第42話 Let’sオーク狩り
「では今日も同じ護衛をつけますが、安全第一でお願いします。レイも今日は色々気を付けるように」
「分かってるって」
昨日に引き続き、俺とメイダは残った依頼を受けるためにギルドに向かった。
今日も今日とて、メイダのことをおんぶしようと思ったが、昨日のように自分で歩きたいらしい。
「昨日からなんかあった?」
「別にいいでしょ。ただ私が自分で歩きたいだけよ」
「そんなはずない。昔の自分を思い出して。俺と会った直後に、俺に乗って王都まで帰ろうとした自分を」
「しつこい! 何をするとしても私の勝手でしょ?!」
どうしたのだろうか………。うーん……分からん! これ以上聞いたら本当に怒られそうだし、気にしないことにしよう。
メイダの歩調に合わせていたのもあり、ギルドに着くのは少し遅くなった。
「おっ、みんな揃ってじゃん」
ギルドの建物の前で、ニィーテ、ミライ、ヴィリアが集まっていた。
「今日はメイダ………レイにおんぶしてもらってないんだ」
「自分で歩きたいんだってさ。ほんとにどうしちゃったんだろうな」
「私の話はいいから! 早く行くわよ!」
そんな反応されると、もっと気になるからやめてほしい。
「遅いぞ。今日は長くなりそうだから早く来いと言っただろう」
「ごめんごめn……いや、すいませんニィーテさん」
思わずタメ口になってしまったが、俺は瞬時に敬語に変えた。昨日のこともあるし、今日はニィーテを丁重に扱わせてもらおう。
「そんなに畏まってどうした。もしかして昨日のことまだ怒ってるとでも思ってるのか?」
「あれ? 怒ってないの?」
「いや怒ってる。帰ってからお前の言葉を思い出したら、やはり怒りが込み上げてきた」
「すいませんでした」
そっすよね、やっぱ怒ってるよね。俺が100悪いからその怒りもちゃんと受け止めます。
「だが依頼に私情を持ち込むことはしない。この話も全てを終わらせた後にする。森に向かうぞ」
「ありがとうございますニィーテさん!」
そうして俺たちは目的地へと向かった。
はい、何事もなく森に着きました。ちなみに行き方は前回と全く同じです。
「今日はお前の索敵を頼りにする」
「任せろや」
昨日の功績のおかげで索敵能力が認められ、俺を先頭にして森を進むことになった。
昨日と変わらず森は静かで、動物の鳴き声や木々が風で揺れる音しか聞こえない。
そういや今日のヴィリア静かだな。移動中何も喋ってなかったんじゃないか?
気になってヴィリアを見たが、その様相はいつものヴィリアとはかけ離れていた。
何故か目をかっぴらげながら、あたりを見回している。いや、見回してるというよりガンを飛ばしてるみたいな感じだ。よし、そっとしておこう。
「あっ、なんかいる。でも多分人」
ゴブリンでもオークでもない普通の人が、俺たちの前方を歩いている気配がする。
数は多分4人で、おそらく冒険者だろう。
獲物の取り合いとかにならないように、別方向に向かった方が良いか?
