第3話 ここにスパチャで生きてるバカ1匹
ロックリザードの肉を満腹になるまで堪能し、すっかり体力を回復させた晴真。
「ふぅー! 食った食った! いやー、やっぱり腹が減っては戦はできぬってな!」
ポンポンとお腹を叩き、角度を調整し、カメラを固定する。
レンズの向きをバッチリ自分へ向け、自慢の金髪をサッと手ぐしで整えた。
「よーしリスナーども! さっきは俺様の圧倒的なセンスを目の当たりにしたわけだが……ここからは本気モードで行くぜ!」
『どの口が言ってるんだw』
『ただの石投げ男で草』
『また調子乗り始めたよ』
相変わらず辛辣なコメントが流れるが、今の晴真には一切届かない。
何しろ「自分には秘められた才能がある」と本気で勘違いしているからだ。
「フッ……見てろよ。俺の真の剣技ってやつをなぁ!」
調子に乗った晴真は、腰のショートソードを抜き放つと、前方の開けた小部屋へとノリノリで躍り出た。
そこにいたのは、さっきのロックリザードよりも一回り巨大で、両腕に鋭い岩の爪を生やした上位種――『アーマーリザード』だった。
「ルガアアアアアッ!!」
部屋全体に響き渡る重低音の咆哮。あきらかに危険度が跳ね上がっている。
『え、マジでいくの?w』
『やめとけww』
『アイツはここより少し下の階層のヤツだぞ』
コメント欄も最初はいつものおふざけモードだった。
だが、晴真はカメラにドヤ顔を向けながら、単身でアーマーリザードへ突撃していった。
「喰らいやがれぇぇええっ!」
ガンッ! ガキンッ!
「あでっ!?」
自信満々に振るった剣は、硬固な甲殻に弾かれ、手首に強烈な痺れが走る。
晴真は必死に剣を振り回すが、狙っているのは全身を覆う分厚い装甲ばかり。ダメージなど1ミリも通っていない。
「なんで弾かれるんだよ!? 硬すぎだろ! 死ね! 死ねってば!」
「ルガッ!」
ドカァンッ!
アーマーリザードの巨腕が振るわれ、晴真は壁際まで吹き飛ばされた。
ズザザッと地面を転がり、全身が激痛に包まれる。
「がはっ……!? く、クソ……強すぎ……」
息も絶え絶えになりながら起き上がる晴真。
アーマーリザードは鋭い爪を振り上げ、トドメを刺そうとゆっくり歩み寄ってくる。
コメント欄の空気も一変した。
『おいヤバいって!』
『笑えないやつだこれ』
『逃げろ! 早く戻れ!!』
「に、逃げろって言われても……足がすくんで……!」
死の恐怖で体が動かない。万事休すかと思われた――その時。
《ピコンッ!》
【スパチャ:500円】
『棒読みちゃん:おい金髪アホ! 聞け! アイツは胸の真ん中の赤い結晶が核だ! そこ以外攻撃通らん! 剣を突き刺せ!!』
薄暗いダンジョン内に、スパチャの合成音声が無機質に、しかしはっきりと響き渡った。
「えっ金っ!?じゃなくて…胸の……赤いの……!?」
晴真が必死に目を凝らすと、迫り来る大蜥蜴の胸元に、一箇所だけ赤く輝く小さな結晶が見えた。
「うおおおおおあぁぁぁぁっ!!」
死に物狂いの晴真は、火事場の馬鹿力で地面を蹴った。
振り下ろされる巨腕を間一髪で紙一重にかわし、両手で構えたショートソードを、胸の赤い結晶目がけて全身全霊で突き立てる!
ドスッ……!!
「ル、ギャ……アァァァ……!?」
パキンッ! と結晶が砕ける快音とともに、アーマーリザードの動きがピタリと止まった。
次の瞬間、巨体が光の粒子となって崩れ去り、部屋には静寂が戻った。
「はぁ……はぁ……ハァ……っ!」
腰を抜かしたまま、尻もちをつく晴真。
冷や汗でぐっしょりと濡れた顔で、固定されたカメラとコメント欄を見つめる。
『勝った……!?』
『スパチャニキガチナイス!!』
『あの状況で金!?は草』
『心臓に悪いわw』
荒い息を吐きながら、晴真は噛みしめるように呟いた。
「……すまん。俺がバカだったわ」
珍しく素直に自分の非を認める晴真。そして、画面に向かって深く頭を下げた。
「マジで助かった……! 俺、一生お前らのこと信じるわ!!」
『手のひらクルックルで草』
『またすぐ調子乗るぞコイツ』
『まあ生きててよかったわww』
命拾いした晴真は、再びコメント欄への全幅の信頼を取り戻した(※なお、反省が何分持つかは不明である)。




