第18話 思いだした部長さん
なぜ、今まで忘れていたのだろう?
私は、200年生きている狐の神様、ギンコと異世界で過ごした。
ギンコとご飯を食べたり、狐に食料を配ったり、神社にお参りにくる人を見たりした。
……それから、キツネのゴンを助けたんだ。
ゴンを助けたお礼なんだろうか?
私のお腹の影がなくなったのは、ギンコが取ってくれたに違いない。
私は、自然に天を仰いでいた。
――ギンコ、ありがとうな。
ギンコに、尻尾でペシン!とされた感触を思い出した。
あれは、モフモフでよかったなあ……。
思わず、顔が緩みそうになる。
もう、会うことはできないのだろうか?
冬の夜空は、星が綺麗に見えた。
ここは、都会からは少し離れている。
不便なこともあるけど、私はここが気に入っていた。
田舎……かもしれないけど、狐が出るほどの田舎ではない。
昔は、狐が住んでいたのかな?
畑を走る狐たちを想像したら、少しホッコリした気持ちになった。
「ただいま〜」
家の中は、暖かい。
私は、コートを脱ぐとリビングに向かった。
「おかえり〜」
娘が、ポテトチップスを食べながら、本を見ていた。
「本を見ているなんて、珍しいじゃないか」
娘は、本から目を離さない。
「仕方ないよ。だって、こんど教育実習でやるんだから」
娘は、教師を目指している。
ポテトを食べながらなのは、どうかと思ったけど、熱心に勉強している娘に、水を差すのは止めようと思った。
どれ、何を見ているのかな?
何気なく本を見ると、なんとそれは、「ごんぎつね」だった。
思わず鳥肌が立った。
話の最後はどうなったんだ!?
「ちょっとその本を貸してくれ」
サッと、娘の本を取り上げた。
「ちょっとー、予習してるんだから、返してよ!」
抗議は当然だけど、今はそれどころじゃない。
「ちょっとだけ、待ってくれ……」
ふくれっ面の娘の横で、慌ててページをめくった。
ページの最後には……、
「ぶちょさんに助けられたゴンは、兵十の誤解も溶け、幸せに暮らしましたとさ」
と書いてあった。
内容が、変わっている!?
そして、ぶちょさんって……。
名前ではなく役職だ。
しかも、一文字足らないのは惜しい。
「おい、このぶちょさんって言うのはな、私……コン!」
あれ?急に咳が出た。
もう一度
「この話には、わた……コンコン!」
どうしても、言葉がでてこない。
「お父さん、風邪ひいた??」
娘が心配している。
「コンコン、そんなことはコン、ないんだけどな……?」
話そうとすると、咳に変わってしまった。
おかしいな?
コンコンなんて、まるで狐みたいじゃないか。
私の頭に、ギンコの顔が浮かんだ。
あっ!
そういえば、
『ここで見たことを、あちらの世界で、誰かに言ってはいけないよ』
なんて、言っていたな!?
でも、これじゃあ言おうにも言えないじゃないか。
私は、だんだんとギンコと最後に交わした約束を思い出してきた。
『ギンコを探して』なんて言っていたな?
助けてくれる人を待っている、とも言っていた気がする。
ギンコは、今もどこかで、助けてくれる人を待っているのだろうか?
私のお腹の影を消してくれた恩人(恩狐)だ。
できるなら、ギンコを助けてあげたい。
私がやらなくて、誰がやるんだ!
――よし、やってやろうじゃないか!
やる気になった私は、立ち上がると拳を高く振り上げた。
「お父さん、中日が勝ったからって、あんなに喜んじゃって」
テレビでは、ちょうどドラゴンズがサヨナラホームランを打ったところだった。
これは、幸先がいいぞ!!