「どうする? 会わないように別方向行く?」
「それがいいかもしれないな。相手もオークが狙いなら面倒臭いことになる」
ニィーテからもそう言われたので、その冒険者達からは離れるように森の奥へと向かった。
森を回ること数時間、やっとお目当てらしき気配がした。
「オークいたかも。確かめてくる」
「頼んだ」
俺はすぐさま飛び出し、本当にオークがいるか確認しに行った。
向かった先にはちゃんとオークがいた。
数は3体だけ。何かするわけでもなく3体ともぼーっとしており、見るからにアホそう。でもゴブリンと違って個々のパワーが段違いなので、全く油断できるものではない。
すぐに情報を持ち帰ってニィーテに報告したら、昨日のようにブツブツと作戦を考えだした。
時間がかかりそうだ。ということはー? もちろんジビエ料理のお時間です。
「また何か取ってきたの? あんま心配してないけど、お腹壊すんじゃないわよ」
今日私が獲ってきたのは猪。兎と違ってかなりボリューミーですね。では捌いていきましょう。
はい完了。だいたいの捌き方は村にいた頃に教えてもらったから、猪だろうが難なく捌ける。
では頂かせてもらいます。生まれてくる命に感謝。
「あ、あの………レイさん……い、いや! レイ! 私も……そのぉ……、それ食べるぜ!」
「は?」
さっきからジロジロ見られてると思ってたけど、ついにおかしな様子のヴィリアが話しかけて来た。
「えぇ? まあ良いけど。血抜きはしてある。あっ、火は通してから食べて」
「わ、分かったぜ!」
口調もおかしくなっちゃってる。そろそろ怖くなって来た。
「い、いただきます」
「無理すんなって」
「お、お構いなく!」
ヴィリアは数秒固まった後、意を決したかのように肉にかぶりついた。
「うっ、ちょっと生臭い……。で、でも食べれる!」
「そろそろ聞いていい?」
「な、何をかな?」
「今日の一連の振る舞い」
「あっ、いやぁ、そのぉ」
「言いたくないならいいや」
年頃の女の子なら、こんな風に奇妙なことしたくなるのかもしれない。俺がとやかく言うのは野暮だよな。
紳士であること有名な俺は、これ以上の詮索はしない。しかし、ヴィリアが何かをボソリと呟いた。
「…………………です」
「なんて?」
「強くなりたいんです!」
「? もう強いでしょ。ヴィリアの魔法すごいじゃん」
「せ、戦闘面じゃなくて、心を強くしたいんです」
「それが今日の行動と関係あんの?」
「いつもの態度から変えれば、精神も強くならないかな…………なんて。よ、余計な心配かけてすいません! すぐ辞めます……」
性格に問題ありとは思ってたが、解決策が少し突飛すぎる。面白いなこいつ。
「辞めなくていいけど」
「い、いや、もう疲れたので辞めます。で、でもこのお肉は全部食べます!」
そう言ってまたヴィリアは目の前の肉にかぶりついた。
ヴィリアって性格に反して、行動力は結構あるよなと思いつつ、俺も手元の肉を再び食べ始めた。
「作戦を考えた。話していいか?」
「ええよ」
俺は食事の後始末をしながら、ニィーテの話に耳を傾けた。
「レイには敵の撹乱をお願いしたい。オーク3体は厳しいだろうから、今回は私も前に出る。ヴィリア、ミライはレイと私を魔法でサポート。トドメのためにメイダの魔法は使うから、事前に準備しておいてくれ。使って欲しい時は私が合図を出す。説明はこれくらいで大丈夫か?」
みんながコクリと頷いているが、俺は1つ言いたいことがあったので、無言で挙手して指されるのを待った。
「なんだ? 何か言いたいことがあるのか?」
「俺の役割は撹乱だけど、殺れたらやっちゃうからね」
「できるのならいいぞ」
ほぉ、この俺に挑発してくるとは。昨日は何もしてなくて消化不良だったので、今日は俺がズバッと決めちまおう。
音を沈めながら、オーク3体に俺たちは近づいた。
立ってるオーク2体と、休憩してるらしい座ってるオーク1体がいる。
メイダ達後衛を後ろに待機させ、俺とニィーテがさらに近づく。
「まだ気づかれてないし、奇襲で座ってる奴やっちゃう?」
「そうだな。じゃあ首を同時に狙うぞ」
