第37話 冒険者ギルド
「私明日と明後日ギルドに行って依頼受けるから、夜までいないわ」
「駄目ですよ」
明日と明後日の予定をガロに伝えたが、案の定却下された。
「この前説教したばかりですよ? 外に行くなら護衛部隊を編成します」
「それじゃあ魔獣狩りの練習になんないわよ。絶対誰もついてこさせないで」
ガロとメイダもどちらも引かない。俺が口を挟んでも意味ないと思うので、俺は2人を見守ることにした。
口論が数分続いたあと、ついにガロが引き下がった。
「はぁ、では隠密に優れた護衛を1人つかせます。それで妥協してください。依頼を邪魔せず、万が一の時に出てきてお嬢様を守るということでよろしいですか? これ以上は譲歩できません」
「しょうがないわねぇ。わかったわかったそれで良いわよ」
「レイもすまんな。お前を信用していないわけではないんだが、どうしても心配なんだ」
「えっ? いいよいいよ。俺もまだまだなことは分かってるし」
ガロに変な気を遣わせてしまった。早く俺も一人前になりたい。
夜ご飯を済ませた後、もう夜遅くになったので寝ようと思ったが、メイダがやりたいことがあるらしい。
「今日はミライから聞いた犬吸いってのをやるから、大人しく座りなさい」
「犬吸いっていうか狼吸い?」
「どっちでもいいから早く座りなさい」
「はい」
俺が上裸のままベッドに座った途端、メイダが俺の胸毛に飛び込み、勢いよく吸いだした。
「ふむふむ、なるほど。これはいいわね」
「そりゃよかった」
ちょっとくすぐったいけど、メイダが楽しそうなのでそのままにする。
…………長い。もう吸い始めてからだいぶ経っている。
「もうよくない?」
「んー、もう少し」
じゃあ俺もメイダのこと嗅いじゃお。
そうしてお互い吸い合ってるうちに、徐々に姿勢も倒れていき、やがて俺とメイダは眠りについた。
「寒い」
そう呟きながら俺は目を覚ました。
すでに日は昇って朝になっている。ちなみにメイダはまだ寝てる。
メイダより早く起きたのは久しぶりな気がする。俺ってなんでかはわからないが、休みの日の方が早く起きれるんだよな。
かなり早く起きたらしく、みんなとの待ち合わせまでは時間があるし、寝てるメイダで遊んじゃお。
まず手始めに、爪でメイダを傷つけないよう用心しながらほっぺをツンツン。うわモチモチだぁ。
その後何度かツンツンしたが起きる気配はなく、気持ちよさそうに寝ている。
もっといけると思い、俺はメイダの体勢を変えて遊びだした。
ダブルピースやコマネチさせて楽しんでたが、飽きてきたので起こす。
「起きてー」
声をかけたり、ほっぺをペチペチしたけど起きない。叫んだら怒られるだろうしなー。
少し悩んだ後、俺は自分のしっぽをメイダの顔面に押し付けた。
しっぽで息ができなくなったので、メイダの顔はみるみる青くなっていく。
「ぶはぁ! なに?!」
苦しさでメイダの目は覚めたらしく、叫びながら飛び起きた。
「何してんのよ!」
「いやぁ、メイダにモフモフしっぽに包まれながら寝てほしくてね」
「明らかに私を押さえつけてたわよね。そんなことするなら朝ごはん抜きにするわよ」
「えぇ?! 2度としません」
「ふんっ、次はないわよ」
結構簡単に許してくれた。あと何回かやっても許されそう。
その後俺たちは朝の支度を終え、冒険者ギルドに向かうことにした。
「じゃあ行ってきまーす」
「くれぐれも気をつけてくれよ」
「りょうかーい」
ガロに別れを告げ、俺とメイダは冒険者ギルドへと向かった。
道は分からないので、背中にいるメイダから指示を受けながら進んだ。
来たことのない場所を通ったので、俺とメイダを初見の人達が多く、訝しげにこちらを見てきたが絡まれることは無かった。
学校までの道は比較的人が少ないので、こんなに人通りが多いとこに来たのは久しぶりだ。
子供から老人まで多様な人がいる。獣人は見当たんないけど。
「うわー! でっかいワンちゃんだ!」
足下の方から甲高い声が聞こえた。
声のする方を見ると、小さな幼児が俺をキラキラした目で見ている。遠くからその子の母親らしき人も走ってきた。
「ママー! 私もおっきい犬ほしい!」
「その人は獣人って言って、ペット扱いしちゃだめよマイちゃん!」
「やだぁ! 私も欲しい!」
「すいませんうちの子が……悪気はないのでお気を悪くしないでください。ほらマイちゃんこっちに来なさい!」
マイちゃんという子のお母さんがぺこぺこと謝ってくる。
「そんな謝んなくて大丈夫ですよ。俺ペットなんで」
「え?」
「そうよ。レイは私のペットだから、欲しいなら別のを探しなさい」
「わかったぁ……」
素直で可愛い子だね。和んだことだし早くギルドに向かうとするか。
「他の獣人に言ったらどうなるか分からないので、お母さんも注意してくださいね。お気をつけてー」
「え、あ、ありがとうございます?」
お母さんすごい困惑してたな……ペットってあんまり他人に言わないようにしよう。
その後何か起きることも無く、無事に冒険者ギルドまで着いた。
「ギルドでっけー」
「オリテールのギルドは、1番とは言えないけど大規模な方ね」
年季の入った石と木で作られた建物は、なんとも言えない風格を感じた。
外で待ってるのもなんとなく嫌なので、とりあえず中に入ることにする。
中には大勢の冒険者だと思わしき人がおり、雰囲気が期待してた通りで俺は心が躍った。
この雰囲気をなんて表現すればいいか分からないが、良い方の小汚さみたいな感じ?
