第43話 トートスライム
スライム狩り!って意気揚々としていたけれど、こいつどうやって倒せば良いのか全くわからない。
「馬鹿みたいに殴りに行くなよ。さっきの奴みたいに腕を溶かされるぞ」
「分かってるって」
直接殴るぐらいしか攻撃がない俺は、お察しの通りこの液体スライムに、太刀打ちする手段が全くないと思う。
できることと言ったら、ニィーテの魔法がよく通るように、このスライムの気を引くぐらいだろう。
そうこうしないうちに、スライムが動き出す。
だが明らかに俺らの方ではなく、後ろの怪我人へと向かっている。
「行かせるか」
すかさずニィーテが、氷を地面伝いでスライムに放つ。スライムは液体に近いからなのかは分からないが、氷は受けたくないらしく、足をカサカサと動かして避けていた。
しかしまた、俺たちに脇目も振らずに怪我人に突っ込んできた。
今度は、ヴィリアが風で飛ばした岩がスライムを妨害した。
攻撃を避けたり、相手が油断した隙を突いたりするような頭脳はあるのに、何でこんな無謀な突進をしてくるんだろうか。
俺たちをまず倒してからの方がいいと思うんだけどな。頭が良いのか悪いのか分からない。
怪我人に執着する理由はなんだ? 確かに怪我人が1番倒しやすいけど、俺たちを無視してまでのことじゃないしなぁ。
そんなことを考えてる間にも、スライムの突進は続き、ニィーテやヴィリアが魔法で防いでくれている。しかしスライムが速すぎて、決定的な一撃が与えられない。メイダの魔法を放ったとしても、多分当たらない。
もういいや。怪我してもミライが治してくれるはずだし、近付いてスライムの足全部切り落とそう。
「おい何してる!」
「まあ見てなって」
依然として怪我人に突進しているスライムに、俺は近付く。すぐに気付いたらしく、スライムは向かってくる俺に、赤黒い液体を振り撒いてきた。
まだ避けれる距離なので、この攻撃は避ける。
振りまかれる液体を避けてるうちに、スライムのすぐ近くまで来れた。
「熱っ」
スライムと目と鼻の先ほどの距離まで近づいた俺は、流石に避けられずに、もろに液体を被る。
まず毛が、その次に皮膚が溶けていくのを感じる。
熱くてめちゃくちゃ不快な痛みが、俺の全身を貫くが、そんなんじゃ俺は止まらないぜ!
俺は傷を負いながら、スライムの足を切り落としていく。ついでに生えてる手もちょびちょび切る。
途中スライムが逃げようとしたが、逃げようとした方向の足を切って止めれた。
切る感触は、なんとも言えない気持ち悪さがあったが、着々と切っていく。
「よしっ、終わり」
液体を被り続けながらも、なんとか全ての足を切り落とすことができたので、俺は一旦後ろに下がる。
足を切られたスライムは、先程とは打って変わってノロノロと動いている。今ならみんなの魔法が当たりそうだ。
「よくあれに突っ込もうと思えるな。だがこれなら魔法を当てられる。まだいけそうか?」
「ダイジョブダイジョブ」
体のあちこちに液体がかかり、肉が溶ける臭いがするけど、目とかは無事なのでまだいける。
機動力を失ったスライムは、ニィーテの魔法を避けられず氷漬けにされる。
「中身まで凍らせた。今なら物理が通るはずだ」
「よっしゃ行くぜ! どっせぇい!」
ちゃんと中まで氷漬けにされていたらしく、俺の踏み付けによって、スライムはバラバラに砕け散った。
「あーきもかったぁ………うわっ」
ちょっと疲れたので体を伸ばし、何気なく砕けたスライムを見たが、すぐに見たことを後悔した。
「あれって人の頭だよな? じゃあ手も足も本物の人間かよ。はぁーやだやだ」
それも1人じゃなく、他にも何人もの頭が転がっている。スライムに食われちゃった人達かな?
ご冥福をお祈りします。
「レイ大丈夫?!」
俺が故人を追悼している最中に、メイダが俺のそばに駆け寄ってきていたようだ。
「ちょっと痛い、いや結構痛い」
「ミライ! 早く来て! レイが死んじゃう!」
「死なんて」
その後ミライに体中くまなく治療された。
「ごめん………レイのモフモフの毛までは……治せなかった」
ミライの言った通り、溶けたとこの毛までは治療できないので、液体が多くかかった腕の部分は、だいぶ毛量が薄くなってしまった。
まあまた生えてくるでしょ。
「何であんなことするのよ!」
「あれが1番手っ取り早いかなと………いやそんな睨まないでよ。結果オーライでしょ」
「見てる私の身にもなって!」
まだメイダとは一緒にいたいので、死ぬつもりは一切ないから安心してほしい。
「それよりもさ、あのスライム何?」
危険も去って落ち着いたので、やっとトートスライムとやらについて聞けた。
聞かれるのが分かっていたようで、すぐにニィーテが答えてくれた。
「人を食ったスライムだ。その中でもかなり特殊なやつだった」
「何が特殊なん?」
「人の頭を食っていたところがだな。原理はいまだ解明されてないが、スライムが人の頭、厳密に言うと脳を食うと、あのように異様な存在になるらしい」
「へぇ」
この世界では、ああいうスライムが標準的なものとかじゃなくてよかったよ。
その後ぼけぇーっとしていると、冒険者の人たちが話しかけてきた。
「な、なぁ、さっきは助けてくれようとしたのに、あんな酷いこと言って悪かったな」
獣人風情とか言ったことへの謝罪かな?
