第40話 王都の娯楽
「ついたわよ。起きなさい」
「ふぁ〜、おはざいます」
俺はメイダの声で起き、床で伸びをしてから起き上がった。
充分寝れたので、疲労感はすっかり無くなっている。
御者にお金を払った後は、依頼達成の報告のために、冒険者ギルドに行くことになった。
俺はゴブリンの牙や耳が入った大きな袋を背負って、みんなの後に続いた。
にしてもこの袋臭いな。ゴブリン臭が背後からずっとしてる。しかも血が滲み出てる袋のせいで、通行人からじろじろ見られてうざったいので、早くギルドに入りたい。
間も無くしてギルド前に着き、ニィーテを先頭にしてギルドに入った。
丁度冒険者が集まる時間だったらしく、受付も酒場も人で溢れかえっていた。
でも獣人はいない。アルに聞いた限りでは、冒険者になっている獣人はまあまあいるらしいんだけどな。
こんなに人が大勢いるが、少女が5人中3人もいる様なパーティはやっぱり異質な様で、めちゃくちゃ見られる。
「私たち見られてない?」
「わ、私たち何かしましたっけ?」
この視線には流石にみんなも気づいたらしい。
「女子率高くて珍しいだけでしょ。はい気にしないで前に進むー」
ヴィリアが怯えて足取りが遅くなったので、背中を押して前に進ませる。
ニィーテがいるおかげで、今朝みたいに絡まれることなく受付まで行けた。
「依頼達成の報告に来た」
ニィーテが、今朝と同じ受付のお姉さんに依頼書を渡す。
「早かったですね。では依頼達成の証拠となるものをご提示してください」
それを聞いて俺は、持っていた袋をドカっと受付の机に置いた。その大きな袋は、受付のお姉さんには予想外だったらしく、お姉さんの目が見開かれる。
「これ全部ゴブリンですか? 確認しますので少しお待ちください」
受付のお姉さんが袋を開けて中を確認した。
「た、確かにゴブリンの素材ですね。その依頼書によると、ゴブリンの数は10体ほどしか報告されてなかったはずですが……。一応ゴブリンの数をお聞きしても?」
「確か50体はいたな」
そのニィーテの言葉にギルド内が少し静かになる。
何だ? 数は50といってもたかがゴブリンだし驚く様なことでもない気がするけど。
「50体もいたんですか?! あぁ失礼、取り乱しました。とにかく依頼達成おめでとうございます。このゴブリンの素材は買い取りでよろしいでしょうか? いくつか焦げているものもあるので、少し定価からは引かれてしまうと思いますが」
「問題ない」
計算が長くなりそうだからと、ニィーテに言われて俺たちは酒場の席で待つことにした。
すると酒場にいた何人かが話しかけてくる。害意はなさそうで、単に好奇心っぽい。
「お嬢ちゃんたちすごいな! あのニィーテがいたとしても、森ゴブリン50体は流石に厳しかったんじゃないか?」
「ふっ、ニィーテも入れたここにいる4人が魔法で一掃したんだぜ。この可愛らしい少女達が使ったとは思えない様な魔法の数々。実に素晴らしかった」
「なんでお前がそんな自慢気なんだよ」
舐められないためにでもあるが、メイダ達の凄さをちゃんと知ってもらいたかった。
でも気になることがあるので、その話しかけて来た人達に質問した。
「ところで疑問なんだけど、ゴブリンってそんな危険なもんなの?」
「おいおい狼くん。森ゴブリンの恐ろしさを知らない様だな。普通のゴブリンと違って、森ゴブリンは統率がよく取れていて一筋縄ではいかないんだよ」
1箇所に集めるために、あえて俺の周りを囲わせたわけだけど、確かに包囲してくるのは早いなとは思ってた。なるほどそういうことね。
「パーティに何か用か?」
換金を終えたニィーテが戻ってきたようだ。手にはじゃらじゃらとした袋がある。
「へいへい、部外者は退散しますよ」