すぐに俺とニィーテはオーク目掛けて飛び込んだ。
「ぐぉ?」
気配を感じたのか、座ってるオークがこちらを振り向いてきたがもう遅い。
俺が右部分を爪で裂き、ニィーテが左部分の首を氷の刃で切り裂いた。
いとも簡単にオークの首が落ちる。
俺たちの存在に気付いた残りのオークは、巨大な棍棒を携えてこちらにふるってきた。
「うがぁぁぁぁ!」
俺とニィーテは左右に分かれて避け、それぞれオーク1体と対面する形になった。
ニィーテが心配だったが、ヴィリアやミライがサポートしてたので、俺は目の前のオークに集中することにした。
仲間を倒されて怒ったオークが、横薙ぎに棍棒を振ってくる。
かなり速いし、当たったらちゃんと怪我しそうなので軽くジャンプして避ける。
力任せに振ったせいか、オークはよろけてヨタヨタしているので、そのまま近づいてオークに飛びついた。
さっきみたいに首を落とそうと思ったが、あれはニィーテもいたからオークの厚い首を落とせただけなので、すぐに方針を変えてオークの首に纏わり付いた。
オークの棍棒を持っていない方の手が、頭上にいる俺を掴もうとして来たが、掴まれる前にオークの目に爪を突っ込んで中をかき混ぜた。
「ぐぼぉぁぁぁぁ!!!!」
痛みに悶えてオークが倒れ、頭上にいた俺にも衝撃は来たが、早く終わらせてしまいたいので攻撃は続けた。
オークがそうなのかは知らないが、人間は目が脳と繋がってるらしいので、さらにそのまま爪を奥に突っ込む。
途中でオークに掴まれて引き剥がされそうになったが、意地でもオークに貼り付いた。
その数秒後、爪が何か柔らかいものを切り裂いたと思ったら、悶えていたオークがピタリと止まり、静かになった。
俺はすぐに手を引っこ抜き、オークが死んだのを確認してから、ニィーテの方に目を向けた。
まだニィーテは戦っている。オークは片腕が切り飛ばされ、両足に火傷の跡がある。
俺が手を出さずとも終わりそうなので、俺は倒れたオークにもたれ掛かりながら観戦した。
ヴィリアとミライがオークの攻撃を魔法で妨害し、その間にニィーテが、オークの足の腱を切り裂いた。
「メイダ! 今だ!」
ニィーテの合図と共に、メイダの火球がオーク目掛けて放たれ、一瞬でオークを包み込んだ。
少し経った後、火が消えて中から黒焦げになったオークが出てきた。
「ナイスー」
全てのオークを倒せたので、俺は勝利のハイタッチでもしようかと思ってみんなに駆け寄った。
「近づかないで」
「え? なんでよ」
メイダから拒絶された。普通に泣く。
「あなたが今すんごく汚いからに決まってるでしょ?」
メイダに言われて初めて、今の自分の様子を確認した。
服や体が血だらけで、腕にいたっては得体の知れない緑色の液体まみれだ。オークの脳汁かな?
とりあえず上は脱ぎ、ヴィリアに汚れは落としてもらった。ヴィリアも俺に近付くのが嫌だったらしく、遠くの方から水を出していた。
その後体が乾いたので、俺とニィーテでオークの解体作業に移った。
まずは近くの黒焦げのオークだ。
「これ素材大丈夫?」
「依頼されてるのは内臓のはずだから問題ない」
解体を始め、血でまた体が汚れた。
体洗う前に解体した方が良かったなぁ。
「よし終わり」
オークの巨体を解体するのは流石に重労働で、1体ごとに30分はかかった。
オークの一部の内臓以外はその場に放置してるが、後で森の魔物か動物が食べるから、そのままで良いらしい。
「この量ならだいぶ報酬は弾みそうだ。日が落ちる前に帰るぞ」
解体に集中してたせいで気付かなかったが、すっかりあたりは暗くなっている。夜の森が危ないのは知ってるので早く撤退しよう。
「みんなー、終わったから帰るよ」
「2人だけにオークの解体やらせて………ごめんね」
「解体の仕方分かんの俺とニィーテだけだし、別に謝んないでええよ。いや荷物も俺持つから。ちょっ、いいって」
荷物ぐらい持とうと思ったのか、ミライとヴィリアが袋を奪おうとして来たが、2人が持つと帰るのが遅くなるので死守した。
早く風呂入って寝たいなぁ……………………ん?
