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第17話 雪の降る日に


退院してからは、怒涛のごとく忙しくなった。


驚くことに、静田くんは一人で数人分は働いていたのだ。


あまりの過労に見かねた支店長が、決算までの期間限定で、派遣を雇ってくれた。


「せっかく退院した木村部長が、また病院に戻ることのないように」

という配慮だった。


これは、本当にありがたかった。

世の中、捨てたものじゃない。



――必死に働いて、約三カ月。



「あ!雪が降ってる!」


相沢くんの声に、みんながいっせいに窓の外を見た。


「あ、本当ですね!」


チラチラと舞う粉雪を、相沢くんの隣に立って眺める永瀬くん。


おっ、あの二人、いい雰囲気じゃないか!?


若いっていいよなあ、とボヤきながら、ふと、入院中の静田くんを思った。


あれから、ずっと目を覚まさない静田くん。


いったい、いつ目を覚ましてくれるのだろう?

忙しくて、しばらくお見舞いにも行ってなかった。

会社帰りに様子を見にいくかな。


仕事が一段落し、帰る支度をしていると、私の携帯が震えた。


帰る間際に、誰だ?


妻から、夕飯の食材の買い出しの依頼だろうか?


携帯を取り出し、画面を見た私は、思わず叫んだ。


「静田くん!!」


急いで通話ボタンを押す。


「木村部長……、お久しぶりです、静田です」


なんと、本人から、直接の電話だった。


「静田くん、目が覚めたんだね!?」


携帯から、少し掠れているけれど、紛れもなく静田くんの声がした。


「はい。一昨日、目が覚めました。三カ月も寝ていたようで……、言葉を話すのも久しぶりで、上手く話せているでしょうか?」

「ご心配おかけして、申し訳ありませんでした」


私は、思わず涙ぐんでいた。


「上手く話せているよ。目が覚めて、本当に、本当に良かった」


コホンと小さく咳をして、静田くんが話を続けた。


「三カ月も目が覚めなかったなんて、自分でも信じられないです。」

「ところで、部長。決算のデータ、私が預かっていましたが、大丈夫でしたか?」


こんな状況なのに、決算の心配をする静田くん。責任感の強い、彼女らしい。


「心配には及ばないよ。ちゃんと、データはバックアップを取ってあったからね」


静田くんの、大きなため息が聞こえてきた。


しばらくの沈黙。


どうしたんだろう?


「静田くん、静田くん、大丈夫かい?」


私の声に、静田くんは震える声で応えた。


「……大丈夫です。では、また出勤の許可が出たら連絡しますね」


プツっと、電話は切れてしまった。


なんだろう?何かあったのだろうか?


少し引っかかったけど、とにかく、目覚めてくれたことに安堵した。


よし、これで、心配の種はなくなったな!


帰り道は、足取りが軽かった。


元気よく、尻尾を振りながらお散歩をする柴犬とすれ違う。


モフモフの尻尾……。


狐みたいだな。


あの尻尾、触ってみたいよな。


あ!?


――その時、私は全てを思い出したのだった。



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