第40.5話sideニィーテ 女子風呂にて
「なんなんだあいつは!」
いつもは感情をあまり表には出さない様にしている私だが、さっきのあの獣人の言葉は、私の声を荒げさせるのに充分だった。
「私が男だって? メイダ、お前のペットはどうなってるんだ」
「うちのレイがごめんなさいね。でも、驚いて口を半開きにしてるアホ面のレイも、すごく可愛かったわね! どんな時も可愛いってうちの子すごくない?!」
メイダには何を言っても無駄らしい。彼女は俗にいう親バカというやつだろう。
そもそも獣人をペットにするっていうのもおかしな話だ。いや、これに関しては考えても意味はないな。
「す、少し落ち着いてください……ほ、ほら! あそこに気持ちよさそうな泡風呂もありますよ!」
イライラしていた私だが、ヴィリアの言葉で少し冷静になる。
ここで彼女達にイライラをぶつけるのはお門違いなことだ。真にぶつけるべき相手は、今男子風呂にいるやつなのだから。
「声を荒げてすまない。そうだな、泡風呂というのは気になる」
自分たちの汚れと臭いを入念に落とした後、私たちは湯船に浸かった。
家ではシャワーだけで済ましているので、湯に浸かるのは久々だった。
早速私は、湯船に肩までどっぷりと浸かる。すると一気にこれまでの疲れが取れていくのを感じた。
「いつもは家で1人で入ってるけど、たまにはこういうのも良いわね」
「メイダは良いよね……家にもおっきいお風呂あって」
「別にでかかったら良いってわけじゃないわよ。どうせ1人で入るから虚しいだけ。あっ、でも最近は楽しいわね」
「レイが……いるから?」
「ふふっ、その通りよミライ。レイは少し洗っただけでグニャグニャになるのよ。しっぽを洗った時のレイときたら……。はぁ、今日もグニャグニャにしてやりたかった」
「私の子は……いつもお風呂嫌がるから……レイは良い子だね」
片方のペットは獣人であるが、メイダとミライがペット話で楽しそうに盛り上がっている。
あの狼はメイダのペットらしいが、一応獣人だよな?
なんであいつはメイダに洗ってもらってるんだ?
人としてのプライドは無いのか?
「あ、あの……ニィーテさん?」
「なんだ?」
「銭湯どうですか? わ、私皆さんが嫌々来たんじゃないかと思っちゃって……」
まだヴィリアはそんなことを心配してるらしい。この極度の心配性も、いつか戦闘に支障がでたりしないか気掛かりだ。
「安心しろ。私は気に入った。だがこの際言うが、お前はもう少し堂々としろ」
「あ、すいません……」
「そのすぐ謝る癖も直せ。お前は冒険者としてこれからも稼ぎたいんだろ? なら舐められないためにも、もう少し気を強く持つべきだ」
いきなりこんなこと言うのは、ヴィリアにとっては酷なことだろう。だが、舐められると獲物を横取りされたりする可能性が高くなる。
「で、でもどうすれば堂々とできるのか……わかりません……」
「そうだな。まず言い寄ってくる男は全員魔法で吹き飛ばせ。私は昔、馬鹿どもを氷漬けにしたことがある。それからは誰も近づいて来なくなった」
「ひ、ひぇ、そんな恐ろしこと私にはできないですぅ」
「ヴィリアならできる。近づいてくる奴らを全て灰にするんだ。いきなりが無理なら、あとでどごぞの狼獣人で試せば良い」
私も最初の頃は完全に舐められており、幾度となく男共が寄ってきたものだ。
最初は無視していたが、遂に我慢できずに氷魔法をぶっ放して氷漬けにしたら、誰も私に近づくことは無くなった。だからこの方法が一番ということは分かっている。
「そんなどうでもいいこと話してないで、2人も私の話聞きなさいよ。まだまだレイの激かわエピソードはあるんだから。そうね……例えば最初に王都に来た時とかかしら。あの時は見る物全てにワクワクしていて、耳をパタパタしたり、しっぽをブンブンさせて愛らしいったら……もう……ねぇ。他にも食事の時のレイの口は――――――――――」
口を挟む暇もなく、メイダによるペット自慢が始まってしまった。あまり興味は無かったが、止める気にもなれなかったので、私はゆっくり湯に浸かりながらその話に耳を傾けた。
私を男呼ばわりしたあの獣人は何をしてるのだろうか。後でどうやり返してやろうか考えものだ。
――一方男風呂のサウナ――
「獣人がなんで銭湯来てんだよ! 毛で風呂が汚れるじゃねーか!」
「ちゃんと許可もらってるし、湯船には浸かってねーよ!」
湯船には浸かれないので、サウナとコールドシャワーを行き来していたというのに、後からサウナに入ってきた奴に絡まれた。
「獣人の癖に人間様に口答えしやがって! どっちが上か見せてやるよ! サウナで我慢比べだ。負けた方は勝った方に、謝罪しながら土下座な」
「はぁ? 体毛がある分俺が不利じゃんかよ。そんな勝負受けませーん」
「はぁん? ビビっちゃったんだ。良いよ良いよ、か弱い子犬ちゃんはママのとこに帰って慰めて貰え」
「絶対土下座させる」
こうして男同士の仁義なき戦いが幕を開けた。
その後1人の男性と、1人の獣人がサウナで倒れているのが発見された。




