第15話 【驚愕】隣国の王様を蝕む「死のオーラ」の正体を確かめに王城の寝室へ潜入したら、今まで戦ってきた怨霊たちとぜんっぜん違う雰囲気が漂っていました
エリオに案内され、俺たちは数日の旅を経てアマリア王国へ辿り着いた。
「うわぁ……すごい街だな……。」
思わず感嘆の声が漏れる。
石造りの建物が整然と立ち並び、街の中心には澄み渡った水路が張り巡らされている。行き交う人々は活気に満ち、路上からは焼き立てのパンや色鮮やかな果物の甘い香りが漂っていた。
これまで滞在していた冒険者の街ベルグランとはまた違う、洗練された美しい王都の景観だった。
「ユウキ、見て見て! あの水路、大きな魚が泳いでるよ!」
「……(珍しそうに目を輝かせ、水面に映る自分の姿を覗き込むシロ、でも実体が見えない。)」
「ユウキ、こっちから酒の匂いがするぞ♪」
シロとノア、そして腕輪蛇のラシュガルまで、見たこともない賑やかな王都の光景に目を輝かせてはしゃいでいる。シロもノアも愛らしさが覗いていた。
そんな彼らの姿に微笑ましさを覚えつつも、俺は優しく声をかけた。
「お~いみんな、俺も観光したいところだけど、まずはエリオさんに着いて行こう。」
「ちぇっ~……じゃあユウキ、終わったら遊ぼうぜ!」
「(私はご飯をいっぱい食べたい)」
「もちろん。ラシュガルにはたんまり酒を用意しないとな。」
「樽で頼むぞ。」
俺たちが体制を整えると、前を歩いていたエリオが静かに振り返り、真剣な眼差しを向けてきた。
「皆さん、ご無理申し上げて本当に申し訳ない。解決したら、部下に街を案内させます。ですが、ユウキ殿……王城へ入る前に、一つだけ伝えておかなければならないことがあります。」
エリオは周囲の通行人に悟られないよう低い声で囁いた。
「実は……我が国の国王陛下が病床に臥せっていることを公にしていません。国家の動揺や諸外国からの介入を防ぐため、ごく一部の側近のみで秘匿しているのです。……ですので、今回はあくまで『私のお客様』として城内へお入りいただきます。」
「なるほど……国家の危機ですもんね。分かりました、気をつけます。」
エリオの厳戒態勢に頷き、俺たちは重厚な城門を潜って王城の敷地内へと足を踏み入れた。
城の敷地を進むにつれ、周囲の空気は次第に重く静まり返っていく。やがて、王たちが居住する巨大な本画の前に差し掛かった時だった。
「……ん?」
俺は足を止め、じっと城を見上げた。背後に立つシロとノア、そして腕輪蛇のラシュガルも同時に気配を察知し、微かに表情を曇らせた。
「……なぁ、ユウキ。確かにここ……嫌な冷気というか、死のオーラが漂ってる。」
ノアが眉をひそめながら、静かに呟いた。
「(でも……何だろう。レグナードの怨霊や、私たちを呑み込もうとした迷いの森の怨念とは……明らかに性質が違う。)」
「きゅ〜う……(ラシュガルも腕の上で身体を伸ばし、鼻腔を鳴らして匂いを嗅いだ。)」
彼らの言う通りだった。
レグナードで俺たちを拒絶し、生者への凄まじい復讐心と激しい狂気を撒き散らしていたあの禍々しい怨念。あるいは、迷いの森で魂を呑み込もうとしていた虚無の冷気。
そういった「ドロドロとした害意」や「理不尽な殺意」が、この城を包む死のオーラからは感じられないのだ。
確かに冷たく、死の気配を帯びてはいる。だがどこか静かで、酷く切なく、何かを耐え忍んでいるかのような……どこか異質な気配だった。
「嫌な感じがしない……どころか、むしろ悲しい感じがするな。」
俺の呟きに、エリオは驚いたように振り返った。
「なっ……城の外から、すでに陛下のオーラを感じ取っているのですか……!? やはり、あなた方は只者ではない……」
エリオは感服しつつ続けた。
「おっしゃる通りです。陛下に憑りついている死のオーラには攻撃的な狂気がない。だからこそ……我が国の聖職者たちもお手上げ状態なのです。……参りましょう。国王陛下の寝室はこちらです。」
エリオの案内のもと、俺たちは静まり返った城の廊下を歩を進めた。
重厚な調度品が並ぶ廊下を通り抜け、城の最深部にある一際大きな扉の前へと辿り着く。扉の左右に立つ近衛兵たちにエリオが合図を送ると、兵士たちは無言で重い扉をゆっくりと開けた。
ギギィ……と重い音を立てて開いた扉の先。
そこは、昼間だというのに分厚いカーテンが締め切られ、薄暗い静寂に包まれた広大な寝室だった。
部屋に入った瞬間、一層強い「死のオーラ」が俺たちの肌を撫でた。
部屋の中央に置かれた天蓋付きの巨大な豪華なベッド。
その上には、生気を失い、力なく横たわる一人の初老の姿があった。
国王の胸元からは、黒く揺らめく不気味な煙のようなオーラが立ち上り、彼の呼吸を苦しめるようにその身体を包み込んでいる。
「アムルガード陛下……ッ」
エリオが悲痛な面持ちでベッドへと駆け寄る。
だが、俺たちの視線は、国王の身体そのものよりも――そのベッドの傍らに揺らめく「それ」へと釘付けになっていた。
国王を覆う黒いオーラの中心。そこには、まるで国王に縋り付くようにして佇む、淡く透き通った小さな影が存在していたのだ。
「……っ! ユウキ、あれ……!」
ノアが息を飲んで叫ぶ。
シロもまた、漆黒の瞳を大きく見開き、その影をじっと見つめていた。
国王に憑りついている死のオーラ。それは、王国を滅ぼそうとする恐ろしい悪霊の類などではなかった。
そこにいたのは――あまりにも哀しく、切ない表情で、病床の国王の手を必死に握りしめようとしている、女性の幽霊だったのだ。
「あ……あ……」
国王の口から、掠れた息漏れのような声が零れ落ちる。
衰弱しきった国王は、薄く開けた瞳で、誰にも見えないはずのその女性の幻影を必死に追いかけているようだった。
「……どうして……こんなところに……」
薄暗い寝室の中で、静かな死の気配と、消えることのない深い悲しみが、俺たちを静かに包み込んでいた。
第15話を読んでいただきありがとうございます!
王都の賑やかな景観から一転、城内に漂う「異質な死のオーラ」の違和感、その正体は女性の幽霊でした。
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明日も21:00に更新します!