集まっていた冒険者達が、ニィーテが来たことにより散り散りになった。
何したらこんな怖がられるんだよ。
「少し遅いが昼食にしよう。報酬の分け前はその時に話す」
「どこで食べる?」
「ふむ、何か案はあるか?」
少しの沈黙の後に、珍しくミライが口を開いた。
「じゃあ私……行きたいとこある」
ミライに連れて来られた場所は、何やらファンシーな建物だった。
「なんて書いてあるんだ? えっと……ドッグカフェ?」
そのすぐ横の看板にも何か書かれている。
――ペット同伴OK! 可愛いワンちゃんとも触れあえます――
へぇ、こっちにもこういう娯楽施設あるんだ。
ペットがOKなら、獣人の俺でも入れそうなので、今の俺たちには丁度いいかもしれない。
「私こういうとこ行ってみたかったのよ! ナイスよミライ」
メイダが興奮して待ちきれなさそうなので、すぐに入店した。
「いらっしゃいませー。何名様ですか?」
「4人とペット1匹よ」
「4名様ですね。ワンちゃんはどこかなー?」
明るい店員さんがペットを探して俺たちの足元を探す。ペットが俺だなんて初見で分かる人はいないよな……。
「あの、そのぉ………ペットって俺っすね」
「え?」
「なんかすいません」
店員さんが驚きのあまりフリーズしてしまった。
「あぁー、はい、人間関係って色々ありますもんね。4名様とペット1匹で大丈夫です」
店員さんに気を使われてしまった。なんだか恥ずかしいので、早く席に案内してもらう。
席について落ち着けたので、やっと店の中の様子を見ることができた。
犬達が遊ぶような遊具があるスペースを中心にして、机やソファが並べられている。
そしてドッグカフェという名の通り、至る所に犬がいる。机の下だとか、ソファの上だとかに寝っ転がったり走ったりしてる。
「ペット用のメニューがこちらで、人用のメニューがこちらになります。ご注文がお決まりでしたらお呼びください。ここにいるワンちゃんは、みんなお触り自由なので、気軽に遊んでもらって大丈夫です」
店員さんがメニューを置いて立ち去った後、俺たちの席に数匹の犬が近づいてきた。
「こっち……おいで」
何度も来たことがあるであろうミライは、手慣れた様子で1匹の犬を抱え込んだ。
ニィーテも近づいてきた犬を撫でており、いつもの無表情が少し緩んでいる。
「ひゃぁっ!」
ヴィリアがオロオロしていて痺れを切らしたのか、1匹の犬がヴィリアの膝に乗ってきていた。
うんうん、みんな楽しそうで良いね。
「なんで私のところには来ないのよ!」
たった一名嘆いてるのを除けば。
他の3人には寄ってきたが、メイダの所には1匹も来ていない。
それもそのはず。何故なら、俺がメイダに近づく犬を威嚇して追い払ってるから。
メイダにバレない程度に歯を剥き出し、低く唸れば、どの犬も怖がって近づいて来ない。これが狼パワー。
メイダには俺がいるんだから、よその犬と遊ぶなんてのは許しません。
「なんで私だけ………。あっ! レイ! 今威嚇してるでしょ!」
「してないけど?」
「それならその歯を出して唸るのやめなさい! 犬が怖がって来てくれないじゃない!」
何故バレたし。言われたからには大人しくやめる。
俺が威嚇をやめると、待ってましたとばかりにメイダに犬が寄って来た。
「可愛いわねー。よしよし」
メイダが近寄って来た犬を楽しそうに撫でている。
はぁ、やっぱこんなとこ来なきゃ良かった。
店員さんを呼んで注文し、食事が届いて食べる時だけ、メイダは俺に食べさせてはくれたが、食べ終わったらすぐに別の犬を撫で始めた。
こんなの浮気以外の何ものでもない。メイダは本当は俺のことなんかどうでもいいんか?
俺が虚無っていたら、俺のそばに一匹の子犬が近づいて吠えて来た。
なんだこのチビ犬。放置されて惨めな俺をからかってんのか?
