理解できているようだった。


『でもさ、ユウキ……ちょっとおかしいよ。』


 ノアが眉をひそめ、静かに呟く。


『僕やシロ姉ちゃん、レグナードの怨霊みたいに、死んだ人間が幽霊になるのは分かる。でも……この人、まだ完全に死んでないような、奇妙な『生の気配』が混ざり合ってる。』


 シロもまた、静かに首を横に振った。


『(……ユウキさん。私たちが話しかけても……言葉が届かない。自我が削り取られているみたいに……ただ何かを必死に訴えかけてる……)』


「話しかけても……答えてくれないのか?」


「おい、貴様!何もない空間に向かって戯言を!!」


「びっくりさせてしまってすいません。ですが、少し失礼いたします。」


 俺がそう言って、ハインツのすぐ隣り、エレノアの霊体に歩み寄った。彼女は俺たちと目を合わせることもなく、ただ消え入りそうな声で掠れた念を繰り返し放っていた。


「お父様……お助けを……。この言葉を何度も何度も繰り返しています。」


「あぁ…ああ、ああぁ…っ!エレ…エレノア…!」


 俺の言葉を聞いた途端、王妃は言葉にならない悲鳴を上げ、その場に倒れこんでしまった。エレノア王妃の幽体はこちらの問いかけには一切反応しない。ただ一方的に、途切れ途切れの念を垂れ流し、父親であるアムルガード王へ縋り付いているのだ。


「エルル王妃様っ!」


 ハインツが咄嗟に王妃の身体を抱きかかえると、その場から退場した。


 俺の左腕に巻きついていた腕輪蛇のラシュガルが純白の身体を起こし、静かに鎌首を立てた。その瞳に冷徹な色覚が宿る。


「……ふむ。ユウキよ、これはただの未練や霊体化ではないぞ。通常、生きた人間がこのような明確な幽体となって遠方に現れることなどあり得ん。……向こうの国で、正視に耐えぬ『異常事態』が起きておるのではないか?」


 ラシュガルの話を聞いたエリオが、ハッと目を見開き、痛恨の極みに顔を歪めた。


「異常事態……! ではヴェルガルド王国で、エレノア王女様の身に何か恐ろしきことが起こっているというのですか……!?」


「そう言って間違いないだろう。」


「ああ……エレノア様は国王陛下も王妃様も深く愛しておられた。無意識にお父様へ助けを求めているのですね。」


「うむ。その結果として、死のオーラが伝線して陛下を蝕んでしまったのだろう。」


 ラシュガルが冷徹な声で、その残酷なからくりを推察した。


 国王が倒れた原因は、呪いそのものが国王を直接狙ったわけではない。隣国で地獄のような苦痛に苛まれる娘の魂が発した救難信号が、血の繋がりを通じて国王の生命力を削ぎ続けていたのだ。


 黒幕の存在、意図的に仕組まれた魂の損壊。


 このアムリタ王国で国王をどれほど治療・浄化しようと、エレノア王女を救い出さない限り事態の解決にはならない。


「ユウキ殿……!一刻の猶予もありません!エレノア王女様が今も向こうで苦しんでいる。そして、このままじゃ国王陛下も助からない!……私と共に、ヴェルガルド王国へ行ってはくださらぬだろうか…っ!」


『(ユウキさん、……行こう。)』


シロが前に踏み出し、その瞳に静かな怒りの火を宿した。


『僕も…理不尽に命や魂を弄ぶ奴を絶対に許さない。それに、あの王女様の悲鳴を放置なんてできないよ』


 ノアも同調して口を堅く結ぶ。


 レグナードや迷いの森での悲しい挫折と成長を経て、二人の心は「ただの復讐者」から、「悪意に立ち向かい、大切なものを守る存在」へと確実に変わりつつあった。


「わかりました。ヴェルガルド王国に行きましょう。」


「感謝いたします……! ユウキ殿、シロ殿、ノア殿、ラシュガル殿……! 我がアムリタ王国の運命と、エレノア王女様の御命をどうか救ってください……!」


 暗躍する黒幕の影。囚われた王女を救い出すため、俺たちはヴェルガルド王国へ急ぎ足で旅立つのだった。

第16話を読んでいただきありがとうございます!


前回登場した幽霊は王女エレノアでした。「家族の深い愛」があったからこそ、父である国王陛下を苦しめている状況に胸が痛みます。


シロとノアも、自分たちの過去の悲劇と重ね合わせながら「理不尽に魂を弄ぶ悪意」に対して明確な怒りと正義感を示しており、ユウキと共に歩んできた成長が光っています。


「エレノアは無事だろうか…」と思ってくださった方は、ぜひブックマーク登録と下部の**評価(★★★★★)**をよろしくお願いいたします!


明日も21:00に更新します!

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