「どうした? そっちの方向に何かあるのか?」
「あるにはあると思うけど、何かわかんない」
嗅いだことのない不快な匂いが向こう側からする。
何の匂いかは直感的に分かった。死臭だこれ。
「向こうで人が死んでるかも?」
「ど、どういうことですか?!」
「ごめん人が死んでるは嘘かも。あっちから死臭がしたんだけど、その死臭動いてる」
俺が説明下手なせいでうまく表せない。
「何か確認してくる」
日が落ちて来てるのでメイダを1人にはしたくなかったが、隠れてる護衛の人もいるし大丈夫だろう。
荷物は一旦その場に置いてから、俺は死臭の元へと駆け出した。
近付くにつれて、死臭が強すぎて気が付かなかったが、その死臭と数人が戦闘してることが分かった。
今朝の冒険者の人たちかも知れない。人数も丁度4人いるし。
「きっも。なにあれ」
木の影に隠れながら死臭の正体を確認した。
赤黒いどろっとした歪な形状の液体から、人の手や足っぽいものが無数に生えている。
不規則に出ている足がカサカサと動いて、冒険者に襲いかかっている。絵面がキモすぎてもう帰りたいが、どんな奴かもう少し確認してからにしよう。
「くそっ! 何でこんなところにこいつがいるんだ!」
滅多に出てこない奴らしく、冒険者の人たちは困惑しながら戦っている。
そのきもい魔物が出している、赤黒い液体は酸性のようで、冒険者の武器が溶け出している。
「これをくらいなさい!」
後衛の魔法使いの人の魔法が、そのきもい液体にぶつかるが、あまり効いてなさそうだ。
「やったか?」
魔法が当たったことで油断した冒険者に、魔物が襲いかかり、冒険者の腕に液体がかかる。
冒険者の腕が、嫌な音と匂いを立てながら溶けている。めっちゃグロい。
様子も確認できたし帰ろう。あれは冒険者の人が頑張って対処してくれるだろうし、メイダに害は出ない。
そう思ってメイダ達のもとに戻ろうとしたが、何故かメイダ達がこちらに近づいて来ている。
「何してんの?」
「レイが心配だから来たに決まってるでしょ? 人が死んでるかもなんて言われたら、じっとできるわけないわよ」
俺の大袈裟な説明のせいで、要らぬ心配をかけさせてしまったみたいだ。
「トートスライムが何でこんなところにいるんだ?」
ニィーテが魔物を見て驚いている。あれはトートスライムって言うらしい。
「心配して見に来て正解だったな。私達も加勢するぞ」
「え? 何で?」
「お前あれが見えないのか? あの冒険者達このままだと死ぬぞ」
「そうかもね。でも関わんない方が良くない?」
横取りだとか思われたくないし、俺は本気でそう思ってるのだが、みんな俺を睨んでくる。
「本気で言ってるの? 私が何で冒険者になりたいって言ったか覚えてないの?」
えーっと、確か………旅をしたり、人を助けたいだっけ?
「ごめんて。メイダが言うなら助けに行こう」
「分かったなら良いわ」
言われたからには絶対助けなきゃなので、すぐに俺たちはその場へと向かった。
「ミライは怪我人の治療。ヴィリアとメイダが後方で待機。私とレイがスライムと正面から戦うぞ」
「おう」
俺とニィーテが、スライムと冒険者の間に割って入ると、スライムが少し動きを止めた。このスライムには意思があるのかもしれない。
「何だあんたら! 子供が来るような場所じゃないから早く逃げろ!」
「うるさいうるさい。腕がドロドロの人は引っ込んでください。黙ってその緑髪の子に治療してもらいな」
「はやく………来て!」
ミライがその冒険者の襟を掴んで戦線から離脱させた。
「あと邪魔だから2人も下がって」
「獣人風情が何様だお前!」
「俺たちだけで充分だ!」
あと2人ほど前衛の人たちがいたので、その2人も引いてもらいたい。俺とニィーテの連携が乱れるかもしれないからね。
「その獣人に従いましょ! あんたらじゃあれには勝てないってわかってるでしょ?!」
「くそっ!」
分かってくれた人がいたようで、魔法使いの人が2人を後ろに下がらせてくれた。
場も整ったことだし、それじゃあスライム狩りだ。