何か俺に言いたそうに吠えている。
「犬語なんて分かんねーよ」
吠えてる意図を探ろうと思って、少し耳に意識を集中させる。
まあこんなことした所で何言ってるか分かるわけないよな。アホらし。
「アソボ!」
ほら、傷心のあまり幻聴まで聞こえてきた。
「アソボーヨ!」
でも幻聴にしてはやけにはっきりしすぎてる気がする様な……。気になって俺は声の出所を見た。
そこにはさっき俺に吠えていた子犬がいた。
「お前今喋った?」
「ハヤクアソボ!」
あたりをキョロキョロと見回すが、みんなこの声が聞こえてるわけではないらしい。
もしかして獣人って動物の言葉わかる?
いやそれはないと思う。昔森で会ったうさぎや猪の声なんか聞いたことない。
じゃあなんだ? イヌ科の言葉は分かるとか?
確認のためもう一度子犬に向き直る。
「アソボアソボ!」
うんやっぱり聞こえる。結構集中しなきゃ聞こえないが、これはすごくね? 後でみんなに自慢しよ。
考えてる間ずっと無視してしまっていたので、その子犬に屈んで話しかける。
「何で遊ぶ?」
「キテ!」
子犬に連れられて、中央の犬用の遊ぶスペースに連れて来られる。
「ごめんやっぱパス」
「ナンデ?」
この遊具俺の体格に明らかに合ってない。はたから見たら、成人男性が公園の遊具ではしゃいで遊んでいるようなものだ。
「俺が遊んだら遊具壊れちゃう」
「ジャア……ナメアイッコ!」
ナメアイッコ? あぁ、グルーミングのことね。
でもグルーミングなんてやったことない。村にいた頃も、めちゃくちゃ荒れてるブラシもあったし。
「俺はいいや。舐めたきゃ舐めていいよ」
俺はあぐらをかいた状態で子犬を抱え込む。
そしたらその子犬がペロペロと俺の腕を舐め始めた。
俺の体が大きいから、舐めるのはだいぶ大変そうだった。けど必死に舐めてるその姿は健気で可愛くて癒された。
「もういいかな」
かなり疲れてそうな感じがしたので、子犬を持ち上げてやめさせる。
「マダシタイ!」
「こんなことより遊具で遊んだ方が楽しいでしょ。ほら行きな」
「バイバイ! オッキイコ」
犬は素直で可愛いな。俺もあんな感じにすればメイダに構ってもらえるか?
子犬が俺の元からいなくなったので、自分の席に戻ることにした。
席に戻ると、メイダはまだ別の犬を撫でていたので、その犬をひょいと持ち上げてメイダから引き離した。
「何すんのよ」
「ほら、ここに寂しそうな狼がいるけどどうする?」
「私が別の犬を可愛がってるから拗ねたりでもしたの?」
「正解」
犬を床に下ろしてから、俺はメイダのすぐ隣に座った。
「もう、構ってほしいなら早く言いなさいよ」
「メイダはこの店の犬と俺、どっちが好き?」
「何よその質問。レイが1番に決まってるじゃない!」
「やっぱそうよな!」
メイダが俺の顔をすごい勢いでわしゃわしゃとしてきてくれる。
ありがとなさっきの子犬くん。飼い主への甘え方が分かった様な気がするよ。
だいぶ時間が経ったあと、充分に楽しみ終わったので、支払いをした後に俺たちは店から出た。
みんな犬に夢中になっていて報酬の分け前の話ができなかったから、そこら辺のベンチで話は済ました。
ヴィリアはさっきの店でもサラダしか食べておらず、金銭的にほんとにキツそうだったので分け前を多くすることにした。
「そ、そんな私なんかに」みたいなこと言ってたが、無視して財布に無理矢理ねじ込んだ。もしかしたら俺の命の恩人だったわけだし、これぐらいはしたい。
報酬の分配が終わった後、今後の作戦のためにも一人一人何ができるかも話し合った。
メイダの魔力量やミライの治癒魔法、ニィーテの使う武器など話したが、主にヴィリアの話でもちきりだった。
ヴィリアは全ての属性を使えるらしく、そこから派生させた魔法も難なく使えるようだ。ニィーテによると、これはかなりすごいらしい。