「別になんとも思ってない」
「レイがなんとも思ってなくても私は思ってるから。そこのお前、2度と舐めた口聞くんじゃないわよ」
「本当すいませんでした!」
なんか久しぶりに語気強メイダを見た気がする。
「私のパーティがごめんなさいね。今後こういうことがないよう、後でよく言い聞かせておくから」
いかにも魔女風の帽子とドレスを着た女性も、申し訳なさそうにしていたが、ほんとに怒ってないし謝罪はいらないんだけども。感謝はもちろんもらいます。
「なぁ君達! 今日俺らと晩飯食わねーか? 俺たちからの感謝の気持ちだと思って、思う存分奢られてくれ!」
腕を溶かされてた冒険者のおじさんが、俺たちを夜ご飯に誘ってくる。ちなみにそのおじさんはちゃんとミライに治され、腕はだいぶマシになっていた。指は数本無くなってたけど。
「私とレイは遠慮するわ。帰るのが遅いと、またガロからなっがぁーい説教されるし。レイも帰るでいいわよね?」
「ええよ」
ガロからまた説教されるのは嫌なので、俺もお断りしようと思ってたところだ。
「じゃあそこの2人はまた今度何かさせてくれ。他の3人はどうだ?」
「私は行こう。どうせギルドに依頼達成の報告と、あのスライムの報告もしないといけないしな」
「わ、私も行きます」
「私も………行ってみる」
意外なことに、他3人は行くらしい。ニィーテとかいの一番に帰宅しそうなのに。
一同休憩した後、すっかりあたりは暗くなっていたので、すぐに森から出た。
まだ御者の人達はいたので、歩いて帰ることにはならなそうだ。
「結局あんたたちは何者なんだ? ただの学生じゃないだろ。獣人が学校に通ってるなんて聞いたこともないぞ」
馬車の中で、思い出したかのように冒険者のおじさんが聞いてきた。
そんなこと聞かれたところで、やましいことも隠してることも一切ないので、答えられることはない。
「マジでただの学生」
「ふーん、言いたくないならいいさ。詮索しすぎるのも良くないしな」
信じてくれないしもういいや。勝手に妄想してもらおう。
「なあ獣人」
「レイです」
「なあレイ」
「なにかな?」
もう疲れたし、王都に着くまで寝てようと思っていたのだが、また冒険者達が話しかけてきた。
「お前によっかかってみんな寝てるが、そんなに寝心地良いのか?」
「私もそれ気になってた。そこのおどおどしてた子なんて、しっぽにくるまりながら死んだように寝てるじゃない。私もモフモフしていい?」
「お好きにどーぞ」
やっぱ人間はモフモフには抗えないものなんだよな。
「何勝手に承諾してんのよ。さっきレイに向かって、獣人風情とか言ったやつは駄目よ。他は少しならいいわよ」
「そっ、それはさっき謝っただろ!」
また盛り上がり出したけど、俺は眠気に逆らえずに、ガタンゴトンと馬車に揺られながら眠りに落ちた。
その後王都に帰り、俺とメイダは他のみんなと別れを告げてから家への帰路についた。
「結局何で自分で歩いてんの?」
今日はかなり疲れているだろうに、メイダはまたおんぶを拒否ってきたので、俺もまた理由を聞いてしまった。
「何度も聞かないで」
「いやでもさ、俺のおんぶ技術に至らないとこがあるなら改善したいんだよね」
「そういう話じゃない」
「じゃあなに?」
俺がじっとメイダの顔を覗き込んだら、メイダの顔がみるみる赤くなっている。
怒ったのかと思ったが、どっちかというと恥ずかしがってるように見える。
じーーっと数分ほど見ていたら、ついにメイダが折れた。
「あぁもう分かったわよ! 言えばいいんでしょ!?」
「よしきた」
「そのぉ………あれよ。レイのおんぶの仕方的に………私の……」
「私の何?」
「私の下着がみんなに見えてたの!」
なんか予想の斜め上の答えきた。どうせちょっと太っちゃったから運動したい、みたいなもんだと思ってた。
周りの人達がびっくりしてるから、下着とか大きな声で言わないでくれ。
「やばいね」
「やばいわよ! 昨日ヴィリアに教えてもらって初めて知ったの!」
ヴィリアが気付いてたのなら、ニィーテもミライも気付いてたと思うのに、なんも言わなかったのか?
「じゃあどうする? 抱っこの仕方変える? こんな感じとかは?」
メイダをお姫様抱っこしてみた。これならパンツが見える心配ないね。
「何してんのよレイ! これは安易に女性にやっちゃ駄目!」
「え?」
「そっか、レイはあんまり人間の事情知らないのは当然か……。端的に言うと、これは愛し合った男女でやるもんなのよ。はぁ、いいから降ろして」
「俺は好きだよー」
「その好きは恋愛的なものじゃないでしょ」
「そうかも」
恋愛的に好きかと言われるとそうでもないし、これ以上メイダに怒られたくないのですぐに降ろした。
「レイにはもう少し人間の常識を教えたほうがいいらしいわね」
「いやいや大丈夫」
「何で大丈夫なのよ」
そりゃあメイダには言えないけど、だって俺………なんだっけ? あれ? 何で大丈夫なんだっけ?
あぁそうだ、俺って前世人間だからか。何でこんな忘れようがないもの忘れてんだろ?
「まあまあ、この話はもういいでしょ。解決したんだからさ」
「この話始めたのあなたなんだけど」
その後屋敷に帰り、ガロからもう少し自分を大切にしろなどと小言を言われた以外は、いつも通りに1日が終わった。