奥には受付と依頼が貼ってある掲示板、手前には酒場といった作りになっている。
うーん、見るからに学生が来るようなとこではないな。
あっ、ミライとヴィリアだ。
酒場のテーブル席で2人を見つけたので、小走りで駆け寄る。
「2人ともおはざいまーす。ニィーテはまだ?」
「おはよう……。ニィーテはたぶん来てない……私もヴィリアも来たばっかりだから分かんないけど……」
あのテキパキした感じで1番遅いのか。
しょうがないのでお喋りでもして時間を潰すことにした。
いつものようにメイダとミライがペットトークに夢中になっているが、ヴィリアはペットを飼ってないらしく、話についていけずにオドオドしている。
「やっぱり犬はしっぽが良いと思うの!」
「ちがう……犬は腹が至高」
「「ヴィリアはどう思う?」」
「えっ? いや、わ、分かんないです……」
「2人ともダル絡みしなくて良いから。ヴィリアは俺と指スマで遊ぼ」
「え? 指スマ? は、はいぃ」
そんな感じで遊んでると、3人組の男の足音がこちらに近づいてきた。
クソッ、やっぱ来やがった。こいつらからの視線だけ他の好奇心の視線とは違ったんだよ。外に出るのめんどいとか考えずに避難しとけば良かった。
近くのテーブルに座りに来ただけかもしれないという一縷の望みにかけたが、叶うことはなかった。
「そこのかわい子ちゃんたちー。俺らともっと楽しい遊びをしねーかぁ?」
顔がめちゃくちゃニヤニヤしていて下心満載だ。きもい。
「は? 誰よあんた。気安く話しかけないで」
案の定メイダが真っ先に文句を言い、ミライは冷ややかな目線で3人組を見つめて、ヴィリアはあたふたしている。
「女の子3人組でこんな所に来たんだから、ナンパ待ちなんだろ? 俺たちが楽しませてやるよ」
わぁ、俺のこと完全無視だ。
「3人組じゃないですよー。なんと実は俺もいる」
「あぁ? 犬っころは黙って骨でもしゃぶってな。今このお嬢ちゃん達と話してんだよ」
はぁ?! お前ぶっ殺すぞ!
っていう風に前の俺ならここで既にブチ切れていただろうが、人は成長するんだよね。こういうのはメイダに任せるのが吉。
「アンタ達みたいな雑魚に使う時間はないのよ。礼儀というものを身に付けてから出直しなさい」
流石我らが飼い主。言葉が強いぜ!
「あぁん? 俺らのことが誰だかわかってねーみたいだな。聞いてびびんじゃねーぞ。俺らはミギーズ! 3人とも銅級だ! 大人しくしてれば痛い目には合わせないでやるよ」
ミギーズ? 右の集まり? 由来はよく分からないが、フレンダより2つも階級が下だからなんの威圧感もない。
「はいはいすごいわねー。じゃあ私たち忙しいからどっか行きなさい」
「あぁ?! 少し顔が良いからって調子に乗りやがって! 無理矢理が御所望らしいな」
やっぱりメイダに任せるのだめだったかも。
こいつらが今にも襲いかかってきそうなので、俺も準備はしておく。
さっきから周りの人は傍観してるだけで何もしてこないので仲介の期待はしない。どっちかというと喧嘩やトラブルを見たそうな雰囲気を醸し出している。
俺と3人組が睨み合っていたら、ご待望のある人物がやっと来た。
「なにをしている獣人。早く依頼を受けに行くぞ」
「ニィーテが1番遅かったんだから急かさないでよ。あと獣人って呼び方やめて」
緊迫とした状況の中、俺たちに話しかけてきたのはニィーテだった。
状況を察したニィーテは、俺から3人組に視線を移した。
「誰だこいつらは」
「ヒ、ヒィ、氷雪のニィーテだ」
氷雪のニィーテ? 2つ名をつけられてるってことは、ニィーテってもしかしてすごい人?
「あのニィーテの連れなら早く言ってくれぇ。お前ら行くぞ!」
ニィーテを見た途端、男達はすぐに逃げていった。よく分からないが、ニィーテのおかげでトラブルは避けられたらしい。
「氷雪……かっこいいねw」
「黙れ。勝手にそう呼ばれてるだけだ。次馬鹿にしてきたらその耳切り取るぞ」
「こわ」