だいたいお互いのことが分かり、今日は解散という流れだったが、我慢できずに俺が少し口を挟んだ。
「言いづらいんだけど、ちょっとみんな臭い。このまま帰るのはよくないかも」
女の子にそんなこと言いたくなかったが、みんなから結構独特な匂いが醸し出されている。ゴブリンの後片付けをしたり、犬と戯れていたせいだろう。
「たしかに……そうかも」
みんな自分をクンクン嗅いで眉間に皺を寄せていた。
「じゃ、じゃあみなさん銭湯行きませんか? わ、私がよく行ってるとこがあるんです……。あ、いや………やっぱなんでもないです! 出しゃばってごめんなさい!」
こっちが何も言ってないのに1人で完結しないでほしい。
「ふむ、私は行ってもいいぞ。汚れた時用の着替えはあるしな」
「私も着替えはあるから………行きたい」
「別に行ってもいいわよ。あぁでも私は着替えがないわね」
メイダが着替えの話をした直後、俺のすぐそばにシュタッと誰かが降りてきて、俺に袋を手渡してきた。
「着替えはここに」
それだけ言ってその人は去っていった。
多分あれ護衛の人だ。気配薄過ぎて近づいて来るの分かんなかったな。
「着替えあったよ」
「あら、じゃあ問題ないわね」
全員行くとのことなので、俺たちは銭湯へと向かった。
銭湯はいかにも和って感じの建物で、街並み的にはだいぶ異質だった。
中も和風で居心地はだいぶ良い。
あと一つの問題を解決すれば大満足だ。
「すいません。ここって獣人大丈夫ですか?」
受付のおじさんに1番大事なことを尋ねた。
「獣人かぁ〜。う〜ん、君結構体毛多そうだからなぁ。俺的には良いんだけど、他のお客さんがやだって言うかもしれないからなぁ〜。まあ浴槽に浸からないでシャワーだけなら」
「それで大丈夫です」
絶対無理だと思ってたし、シャワーだけでも感謝しよう。
各自お金を支払ったら更衣室の鍵を渡された。
もちろん俺は男なので、男子更衣室の方へと歩みを進める。
しかし、案の定メイダにしっぽを掴まれて止められた。
「どこ行くのよ」
「ごめん勘弁してください。俺を犯罪者にしたくなかったら離してほしい。俺まだ刑務所じゃなくてメイダのそばにいたい」
正直メイダのことだから、女風呂について来させようとするのは分かっていたので、言い訳は準備できていた。
事前に準備していた言い訳のおかげで、不服そうだがすぐに諦めてくれた。
メイダはミライとヴィリアに任せて、俺はニィーテと男子更衣室に向かおうとした。
だけどニィーテがいない。あたりを探すと、なぜか女子更衣室に向かっているニィーテを発見した。
「待て待て。君はこっちだ」
すぐに駆け寄って肩を掴んで止める。
「何故だ。何か問題でもあるのか?」
「あるね。君男の子だよ? それなら更衣室はあっち側だから、そっち行っちゃだめだよ」
俺は至極当然のことを言っただけなのに、ニィーテは肩をプルプル震わせて俯いてる。
「どうした?」
「どうしたじゃない! 私は女だ!」
…………………………なんて?
「え?」
「2度も言わせるな」
それだけ言ってニィーテは俺の手を振り払って、女子更衣室へと入っていった。
ニィーテが女? そんな馬鹿な。
足音とか完全に男の特徴が出たものだったのに。
だからちょっと顔が可愛い感じの男の子なのかなと………。
よく考えたら声高い気がしてきた。喉仏もだいぶ女性よりだった気が………………。
「おいおい何してんだよあんた」
呆れた様に受付のおじさんが話しかけてきた。
「おじさんはあの子が女の子だって気づいてた?」
「気づいてたも何も、ありゃ完全に女の子だろ。お前さんは何を見てたんだ?」
「足音……かな」
そっか………ニィーテは女の子なんだね。後で土下座しよう。




