第10話 迷いの森で大蛇に出会いました。今は俺の腕にいます。
翌日、ギルドで依頼を受けた俺は、シロとノアを連れてベルグランから少し離れた『迷いの森』へとやってきていた。
転移先のアレシアと言い、レグナードと言い、行く先々で怨霊に出会っていたから、燦燦と降り注ぐ陽の光がとてもありがたい。調査と言いつつも日光浴を楽しんでいる。
「ユウキ~。『迷いの森』って言う割には雰囲気が良いぞ。こう、もっと暗~~いところだと思ってたぜ。」
「……(コクコク、と小さくうなずくシロ。)」
「そうだな~。この調子だとあまり迷わなくて済みそうだけど…。」
「本当に蛇なんて出てくるのかな~?」
そう言いながら、ノアは落ち葉だけを踏んでぴょんぴょんと前に進んで行った。
「ノア~。一人で行くと危ないよ~。」
「……(『戻ってきなさい。』と苦い表情をするシロ)。」
「大丈夫だって!蛇なんて出て来ないよ~!!」
――と、俺たちに上半身だけ振り返ってノアが叫んだまさにその時。
——ぎゅむっ!!
「へっっっっ!?」
ノアが落ち葉を踏んだとは思えないほど不自然な方向に着地した。
「ノア!どうした!?」
「……(『だから言ったでしょ!』と瞬時に駆け寄るシロ)。」
「なんか踏んだ!柔らかいけど、弾力がある。落ち葉が被さって隠れてたんだ。」
「…柔らかくて…」
「…(『弾力がある…?』と俺を見るシロ)。」
シロと顔を見合わせると、ズズズ……と、森の奥から不穏な地鳴りが響いた。
(何だ……? この圧倒的な『死』の気配は……!)
ノアがサッと表情を引き締め、シロも静かに目を細める。
『柔らかくて弾力がある何か』を目で追っていくと、茂みをかき分けて姿を現したのは、家一軒ほどもある巨大な純白の大蛇。
「でけ~~~!!!なんでこんなにデカい蛇がいんだよ!!!」
「思ってたのと違う!!二人とも逃げろ~~!!」
「…(一目散に逃げるシロ)。」
「グシャアアアアッ!! 我が領域を侵す愚かな人間め! 毒の露と消えるがいい!!」
「しかも喋んのかよ!!!」
大蛇が口を開くと、何やら空気に漂う紫色の濃霧を吐き出した。あまりの濃さに前が見えない。
――が。
「げほっ…!なんだこれ!?お~い、二人とも無事か!?」
「な……なにぃィィッ!? 我が猛毒を受けて、なぜ平然と立っている……!?」
大蛇が巨体を震わせて激昂する。
「あっこれ猛毒なの?どうりで霧がねっとりしてるわけだ。」
「ユウキ!大丈夫か!?」
「……(『こっちは大丈夫!』と俺の前に立つシロ)。」
俺の隣に立つシロとノアの姿に、大蛇の全身の鱗が逆立った。
(……あの異形から放たれるオーラ……。禍々しくも圧倒的な《死》が背後に揺らめいている……。)
シロが静かに、だが絶対的な冷気を含んだ瞳で大蛇を見つめる。
「お主ら…『生きておらん』な…。」
シロとノアの正体を見抜くと大蛇は静かに俺たちに語りかけた。
「それも、こんな子供たちが…すくってもすくいきれないないほどの怨念を蓄えておる。人間が憎いのか?」
死んでいることを見抜かれたノアとシロは警戒を解いた。
「あぁそうさ。僕たちの街を粉々にしただけじゃない。なりふり構わずみんなを殺した。だから僕も殺し返してやるんだ。」
「そうか…じゃがそっちはあまり望んでいないようじゃな。」
「……(悲しい表情で俯くシロ)。」
「えっ!?シロ姉ちゃん!?」
「どちらかと言えば坊主、お主を助けるために力を振るっておる。それでも『死』の力だがな。」
「そう…なのかよ…。」
俺からしても納得する答えだった。シロはむやみやたらに力を使ったりはしない。使う時だって嫌々ながら行使している様子が伺える。でもまだ幼いノアからすると、信頼を寄せているシロが自分と同じ志ではないことにショックを受けたようだ。少し涙を浮かべている。
「……(優しくノア頭を撫でるシロ)。」
「なぁ大蛇さん。俺はこの迷いの森に出没する蛇の調査に来たんだ。それはあんたで合ってるかい?」
「いかにも。私の名はラシュガル。この迷いの森で生と死を観察してきた。」
「俺はユウキだ。ラシュガル、あんたはこの森でよく尻尾を踏まれるのか?」
「あんなことは初めてだ。我の姿は見えないはず。…だが最近は命を軽視し、人が人を殺めることが多くなってきた。生と死に対する営みのバランスが変わってきてるせいで、我にも影響が出たのかもしれぬな。姿を見ればモンスターと勘違いして攻撃してくる輩が多くてかなわん。」
「で?攻撃してきたヤツらをどうしてるんだ?」
「尻尾で軽く追い払っておるわ。」
「ラシュガルの『軽く』は俺たちにとっちゃ致命傷だろうよ。」
ギルドに調査依頼が出たことに納得した。しかし、よくこんなデカい蛇に挑もうとするよな…。
「状況はわかった。さっきはノアが踏んづけてしまって済まない。お詫びと言ってはなんだが、酒をお供えするよ。」
「酒…?酒とはなんだ?」
「知らないのか?人間を陽気にさせる飲み物さ。」
俺はポーチから酒瓶を取り出すと、ラシュガルの前に差し出した。この大蛇を前にすると酒瓶はアリ程に小さい。ラシュガルはスンスンと匂いを嗅ぎ、興味深そうに眼をかっぴらいた。
俺は瓶を逆さまにして、ラシュガルの舌に酒をかけてやった。
「な、なんだこれは…!?う、美味い!……これは美味い!!もっとだ…!我に…ピッタリの味…?ん…ピッタリ?どうした…なんだか…クラクラして……?」
「おっと、大蛇様は意外と酒に弱いのか~?」
そう言えば、神話にも蛇に酒を飲ませて酔わせたって場面があった気がする。
———ポンッ!
「うわっ!?ラシュガルが小さくなった……!?」
大蛇が光に包まれて一瞬で小さくなってしまった。普通の蛇と変わらない大きさだが、純白の身体は一層輝きを増して少し目が痛い。
「こ、これは…!?我はどうしてしまったのだ!?」
まさか酒を飲んで小さくなってしまうとは…。声までか細くなってそれはそれはかわいい。
「まぁ良い。」
「良いんかい。」
「ユウキ、とりあえずお主の左腕を借りるぞ。」
そう言ってラシュガルはバンデージのように俺の左腕に巻き付くと、まだ酔いが冷めやらぬ気持ちよさに「きゅ〜」と鳴いた。
「おいおい、これはどう報告すれば良いんだ…?ねぇ二人とも、ラシュガルが一緒に来ることになっちゃった。」
ふとシロとノアの方を見ると、ノアは泣いていた。慰めるシロは、弟を優しく慰める表情を浮かべていた。
第10話をご覧いただきありがとうございます!
めでたく蛇のラシュガルが加入しました。一方、ノアはシロの気持ちに対してわだかまりがあるようです。
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明日も21:00に更新します!




